AIの価格はなぜ下がる?生成AIの料金・コスト低下と企業・自治体への影響を解説

編集部投稿者:

AIの利用単価は、実際に下がっています。市場調査会社Silicon Dataが算出する実勢のトークン単価指数は、2026年5月31日の100万トークンあたり2.04ドルから、8月上旬には1.16ドル台まで落ちました。3か月で約43%の下落です。

ところが同じ時期、AI設備を持つ側の資金繰りは逆に悪化しています。Oracleは2026年7月9日にS&Pから投機的等級の一歩手前まで格下げされました。安くなっているものと、危うくなっているものが同時に進んでいます。

日本の読者にとっての結論を先に書けば、「単価は下がるが手元の支払額は下がらない」「導入率の差は価格ではなく用途設計で決まる」の2点です。

Contents
  1. AIの価格はどこまで下がったのか
  2. 安くなったのに、なぜ投資と借金は膨らみ続けるのか
  3. 日本の企業と自治体にとって、前提条件はどう違うのか
  4. 今後2〜3年でこう動く
  5. 本当に優先すべきこと
  6. よくある質問
  7. まとめ

AIの価格はどこまで下がったのか

実勢のトークン単価は3か月で約4割下がった

AIの利用料金は、公表価格でも実際の支払額でも下がっています。Silicon Dataの「LLM Token Expenditure Index」は、世界のLLM推論支出の大半をカバーする使用量加重の実勢平均単価です。この指数は2026年5月31日に100万トークンあたり2.04ドルでピークを打ち、8月6日から8日には1.16ドルから1.18ドルまで下がりました。証券会社Jefferiesが引用し、South China Morning Postが2026年8月10日に報じています。

同じ仕事を同じ量だけAIにやらせた場合、支払額は3か月前の6割弱で済む計算です。ただし価格帯は二つに割れています。同社の2026年4月22日時点のデータでは、フロンティアモデルの平均単価が4.20ドル、オープンウェイトモデルが0.85ドルと約5倍の開きがありました。最高性能を求めるかどうかで、コスト構造が別のものになります。

下落を主導したのは中国のオープンウェイトモデル

価格下落の駆動役は、中国系の開発元が出すオープンウェイトモデルです。オープンウェイトモデルとは、学習済みのパラメータが公開され、誰でも自前の環境で動かせるモデルを指します。DeepSeekのV4-Proは100万トークンあたり入力0.435ドル、出力0.87ドルという公式価格です。同じ時期のClaude Opus 5は入力5ドル・出力25ドル、GPT-5.6 Solは入力5ドル・出力30ドルですから、出力単価では約30分の1です。

安いだけなら脅威にはなりません。問題は性能差が縮んでいることです。評価機関Artificial Analysisの知能指数(2026年8月時点)では、首位のClaude Opus 5が63点、GPT-5.6 Solが61点です。これに対し、Moonshotがオープンウェイトで公開したKimi K3が60点をつけました。差は3点です。オープンウェイト部門の首位はこのKimi K3で、以下Z.aiのGLM 5.2、DeepSeekのV4系と中国勢が続きます。

採用の実態でも逆転が起きています。Hugging Faceが2026年3月17日に公表した報告では、同プラットフォームのモデルダウンロードの41%を中国発モデルが占め、米国を上回りました。

この圧力を受け、OpenAIは2026年7月30日にGPT-5.6 Lunaの出力単価を6.00ドルから1.20ドルへ80%引き下げています。値下げが連鎖している状態です。

同じ性能を買う値段は年5倍から10倍のペースで下がっている

単価の下落は販促ではなく、数年単位で続く構造的なものです。Stanford HAIの「AI Index Report 2025」に、性能を固定した場合のコスト低下が記録されています。

MMLUで64.8点(GPT-3.5相当)を取れるモデルへの問い合わせコストは、2022年11月の100万トークンあたり20.00ドルから2024年10月には0.07ドルへ下がりました。約2年で280分の1です。最高性能そのものが280分の1になったわけではありません。

直近を対象にした推計もあります。MIT FutureTechの研究者らが2026年3月に改訂した論文「The Price of Progress」です。2024年4月から2025年11月を対象に、同一性能あたりの価格がフロンティアモデルで年5倍から10倍下がっていると推計しました。今日コストが合わずに見送った業務が、1年後には5分の1で実現できる可能性は高いといえます。

ただし、企業の請求額はむしろ増えている

ここで話は反転します。この逆説を指摘したのは、Apollo Global Managementのチーフエコノミストであるトルステン・スロック氏です。2026年6月12日のレポートによれば、トークン単価は2023年以降90%超下落した一方、LLM利用への総支出額は2025年末以降でほぼ倍増しています。単価が下がるほど企業は処理量を増やすため、請求額は逆に膨らみます。安くなることが支出削減につながらない点は、予算を組む側が最初に理解すべきです。

技術面の要因もあります。推論時に長く考えるタイプのモデルは消費トークン量が桁違いで、同じ業務でも請求額が跳ね上がります。さらに最安値を牽引したDeepSeek自身が、公式価格ページで近く価格を全体的に引き上げる予定であり大幅な上昇を見込むと記載しています。価格競争が永続する前提の計画は見直す価値があります。

安くなったのに、なぜ投資と借金は膨らみ続けるのか

設備投資は減速せず、資金源が自己資金から借入へ移っている

トークン単価の下落は投資を止めていません。Alphabetは2026年第2四半期に通年の設備投資ガイダンスを1,950億から2,050億ドルへ引き上げ、2027年はさらに大幅増になると明言しました。Amazonは2026年の設備投資を2,200億ドル、Metaは1,300億から1,450億ドルへ、いずれも下限を切り上げています。

問題は規模ではなく資金源の変化です。Morgan Stanleyは2026年6月10日、同年の世界のAI関連債務発行額を5,700億ドルと予測しました。同社の試算では2025年から2028年の世界のデータセンター建設費は約2.9兆ドルで、ハイパースケーラーの営業キャッシュフローで賄えるのは1.4兆ドル、約半分にとどまります。

残りは外部調達に頼ることになります。簿外に出す手法も広がりました。Metaのルイジアナ州データセンター「Hyperion」では、Blue Owl Capitalが80%を出資する特別目的会社が、2025年10月に272億9,400万ドルの担保付社債を発行しています。Metaは連結貸借対照表の外側で、実質的な支払義務を負っています。

GPUを担保にした融資が投資適格の水準まで広がった

資金調達はGPUそのものを担保にした融資にまで及んでいます。CoreWeaveは2026年3月31日、85億ドルの融資枠をクローズしました。変動部分の金利はSOFR+2.25%、満期は2032年3月です。Moody’sがA3を付与し、GPU担保ファイナンスとして初めて投資適格の格付けを得た案件となりました。

この形式のリスクは、担保の寿命と借入期間のずれにあります。Forbesが2026年6月9日に指摘したところでは、GPUの残存価値は3年で新品価格の約45%まで低下します。一方でこの融資枠の期間は約6年です。担保価値が先に消え、返済義務だけが残ります。調査会社Octusの集計では、投機的等級のAIインフラ関連債務残高は2026年6月末で1,250億ドルとなり、5月中旬から1か月半で約180億ドル増えました。

循環取引はどこまで実額なのか

いわゆる循環取引がどこまで実際の金銭のやり取りなのかは、切り分けが必要です。NVIDIAとOpenAIの案件では、2025年9月22日に最大1,000億ドルの投資意向が示されました。しかしNVIDIA自身が四半期報告書で確実性がないと記載し、ジェンスン・ファンCEOは2026年3月におそらく実現しないと述べています。実際に確定したのは、2026年3月31日にクローズした1,220億ドル調達ラウンドでの300億ドルの出資です。

一方で、実額として確認できる循環的な取引も存在します。CoreWeaveの2025年9月15日付8-Kには、販売できなかった余剰容量をNVIDIAが買い取る義務を負う63億ドルのバックストップ契約が記載されています。AMDは2025年10月6日、OpenAIに1株0.01ドルで1億6,000万株のワラントを付与する契約を発表しました。売る側が買う側の需要を保証する構造が、契約書のレベルで存在しています。

「ハイパースケーラー債のジャンク化」は現時点で事実ではない

ハイパースケーラーの社債が投機的等級、いわゆるジャンク債に格下げされた事例は、2026年8月時点で存在しません。最も格付けが低いOracleでも、2026年7月9日のS&Pによる格下げ後の格付けはBBBマイナスであり、投機的等級の1ノッチ上です。Microsoft、Alphabet、Amazon、Metaはいずれも高位の投資適格を維持しています。

ジャンク級にあるのは、ネオクラウドと呼ばれる新興のGPU貸出事業者です。ネオクラウドとは、GPUを大量に調達して計算資源として時間貸しする事業者のことです。CoreWeaveの発行体格付はMoody’sでBa3、S&PでBプラスであり、明確に投機的等級です。前述の1,250億ドルの非投資適格債務は、主にこの層が抱えています。

ただし信用市場の警戒は強まっています。Oracleの5年物CDSスプレッドは年初の約144ベーシスポイントから7月下旬には約200ベーシスポイントへ上昇し、2008年終盤以来18年ぶりの高水準となりました。主要5社の平均も年初の115から162ベーシスポイントへ広がりました。Alphabetは2026年第2四半期にフリーキャッシュフローが59億ドルのマイナスとなり、上場以来初めて赤字化しています。

反対の見方も無視できない

バブル論には有力な反証があります。第一に、クラウド事業の売上が加速しています。直近四半期のMicrosoft Azureは前年比43%増、次四半期のガイダンスは45%増です。Google Cloudは82%増、AWSは18四半期ぶりの高成長となる37%増、OracleのOCIは93%増でした。需要が幻であれば、まず売上成長が鈍化するはずです。

第二に、受注残が積み上がっています。Microsoftの商業RPOは6,780億ドルで前年比84%増、Googleのバックログは5,140億ドル、AWSは4,960億ドルです。とくに重要なのは、MicrosoftのRPOがOpenAI分を除いても25%増だという点です。循環取引だけで需要が作られているという主張への、直接的な反証になります。営業キャッシュフローも554億ドルで30%増と健全です。

会計面の批判も一方的には整理できません。マイケル・バリー氏は2025年11月10日、2026年から2028年の3年間で1,760億ドルの減価償却が過少計上されていると主張しました。ただし各社の対応は一様ではなく、2025年初頭の開示では、Metaがサーバーの耐用年数を5.5年へ延長した一方、Amazonは6年から5年へ短縮しています。

日本の企業と自治体にとって、前提条件はどう違うのか

単価下落の恩恵が円建てでは目減りする

海外のトークン単価が下がっても、日本の利用者が受け取る恩恵は為替で削られます。2026年7月30日の米国市場でドル円は162円台後半から157円台後半まで振れ、同日には日本政府が大規模な円買い介入を実施したとみられます。8月3日には15年ぶりとなる日米協調介入が実施され、円買い方向では28年ぶりでした。ドル建てで4割下がっても、円建てでは2割強の低下にとどまる局面が生じます。

日本情報システム・ユーザー協会の「企業IT動向調査報告書2026」も、円安と物価・人件費の高騰が、クラウドのランニングコスト上昇と相まって企業のIT予算に大きな影響を与えていると明記しています。海外報道と現場の請求書のずれは、為替と利用量の両方から説明できます。

電力とデータセンターのコストは上昇方向にある

国内インフラ側のコストも上がっています。電力広域的運営推進機関が2026年1月21日に需要想定を公表しました。データセンターと半導体工場の最大需要電力は、2026年度の83万キロワットから2035年度には762万キロワットへ約9倍に増える見通しです。北海道と東京エリアで増加が顕著です。

料金側も上昇圧力を受けています。経済産業省が2026年3月19日に発表した2026年度の再生可能エネルギー発電促進賦課金の単価は1キロワットアワーあたり4.18円で、過去最高かつ初めて4円台に乗りました。IDC Japanは国内のデータセンター建設投資が2028年に1兆円を超えると予測しています。AI基盤を国内に置く原価は、下がる方向にありません。

自治体の情報システム標準化は、コスト削減ではなく増加を生んでいる

自治体にとって切実なのはガバメントクラウドへの移行コストです。総務省が2026年2月13日に地方財政審議会へ提出した資料では、2025年12月末時点で8,594システムが標準準拠システムの運用を開始しました。対象3万4592システムの約25%です。一方で運用経費は、移行前の約1,400億円から移行後は約2,500億円へ、およそ1.8倍になる見込みです。

個別の自治体ではさらに厳しい数字が出ています。デジタル庁が2025年6月13日に公表した中核市市長会の調査では、59市の平均で移行後の経費が移行前の2.3倍となり、5割以上の自治体で2倍以上、最大では5.7倍に達しました。ただしデジタル行財政改革会議の2026年3月3日の資料では、見積精査支援によりクラウド利用料で平均約30%の削減効果が確認されています。精査の有無で差がつく領域です。

導入格差は企業でも自治体でも縮まっていない

AIが安くなっても、使う側の格差は残ります。帝国データバンクが2026年5月14日に公表した調査では、生成AIを活用している企業は全体で34.5%、大企業46.5%に対し中小企業32.4%、小規模企業28.0%でした。従業員1,000人超では63.6%、5人以下では29.6%です。東京商工リサーチの2026年4月27日公表の調査でも、組織的に推進している企業は大企業36.4%、中小企業19.1%と17.3ポイントの差がありました。

自治体の格差はさらに鮮明です。総務省が2026年4月24日に公表した令和7年度調査(基準日2025年10月31日)では、生成AIの導入率は都道府県と指定都市がいずれも100%、その他の市区町村は46%前後にとどまりました。前年度の29.9%からは16ポイント程度上昇しています。日本総研が2026年1月に公表した分析では、町村のAI導入率は10.9%と際立って低い水準です。

注目すべきは導入していない理由です。2026年版中小企業白書によれば、AI未活用の理由の1位は「活用する業務がイメージできていない」で63.4%、2位が推進人材の不足で40.0%でした。予算確保が困難という回答は13.8%にすぎません。価格が下がっても導入が進まないのは、値段が障害ではないからです。取り違えると、補助金を積んでも導入率は動きません。

今後2〜3年でこう動く

ここからは、これまでに示した公表データから合理的に導ける範囲の見立てです。予言ではなく、公開情報にもとづく分析として読んでください。

予測1 トークン単価の下落は2026年中に一度止まる

最安値圏を作ってきたDeepSeekが公式に値上げを予告している以上、下落の傾きは一度緩みます。加えて推論に長い計算を使うモデルが標準化すれば、1件あたりの消費トークン量は増え続けます。単価が横ばいでも消費量が増えれば請求額は上がります。先行指標は、Silicon Dataの指数が1ドル台前半で下げ止まるかどうかです。

予測2 調整が起きるとすれば、株式市場より先にクレジット市場に現れる

2026年7月29日、CDSコストの上昇を受けてNebiusが10%、CoreWeaveが9%下落しました。信用スプレッドの変化が株価に先行した事例です。ハイパースケーラー本体は投資適格圏内にとどまる公算が大きい一方、ネオクラウドは借入依存度が高く、GPU担保価値の低下と金利上昇の両方を受けます。先行指標はOracleのCDSスプレッドと、非投資適格AIインフラ債務残高の増減です。

予測3 モデルは商品になり、差はデータと業務設計に移る

平均単価で約5倍、最安のオープンウェイトと最上位クローズドの出力単価では約30倍の価格差がありながら、知能指数の差は3点まで縮んでいます。モデル自体が汎用の部品になりつつあるということです。どのモデルを選ぶかで生まれる差は縮み、どの業務にどう組み込むか、自社にどんなデータが蓄積されているかで差がつきます。先行指標は、使うモデルを変えた際に業務側の作り直しがどれだけ発生するかです。

予測4 日本のAI関連コストは、単価下落ほどには下がらない

7月末の介入後も1ドル157円台という円安水準、再エネ賦課金の過去最高更新、データセンター建設投資の増加、ガバメントクラウド移行後の運用経費増が同時に効いています。海外の単価が半分になっても、円建ての総支払額が半分になるとは限りません。予算計画は「AIは安くなるから予算は減る」ではなく、「単価は下がるが利用量と周辺コストで総額は増える」という前提で組むべきです。

予測5 性能の進歩は続くが、地域に効くのは最上位モデルではない

同一性能あたりの価格が年5倍から10倍のペースで下がるという推計が正しければ、今日の最高性能は2年後には現在の中位モデルの価格帯に落ちてきます。実務で意味を持つのは「昨年は高くて使えなかった性能が、今年は使える価格になる」という循環です。地方の中小企業や小規模自治体が恩恵を受けるのは、この価格帯の底上げからです。

本当に優先すべきこと

企業の経営者が着手すべき優先順位

第一に、モデルを差し替えられる形で導入することです。特定ベンダーの機能に業務プロセスを深く結びつけると、価格が10分の1のモデルが出ても乗り換えられません。判断するのは経営者であり、情報システム担当ではありません。契約前に解約と移行の条件を確認するだけでも実害は減ります。

第二に、契約期間を短く保つことです。同一性能あたりの単価が年5倍から10倍のペースで下がる市場で3年の固定価格契約を結ぶのは、高値で買い続ける約束になります。1年契約か従量課金を基本としてください。

第三に、自社の業務のうちAIで置き換えられる工程を書き出すことです。中小企業白書2026で未導入の理由の1位が「活用する業務がイメージできていない」の63.4%だった以上、ここが最大のボトルネックです。この作業は業務を最もよく知る現場の管理職が担うべきものです。

第四に、蓄積すべきデータを決めることです。モデルが商品化すれば、差は自社にしかないデータから生まれます。顧客対応の履歴、見積の根拠、不良の原因といった記録が、テキストとして検索可能な形で残っているかを確認してください。紙とベテランの記憶の中にある限り、価格が下がっても使えません。

第五に、使える支援制度を確認することです。デジタル化・AI導入補助金2026は2026年3月30日に申請受付を開始し、通常枠のほかに複数者連携デジタル化・AI導入枠が設けられています。ただし補助金は第三の後に来るもので、補助金ありきで対象を決めると使われないシステムが残ります。

自治体が優先すべき論点

第一に、ガバメントクラウド移行後の運用経費を再計算することです。中核市市長会の調査で平均2.3倍、最大5.7倍という結果が出ている以上、移行前の予算感で中期財政計画を組んでいる自治体は修正が必要です。判断するのは情報政策課ではなく財政課と首長です。

第二に、見積の精査を実施することです。デジタル行財政改革会議の資料では、見積精査支援によってクラウド利用料で平均約30%の削減効果が確認されています。事業者の提示額をそのまま受け入れている自治体は、この工程だけで数千万円規模の差が出る可能性があります。

第三に、生成AIの利用を業務単位で最も負荷の高いところから始めることです。総務省の令和6年度調査(基準日2024年12月31日)で、AIの導入業務として最も多いのは音声認識の879件、次いで文字認識の622件でした。議事録作成と紙書類の電子化は効果が測りやすく、失敗しても住民サービスに影響しません。

第四に、単独調達をやめて広域での共同調達を検討することです。町村のAI導入率が10.9%と低いのは、予算と人材の両方が単独では足りないためです。同一県内の複数自治体で仕様を揃えて調達すれば、単価も運用負担も下がります。この判断は担当課ではなく、市町村長会や県の市町村課が動かす必要があります。

第五に、データセンター誘致を財政効果と電力の両面から精査することです。電力需要が2035年度に762万キロワットへ増える見通しである以上、誘致は電力の取り合いでもあります。雇用創出効果は建設期と運用期で大きく異なり、運用期の雇用は限定的です。固定資産税収と電力・用水の負担を並べて計算してください。

やってはいけないこと

一つ目は、AIバブル論を理由に導入を先送りすることです。仮に金融面の調整が起きても、モデルの性能と価格の改善は止まりません。むしろ調整局面ではクラウド事業者が値引き競争に入るため、利用者には有利です。投資家としての判断と、利用者としての判断は分けるべきです。

二つ目は、特定ベンダーの提案する全社一括導入に飛びつくことです。モデルの入れ替わりが年単位で起きる領域で、業務プロセス全体を一つの製品に合わせて作り替えると、次の世代に移れなくなります。導入は工程単位で区切ってください。

三つ目は、コスト削減だけを目的に据えることです。AIの効果が最も大きいのは人手不足で回らなくなっている業務です。帝国データバンクの集計では人手不足倒産が2025年度に441件と過去最多を更新し、有効求人倍率は2026年5月時点で1.17倍です。削減ではなく人が足りない工程を埋めるという目的設定のほうが、効果も現場の納得も得やすくなります。

よくある質問

Q. AIの利用料金は本当に下がっているのですか。

A. 下がっています。Silicon Dataが算出する実勢のトークン単価指数は、2026年5月31日の100万トークンあたり2.04ドルから8月6日から8日には1.16ドルから1.18ドルへ、約43%下落しました。Stanford HAIのAI Index Report 2025では、同じ性能を得るコストが2022年11月から2024年10月にかけて280分の1になったと記録されています。ただし利用量が増えているため、企業が支払う総額は増える傾向にあります。

Q. ハイパースケーラーの社債はジャンク債になったのですか。

A. なっていません。2026年8月時点で投機的等級に格下げされたハイパースケーラーは存在せず、最も低いOracleでも2026年7月9日のS&P格下げ後の格付けはBBBマイナスで、投機的等級の1ノッチ上です。ジャンク級にあるのはCoreWeave(Moody’s Ba3、S&P Bプラス)のようなネオクラウド事業者で、非投資適格のAIインフラ債務残高は2026年6月末で1,250億ドルと集計されています。

Q. AI企業同士の循環取引で売上が水増しされているのは事実ですか。

A. 一部は契約として確認できますが、全体が循環取引で成り立っているという説明は成立しません。NVIDIAはCoreWeaveの余剰容量を買い取る63億ドルのバックストップ契約を結び、AMDはOpenAIに1株0.01ドルで1億6,000万株のワラントを付与しています。一方でMicrosoftの商業RPO 6,780億ドルはOpenAI分を除いても前年比25%増で、需要の相当部分は第三者から来ています。

Q. AIバブルが崩壊したら、導入を進めた企業や自治体は損をしますか。

A. 利用者としては、むしろ有利になる可能性が高いといえます。金融面の調整が起きても、モデルの性能向上と価格低下は止まらず、供給過剰の局面ではクラウド事業者が値引きに動きます。注意すべきは長期の固定価格契約と、特定ベンダーに深く依存した業務設計です。契約を1年程度に保ち、モデルを差し替えられる形で導入していれば、影響は限定的です。

Q. 中小企業の生成AI活用はどのくらい進んでいますか。

A. 帝国データバンクが2026年5月14日に公表した調査では、生成AIを活用している企業は全体で34.5%、大企業46.5%に対し中小企業32.4%、小規模企業28.0%でした。未活用の理由の1位は2026年版中小企業白書によれば「活用する業務がイメージできていない」で63.4%であり、予算確保が困難という回答は13.8%にとどまります。障害は費用ではなく用途の設計にあります。

Q. 自治体の生成AI導入はどこまで進んでいますか。

A. 総務省が2026年4月24日に公表した令和7年度調査(基準日2025年10月31日)では、都道府県と指定都市が100%である一方、その他の市区町村は46%前後でした。前年度の29.9%からは16ポイント程度上昇しています。日本総研の分析では町村のAI導入率は10.9%と低く、規模による差が最も大きい領域です。単独調達ではなく広域での共同調達が現実的な打開策になります。

Q. ガバメントクラウドに移行すると運用経費は下がるのですか。

A. 現時点では増えています。総務省の推計では全体の運用経費が移行前の約1,400億円から移行後は約2,500億円へ、およそ1.8倍になる見込みです。デジタル庁が公表した中核市市長会の調査では、59市の平均で2.3倍、最大で5.7倍でした。一方でデジタル行財政改革会議の資料では、見積精査支援によりクラウド利用料で平均約30%の削減効果が確認されています。

まとめ

AIの単価は確かに下がっています。実勢指数で3か月に約43%、同一性能あたりでは年5倍から10倍という推計が出ています。同時に供給側では、2026年に5,700億ドル規模の債務が発行され、Oracleは投機的等級の一歩手前まで格下げされました。安さと危うさは、価格を下げながら設備を増やし続けるという同じ選択から生じています。

ただし危機の所在は正確に見る必要があります。ジャンク化しているのはハイパースケーラーではなく、その周辺で借入に依存するネオクラウドです。クラウド事業の売上は加速しており、MicrosoftのRPOはOpenAI分を除いても25%伸びています。バブルの一語で片づけると、実際に起きている需要の変化を見落とします。

日本の企業と自治体にとっての論点は、供給側の資金繰りではありません。単価が下がっても円安と電力コストと移行費用によって手元の支払額は下がらないこと、そして導入率の差が価格ではなく用途設計と人材で決まっていることです。優先すべきは、モデルを差し替えられる形で入れること、契約を短く保つこと、置き換えられる工程を自ら書き出すこと、自治体であれば移行後の運用経費を再計算することです。市場は制御できませんが、これらは自分たちの判断だけで着手できます。