2036年は、遠い未来ではありません。現在20代後半の若手社員は40代になり、現在の小学生は社会人になります。企業の設備投資、自治体の都市計画、インフラ更新、学校再編、医療体制の見直しなど、多くの意思決定はすでに2036年を見据えて行われる時代に入っています。
しかし、日本では依然として「人口減少は知っているが、具体的に何が起こるのかは分からない」という状態が続いています。
本当に重要なのは、日本全体の人口減少の話だけではありません。どの県の人口がどれだけ減るのか。どの地域に外国人が増えるのか。どの市場が縮小し、どの産業が残るのか。自治体財政は維持できるのか。これらを数字で理解しなければ、企業も自治体も将来の意思決定を誤ります。
本記事では、国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)の地域別将来推計人口(令和5年推計)や出入国在留管理庁の在留外国人統計をはじめとする各種データをもとに、2036年の日本を都道府県単位で予測します。
人口、外国人、経済規模。その変化を追うことで見えてくるのは、「地方が消える」のではなく、「生き残る地域と縮小する地域の差が急速に広がる未来」です。
1. 2036年の日本の人口規模——「3人に1人が高齢者」という現実
社人研の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によれば、2020年時点の総人口1億2,615万人は、2070年には8,700万人まで減少すると推計されています(出生中位・死亡中位推計)。
2036年はその過渡期に位置しており、総人口は1億2,000万人を下回る水準に近づきつつ、高齢化が急速に進行する段階です。
内閣府「高齢社会白書(令和2年版)」によれば、2036年には高齢化率(65歳以上人口の割合)が33.3%に達し、国民のほぼ3人に1人が65歳以上となります。
なお、この数値は同白書が引用した旧来の社人研推計(平成29年推計)に基づくものです。最新の令和5年推計では2070年の高齢化率が38.7%に更新されており、2036年時点の水準もわずかに変化する可能性があります。
ただし、「2036年頃に33%台に達する」という大枠の方向性は変わっていません。生産年齢人口(15〜64歳)は縮小を続け、社会保障の担い手不足が一段と深刻になる時期です。
ただし、この変化は全国一律ではありません。都道府県によって人口減少の速度、高齢化の度合い、外国人労働者の受け入れ規模には大きな差があります。
2. 都道府県別の人口変化——「縮む地方」と「踏みとどまる都市」
社人研の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」は、2020年を基準に2050年まで5年ごとの都道府県・市区町村別人口を推計しています。
2035年時点(推計の公表が5年刻みのため2036年の単年値は存在しません。以下、2035年推計値を指標として使用)における都道府県別の変化を大別すると、以下の傾向が読み取れます。
人口が増加または横ばいを維持する都道府県
東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県などの首都圏、および沖縄県は、2020年比で人口が増加または微減にとどまると推計されています。
東京都は全国からの人口流入が続き、在留外国人の集積もあいまって、人口規模の維持が見込まれています。
出入国在留管理庁「令和6年末現在における在留外国人数について」によれば、2024年末時点で東京都は全国の在留外国人376万8,977人のうち約19.6%を占めており、外国人人口の集中が際立っています。
人口が大幅に減少する道県
秋田県、青森県、岩手県、高知県、島根県、山形県などは、すでに人口減少が進行しており、2035年に向けてさらに減少が加速すると見込まれています。
秋田県では生産年齢人口の流出と高齢化率の上昇が同時進行しており、地域産業・財政の両面で構造的な課題を抱えています。
3. 外国人人口の増加——「移民」ではなく「在留外国人」の実態
日本における外国人人口の増加は、いわゆる移民政策の転換よりも、特定技能・技能実習制度の拡充や留学生の増加を背景としています。
出入国在留管理庁の発表によれば、2024年末時点の在留外国人は376万8,977人で、前年末比35万7,985人(10.5%)増加し、3年連続で過去最多を更新しました。
国籍別では、中国が約87万3,000人で最多、ベトナムが約63万4,000人、韓国が約40万9,000人と続きます。在留資格別では永住者が91万8,000人超で最多となっており、短期滞在から定住化へのシフトが進んでいます。
都道府県別では、東京都・愛知県・大阪府・神奈川県・埼玉県の上位5都府県に外国人人口が集中しています。一方、製造業が集積する愛知県や静岡県では、工場労働力としての外国人比率が高く、地域の産業構造と外国人人口分布が密接に連動しています。
2036年に向けた外国人人口の展望
社人研の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」では、外国人の入国超過数の長期水準を年間約16万4,000人(2040年時点)と仮定しています。
これは前回の平成29年推計における年間約6万9,000人(2035年時点)から大幅に引き上げられた数値です。
ただし、2024年末時点の実際の増加数が年間35万人超であることを踏まえると、この仮定値もなお保守的であり、実態は上振れしている可能性があります。
政府が進める特定技能制度の拡充、育成就労制度の導入なども加味すると、2036年時点の在留外国人数は500万人を超える水準に達する可能性があります。
4. 経済規模への影響——人口減少は即「市場縮小」ではない
人口が減少しても、一人あたりの消費額や生産性が向上すれば、地域経済の規模は維持されます。ただし、日本の地域経済の実情を見ると、人口の社会減(転出超過)と自然減(出生数減少・死亡数増加)が重なる地方では、消費市場・労働力市場の両面での縮小圧力が強まっています。
縮小が加速するセクター
小売業(特に地方の実店舗型)、地方建設業、地域金融機関(預金量の減少)、小規模の医療・介護施設(後継者不足)などは、人口減少の直撃を受けやすいセクターです。
特に人口5万人以下の中小都市では、商圏の維持が困難になるケースが増えており、廃業や撤退による「買い物難民」「医療難民」の発生が現実の課題になりつつあります。
需要が持続・拡大するセクター
高齢者人口の増加に伴い、介護・医療・リハビリ・福祉用具・シニア向けサービスは絶対数としての需要が増加します。
また、人手不足への対応として自動化・省力化投資(ロボット、AI、IoT)の需要も高まり、これらの技術を提供する産業には成長余地があります。インバウンド観光も、地方の観光資源と外国人在留者のネットワークを活用する形で新たな需要を生み出す可能性があります。
5. 自治体財政の構造的リスク
人口減少が自治体財政に与える影響は、歳入・歳出の両面から生じます。歳入面では、税収基盤(住民税・固定資産税)の縮小と地方交付税の算定基礎となる人口の減少が重なります。
歳出面では、高齢化に伴う社会保障費の増大が続く一方、インフラの維持管理費も人口が減っても急には減りません。
総務省の試算などによれば、人口減少が著しい市町村では2040年代までに財政運営が困難となる自治体が相当数生じると見込まれており、自治体の再編・広域連携が政策課題として浮上しています。特に公共交通、上下水道、学校施設などの老朽インフラをどう維持・更新するかは、2036年時点の日本においてすでに喫緊の課題となっているはずです。
6. 「消滅可能性都市」論の現在地
2014年に日本創成会議が「消滅可能性都市」として896自治体を示したことは、人口減少問題を政策議題に押し上げるうえで一定の役割を果たしました。
この2014年版は、2010〜2040年の30年間で若年女性人口(20〜39歳)が50%以上減少するという条件で算定されたものです。
その後、2024年には人口戦略会議が最新の社人研推計をもとに改訂版を発表し、消滅可能性自治体の数は744に更新されています。
この2024年版の定義は「2020〜2050年の30年間で若年女性人口(20〜39歳)が50%以上減少する自治体」であり、2014年版と基準年が異なる点に注意が必要です。
「自治体が消滅する」という断言ではなく、人口構造の縮小リスクを示す指標として活用されています。
また、外国人人口の増加が一部の地域で若年労働力の補完機能を果たしており、日本人人口の推計だけでは読み切れない変数が加わっています。
7. 地域間格差の拡大——「生き残る地域」の条件
2036年を見据えたとき、地域間格差の拡大は避けられない方向性です。ただし「大都市圏だけが生き残る」という単純な構図には注意が必要です。
人口集積の維持が期待される都市・地域の特徴
大学・高専などの高等教育機関が集積している地域、製造業のサプライチェーンの核となっている産業集積地、観光・農業など地域固有の産業資源を持つ地域、外国人労働者の定住化が進む地域などは、人口流入または人口維持の可能性が高いと評価されています。
縮小圧力が強い地域の共通点
農林水産業を主要産業とするが後継者不足が深刻な地域、県庁所在地以外の中小都市で公共交通が弱い地域、若年層の転出が長年続いており出生率の押し上げ余地が小さい地域などは、2036年に向けてさらに縮小圧力が高まる可能性があります。
まとめ——2036年に向けて企業・自治体が取るべき視点
本記事で確認した通り、2036年の日本は「人口が減る国」であると同時に、「外国人が増える国」「高齢者が3人に1人の国」「自治体財政が厳しくなる国」という多層的な変化の中にあります。
企業にとっては、国内市場の縮小を前提としたポートフォリオの再設計(海外展開、高齢者向けサービス、省力化技術)が求められます。自治体にとっては、人口規模に合ったインフラ・サービスの適正化と、外国人住民を含めた多様な担い手の確保が急務です。
重要なのは、「いつかそうなる」という漠然とした認識から、「2036年時点でどの数字がどう変わっているか」という具体的な事業・政策判断へ移行することです。
人口データは未来の確定予測ではありませんが、現時点で最も精度の高い意思決定の根拠です。社人研の地域別将来推計人口や出入国在留管理庁の在留外国人統計は公開データとして誰でも参照可能であり、まずは自社の事業エリアや自治体の対象地域の数字を確認することから始めることをお勧めします。
参考データ出典
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」(2023年4月公表)
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」(2023年12月公表)
- 出入国在留管理庁「令和6年末現在における在留外国人数について」(2025年1月公表)
- 内閣府「令和2年版高齢社会白書」
- 人口戦略会議「消滅可能性自治体」(2024年4月公表)
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