日本は5年後も先進国のままか?5年後の日本を予想する!

編集部投稿者:

「日本は、このままでは先進国から脱落してしまうのではないか」――そんな懸念が、いま各方面でささやかれています。その象徴的な事例が、アルゼンチンです。

1910年、アルゼンチンは一人当たりGDPで世界8位。Maddison Project Database 2023に基づく推計では、当時のオランダやデンマークを上回る、世界有数の豊かな国でした。

ところが、2025年には世界73位まで順位を落としています。

つまり、「豊かな国が豊かでなくなる」ことは、決して100年、200年先の話ではありません。そして現在、世界の競争力を決める条件そのものが、大きく変わりつつあります。

これまでの先進国は、製造業、金融、教育、インフラ、そして安定した制度によって競争力を築いてきました。しかし、AI時代に入り、先進国の条件は「製造業と制度」だけではなく、「計算資源」「エネルギー」「人材」「そして制度資本」へと書き換えられようとしています。

では、日本はどうでしょうか。

日本の一人当たり名目GDPは、OECD加盟38カ国中24位(2024年、内閣府)。経済規模そのものは依然として世界有数ですが、先進国の中での相対的な豊かさは、確実に低下しています。

一方で、日本には治安、法の支配、全国に張り巡らされたインフラ、教育水準、社会の安定性といった、長い時間をかけて築き上げてきた強固な「制度資本」が残されています。

問題は、これらの強みを、AI・半導体・エネルギー・データの時代において、もう一度「成長する力」へ変えられるのかということです。

日本は5年後も、先進国であり続けるのでしょうか。それとも、アルゼンチンのように、かつては豊かだった国として語られる側に近づいてしまうのでしょうか。

本記事では、「5年後の日本」を、人口動態、GDP、生産性、AI・計算資源、エネルギー、半導体、インフラ、制度といった公表データから予測します。

そして最後に、日本企業と自治体は、この変化の中で何を変え、何に投資しなければならないのか。

感覚論や悲観論ではなく、公開されているデータをもとに、日本の「5年後」をできる限り冷静に考えてみます。

Contents
  1. 先進国の条件が「計算資源・エネルギー・制度資本」に書き換わっている
  2. 先進国からの脱落も、新興国からの昇格も、実際に起きてきた
  3. 日本で起きていること:豊かさは残り、決定権が薄くなる
  4. 産業と地域は、この10年でこう組み替わった
  5. 今後5年でこう動く
  6. 本当に優先すべきこと
  7. よくある質問
  8. まとめ

先進国の条件が「計算資源・エネルギー・制度資本」に書き換わっている

20世紀の先進国とは、製造業で外貨を稼ぎ、法の支配と教育と官僚機構を数世代かけて積み上げ、労働者を中産階級に押し上げて国内市場をつくった国のことでした。いま進行しているのは、この条件に「計算資源」と「エネルギー」という二つの変数が加わる変化です。国家の力を測る物差しが、経済規模から、AIを自前で動かせるかどうかへ移りつつあります。

ハイパースケーラー4社の2026年設備投資は、日本のGDPの2割規模

ハイパースケーラーとは、世界規模のクラウド基盤とデータセンターを自社で保有・運用する巨大IT企業のことです。Amazon、Alphabet、Microsoft、Metaの4社が2026年に計画する設備投資は、各社の決算発表を合計すると7,200億〜7,450億ドル規模になります。1ドル158円で換算すると約115兆円で、日本の名目GDP(2024年度642.4兆円、内閣府)の2割近くにあたります。スタンフォード大学HAIのAI Index Report 2026によれば、世界のAI計算能力は2022年以降、年3倍を超えるペースで増え、2021年比で30倍に達しました。

モデルは2.8兆パラメータへ、日本最大級は300億パラメータ

モデルの規模差は、そのまま投下できる資源の差です。中国のMoonshot AIが2026年7月16日に公開したKimi K3は、総パラメータ2.8兆のオープンウェイトモデルで、前世代のKimi K2が1兆でしたから1年たらずで2.8倍になりました。これに対し、NTTが2025年10月に発表したtsuzumi 2は300億パラメータ、Preferred NetworksのPLaMo 2.0 Primeは310億パラメータです。桁が2つ近く違います。

差が生じる理由は、技術力よりも資金と電力にあります。Epoch AIの推計では、フロンティアモデルの学習コストは2016年以降、年2.4倍のペースで増えています。実額の推計が出ている例では、xAIのGrok 4が約4億9,000万ドル、消費電力310GWhです。1回の学習に数百億円を投じ、それを何度も繰り返せる主体は世界に多くありません。

日本の計算基盤も拡大していますが、規模は一桁以上違います。産業技術総合研究所のABCI 3.0はNVIDIA H200を6,128基、ソフトバンクの基盤はGPU1万基超です。これに対しサウジアラビアのHUMAINは、3年間で最大60万基のGPU調達を掲げています。経済産業省とNEDOのGENIACは累計約70件を支援していますが、中心は計算資源の利用料補助です。

AIの制約は、最終的に電力になる

計算資源を持てるかどうかは、電力を持てるかどうかとほぼ同義です。IEAが2025年4月に公表した報告書「Energy and AI」によれば、世界のデータセンターの電力消費は2024年に約415TWhで、2030年には約945TWhへ倍増する見通しです。IEAはこれを「日本の現在の総電力消費量を上回る」と表現しています。地域別の内訳は米国45%、中国25%、欧州15%です。

電力の単価も競争条件になります。資源エネルギー庁は主要国の産業用電気料金について、日本とドイツが同じ水準で最も高いと説明しています。米エネルギー情報局(EIA)によれば、米国の産業用電力単価は2026年5月時点で8.71セント/kWhです。安い電力を大量に持つ国がAIの計算を引き受け、電力の高い国は計算を買う側に回ります。日本がデジタル赤字を抱える構造の根には、この価格差があります。

湾岸諸国と中国は「制度・計算・エネルギー」を同時に調達している

湾岸諸国は、この三点を同時に買いにいっています。UAEでは、G42、OpenAI、Oracle、NVIDIA、ソフトバンクグループなどが参画するStargate UAEが1GW規模で計画され、アブダビのAIキャンパス全体では5GWが構想されています。エネルギーはガスと太陽光と原子力で自前調達し、計算資源は輸入し、制度と人材も外から招く構図です。米商務省は2025年11月、UAEとサウジの中核企業に対しそれぞれ最大3万5,000基のNVIDIA製Blackwellチップの輸出を許可しました。

中国は国内で完結させる方向を選びました。国家プロジェクト「東数西算」は、東部で発生したデータを電力の安い西部で計算する構想で、8つの国家算力ハブに4年間で1兆元を超える社会投資が入りました。国家能源局によれば、中国の2025年の全社会用電量は世界で初めて10兆kWhを超え、発電設備容量は前年比16.1%増の38.9億kWです。米国の総発電量4,430TWh(EIA、2025年)と比べても、電力の規模で2倍以上の差があります。

先進国からの脱落も、新興国からの昇格も、実際に起きてきた

アルゼンチンは1910年に世界8位、2025年に73位

Maddison Project Database 2023にもとづくOur World in Dataの整理では、アルゼンチンの一人当たりGDPは1910年時点で世界8位でした。米外交問題評議会(CFR)も、1913年のアルゼンチンは一人当たりでフランス、ドイツ、イタリアを上回っていたと記しています。IMFのWorld Economic Outlook(2026年4月版)にもとづく集計では、2025年の一人当たり名目GDPは1万4,355ドルで世界73位です。

落ちた原因は資源の枯渇ではなく、制度の摩耗でした。アルゼンチンはソブリン債で繰り返し債務不履行を起こし、直近では2020年5月にブルームバーグやCFRが「9回目のデフォルト」と報じています。デフォルトのたびに、契約は守られるという前提と、それを支える徴税能力や官僚機構が削られていきました。国富を食いつぶした結果、制度のストックが溶けたということです。

市場の評価も同じ方向に動きました。MSCIは2018年にアルゼンチンを新興国指数へ昇格させましたが、2021年には資本規制を理由に単独市場へ降格させ、2026年6月のレビューでも据え置いています。昇格から降格まで3年、そこから5年たっても復帰の入口に立てていません。

逆方向の実例は多くありません。MSCIの分類で新興国から先進国へ昇格したのは、2001年のギリシャと2010年のイスラエルの2例だけです。FTSE Russellでは韓国が2009年に、ポーランドが2018年に先進国入りしました。台湾は両社とも新興国のまま、韓国もMSCIでは2026年6月のレビューで据え置かれています。そのギリシャは2013年に先進国から降格され、復帰が決まったのは2026年3月です。戻るまでに13年かかりました。

日本の現在地は、一人当たり名目GDPでOECD38カ国中24位

日本は先進国の枠内にいますが、位置は下がっています。内閣府が2025年12月に公表した国際比較によれば、2024年の一人当たり名目GDPは3万3,785ドルで、OECD加盟38カ国中24位でした。1994年以降で最も低い順位です。2012年には11位、2021年には20位でしたから、10年あまりで大きく順位を落としたことになります。

総額でも順位が動いています。IMFのWorld Economic Outlook(2026年4月版)によれば、日本の名目GDPは2023年にドイツに抜かれて世界4位になり、2027年にはインドに抜かれて5位になる見通しです。ただし2025年10月版では逆転時期が2026年とされていましたから、この種の予測は改定のたびに前後します。

順位の低下をそのまま国力の低下と読むのは早計です。一人当たり名目GDPは為替の影響を強く受けます。2026年上半期の平均為替レートは1ドル158.24円で、前年同期比でドルに対し6.5%の円安でした(財務省)。購買力平価ベースでは日本は39位で、名目ベースとは順序が変わります。

日本で起きていること:豊かさは残り、決定権が薄くなる

デジタル赤字は年6.7兆円規模で定着した

デジタル赤字とは、国際収支のうちクラウド、ソフトウェア、ネット広告、コンテンツ配信といったデジタル関連のサービス取引で生じる収支の赤字のことです。国際通貨研究所が財務省・日本銀行の国際収支統計をもとに集計した2025年のデジタル関連収支は、6.7兆円の赤字でした。内訳は通信・コンピュータ・情報サービスが2.4兆円、専門・経営コンサルティングサービスが2.5兆円の赤字です。

増え方も速いものでした。総務省の令和7年版情報通信白書によれば、2024年の支払額は2014年比で、研究開発・専門・経営コンサルティングサービスが約5.4倍、コンピュータサービスが約3.3倍になっています。国内でDXを進めるほど、その対価の一部が海外に流れる構造です。設計は米国、製造は台湾、利用は日本という分業のなかで、日本は利用する側に位置しています。

もっとも、2025年のデジタル赤字は前年より縮小しました。国際通貨研究所は、受取の増加によって赤字拡大に一服感が出ていると分析しています。デジタル赤字が毎年悪化し続けるという前提で議論を組み立てるのは、2025年のデータでは支持されにくくなっています。

全体の収支は黒字を保っています。財務省の速報では、2025年の経常収支は31.88兆円の黒字でした。ただし貿易収支は0.85兆円の赤字、サービス収支は3.39兆円の赤字で、黒字を支えているのは第一次所得収支の41.59兆円です。海外資産からの利子と配当が国全体の収支を支える構造は、働いて稼ぐ形とは性格が異なります。

対内直接投資の薄さが「支店経済化」を裏づける

支店経済とは、意思決定を行う本社機能が域外にあり、域内には実行部門だけが置かれる経済構造のことです。内閣府の資料によれば、UNCTADベースの日本の対内直接投資残高は対GDP比4.9%(2020年)で、201カ国・地域中198位でした。シンガポールの549.1%、香港の539.1%とは比較になりません。

政府もこれを課題と認識しています。対日直接投資推進会議が2026年7月に決定した促進プログラムでは、2025年末に約58.6兆円だった対内直接投資残高を、2030年に120兆円へ引き上げる目標が掲げられました。JETROの調査では、日系企業のアジア大洋州地域統括機能の設置先はシンガポールが87社で最多です。

二重価格は「維持費を誰が負担するか」の設計問題である

為替と所得の差は、国内の価格にも現れ始めています。姫路市は2026年3月1日から姫路城の入城料を改定し、姫路市民は1,000円のまま、市民以外は2,500円としました。国籍による区分ではなく、居住地による区分です。観光庁も2026年4月27日、料金設定に関するガイドライン作成に向けた有識者会議を始めました。今後は「外国人だから高い」ではなく、維持費の負担者かどうかという設計で整理される可能性が高いと考えられます。

背景にあるのは、内外の購買力の差です。観光庁によれば、2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,559億円で過去最高、訪日外客数は4,268万人でした。一方、出国日本人数は1,473万人で、2019年の水準から26.6%減ったままです。外から日本を買う人は増え、日本から外へ出る人は戻っていません。同じ国に住みながら、価格が外の購買力で決まる領域が広がっています。

勤労と資産の乖離が、生活実感を二つに分ける

賃金の側は改善しています。厚生労働省の毎月勤労統計によれば、2026年6月の実質賃金は前年同月比1.6%増で、6か月連続のプラスでした。現金給与総額は53万1,677円で3.4%増です。消費者物価(総合)の上昇率が1.7%まで鈍化する一方、賃上げが3%台を維持したことが効いています。実質賃金がマイナスで固定されているという理解は、2026年時点では正確ではありません。

ただし、賃金の伸びと資産の伸びは同じ速度ではありません。円建ての給与だけで生活する人と、ドル建て資産を持つ人とでは、円安局面で購買力の差が開きます。同じ国に住み、同じ物価に直面していても、資産の通貨構成によって体感が分かれます。この分岐は日々の努力よりも、資産形成を始めた時期と通貨の選択で決まる部分が大きくなっています。

産業と地域は、この10年でこう組み替わった

医療・福祉が製造業を抜くのは時間の問題である

総務省の労働力調査によれば、2025年平均の就業者6,828万人のうち、医療・福祉は947万人で13.9%を占めます。2012年の708万人から239万人増えました。同じ期間、製造業は1,033万人で横ばいです。両者の差は86万人まで縮まっており、医療・福祉が製造業を上回るのは時間の問題です。日本の主要産業は何かという問いへの答えは、すでに変わりつつあります。

需要はさらに増えます。厚生労働省の第9期介護保険事業計画にもとづく推計では、介護職員は2022年度の約215万人から、2040年度には約272万人が必要になります。内閣府によれば2024年の第三次産業のGDP構成比は74.7%で、第二次産業は24.4%、第一次産業は1.0%です。

この種の仕事は、人が集まる場所に集まります。人口100万人規模の都市には医療機関、介護施設、保育、行政サービスが密度をもって存在し、雇用の受け皿になっています。東京へ出るという選択肢だけでなく、育った地域の中枢都市へ移るという選択肢が現実味を持つのは、この変化によるものです。実家から通える距離に雇用があるかどうかが、地域の人口を左右します。

人口が増えている場所は、東京だけではない

令和7年国勢調査の人口速報集計によれば、2025年10月時点の総人口は1億2,305万人で、2020年から309万7,000人(2.5%)減りました。人口が増えたのは東京都と沖縄県の2都県だけです。政令指定都市では福岡市が3.2%増で最も伸びた一方、静岡市は4.9%減で最大の減少率、新潟市も3.8%減でした。新幹線で東京とつながっているという条件だけでは、人口の維持には足りません。

転入超過数で見ると、2025年は大阪市1万1,520人、札幌市1万582人、福岡市1万372人の順で、上位はすべて政令指定都市が占めました。産業立地が動態を変えた例もあります。TSMCの子会社JASMが進出した熊本では、2つの工場に計3兆円超が投じられ、3,400名の雇用が計画されています。地価上昇率は2023年から2024年にかけて大津町33%、菊陽町31%で全国1位と2位でした。熊本市から博多までは新幹線で最速32分です。

東京の人口増の8割超は外国人によるものである

東京の人口が増えている中身も変わりました。東京都総務局統計部によれば、2026年1月1日時点の都の総人口は1,407万7,552人で、前年から7万5,018人増えています。このうち日本人の増加は1万2,540人、外国人の増加は6万2,478人で、増加分の約83%を外国人が占めた計算です。東京の人口増を「若者が集まっているから」とだけ理解すると、実像を取り違えます。

全国の在留外国人数は、2025年末時点で412万5,395人と初めて400万人を超えました(出入国在留管理庁)。前年比9.5%増で、東京都だけで80万1,438人が暮らしています。日本人住民が増えた都道府県は東京都のみで、他の46道府県はすべて減っています(総務省)。

ただし、労働力不足を移民で急に埋めることはできません。受け入れには住宅、教育、医療、日本語支援といった受け皿が必要で、時間と財政が要ります。年間30万人規模の増加が続いていること自体、社会の吸収能力から見れば相当な速度です。埋まらない部分はAIとロボットが担うことになります。

住居費の差が、可処分所得の実額を決める

同じ年収でも、住む場所によって手元に残る額は変わります。不動産経済研究所によれば、2025年の首都圏の新築分譲マンションの平均価格は9,182万円で前年比17.4%上昇し、東京23区は1億3,613万円で21.8%上昇しました。近畿圏の平均は5,328万円です。アットホームの調査では、東京23区のシングル向け(30平方メートル以下)の平均募集家賃は2026年2月時点で約11.0万円となり、21か月連続で上昇しています。

生活コストの低い地域では、同じ賃金でも可処分所得の実質価値が高くなります。地方中枢都市に雇用があり、住居費が東京の半分以下であれば、手元に残る額は逆転しうるということです。企業が地方で人を採るときの訴求点は、賃金の絶対額ではなく、この差分を具体的に説明できるかにあります。

慎重な見方:日本が持つ資産は、資金では買えない

ここまでの数字は不利な材料が目立ちますが、日本が持つ資産を過小評価すべきではありません。法の支配、契約の執行、徴税能力、機能する官僚機構、そして治安は、資金で短期間に買えるものではありません。湾岸諸国が制度そのものを外部から導入しようとしているのは、それが最も再現の難しい資本だからです。基礎教育の質と全国インフラ、厚い資本ストックも同じ性質のものです。

製造の現場も弱くはありません。国際ロボット連盟(IFR)が2026年4月に公表したロボット密度(製造業従業員1万人あたりの稼働台数、2024年実績)では、韓国1,220台、シンガポール818台、ドイツ449台に次いで日本は446台で世界4位です。世界平均は132台、米国は307台です。人手不足に自動化で応える基盤は、すでに国内にあります。

電力についても政策の方向は定まっています。2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画は、2040年度の電源構成として再生可能エネルギー4〜5割、原子力2割、火力3〜4割を示し、エネルギー自給率を15.3%から3〜4割へ引き上げる目標を掲げました。実行されれば、電力の量と単価には改善の余地があります。

今後5年でこう動く

ここからは予測です。公表データから合理的に導ける範囲の見立てであり、予言ではありません。現在の傾向が続いた場合にどうなるかとして読んでください。

予測1 日本は豊かで安全なまま、意思決定の場からは遠ざかる

治安、インフラ、生活の質は当面維持されます。一方で、対内直接投資残高の対GDP比が低位にとどまり、アジアの統括機能がシンガポールに置かれ続ければ、日本法人の役割は実行部門に寄っていきます。政府が2030年に対内直投残高120兆円という目標を掲げているのは、この流れを反転させるためです。目標の達成度が、支店化が進むか止まるかを測る先行指標になります。

予測2 電力の空き容量が、地域の産業政策の主要変数になる

電力広域的運営推進機関(OCCTO)の2026年度需要想定によれば、2035年度にデータセンターと半導体工場として個別に計上された需要は568億kWhで、全国の需要電力量の6.71%にあたります。うちデータセンターが494億kWhです。系統に空きがあり、変電設備が近く、水と土地が確保できる地域に投資が集まります。自治体の誘致競争は、補助金の額よりも系統接続の可否で決まる場面が増えます。

予測3 若者の雇用は守られるが、仕事を覚える入口の質が変わる

日本ではAIが雇用を奪う形にはなりにくいと考えられます。リクルートワークス研究所の推計では2040年に約1,100万人の労働供給不足が生じ、帝国データバンクによれば2025年の人手不足倒産は427件で初めて年間400件を超えました。人が足りない圧力のほうが強い環境では、AIやロボットは雇用を成立させる道具として導入されます。

ただし求人の中身は動いています。2027年卒の大卒求人倍率は1.62倍で2年連続の低下、一方で従業員300人未満の企業は2026年卒で8.98倍と、規模による分断が続きます。若手が最初に担当してきた定型業務がAIに移れば、経験を積む階段の下の段が消えます。

予測4 地方は「中枢都市+実家圏」の二層構造に収束する

2025年の転入超過の上位を政令指定都市が占めた事実は、人の動きが東京一極ではなくなりつつあることを示しています。医療・福祉の雇用が集まるのは人口が集積した都市であり、そこは実家から通える距離にあることも多い場所です。東京へ出る選択と地元に残る選択の間に、地方中枢都市という第三の選択肢が定着します。

本当に優先すべきこと

企業が着手すべき5つの優先順位

第一に、自社の業務のうちどの工程がAIで置き換わり、どの工程が置き換わらないかを一覧にすることです。この問いに答えられる企業はまだ多くありません。外注する前に、経営者が現場を1週間見て回るだけでも一覧は作れます。一覧がないまま導入したツールは必ず使われなくなります。

第二に、自社が使うクラウドとAIサービスの支払いが、どの国のどの事業者に流れているかを把握することです。デジタル赤字は国全体の話に見えますが、その積み上げは個々の企業の支払いです。代替可能な部分とそうでない部分を分けておくと、為替が動いたときの打ち手が早くなります。

第三に、若手が経験を積む階段を設計し直すことです。定型業務をAIに渡すのであれば、その分だけ判断を伴う仕事を前倒しで任せる必要があります。300人未満の企業の求人倍率は8.98倍です。採用できるかどうかより、入った人が3年で戦力になるかどうかが分かれ目になります。

第四に、外貨で稼ぐ経路を一つ作ることです。訪日外国人旅行消費額が9兆4,559億円に達した市場は、観光業だけのものではありません。部品、食品、技術サービス、越境ECのいずれでも構いません。円建て収入だけの構造では、円安局面で仕入れコストの上昇を吸収できません。

第五に、省力化投資を設備投資ではなくリスク管理として位置づけることです。人手不足倒産が3年連続で過去最多を更新するなか、人が採れないことは資金繰りと同じ水準の経営リスクです。補助金は後押しとして扱ってください。補助金の有無で判断すると、必要な投資が遅れます。

自治体が優先すべき5つの論点

第一に、管内の電力系統の空き容量、変電設備の位置、工業用水、土地の条件を、誘致資料として一枚に整理することです。立地判断は電力から始まります。補助金メニューを並べた資料より、系統接続の見通しを示した資料のほうが企業には届きます。

第二に、職員数が今より大きく減る前提で業務を組み替えることです。地方公務員数は2025年4月時点で280万9,298人と、ピークの1994年から14.4%減りました(総務省)。自治体戦略2040構想研究会が2018年に「従来の半分の職員でも本来担うべき機能が発揮できる仕組み」を提起してから8年が経ちます。窓口業務の標準化と自動化は、人が足りてから始めるものではありません。

第三に、外国人住民の増加を、事後対応ではなく計画として先に立てることです。住宅、就学、医療通訳、ごみ出しや防災の多言語対応は、増えてから整えると必ず摩擦を生みます。人口ビジョンの改定時に、外国人住民の増加を織り込んだ推計を置いてください。

第四に、公共施設と文化財の料金体系を、維持費の負担構造から見直すことです。姫路城のように居住地で区分する方式は、国籍による区別ではないため制度として説明しやすい形です。観光庁もガイドラインの検討を始めています。値上げの是非ではなく、誰がどこまで負担するかの設計として議論を組み立ててください。

第五に、医療・福祉を軸にした雇用の受け皿を、人口戦略の中心に据えることです。医療・福祉の就業者は947万人まで増え、2040年度には介護職員だけで約272万人が必要になります。この分野の雇用と住居と交通が揃う都市に人は残ります。企業誘致よりも、既存の医療・福祉雇用の維持のほうが規模は大きくなります。

やってはいけないこと

第一に、中小企業や自治体が独自の大規模言語モデルを開発しようとすることです。Kimi K3の2.8兆パラメータに対し、日本最大級のモデルが300億パラメータという規模差は、努力で埋まるものではありません。どのモデルをどう業務に組み込むかに資源を集中してください。

第二に、データセンター誘致を雇用対策として住民に説明することです。データセンターは電力と土地を大量に使う一方、常時雇用は製造業の工場ほど多くありません。主な効果は固定資産税と建設需要です。雇用効果を過大に説明すると、稼働後に説明責任の問題が生じます。

第三に、人口減少を前提にしない計画を立てることです。令和7年国勢調査の速報値では、5年間で309万7,000人が減り、増えたのは東京都と沖縄県だけでした。転入で人口を維持する計画は、統計上ほとんどの自治体で成立しません。減ることを前提に、どの機能を残すかを先に決めるほうが現実的です。

よくある質問

Q. 日本は先進国から脱落するのですか。

A. 指数上の分類から外れる可能性は当面低いと考えられます。MSCIとFTSE Russellのいずれの分類でも日本は先進国側にあり、IMFの先進経済にも含まれています。ただし一人当たり名目GDPは2024年にOECD加盟38カ国中24位(内閣府)と1994年以降で最低となり、名目GDP総額もIMFの2026年4月時点の予測では2027年にインドに抜かれて5位となる見通しです。豊かさは残りつつ、相対的な位置は下がっています。

Q. なぜAIの話でエネルギーが重要になるのですか。

A. 大規模なAIの学習と推論には大量の電力が必要だからです。IEAの2025年4月の報告書によれば、世界のデータセンターの電力消費は2024年の約415TWhから2030年に約945TWhへ倍増し、日本の総電力消費量を上回ります。資源エネルギー庁は産業用電気料金について日本とドイツが最も高い水準にあると説明しており、電力単価の差がそのまま計算を引き受けられるかどうかの差になります。

Q. デジタル赤字は今後も拡大し続けるのですか。

A. 2025年は縮小しました。国際通貨研究所の集計では2025年のデジタル関連収支は6.7兆円の赤字で、受取の増加により赤字拡大に一服感が出ています。ただし2024年の支払額は2014年比で、専門・経営コンサルティングサービスが約5.4倍、コンピュータサービスが約3.3倍に増えており(総務省 情報通信白書)、構造そのものが変わったとまでは言えません。

Q. AIやロボットが普及すると、若者の仕事は減りますか。

A. 日本では失業が増える形にはなりにくいと考えられます。リクルートワークス研究所の推計では2040年に約1,100万人の労働供給不足が生じ、帝国データバンクによれば2026年上半期の人手不足倒産は227件と過去最多です。ただし2027年卒の大卒求人倍率は1.62倍と2年連続で低下しており、若手が経験を積む定型業務が減る影響には備えが必要です。

Q. 地方の人口減少に打つ手はありますか。

A. 全国一律の打ち手はありませんが、人が集まる先は明確です。2025年の転入超過は大阪市1万1,520人、札幌市1万582人、福岡市1万372人と、上位を政令指定都市が占めました(総務省)。令和7年国勢調査の速報値では福岡市が3.2%増、静岡市が4.9%減と政令市の間でも差が出ています。中枢都市との接続と、医療・福祉を軸にした雇用の維持が現実的な選択肢です。

Q. 自治体はデータセンターを誘致すべきですか。

A. 電力系統に空きがあり、土地と工業用水を確保できる地域では選択肢になります。OCCTOの想定では2035年度のデータセンター需要は494億kWhです。ただし常時雇用の規模は製造業の工場ほど大きくないため、雇用対策としてではなく、固定資産税と建設需要を目的とした施策として説明すべきです。

Q. 中小企業はまず何から始めればよいですか。

A. 自社の業務のうち、AIで置き換えられる工程とそうでない工程を一覧にすることです。ツールの選定より先に行ってください。そのうえで省力化投資を、設備投資ではなく人手不足への備えとして位置づけることが有効です。2025年の人手不足倒産427件のうち、従業員10人未満が77.0%を占めています(帝国データバンク)。

まとめ

先進国の条件は書き換わりつつあります。20世紀は製造業と制度の積み上げで先進国になれましたが、これからは計算資源とエネルギーと制度資本の三点をどれだけ自給できるかが問われます。米国と中国はこの三点に資源を集中し、湾岸諸国は制度を外から導入してでも同じ位置を取りにいっています。日本は制度資本を持ち、計算資源とエネルギーで劣後している状態です。

その結果として起きるのは、生活水準の急落ではありません。治安が良く、インフラが動き、教育水準が保たれた国であり続けたまま、決定が行われる場所からは遠ざかっていく、という形です。デジタル赤字6.7兆円、対内直接投資残高の対GDP比で201カ国中198位という数字は、その現れです。上質な場所であることと、決定権を持つことは別の話だということです。

ただし、この構図は絶望の材料ではありません。医療・福祉の就業者は製造業に並ぼうとしており、ロボット密度は世界4位です。人口が増える政令指定都市があり、電力系統に空きのある地域もあります。優先すべきは、モデルを作ることではなく使いこなすこと、企業を呼ぶことではなく電力と土地の条件を示すこと、人を増やす計画ではなく減る前提で機能を残す計画を立てることです。制度資本という最も再現の難しい資産を持つ国が、計算資源とエネルギーで劣後している。この非対称をどう埋めるかが、これからの10年の論点になります。