人口減少が著しい地域で、会社の人材確保はどうするべきか 採用の前提が崩れた時代の優先順位

編集部投稿者:
「来年は何人採れるだろうか」ではなく、「来年は採れるのだろうか」へ。地方の経営者の問いは、この10年で質が変わりました。毎年生まれる子どもの数が減り続け、地元の高校が統廃合の話に上がり、新卒のあてにしていた専門学校が募集を止める。今まで通りに求人を出していれば人が来た時代は、静かに、しかし確実に終わりつつあります。 本稿は、この変化を「景気の波」ではなく「構造の変化」として捉え直すための記事です。対象は、人口減少が著しい地域で事業を続ける企業経営者と、その地域を支える自治体の方々です。危機感を煽ることが目的ではありません。限られた経営資源を、どの打ち手に、どの順番で振り向けるべきか。その優先順位を判断するための材料を、最新の統計と公開されている成功事例から整理します。 結論を先に述べます。人材確保の打ち手は、採用する地理的範囲を広げる、働き方の制度を変える、AIなどの技術で省人化する、そして既存社員を辞めさせない、という4つの方向に分かれます。このうち多くの企業が最初に着手すべきは「定着」と「採用範囲の再定義」であり、「技術による代替」は当面の主役にはなりません。その理由を、順を追って説明します。 本題に入る前に、一つだけ立ち止まってほしい問いがあります。「もし来年、新卒も中途も1人も採れなかったら、自社の事業は回るだろうか」。この問いに「回らない」と即答するなら、人材確保はすでに事業継続のリスクそのものです。残念ながら、人口減少が著しい地域では、この問いが机上の空論ではなくなりつつあります。採用を「人事の仕事」から「経営の最重要課題」へと格上げすることが、すべての出発点になります。
Contents
  1. 1. 前提が崩れた——「毎年採れる」という常識は、もう成り立たない
  2. 2. 打ち手の全体像——人材確保は「4つの方向」に分解できる
  3. 3. 採る範囲を広げる——営業所の分散と「採用のための拠点」
  4. 4. 働き方の制度を変える——リモートと組織体制の再設計
  5. 5. 技術で省人化する——フィジカルAIは「いつ」間に合うのか
  6. 6. 採った人を辞めさせない——母数が縮む地域ほど「定着」が効く
  7. 7. 成功事例に学ぶ——人口減少地域で人を集めた3つのケース
  8. 8. 自治体に求められる役割——企業の努力だけでは限界がある
  9. 9. 明日から実践できること——優先度順チェックリスト
  10. 10. 結論——優先順位は「守りを固め、範囲を再定義する」
  11. よくある質問
  12. よくある質問

1. 前提が崩れた——「毎年採れる」という常識は、もう成り立たない

出生数67万人時代が意味すること

まず、足元の数字を確認します。厚生労働省が2026年6月に公表した2025年の人口動態統計(概数)によると、日本で生まれた日本人の子どもの数は67万1,236人でした。10年連続で過去最少を更新し、国立社会保障・人口問題研究所の中位推計がこの水準(67万人台)を見込んでいたのは2040年であり、想定より15年早いペースで少子化が進んでいます。2015年の出生数は約100万人でしたから、わずか10年で約33万人分、毎年の「新しい世代」が縮んだことになります。 この数字が採用に直結する理由は単純です。今年生まれた子どもが18年後に労働市場へ出てくるとき、その母数は今より確実に小さい。つまり将来の若手人材の総量は、すでに「決まってしまっている」のです。景気が回復しても、賃上げをしても、これから生まれる人数が増えるわけではありません。採用市場の縮小は、予測ではなく既定路線です。 もう一つ、重く受け止めるべき数字があります。2025年の死亡数(概数)は約158万9,000人で、出生数との差し引きで約91万8,000人の自然減が生じました。毎年、人口90万人規模の都市が一つ消えていく計算です。この自然減は19年連続で続いており、しかも年々その幅が広がっています。日本全体が、誰も経験したことのない速度で縮んでいるのが現状です。 総人口の動きも同様です。2025年12月1日時点の確定値で、日本の総人口は1億2,316万5千人。前年同月から約57万9千人減りました。注目すべきは内訳で、15歳未満人口が前年比2.64%減、15〜64歳の生産年齢人口も減少が続いています。働き手の層そのものが、毎年都市ひとつ分のスピードで消えている計算です。

地方は「二重の縮小」にさらされている

全国の母数が減るだけなら、まだ話は単純です。地方企業が直面しているのは、これに「都市部への流出」が重なる二重の縮小です。大卒者の多くが都市部に定着し、東京圏への一極集中が続いています。特に20代前半の若手が地方を離れ、一度出たら戻らないケースが大半を占めるという指摘があります。 有効求人倍率を見ると、地方のほうが高いという逆説的な状況が起きています。厚生労働省の統計では、地方では求人倍率が都市部を上回る傾向が続いています。求人倍率が高いとは、求職者1人あたりの求人数が多い、つまり企業側がより激しく人を奪い合っている状態を意味します。地方ほど採りにくい、という現実が数字に表れています。 さらに将来的には、都市部の企業も人手不足から地方採用に乗り出してきます。全国で労働力人口が減り続ければ、これまで地方の人材に関心のなかった大企業が、リモート前提で地方の優秀層を採りに来る。もともと人数の少ない地方企業にとっては、競争相手が増えることを意味します。地方の採用難は、今が底ではなく、これから深まっていく構造にあります。 裏を返せば、この構図は地方企業にとってのチャンスでもあります。都市部の企業が地方の人材をリモートで採れるなら、地方の企業も都市部の人材を同じ方法で採れるはずです。地理が採用の制約でなくなった時代は、地方にとって不利なだけでなく、使い方次第で有利にも働きます。受け身でいれば人材を奪われ、攻めに転じれば全国から採れる。その分岐点に、いま地方企業は立っています。

学校が消えると、地域の採用パイプラインが断たれる

人口減少が採用に与える影響は、求職者の数だけではありません。地域から学校が消えることの打撃は、しばしば見過ごされます。高校や専門学校は、地元企業にとって新卒採用の最大のパイプラインです。学校の進路指導を通じた採用は、求人広告よりはるかに低コストで、定着率も高い傾向があります。 その学校が統廃合されると、若者は進学とともに地域外へ出て、卒業後もその地で就職します。地元に学校がないということは、18歳の人材が地域に「滞留する理由」がなくなるということです。採用の蛇口そのものが、地域から物理的に消えていく。これは求人努力では取り戻せない、構造的な損失です。 だからこそ、地域の教育機関の維持は、自治体だけの問題ではなく、地元企業の採用戦略そのものに直結します。企業が高校と連携して実習やインターンを設計する、奨学金返還支援で地元就職を促す、といった取り組みは、CSRではなく自社の人材パイプラインへの投資として位置づけ直すべきものです。

「いつか戻る」は、もう機能しない

かつて地方には、Uターンという安全弁がありました。進学や就職で一度都市部へ出ても、結婚や親の介護を機に地元へ戻る人が一定数いて、それが地域の人材を補ってきました。しかしこの前提も揺らいでいます。都市部で家庭を築き、子どもの教育環境を整えた人にとって、地方へ戻る決断のハードルは年々高くなっています。 加えて、戻ってくる先の選択肢が乏しいという問題があります。地元に魅力的な雇用がなければ、戻りたくても戻れません。つまり地域の雇用の質そのものが、Uターンの量を左右します。「いつか若者が戻ってくる」という期待に頼るのではなく、戻りたくなる仕事をいかに用意するかという、能動的な問いへ転換する必要があります。 もう一つ見落とせないのが、外国人材の増加です。総務省の人口推計によると2025年12月1日時点で外国人人口は392万5千人(前年比9.35%増)に達しており、日本人人口の減少を一部相殺しています。地方の現場でも外国人材なしには回らない業種が増えており、彼らを「一時的な労働力」ではなく「定着する地域の担い手」として迎える体制づくりが、人材確保の現実的な論点になりつつあります。

2. 打ち手の全体像——人材確保は「4つの方向」に分解できる

採用が難しいという課題に対して、打てる手は無数にあるように見えます。しかし整理すると、本質的には4つの方向に集約されます。この4分類を持っておくと、自社が今どこに手を打っていて、どこが手薄かが一目で見えるようになります。
  • 採る範囲を広げる:通勤圏に人がいないなら、対象エリアそのものを拡大する。営業所・サテライト拠点の新設、近隣都市での採用活動の展開。
  • 働き方の制度を変える:リモート可、フレックス、副業・兼業の受け入れなど、組織体制を変えることで「その地に住んでいない人」も戦力にする。
  • 人に頼らず省人化する:自動化・ロボット・AIの導入で、そもそも必要な人数を減らす。フィジカルAIへの期待もここに含まれる。
  • 採った人を辞めさせない:定着率を上げることで、採用の必要数そのものを減らす。母数が縮む地域では、1人の離職を防ぐ価値が高まる。
多くの企業は1番目の「範囲を広げる」に偏りがちです。求人媒体を増やし、出稿エリアを広げ、採用予算を積み増す。しかし母数が縮む時代には、出稿を増やしても応募が比例して増えるとは限りません。むしろ費用対効果が悪化していきます。4つの方向をバランスよく見渡し、自社にとって投資効率の高い順に着手することが重要です。 以下、3章から6章にかけて、この4つの方向を一つずつ掘り下げます。それぞれに「どんな企業に向くか」「何が落とし穴か」を添えることで、自社の状況に当てはめて読めるように構成しています。

自社はどの方向から手をつけるべきか

4つの方向のうち、どれを優先すべきかは業種によって変わります。判断の軸はシンプルで、自社の主要業務が「場所に縛られるかどうか」です。事務・開発・設計・マーケティングなど場所に依存しない職種が中心なら、働き方の制度変更が最も効きます。リモート前提に組織を変えれば、採用市場が一気に全国へ広がるからです。 一方、製造・介護・建設・宿泊・飲食など現場に縛られる職種が中心なら、リモートという切り札が使えません。この場合は、定着の強化と、地域内の眠った労働力(シニア、育児・介護中の人、外国人材)の掘り起こしが主戦場になります。あわせて採用範囲を近隣都市へ広げる拠点投資が選択肢に入ります。自社がどちらのタイプかを見極めることが、打ち手選択の出発点です。 そして、どのタイプの企業にも共通して効くのが「定着」です。場所に縛られる企業も縛られない企業も、採った人材が辞めれば振り出しに戻ります。だからこそ本稿は、定着を最優先の打ち手として位置づけます。攻めの方向(範囲拡大・制度変更・省人化)は業種で使い分け、守りの定着は全社で固める。これが基本の構えです。

3. 採る範囲を広げる——営業所の分散と「採用のための拠点」

通勤圏の人口が、採用の上限を決めている

採用がうまくいかないとき、多くの経営者は「自社の魅力が足りないのか」と内省します。もちろんそれも一因ですが、その前に確認すべき数字があります。自社の通勤圏(おおむね片道40分から1時間)に、採用したい年齢層が何人住んでいるかです。母集団そのものが小さければ、どれだけ採用活動を磨いても、採れる人数には物理的な上限があります。 この上限を上げる最も直接的な方法が、採用対象エリアの拡大です。具体的には、近隣の人口規模の大きい都市に営業所やサテライト拠点を設け、そこを採用の窓口にします。本社のある過疎地に通ってもらうのではなく、人がいる場所に拠点を持っていく発想です。製造業や物流など、現場が本社にある業種でも、間接部門や営業機能だけを都市部の拠点に分散させれば、採用できる職種が広がります。 拠点分散にはコストがかかりますが、固定費の増加と引き換えに採用母数を構造的に増やせるなら、長期では割に合うケースが少なくありません。重要なのは、新拠点を「営業のため」だけでなく「採用のため」の投資としても評価することです。1拠点あたり年間何人を採用できるかを試算し、求人広告費の累積と比較すると、判断材料が見えてきます。

本社移転という選択肢

より踏み込んだ選択肢が、本社機能の一部または全部の移転です。日本政策金融公庫総合研究所のレポートでは、首都圏から地方へ移転して事業を拡大した中小企業の事例が分析されています。移転は固定費の削減や新たな収益機会の獲得につながる一方、人材確保の観点でも、移転先の労働市場にアクセスできるという効果があります。 逆方向、つまり過疎地の企業が機能の一部を人口集積地へ移すケースも同様の論理で語れます。本社という「箱」を、税制や愛着で決めるのではなく、人材を採れる場所に置くという経営判断の対象として捉え直す。移転は数年がかりの大きな決断ですが、採用の前提が崩れた地域では、検討に値する選択肢です。

落とし穴——拠点を増やしても「魅力」がなければ採れない

エリア拡大には注意点があります。人がいる場所に拠点を置いても、その場所には競合も多い。都市部に営業所を出せば、地元の過疎地では存在しなかった大手企業との人材獲得競争にさらされます。範囲を広げることは、採用母数を増やすと同時に、競争相手も増やす行為だという点を忘れてはいけません。 もう一つの落とし穴は、拠点間の一体感の喪失です。本社と離れた場所に採用拠点を設けると、そこで採った人材が「自分は本体から切り離されている」と感じやすくなります。離れた拠点の社員が孤立し、本社の文化や意思決定から取り残されれば、せっかく採用した人材も定着しません。拠点を増やすなら、距離を越えて一体感を保つ仕組みを同時に用意する必要があります。 したがって、エリア拡大は単独の打ち手としてではなく、次章以降の「働き方」「定着」とセットで設計する必要があります。拠点を増やしただけで安心せず、その拠点で何を訴求して人を惹きつけるのかまで描いて、はじめて投資が回収されます。

「採用半径」を地図に描いてみる

エリア拡大を検討する際に有効なのが、自社を中心とした「採用半径」を実際に地図上に描く作業です。本社から通勤可能な範囲に円を描き、その中に含まれる自治体の人口、特に採用したい年齢層の人数を国勢調査データで足し合わせます。多くの場合、この数字を初めて直視した経営者は、想像以上に母数が小さいことに驚きます。 この母数が、採用活動の理論上の上限です。たとえば通勤圏内の20代人口が3,000人で、そのうち転職市場に出てくるのが数%だとすれば、年間に動く人材は数十人。その数十人を、地域の全企業で奪い合っているのが実態です。この前提を可視化すると、「もっと広告を出せば採れる」という発想がいかに非現実的かが分かります。 採用半径を広げる判断は、この地図上で行います。隣の人口集積地まで半径を延ばせば母数が何倍になるか、その地に拠点を置くコストはいくらか。感覚ではなく数字で意思決定することで、拠点投資の妥当性を冷静に評価できます。採用を「気合いと工夫」の問題から「母数と確率」の問題へと捉え直すことが、構造的な打ち手の第一歩です。

4. 働き方の制度を変える——リモートと組織体制の再設計

「その地に住んでいない人」を戦力にする

採用範囲の拡大が「人がいる場所に行く」打ち手なら、リモートワークの導入は「人がいる場所に行かずに採る」打ち手です。事務、開発、設計、マーケティング、経理といった、物理的な現場に縛られない職種であれば、居住地を問わずに全国を採用対象にできます。過疎地に本社があっても、東京や大阪に住む人材を雇える時代になりました。 これは制度変更というより、組織体制そのものの再設計です。リモート前提の組織は、評価制度、情報共有の仕組み、意思決定の方法までを作り変える必要があります。「出社が当たり前」を前提に作られた会社の運営ルールを、「離れていても回る」前提に組み替える。手間はかかりますが、一度組み替えれば、採用市場は地域から全国へと一気に広がります。 リモートワークの普及は、地方移住の現実味も高めています。都市部の人材が、生活の質を求めて地方への移住を選ぶ動きが続いています。企業が柔軟な働き方を整備すれば、従業員が地方での勤務を選べるようになり、結果として地方の労働市場に人が流れ込む。働き方の制度は、採用だけでなく、地域への人の還流にもつながる施策です。

現場職をどうするか——リモートで解決しない領域

ただし、リモートはすべてを解決しません。製造、建設、介護、運輸、宿泊、飲食といった、現場を離れられない職種では、在宅勤務という選択肢そのものが成り立ちません。地方企業の多くがこうした現場職を抱えており、ここがリモート論の限界です。現場職の人材確保には、別のアプローチが必要になります。 現場職で有効なのは、勤務の柔軟化です。リモートはできなくても、シフトの自由度を上げる、短時間勤務を認める、週休3日を選べるようにするといった工夫で、これまで働けなかった層を取り込めます。育児中の人、介護を抱える人、定年後のシニア。フルタイムでは無理でも、条件が合えば働ける人は地域に確実に存在します。働き方の選択肢を増やすことが、眠っている労働力を掘り起こします。 とりわけシニア層は、地方の現場における大きな可能性です。健康で意欲のある60代、70代は地域に数多くいて、その経験と勤勉さは現場の即戦力になります。フルタイムは難しくても、週に数日、1日数時間なら働きたいという人は少なくありません。彼らが働ける勤務形態を用意するだけで、これまで採用対象に入っていなかった層が一気に視野に入ります。高齢化を労働力不足の原因と捉えるか、未活用の労働力源と捉えるかで、打ち手は大きく変わります。 業務の切り分けも有効です。一人の正社員が担っていた仕事を分解し、専門性の要る部分と単純作業の部分に分ける。単純作業の部分を短時間勤務のパートに任せれば、貴重な正社員はより付加価値の高い業務に集中できます。「フルタイムの正社員1人」という採用単位に固執せず、業務を細かく分けて多様な働き手に振り分ける発想が、人手不足の現場を回す現実的な解になります。

外部人材という第3の選択肢

正社員の採用だけが人材確保ではありません。副業・兼業人材の活用は、地方企業にとって現実的な選択肢になっています。都市部に住むプロフェッショナルが、週に数時間だけ地方企業の経営や開発を支援する。フルタイムでは採れない高度人材を、必要な時間だけ確保する発想です。経営企画、DX推進、採用設計といった、社内に専門人材がいない領域で特に有効です。 制度面では、特定地域づくり事業協同組合の仕組みも注目されています。複数の事業者が共同で人を雇い、季節や繁閑に応じて地域内で働き手をシェアする制度です。単独では通年雇用が難しい小規模事業者でも、組合を通じれば安定雇用を提供できます。外国人材の受け入れも含め、「自社単独で正社員を採る」以外の選択肢を持っておくことが、母数が縮む地域では効いてきます。

リモート導入でつまずく企業の共通点

リモートワークを「採用のため」に導入したものの、定着せずに元の出社体制へ戻してしまう企業は少なくありません。つまずきの共通点は、制度だけ導入して運用を変えなかったことにあります。在宅勤務を認めても、重要な意思決定が出社者だけの立ち話で進む、評価が「見えている時間」で行われる、といった運用が残れば、リモート勤務者は二級市民になり、やがて辞めていきます。 これを避けるには、情報共有と評価の仕組みを「離れていることを前提」に作り変える必要があります。会議や決定の経緯を文書に残し、誰がどこにいても同じ情報にアクセスできるようにする。評価は労働時間ではなく成果と貢献で行う。こうした運用の組み替えは地味ですが、リモートを採用力に変えられるかどうかの分かれ目になります。制度の導入は入口にすぎません。 逆に言えば、この組み替えをやり切った企業は、全国の人材を採用できるという大きな競争優位を手にします。地方にいながら、都市部の大企業と同じ土俵で人材を獲得できる。立地のハンディを、組織運営の力で打ち消すのです。働き方の制度変更は、短期的には手間でも、長期的には地方企業が都市部と互角に戦うための数少ない武器になります。

5. 技術で省人化する——フィジカルAIは「いつ」間に合うのか

2026年は「フィジカルAI元年」と呼ばれているが

人手不足の議論になると、必ず「いずれAIやロボットが解決する」という声が上がります。とりわけ近年は、人間のように動くヒューマノイドロボット、いわゆるフィジカルAIへの期待が高まっています。労働力不足と生産性向上の限界に直面する社会で、ヒューマノイドが産業構造を変える基盤技術になる、という見方が広がっています。 実際、2026年は「フィジカルAI元年」と呼ばれ、ヒューマノイドロボットが研究室を出て、工場・倉庫・小売・建設などの現場で働き始める年とされています。試作機が次々に登場し、一部では量産・出荷が始まり、現実の工場や倉庫で稼働実績を持つメーカーも出てきました。技術が「実演」から「現場で回るか」のフェーズへ移りつつあるのは事実です。

しかし、現場で「採算が合う」までには時間がかかる

期待が高まる一方で、課題は明確に残っています。第一にコストです。ヒューマノイドロボットはハードウェアの価格が下がりつつあるとはいえ、現状では自動車より高価で、量産効果が出るまで経済性の壁が残ります。中小企業が1台数百万円から数千万円のロボットを導入して採算が合うかといえば、現時点では多くの現場で「合わない」というのが現実です。 第二に安全性です。人間と同じ空間でロボットが動くため、接触事故の防止が最重要課題になります。第三に法制度で、作業中の責任範囲や、人間からロボットへの労働代替に関する法規制の整備が追いついていません。さらに、雇用への影響に対する不安もあり、社会受容性の確保が普及の鍵だと指摘されています。技術だけでなく、コスト・安全・法律・社会の4つの壁を越える必要があるのです。 つまり、フィジカルAIは「いずれ来る」けれども「今すぐ自社の人手不足を埋める」ものではありません。大規模な物流倉庫や自動車工場など、投資回収が見込める一部の現場から導入が進み、中小企業の多様な現場に広く行き渡るのは、さらに先の話になります。来年の採用計画の代替策として当て込むのは、リスクが高すぎます。

「待つ技術」ではなく「今使える技術」に投資する

では技術への投資は無意味かといえば、逆です。ヒューマノイドのような未来の技術を「待つ」のではなく、今すでに使える省人化技術に投資することが現実解です。受発注や経理のソフトウェア化、RPAによる定型業務の自動化、生成AIによる文書作成や問い合わせ対応の効率化。これらは投資額が小さく、数か月で効果が出ます。 具体的に何から手をつければよいか迷う経営者も多いでしょう。判断基準は「繰り返しの多い、頭を使わない作業」を探すことです。毎日同じ形式で行う集計、転記、定型メールの作成、問い合わせへの定型回答。こうした業務は、今ある技術で大半を自動化できます。重要なのは、最も時間を奪っている定型業務から優先的に手をつけることです。効果の大きいところから削れば、投資の回収も早まります。 注意したいのは、デジタル化を「ツールの導入」で終わらせないことです。ソフトウェアを買っても、業務の進め方を変えなければ効果は出ません。むしろ、既存の非効率な業務をそのままデジタルに置き換えるだけだと、かえって複雑になることもあります。まず業務そのものを見直し、無駄な工程をなくしたうえで、残った定型作業を自動化する。この順番を守ることが、省人化を成功させる鍵です。 1人分の業務を技術で減らせれば、それは1人を採用したのと同じ効果を持ちます。母数が縮む地域では、「採れないなら、採らなくても回る仕組みを作る」発想が重要です。フィジカルAIに期待を寄せる前に、足元のデジタル化で削れる工数がどれだけあるかを点検する。これが、技術による人材確保の最も確実な第一歩です。

「導入が進む現場」と「進まない現場」の線引き

フィジカルAIがどこから普及するかには、明確な論理があります。導入が早いのは、作業が定型的で、繰り返しが多く、環境が整っている現場です。大規模物流倉庫でのピッキングや、自動車工場での部品搬送は、動作が予測可能で、投資規模に見合う台数を稼働させられます。こうした現場では、人件費の上昇とロボット価格の低下が、いずれ採算ラインで交差します。 一方、導入が遅れるのは、作業が非定型で、環境が雑多な現場です。中小の飲食店の厨房、介護施設の対人ケア、建設現場の臨機応変な作業。これらは人間の柔軟な判断と細かな手先の動きを要求し、現在のロボット技術が最も苦手とする領域です。皮肉なことに、人手不足が深刻な地方の現場ほど、ロボットによる代替が難しい性質を持っています。 この線引きを理解すると、自社の現場がフィジカルAIの恩恵をいつ受けられるかを冷静に見積もれます。定型作業の比率が高い現場なら、数年後を見据えて情報収集を始める価値があります。対人・非定型の比率が高い現場なら、ロボットを待つより、働き方の柔軟化と定着で人を確保する方が、はるかに現実的です。技術への期待は、自社の現場特性に照らして調整する必要があります。

6. 採った人を辞めさせない——母数が縮む地域ほど「定着」が効く

1人の離職は、1人の採用より重い

4つの方向の中で、最も見落とされがちなのが定着です。採用に注力する企業は多いものの、「辞めさせない」ことへの投資は後回しになりがちです。しかし、採用母数が縮む地域では、定着の経済価値は採用よりも高くなります。理由は単純で、新たに1人採るより、今いる1人に残ってもらうほうが、はるかに低コストで確実だからです。 離職が1人出れば、採用コスト、教育コスト、そして戦力が一人前になるまでの時間が、すべて失われます。母数の小さい地域では、その穴を埋める次の1人を採れる保証もありません。採用の蛇口が細る時代において、定着とは「すでに獲得した人材という希少資源を、流出させない」守りの戦略です。攻めの採用と同じだけ、経営資源を割く価値があります。 この点は、数字で考えるとより鮮明になります。採用市場の母数が縮むということは、一度失った人材を補充できる確率も下がるということです。都市部であれば、誰かが辞めても求人を出せば代わりが見つかります。しかし母数の小さい地域では、その「代わり」が市場に存在しないかもしれません。地方の中小企業にとって、離職は都市部以上に取り返しのつかない損失なのです。

地方企業の定着を左右する3つの要素

定着率を上げる打ち手は、大きく3つに整理できます。第一に、業務の見直しです。属人化した仕事を標準化し、過重な負担を平準化することで、特定の社員に依存した「辞められたら終わる」状態から脱します。第二に、誰もが活躍できる環境整備です。育児・介護との両立支援、シニアや障害のある人が働ける配慮。多様な人が長く働ける職場は、結果的に離職率が下がります。 第三に、キャリアと処遇の見通しです。地方の中小企業では、昇進・昇給の道筋が見えにくいことが離職の一因になります。小さな組織でも、数年後にどうなれるかを示すこと、そして都市部との賃金格差を、生活コストの低さや働きやすさで補って見せること。給与の絶対額だけでなく、可処分所得と生活の質を含めた「実質的な豊かさ」を訴求できるかが、定着の分かれ目になります。 この「実質的な豊かさ」の訴求は、もっと具体的に数字で示せます。たとえば、都市部で年収500万円の人が家賃や通勤に費やす金額と、地方で年収430万円でも住居費が抑えられ通勤時間が短い場合の手元に残る金額を比較する。額面では負けていても、可処分所得と自由時間では上回るケースは珍しくありません。この比較を求人段階で具体的に提示できれば、額面だけで都市部に流れる人材を引き止められます。 処遇の透明性も重要です。「頑張れば報われる」という曖昧な期待ではなく、どの役割でいくら、何年でどう上がるのかを明文化する。地方の中小企業は、給与テーブルや評価基準が経営者の頭の中にしかないことが多く、これが社員の不安と離職を生みます。仕組みを言語化し、誰が見ても納得できる形にすることは、コストをかけずに定着率を上げる打ち手です。 厚生労働省は、地域で活躍する中小企業の採用と定着について、全国20社の成功事例を取りまとめた事例集を公開しています。北海道から沖縄まで、離島や過疎地域も含む多業種の事例が、「事業戦略の転換」「業務の見直し」「環境整備」「採用活動の工夫」という4つの切り口で整理されています。自社に近い業種・地域の事例を探す出発点として、有用な資料です。

離職は「最初の半年」で決まる

定着策を考えるうえで、押さえておきたい時間軸があります。早期離職の多くは、入社後の最初の半年から1年に集中します。せっかく苦労して採った人材が、職場になじめないまま短期間で去っていく。母数の少ない地域では、この早期離職が採用計画を根底から崩します。だからこそ、入社後の受け入れ(オンボーディング)への投資は、採用広告以上に費用対効果が高い場合があります。 具体的には、入社初期に相談相手となる先輩を明確に決める、最初の数か月の業務と期待値を文書で共有する、定期的に上司と1対1で話す機会を設ける、といった仕組みです。いずれも大きな費用はかかりません。新しく入った人が「ここでやっていけそうだ」と感じられるかどうかは、制度よりも日々の小さな関わりの積み重ねで決まります。 地方の中小企業では、人手が足りないがゆえに、新人を即戦力として現場に放り込み、丁寧な受け入れを省略しがちです。しかしその省略が早期離職を生み、結果として採用のやり直しという最も高コストな事態を招きます。忙しいときほど、最初の受け入れに時間を割く。この逆説的な投資が、定着率を大きく左右します。

7. 成功事例に学ぶ——人口減少地域で人を集めた3つのケース

ここまで論じてきた打ち手が、現実にどう機能したのか。公開情報のある具体的な事例を3つ取り上げます。いずれも、人口減少が著しい地域でありながら人材を集めることに成功したケースです。共通点を読み取ることで、自社に応用できる原則が見えてきます。

事例1:Sansan——過疎の町に開発拠点を置いた先駆者

名刺管理サービスで知られるSansanは、2010年、徳島県神山町に「神山ラボ」としてサテライトオフィスを開設しました。神山町は人口5,000人ほどの山間部で、高齢化率は約50%に達する典型的な過疎地域です。そこへ東京の本社を持つIT企業が拠点を構えたことが、後に「地方創生の聖地」と呼ばれる動きの第一歩になりました。 背景には、2005年に町内全域へ光ファイバーが敷設され、全国屈指のITインフラが整っていたことがあります。場所を選ばない働き方ができるIT企業にとって、自然環境の良さと通信環境の良さは、過疎地のハンディを打ち消す「価値」になりました。Sansanの進出を皮切りに、神山町には16社のサテライトオフィスが集積し、町は移住希望者が殺到する地域へと変わりました。 この事例の示唆は、過疎地の弱みを特定の業種にとっての強みに転換した点にあります。人が少なく自然が豊かであることは、現場型産業には不利でも、リモート可能な知識産業には魅力になり得ます。自社の事業特性にとって、立地の何が弱みで何が強みになるかを見極めることが出発点だと、この事例は教えてくれます。

事例2:プラットイーズ——本社機能を過疎地に分散させた決断

2つ目は、放送局向けに番組情報を編集・配信するプラットイーズです。同社は災害などの非常時に備えて本社機能を分散させる狙いから、東京に加えて神山町に拠点を置きました。2013年、築90年の古民家を改修し、四方に縁側が張り出した特徴的な「えんがわオフィス」を開設します。 この事例が示すのは、本社機能の分散が事業継続(BCP)と人材確保を同時に満たす打ち手になり得るという点です。リスク分散のために地方へ機能を移し、その地で雇用を生み、地域に根を張る。同社は神山町・徳島県内で複数名の雇用を生み出し、視察者が全国から訪れる名物拠点になりました。「守り」の目的で始めた分散が、「攻め」の採用にも転じた好例です。 注目すべきは、古民家を活かしたオフィスの設計です。地域の資源を「コスト」ではなく「魅力」に変えることで、その場所でしか得られない働く体験を生み出しました。立派なオフィスビルを建てるのではなく、地域に既にあるものを編集する。資金の限られた地方企業にとって、参考になる発想です。

事例3:人口5万人未満の地方都市で14期連続増収を続ける飲食企業

3つ目は、IT企業ではなく現場型産業の事例です。人口5万人未満の地方都市にある、売上5億円強の飲食業の中小企業。14期連続で増収を続け、人材採用は事業継続に必須でしたが、人口が少ないためハローワークなどの従来手法では応募者そのものが集まらなくなっていました。リモートが効かない現場職で、いかに人を確保するか、という課題に直面したケースです。 この企業が取り組んだのは、従来の求人媒体に頼らない採用活動の多様化でした。人口の少ない地方都市では、待っているだけでは応募が来ません。自社から働きかける採用、つまり地域内での認知向上、既存社員からの紹介、働く環境そのものの訴求といった、媒体出稿以外のチャネルを組み合わせることで、安定した採用を実現しました。 現場型産業にとっての示唆は明快です。リモートという万能薬が使えない以上、勝負は「いかに地域の中で選ばれる会社になるか」に絞られます。求人広告の巧拙よりも、地域での評判、働きやすさ、紹介したくなる職場であること。母数の限られた地域での採用は、最終的に企業のブランドと定着の問題に行き着くのです。 この事例が教えるもう一つの点は、既存社員からの紹介(リファラル採用)の威力です。働きやすい職場であれば、社員は自分の知人を誘いたくなります。紹介で入った人は、職場の実態を事前に知っているため定着率が高く、採用コストもほとんどかかりません。母数の少ない地域では、この社員ネットワークが求人媒体に勝る採用チャネルになります。リファラル採用が活発な会社とは、定着策がうまくいっている会社の裏返しでもあります。

3事例に共通する原則

業種も規模も異なる3つの事例ですが、共通する原則が3つ抽出できます。第一に、自社単独で人を呼ぼうとしていない点です。神山町の2社は行政の通信インフラ整備や地域コミュニティとセットで成立し、飲食企業は地域内のネットワークを活用しました。採用を「自社の努力」だけで完結させず、地域・行政・住環境と一体で設計しています。 第二に、立地の弱みを特定層への強みに転換している点。第三に、採用と定着・地域貢献を切り離さず、長く働ける仕組みまで含めて考えている点です。これらは特別な資金力がなくても実践できる原則であり、規模の小さい企業ほど参考にできる内容です。

「知られていない」という見えない壁

3事例にもう一つ共通するのは、いずれも「自社を知ってもらう」工夫をしている点です。神山町の2社は視察者が訪れる名物拠点となり、メディアに繰り返し取り上げられました。飲食企業は地域内での認知を高めました。これは偶然ではありません。地方の中小企業が採用で苦戦する最大の理由の一つは、そもそも求職者に存在を知られていないことだからです。 求人媒体に出稿しても、無名の会社の求人は埋もれます。採用活動とは突き詰めれば、「自社の存在と魅力を、採りたい相手に届ける」情報発信の問題でもあるのです。この壁を越える手段は以前より格段に増えました。自社サイトでの情報発信、SNSでの日常の発信、社員インタビューの公開、地域メディアへの露出。いずれも大きな予算は要りません。 とりわけ近年は、求職者が応募前に企業名で検索し、口コミや発信内容を確認するのが当たり前になっています。検索したときに何も出てこない会社は、その時点で候補から外れます。逆に、誠実な情報発信が蓄積されていれば、それが無言の信頼になります。地方の中小企業ほど、地道な情報発信の積み重ねが採用力の差として表れます。

8. 自治体に求められる役割——企業の努力だけでは限界がある

ここまでは主に企業側の打ち手を論じてきましたが、人口減少地域の人材確保は、企業の努力だけでは完結しません。神山町の事例が示す通り、成功の背後には自治体による環境整備がありました。自治体に期待される役割を、3つの観点から整理します。 第一に、インフラと制度の整備です。光ファイバーのような通信基盤、移住者向けの住宅、子育て・教育環境。これらは個社では用意できず、地域の魅力の土台になります。徳島県が県を挙げてサテライトオフィスを誘致した際も、単なる企業誘致ではなく、企業がメリットを得つつ地域も活性化する循環を築くことが意図されていました。 第二に、移住・定住への直接支援です。国の地方創生移住支援金は、要件を満たせば世帯で最大100万円規模、起業を伴えばさらに上乗せされる制度があります。空き家バンクと改修補助の組み合わせ、観光やワーケーションを入口にした移住誘導など、自治体が用意できる仕掛けは多様です。これらを地元企業の採用活動と連動させれば、相乗効果が生まれます。 第三に、企業と求職者をつなぐ機会の設計です。移住前に地元企業との交流会を設定し、「観光で来たけれど、この地で働ける」と気づいてもらう。求人情報を移住検討段階で届けることで、漠然とした移住願望を具体的な就職へと変える。自治体が企業と人材の出会いを設計する役割は、ますます重要になっています。

自治体は「人を呼ぶ」前に「企業を支える」

自治体の移住施策は、しばしば「人をどう呼ぶか」に偏りがちです。しかし、移住者が増えても、その地に働く場がなければ定住にはつながりません。移住の入口だけを整えて出口(雇用)を放置すれば、人は来てもすぐ去ります。したがって自治体は、移住者を呼ぶ施策と、地元企業の雇用力を高める施策を、両輪で考える必要があります。 具体的には、地元企業の採用力そのものを底上げする支援が有効です。中小企業は採用のノウハウや予算が乏しく、求人票の書き方一つで応募が大きく変わることすら知らないケースがあります。自治体や商工会議所が、採用設計の研修、合同企業説明会の運営、採用ツール導入の補助といった形で企業を支えれば、地域全体の雇用力が上がります。これは個社支援であると同時に、地域の人口維持策でもあります。 企業と自治体は、人材確保において対立関係ではなく、同じ課題に立ち向かう協力者です。企業は雇用を生み、自治体は環境を整える。どちらが欠けても、人口減少地域で人材を確保し続けることはできません。本稿で論じた打ち手の多くは、企業と自治体が連携してこそ最大の効果を発揮します。それぞれが自分の役割を果たしつつ、互いの取り組みを噛み合わせる視点が求められます。

9. 明日から実践できること——優先度順チェックリスト

ここまでの論点を、実際に着手できる行動に落とし込みます。すべてを同時にやる必要はありません。投資が小さく効果が出やすいものから順に並べました。自社の状況に照らして、できるところから始めてください。

すぐに着手できること(コスト小・効果早い)

  • 自社の通勤圏に採用したい年齢層が何人いるかを国勢調査データで確認し、採用の理論上限を把握する。
  • 過去3年の離職者を洗い出し、入社何か月で辞めたか、理由は何かを整理する。早期離職が多ければ、まずオンボーディングを見直す。
  • 新人の受け入れ役(メンター)を明示し、最初の数か月の業務と期待値を文書化する。
  • 定型業務のうちソフトウェアやRPA、生成AIで削減できる工数を棚卸しする。1人分削れれば1人採ったのと同じ効果になる。
  • 現場職について、短時間勤務やシフト柔軟化で取り込める層(育児・介護中、シニア)を検討する。

中期で取り組むこと(数か月〜1年)

  • リモート可能な職種を切り分け、全国を対象に採用できる体制(情報共有・評価制度)へ組み替える。
  • 副業・兼業人材の受け入れ窓口を作り、社内にいない専門人材(DX、採用設計など)を時間単位で確保する。
  • 地元の高校・専門学校と連携し、実習やインターンを通じた採用パイプラインを構築する。
  • 自治体の移住支援金・空き家バンク・特定地域づくり事業協同組合など、使える公的制度を洗い出し、採用活動と連動させる。
  • 外国人材を「定着する地域の担い手」として迎える受け入れ体制(生活支援・教育)を整える。

大きな決断を要すること(1年以上)

  • 人口集積地への営業所・サテライト拠点の新設、または本社機能の一部移転を、採用母数と投資額で評価する。
  • 地域資源(古民家、自然環境など)を活かした、その場所でしか得られない働く体験の設計。
  • 定型作業比率の高い現場では、フィジカルAIを含む自動化技術の中長期的な導入を見据えた情報収集を始める。

10. 結論——優先順位は「守りを固め、範囲を再定義する」

長くなりましたが、最後に優先順位を明確にして締めくくります。人口減少が著しい地域の企業が、限られた資源をどの順番で投じるべきか。本稿の分析から導かれる結論はこうです。 最優先は、定着の強化です。採れる人数が構造的に減る以上、今いる人材を守ることが最も確実で低コストな投資になります。次に、採用範囲の再定義。通勤圏の母数を直視し、リモート可能職はエリアを全国に、現場職は柔軟な働き方で地域内の眠った労働力を掘り起こす。技術による省人化は、ヒューマノイドのような「待つ技術」ではなく、今使えるデジタル化から着手します。 そして、これらすべてを自社単独で抱え込まないこと。副業・兼業人材、外国人材、特定地域づくり事業協同組合、そして自治体の支援。使える外部資源を組み合わせることが、母数の縮む時代の前提条件です。フィジカルAIが現場を埋める日は来るでしょうが、それは数年先です。その日まで事業を続けるための打ち手は、すでに手元にあります。 採用の前提は、もう元には戻りません。毎年若者は減り、学校は消えていきます。この現実を嘆くのではなく、「採れない前提で、どう事業を回すか」へと問いを立て直した企業だけが、人口減少地域で生き残ります。本稿が、その問いの立て直しの一助になれば幸いです。 最も多くの企業にとって、第一に着手すべきは定着の強化です。これは業種を問わず効き、投資が小さく、効果が確実です。第二に、自社が「場所に縛られる業種」か「縛られない業種」かを見極め、前者なら地域内の労働力の掘り起こしと採用範囲の拡大を、後者なら働き方の制度変更によるリモート採用を進めます。技術による省人化は今使えるデジタル化から着手し、フィジカルAIは中長期の選択肢として情報収集にとどめます。そして企業同士、企業と自治体が連携し、地域全体で人材を確保・定着させる仕組みを築くことが、これからの時代の本質的な解になります。

よくある質問

Q. 人口減少地域で人材が採れないとき、最初に何を見直すべきですか

A. 見直す順番は、既存社員の定着、採用する地理的範囲、働き方の制度の3点です。求人媒体への出稿を増やす前に、自社の通勤圏に対象年齢の人口が何人残っているかを確認することが出発点になります。母数が小さければ出稿を増やしても応募は比例して増えません。まず今いる人材を辞めさせない守りを固めることが、最も確実で低コストな打ち手です。

Q. フィジカルAI(ヒューマノイドロボット)で人手不足は解決しますか

A. 当面は解決しません。2026年は試作機が工場や倉庫で動き始めた段階で、価格は自動車より高く、安全基準や責任範囲の法整備も追いついていません。大規模物流など投資回収が見込める一部の現場から導入が進む見通しで、中小企業の多様な現場に広く行き渡るのはさらに先です。来年の採用計画の代替として当て込むのはリスクが高く、今使えるデジタル化への投資のほうが確実です。

Q. リモートワークを認めれば地方企業でも人は採れますか

A. 職種を限れば有効です。事務、開発、設計、マーケティングなど場所に依存しない業務は、居住地を問わず全国を採用対象にできます。一方、製造や介護など現場を離れられない職種ではリモート単独では解決しません。現場職では、シフトの柔軟化や短時間勤務で地域内の潜在労働力を掘り起こす打ち手と、定着策の組み合わせが必要になります。

Q. 人口減少地域で採用に成功している企業の具体例はありますか

A. 徳島県神山町にサテライトオフィスを開いたSansan、同じく神山町に本社機能を分散させたプラットイーズ、人口5万人未満の地方都市で採用活動を多様化させた飲食企業などが公開されています。共通点は、自社単独で人を呼ぶのではなく、地域・行政・住環境とセットで採用を設計し、立地の弱みを特定層への強みに転換している点です。

Q. 自治体は人材確保のために何ができますか

A. 通信・住宅・教育などのインフラ整備、移住支援金や空き家バンクなどの直接支援、そして企業と求職者をつなぐ交流機会の設計の3つです。移住検討段階で地元企業の求人情報を届け、観光やワーケーションを入口に就職へつなげる仕掛けは効果的です。企業の採用活動と自治体の支援を連動させることで、相乗効果が生まれます。

よくある質問

人口減少地域での人材確保において、最も優先すべき施策は何ですか?
既存社員の定着対策と採用範囲の再定義が最優先です。新規採用よりもまず、現在の人材を辞めさせない取り組みと、地理的制約にとらわれない採用戦略の見直しから着手すべきです。
AIや技術による省人化は、すぐに導入すべきでしょうか?
技術による代替は当面の主役にはなりません。コストと効果を慎重に検討し、定着対策や採用範囲拡大などの基本的な取り組みを優先してから、段階的に検討することをおすすめします。
地方企業がリモートワークで都市部人材を採用することは現実的ですか?
現実的な選択肢です。都市部企業が地方人材をリモートで採用する流れが加速しており、同じ手法で地方企業も全国から人材を獲得できる時代になっています。
来年新卒も中途も採用できなかった場合、事業継続に影響はありますか?
人口減少が著しい地域では、採用ゼロは机上の空論ではなく現実的なリスクです。この問いに「事業が回らない」と答える企業は、人材確保を経営の最重要課題として位置づけ直す必要があります。
地域の高校や専門学校の統廃合が採用に与える影響はどの程度深刻ですか?
非常に深刻な影響があります。学校は地元企業の採用パイプラインの中核であり、統廃合により18歳人材が地域に滞留する理由がなくなるため、求人努力では取り戻せない構造的な損失が生じます。

地方創生に関するおすすめ記事

消滅可能性自治体に関してはこちらの記事「どうする!?湯河原 消滅可能性自治体脱却会議(特別対談:神奈川県湯河原町 内藤喜文町長)」も併せてお読みいただくことをお勧めします。
📄 無料ダウンロード

「消滅可能性自治体とは?消滅可能性自治体の危機と対策は?」のホワイトペーパー

全国の自治体が直面する課題と具体的な解決策をまとめた実践ガイド

ホワイトペーパーをダウンロードする

地方活性化に関するおすすめ記事

地方活性化のための施策に関しては、こちらの記事を読むことをお勧めします。