人口減少で困っているのは日本だけではない 韓国もイタリアも崖の上にいる

編集部投稿者:

「人口が減って困っているのは、日本だけ」。もし、あなたがそう思っているのだとしたら、それはこれからの経営判断や地域戦略を、大きく誤らせる思い込みかもしれません。実は、出生率の世界最低を記録したのは日本ではなく韓国であり、ヨーロッパで最も子どもが生まれなくなった国のひとつがイタリアです。両国とも、私たちと同じ、いやそれ以上に深刻な人口の崖に立たされています。

そして、ここが本題です。その韓国とイタリアが、いま少しずつではあるものの、これまでにない手応えを掴みつつあります。韓国の出生率は2年連続で上昇に転じ、イタリアの過疎の村には世界中から移住者が押し寄せています。彼らは何をやめ、何に資源を集中させたのか。本記事では、二つの国のリアルな数字と打ち手を解剖し、「自分たちの地域で本当に優先順位を上げるべきこと」を見極めるための材料を提供します。

人口減少という言葉は、あまりに大きく、あまりに長期的で、日々の業務に追われる現場ではつい後回しにされがちです。しかし、海外の先行事例を冷静に読み解けば、これは「いつか誰かが解決する遠い問題」ではなく、「いま、何に予算と人手を割くか」という、極めて具体的で経営的な問題であることがわかります。その視点を持ち帰っていただくことが、本記事の目的です。

Contents
  1. 結論を先に:この記事で一番伝えたいこと
  2. なぜ「韓国」と「イタリア」なのか
  3. まずは数字で現在地を確認する
  4. 韓国の事例:世界最悪から、9年ぶりの反転へ
  5. イタリアの事例:村ごと再生する「1ユーロハウス」の知恵
  6. 二つの事例を並べて見る
  7. 二つの事例から見えてくること
  8. 日本の中小企業・自治体が、明日から優先順位を上げるべきこと
  9. よくある質問(FAQ)
  10. 日本ならではの論点:移民とDXをどう位置づけるか
  11. まとめ:危機感を、優先順位に変える

結論を先に:この記事で一番伝えたいこと

忙しい方のために、最初に要点をお伝えします。韓国とイタリアの事例から導かれる教訓は、突き詰めると次の三点に集約されます。

第一に、出生率を上げる施策と、人口の流出を止める施策は別物であり、混同して同時に薄く打つと、どちらも効きません。第二に、現金給付だけでは出生率は動かず、「働きながら子どもを育てられる職場文化」をつくった企業や地域でこそ数字が動き始めています。第三に、自治体や中小企業が単独でできることには限界があり、企業・行政・地域社会が役割を分担した地域ほど成果を出しています。

この三点を頭の片隅に置きながら、以下の各国の事例を読み進めていただくと、ご自身の地域や会社に置き換えやすくなるはずです。それでは、なぜこの二国なのかというところから始めましょう。

なぜ「韓国」と「イタリア」なのか

人口減少に悩む先進国は数多くあります。そのなかで、あえて韓国とイタリアを取り上げるのには理由があります。両国は、日本が直面している問題を「先取り」あるいは「並走」している、いわば合わせ鏡のような存在だからです。

韓国は、出生率の低さという一点において、日本をはるかに上回る世界最悪の水準を記録してきました。出生率が下がるという「入口」の問題で、日本の数歩先を歩いている国です。日本の未来を予習したいなら、韓国を見るのが最も手っ取り早いとさえ言えます。

一方のイタリアは、ヨーロッパ屈指の超高齢社会であり、地方の過疎化と空き家問題という、日本の地方そのものと言ってよい課題を抱えています。出生率という入口の問題で日本の先を行く韓国と、過疎・高齢化という「出口」の問題で日本と並ぶイタリア。この二国を見ることで、人口減少という巨大なテーマを立体的に捉えることができます。

そして両国に共通するのは、ただ手をこまねいていたわけではなく、試行錯誤の末に一定の成果を出し始めている点です。失敗も含めたそのプロセスにこそ、日本が学ぶべき実務的なヒントが詰まっています。成功事例だけをつまみ食いするのではなく、彼らがどこでつまずき、どこで方向転換したのかまで含めて見ていきましょう。

付け加えるなら、日本はこの二国の課題を「両方」抱えているという点で、より複雑な状況にあります。出生率の低さという韓国型の問題と、地方の過疎・空き家というイタリア型の問題が、同時に進行しているのです。だからこそ、片方の国の処方箋だけを見ても足りません。韓国から出生率対策のヒントを、イタリアから地域再生のヒントを、それぞれ取り出して組み合わせる必要があります。二国を並べて見ることの意味は、まさにここにあります。

まずは数字で現在地を確認する

感情論を排して、まずは事実から押さえましょう。合計特殊出生率とは、一人の女性が生涯に産む子どもの数の平均を示す指標で、人口を維持するにはおよそ2.06から2.07が必要とされています。この水準を、主要国はことごとく下回っています。

韓国の合計特殊出生率は、2023年に過去最低の0.72まで落ち込みました。これはOECD加盟国のなかで最下位であり、世界でも例を見ない低さです。一人の女性が生涯に一人の子どもも産まない、という水準に限りなく近いことを意味します。一時は0.65まで低下するという悲観的な推計まで出され、「韓国消滅」という言葉が報道番組を賑わせたほどでした。

この危機感は、決して大げさなものではありませんでした。一部の専門家からは、このままでは30年後に韓国の自治体の半分が消滅しかねないという見方や、5100万人の総人口が今世紀末には半減する勢いだという警告まで出されていました。日本の「消滅可能性自治体」と同じ議論が、より深刻な形で韓国でも交わされていたのです。出生率という一点において、韓国は日本の未来を映す鏡だと言われるゆえんがここにあります。

イタリアも深刻です。イタリア国家統計局(ISTAT)は2024年の合計特殊出生率が過去最低の1.18だったと発表しました。これも世界最低水準であり、急速な少子高齢化を象徴する数字です。同国で最も出生率が低いサルデーニャ島では、0.85という驚くべき低さを記録しています。イタリアの平均寿命は欧州でもトップクラスで、男性が81.7歳、女性が85.7歳と長寿である一方、生まれてくる子どもは減り続けており、高齢化のスピードに拍車がかかっています。

参考までに、日本の出生率は2024年に過去最低の1.15まで低下し、出生数は統計開始以来初めて70万人を割り込みました。決して高くはありませんが、韓国の0.72やイタリアの1.18と並べると、両国の事態がいかに切迫しているかがわかります。日本が「まだマシ」なのではなく、両国が「すでに崖から落ちかけている」のです。だからこそ、彼らの必死の対策には学ぶ価値があります。

なぜここまで下がったのか:共通する三つの圧力

数字の背景には、両国に共通する構造的な圧力があります。これを理解しておくと、対策の意味がぐっとわかりやすくなります。

一つ目は、住宅費と教育費の重さです。韓国の深刻な少子化の背景には、住宅費や教育費の負担、ソウル・首都圏への一極集中、若年層の就職難といった要因があると指摘されています。子どもを一人育てるのにかかるコストが、若い世帯の手の届く範囲を超えてしまっているのです。

二つ目は、女性が仕事と育児を両立しにくい労働環境です。韓国では長時間労働の文化が根強く、出産後にキャリアが断絶することへの不安が、結婚や出産を遠ざけてきました。イタリアでも、第1子の誕生から15年後の時点で、働く母親の収入は、条件のほぼ等しい子どものいない女性の半分にすぎないという統計があります。出産が、女性のキャリアと収入に大きな打撃を与える構造になっているのです。

三つ目は、家庭内の不平等です。イタリアでは家事分担が依然として非常に不平等で、女性が子どもの世話をすることを当然のように期待される空気が残っていると、社会学者は指摘しています。制度や手当をいくら整えても、家庭内の役割分担が変わらなければ、女性にとって出産の負担は重いままです。この「制度では変えられない文化の壁」こそ、両国が最後に行き着いた最大の難関でした。

出生率の低下は、やがて経済の縮小に直結する

ここで、なぜ経営者や自治体がこの問題を「自分ごと」として捉えるべきなのかを、改めて確認しておきましょう。出生率の低下は、単に子どもが減るという話にとどまりません。やがて働き手が減り、消費者が減り、経済そのものが縮小していくからです。

韓国を例にとれば、その深刻さは数字に表れています。韓国の生産年齢人口(15歳から64歳)は、少子化の進展により2050年には2024年に比べて1,188万人少ない水準まで減少すると推計されており、今後の労働力の減少が経済成長率を引き下げると予測されています。働く人が一千万人以上減るということは、それだけ生産も消費も縮むということです。

これは日本の地域経済にとっても全く同じ構図です。地域の若い世代が減れば、地元企業は人手不足に陥り、商店や病院は客を失い、税収は細ります。人口減少は遠い未来の社会問題ではなく、地域の事業者と行政の足元を直接揺るがす経済問題なのです。だからこそ、危機感を抱いて当然であり、その危機感を具体的な打ち手に変えることが求められています。

韓国の事例:世界最悪から、9年ぶりの反転へ

何が起きたのか

長らく下落の一途をたどってきた韓国の出生率に、転機が訪れました。2024年、出生率が0.75まで回復し、9年ぶりに上昇に転じたのです。さらに2025年には0.80まで回復し、2年連続の上昇を記録しました。世界最低水準であることに変わりはありませんが、下げ止まりどころか反転したという事実は、各国の専門家から注目を集めています。

0.72から0.80へ。数字だけ見ればわずかな変化に思えるかもしれません。しかし、8年連続でひたすら下がり続けてきた指標が反転したという事実は、心理的にも政策的にも大きな意味を持ちます。「もう何をやっても無駄ではないか」という諦めムードが社会を覆っていたなかで、対策が効きうるという希望が見えたからです。

その前にあった、20年の失敗

韓国の反転を正しく理解するには、その手前にある長い失敗の歴史を知る必要があります。実は韓国は、出生率対策のスタートが遅れた国でした。1970年代には保健所で中絶手術を支援するなど、現在では想像もできない人口抑制政策が展開されていたほどです。人口が多すぎることを問題視していたのです。

産児制限政策が廃止されたのは、ようやく1996年のことでした。少子化が社会問題として認識されたのは1998年、本格的な委員会が発足したのは2003年です。日本より問題認識が遅れたうえ、初期の対策も「出産した人へのサービス提供」に偏っていました。しかし、育児休業支援などを拡大しても、男性が育休を取りにくい文化や不十分なセーフティネットが壁となり、育児しにくい文化そのものが改善されない限り出生率は上がらない、という共感が社会に形成されていきました。この「20年かけてようやくたどり着いた気づき」こそ、日本が高い授業料を払わずに学べる最大の教訓です。

反転を支えた三つの要因

では、なぜ韓国の数字は動いたのでしょうか。専門家の分析を整理すると、要因は大きく三つに分けられます。

一つ目は、人口構造の追い風です。1990年代前半生まれの人口ボリューム層の女性が婚姻適齢期に差しかかり、積極的に出産を選んでいることが最大の要因とされています。この世代は人口のボリュームが大きいのが特徴です。実際、30代前半の女性1000人あたりの出生数は73.2人と、20代後半の21.3人を大きく上回っています。出産の中心が30代前半に移り、その層の人口が厚かったことが、数字を押し上げました。ただしこれは政策の成果というより人口の波であり、いずれ一巡します。冷静に見ておくべき点です。

二つ目は、コロナ禍で先送りされていた結婚の反動です。延期されていた結婚に踏み切るカップルが増え、婚姻件数の増加がそのまま出産に結びつきました。これも一過性の側面があります。

そして三つ目こそ、日本が最も学ぶべき要因です。政府による経済的支援とワーク・ライフ・バランス支援の拡大、そして企業や宗教団体までを巻き込んだ子育て支援の広がりが、出生率改善に寄与したと分析されています。一過性ではない、構造的な変化の芽がここにあります。一つ目と二つ目の追い風が吹いているうちに、三つ目の構造改革をどこまで根づかせられるか。それが韓国の今後を左右します。

具体的に何をやったのか

韓国政府が打った施策のなかで、特徴的なものをいくつか紹介します。注目すべきは、現金を配るだけの政策から、「両立しやすさ」をつくる政策へと重心を移している点です。

代表的なのが、両親の育児参加を促す制度です。「6+6両親育児休業制度」は、両親がそろって育児休業を取得した場合の給付を手厚くする仕組みで、父親の育児参加を制度面から後押しするものです。母親だけが育児を背負う構造を、制度の側から崩そうという発想です。

さらに踏み込んでいるのが、職場側への支援です。育児休業を取る社員の穴を埋める代替人材を雇った企業への助成金を増額し、休みを取りやすい職場づくりを支援しています。育休を「取れる制度」にするだけでなく、「取っても職場に迷惑がかからない体制」までセットで支援している点が巧妙です。加えて、結婚や出産を後押しする利用券の支給額を拡大するなど、若い世帯が結婚・出産の入口でつまずかないための経済的支援も組み合わせています。

もちろん、育児手当の拡充や住宅ローンの金利優遇といった、若い世帯の経済的不安を直接やわらげる施策も並行して行われています。結婚や出産の入口を後押しする「初めての出会い利用券」の支給金額を拡大するなど、これから家庭を持つ若者向けの支援も拡充されました。重要なのは、これらの現金的支援が単独ではなく、文化と環境を変える施策とパッケージで打たれている点です。

整理すると、韓国の施策は三つの層から成り立っています。第一層が、結婚や出産の入口を支える経済的支援。第二層が、育休制度や代替人材助成といった、働きながら育てるための制度。第三層が、長時間労働の是正や父親の育児参加促進といった、職場文化そのものへの介入です。下の層だけでは効かず、上の層だけでも続かない。三つの層を同時に厚くしたことが、9年ぶりの反転を支えたと考えられます。日本が施策を組み立てる際にも、この三層構造は有効な設計図になります。

企業が動いたことの意味

韓国の事例で日本の経営者に最も注目していただきたいのが、企業が当事者として動き始めた点です。政府の政策だけでなく、企業や宗教団体による独自の少子化対策の拡大が、出生率改善に効果をもたらしたと指摘されています。少子化を「国がなんとかすべき問題」ではなく、「人材を確保したい自社の問題」として捉え直した企業が、社内の制度を変え始めたのです。

一部の韓国企業は、出産した社員に独自の祝い金を支給したり、社内に保育施設を設けたり、子育て中の社員の働き方を柔軟にしたりと、政府を待たずに動きました。背景にあるのは、労働力が減り続ける社会で、子育て世代に選ばれる会社でなければ人材を確保できないという、シビアな経営判断です。

これは中小企業にとっても他人事ではありません。子育て世代が働き続けられる職場は、採用競争力そのものになります。少子化が進めば進むほど、若い労働力は希少資源になります。その希少資源に選ばれるかどうかが、企業の生死を分けるのです。後段で詳しく触れますが、ここに日本の中小企業が優先順位を上げるべき論点が潜んでいます。

ただし、楽観は禁物

韓国の反転は朗報ですが、専門家は慎重です。出生率上昇の傾向が今後も続くかどうかは、結婚や育児に希望を持てる社会を構築できるか否かに左右されると指摘されています。前述のとおり、上昇の主因である人口構造の追い風や結婚の反動増は、いずれ一巡します。その後に数字を支えられるのは、文化と環境の構造改革だけです。韓国は今、追い風が吹いているうちに足腰を鍛えられるかどうかの正念場にいます。

日本へのヒント:韓国の「順番」をなぞらない

韓国の経験を日本の文脈に置き換えると、一つの明確な教訓が見えてきます。それは、韓国がたどった「順番」を、日本がそのままなぞる必要はないということです。韓国は、出産後のサービス提供から始め、現金的支援を拡充し、それでも数字が下がり続けて、ようやく文化と環境の改革にたどり着きました。この遠回りに20年を費やしたのです。

日本は、その結論から始めることができます。つまり、最初から職場文化と両立環境に重点を置くことで、韓国が払った時間という授業料を節約できる立場にあります。すでに答えの一部が示されているのですから、わざわざ効果の薄い施策を一巡してから本質に気づく、という回り道をする理由はありません。これは、後発であることの数少ない利点と言えるでしょう。

もう一点、韓国の事例で見落とされがちなのが、施策を「パッケージ」で打った点です。育休制度の拡充、代替人材への助成、経済支援、企業の自主的な取り組み。これらがバラバラにではなく、ほぼ同時に重なって効果を生みました。単発の目玉施策に予算を集中させるより、複数の施策を束ねて若い世帯の不安を多面的に減らすほうが効く、ということを示唆しています。

イタリアの事例:村ごと再生する「1ユーロハウス」の知恵

出生率では止められない、だから別の入口から

イタリアの状況は、ある意味で韓国より厄介です。出生率は1.18と過去最低を更新し続けており、少子化対策をもってしても出生数の減少を止められていません。前述のとおり、母親になると仕事を続けにくくなる労働環境や、依然として不平等な家事分担といった構造的な問題が、若い世代の出産を遠ざけています。

イタリアの地方が抱える事情も深刻です。地震などの自然災害、若者の流出、住民の高齢化が重なり、特に南部の自治体で過疎化が深刻になっています。多くは古い歴史を持ち、美しい景観や伝統文化が残る村々ですが、人がいなくなれば、その文化ごと消えてしまいます。

そこでイタリアの地方自治体が知恵を絞ったのが、出生率という難攻不落の入口ではなく、「人を呼び込む」という別の入口からのアプローチでした。生まれる子どもを増やすのが難しいなら、外から人に来てもらう。発想を切り替えたのです。これが、世界的に有名になった「1ユーロハウス」の取り組みです。

「1ユーロハウス」とは何か

1ユーロハウス事業とは、過疎化で空き家となった老朽家屋を、文字どおり1ユーロ(およそ170円)で売り出す過疎対策です。シチリア州サレミで2008年に始まったとされ、イタリア全土の自治体に広がりました。狙いは、人口を増やすことだけではありません。

人口増、地域経済の活性化、そして美しい景観や伝統文化の保全という、一石三鳥を同時に実現することにありました。空き家を放置すれば景観も治安も悪化しますが、安く譲って住んでもらえば、住民も増え、町並みも保たれ、改修需要で経済も回ります。

もちろん、ただ同然で家が手に入る代わりに条件があります。多くの自治体では、購入後3年以内に自費でリノベーションを完了させることを義務づけています。改修が完了すれば返却される2,000ユーロから5,000ユーロほどの保証金を同時に求めるのが一般的です。つまり、本気で住む人だけを呼び込み、改修投資を通じて地域にお金と人手を循環させる設計になっているのです。安さで人を釣るのではなく、安さを入口にして地域への投資を引き出す。よく考えられた仕掛けです。

「保証金なし」で一歩踏み込んだ町も

この仕組みは、各自治体が競うように改良を重ねています。人口約1700人の南イタリアの町ラウレンツァーナは、他の地域では一般的だった保証金を求めないスキームで1ユーロ販売を実施し、より移住のハードルを下げました。リノベーションを3年以内に完了させる条件は維持しつつ、初期負担を軽くすることで、より多くの移住希望者の背中を押そうとしたのです。

こうした自治体間の工夫の競争は、日本の地方創生にも示唆的です。同じ「空き家活用」という枠組みのなかでも、条件設計のわずかな違いが、移住者の集まりやすさを大きく左右します。横並びの制度をそのまま導入するのではなく、自分の地域の事情に合わせて条件を調整する余地が、成否を分けるのです。

狙いは「人数」ではなく「絆」だった

この取り組みの本質は、単なる移住者の頭数集めではありません。その狙いは、失われつつある地域の絆を取り戻すことにあると報じられています。空き家が朽ち、住民が高齢化し、歴史ある町並みが死んでいく。その流れを、外から来た新しい住民の手で食い止めようという発想です。数だけ増えても、地域に溶け込まない移住者ばかりでは、コミュニティは再生しません。

そして、この取り組みは思わぬ波及効果を生みました。移住者の流入によって町が成長を見せ、EUやイタリア政府から数千万ユーロ規模の投資を呼び込み、新しい道路や旧市街の中央広場の改修につながった町もあります。小さな仕掛けが、外部の大きな資金を引き寄せる呼び水になったのです。

ある町長は「ここでは誰もが幸せだ。素敵な人たちが来て、社会に溶け込んでくれている」と語っています。人が増えれば自治体としての存在感が増し、上位の行政府やEUからの支援も得やすくなる。この好循環こそ、1ユーロハウスが目指したものでした。

ただし、万能薬ではない

ここで冷静になる必要があります。1ユーロハウスは魔法ではありません。成功事例がある一方で、自治体は依然として試行錯誤を続けており、決定的な妙手が見つかっているわけではないというのが実情です。話題性で一時的に注目を集めても、その後の定住、仕事、医療、教育といった生活基盤が整わなければ、移住者は根づきません。家が安くても、働く場所がなく、病院も学校も遠ければ、人は長く住めないのです。

さらに重要な点として、イタリア全体で見れば、人口を辛うじて支えているのは海外からの移民の流入であり、イタリア人自体は年間で約19万人減り続けています。1ユーロハウスはあくまで個別の地域を再生させる局地戦の武器であって、国全体の人口減少を反転させる力はありません。実際、イタリアの総人口が大きく崩れずに済んでいるのは、移民による社会増のおかげです。出生による自然減を、外から来る人で補っているのが実態なのです。この「全体と部分の切り分け」は、日本の自治体が施策を設計するうえで極めて重要な視点です。

日本へのヒント:空き家は「負債」から「資源」へ

イタリアの1ユーロハウスが日本に与える最大の示唆は、空き家という「負債」を、移住促進の「資源」に転換した発想の転換にあります。日本でも空き家は全国で増え続け、多くの自治体にとって管理コストのかかる頭の痛い存在です。しかしイタリアは、その厄介者を、町を再生させる入口に変えてみせました。

もちろん、日本にそのまま輸入できるわけではありません。日本には日本の不動産制度や相続の事情があり、所有者不明の空き家や、改修に多額の費用がかかる物件も少なくありません。重要なのは、安く譲るという表面的な手法ではなく、「本気で住む人を選び、改修投資を通じて地域にお金と人を循環させる」という設計思想のほうです。日本の空き家バンクの取り組みも、この設計思想を取り込むことで、単なる物件紹介から一歩進んだ地域再生の装置になりうるはずです。

そしてイタリアが繰り返し示すのは、入口だけでは不十分という冷徹な事実です。安く家を手に入れても、仕事と医療と教育がなければ人は去ります。日本の自治体が空き家活用に取り組むなら、物件の提供と同じ熱量で、移住後の暮らしの設計に投資する必要があります。これは次の日本パートで詳しく述べます。

二つの事例を並べて見る

ここで、韓国とイタリアのアプローチの違いを整理しておきましょう。両国は同じ人口減少という敵に対して、まったく異なる戦場で戦っています。

観点 韓国 イタリア(1ユーロハウス)
主な戦線 自然減対策(出生率を上げる) 社会減対策(人を呼び込む)
狙う相手 これから子を持つ若い世帯 地域外・国外からの移住希望者
中心的な打ち手 育休制度・職場文化・経済支援 空き家の安価提供と定住支援
効果が出る時間 長い(文化変革を伴う) 比較的速いが定着には時間が必要
主役 政府+企業+地域社会 自治体+移住者+外部資金
限界 人口構造の追い風が一巡する 国全体の人口減は止められない

この表からわかるとおり、両国の施策は優劣ではなく役割の違いです。日本のそれぞれの地域は、自分がどちらの戦線で、より深く負けているのかを見極めたうえで、参考にすべき事例を選ぶ必要があります。

二つの事例から見えてくること

ここからが本記事の核心です。アプローチはまったく異なる両国の事例ですが、並べてみると、日本の経営者と自治体担当者にとっての普遍的な教訓が浮かび上がってきます。

教訓1:施策は「出生率」と「人口移動」を分けて設計する

最も重要な気づきは、人口減少対策には性質の異なる二つの戦線があるという事実です。一つは、生まれる子どもを増やす「自然減対策」。もう一つは、出ていく人を減らし、入ってくる人を増やす「社会減対策」です。

韓国が挑んだのは前者であり、イタリアの1ユーロハウスは後者の典型です。日本の人口戦略会議も、自然減対策(出生率の向上)と社会減対策(人口流出の是正)という両面からの分析が必要だと指摘しています。この二つは打ち手も、効果が出るまでの時間も、必要な予算も、まったく違います。

出生率を上げる施策は、文化や価値観の変革を伴うため、効果が出るまでに10年単位の時間がかかります。一方、移住・定住を促す施策は、条件さえ整えば比較的短期間で人が動きます。この時間軸の違いを理解せずに、両者を混同したまま「とにかく人口対策」と総花的に取り組むと、予算が分散し、どちらも中途半端に終わります。自分たちの地域がいま、どちらの戦線で、どこまで負けているのかを直視することが、優先順位づけの出発点です。

具体的に考えてみましょう。たとえば若い世代が地域で生まれ育つものの、進学や就職を機に都市部へ流出してしまう地域があるとします。この地域がもし出生率対策にばかり予算を注いでいたら、それは的外れです。生まれた子は十分にいるのに、育った後に出ていってしまうのが問題なのですから、優先すべきは地元での雇用創出や、一度出た若者が戻ってこられる仕組みづくりです。逆に、そもそも若い世帯が地域に少なく、子どもが生まれにくい地域であれば、まず子育て環境と両立支援に集中すべきです。同じ「人口減少対策」という看板でも、診断を誤れば処方箋はまるで変わります。

韓国とイタリアが教えてくれるのは、まさにこの診断の重要性です。韓国は自然減という自国の病巣を正しく見定めて出生率対策に資源を集中し、イタリアの地方は社会減という病巣に対して移住促進で応じました。それぞれが自分の戦線を見極めたからこそ、限られた資源で成果を出せたのです。

教訓2:現金給付の効果は限定的、勝負は「文化」と「環境」

韓国の20年にわたる失敗が教えてくれるのは、出産祝い金のような一時的な現金給付だけでは、出生率はほとんど動かないという厳然たる事実です。数字が動き始めたのは、父親が育休を取れる制度、休んだ人の穴を埋める体制、長時間労働の見直しといった、「働きながら子どもを育てられる環境」に手をつけてからでした。

これは、企業経営者にとって直接的なメッセージです。子育て世代が辞めずに働ける職場をつくることは、福利厚生のコストではなく、人材確保のための投資です。少子化が進むほど労働力は希少になり、子育て世代に選ばれる会社かどうかが、企業の存続を左右します。韓国で企業自身が動き出したのは、まさにこの危機感ゆえでした。給付金を一度配って終わりにするのではなく、社員が長く働き続けられる仕組みに継続的に投資する。その発想の転換が求められています。

では、中小企業が現金給付以外で着手できることは何か。コストをかけずに始められるものから順に挙げてみます。まず、無駄な会議や形式的な残業を見直し、定時で帰れる日を増やすこと。これは予算ゼロで、経営者の号令ひとつで動かせます。次に、男性社員が育休を取る際に「取りやすい空気」をつくること。制度はあっても使われない最大の理由は職場の空気であり、ここを変えるのも経営者の役割です。そして、育休や時短で抜けた穴を誰がどう埋めるかを、属人化させず仕組みとして用意すること。これらはいずれも、巨額の投資ではなく、運用と意識の問題です。

韓国の事例が示すのは、まさにこうした地道な環境整備の積み重ねが、最終的に数字を動かしたという事実です。派手な目玉施策より、社員が安心して子育てしながら働ける日常を整えることのほうが、結果的に効くのです。

教訓3:単独では勝てない、役割分担で勝つ

韓国では政府・企業・地域社会が、イタリアでは自治体・移住者・EUという外部資金が、それぞれ役割を分担して初めて成果が出ました。自治体が一人で抱え込んでも、企業が様子見を決め込んでも、住民が無関心でも、人口減少という巨大な流れは止まりません。

日本の中小企業と自治体にとっての示唆は明確です。自治体は移住・定住の受け皿と生活基盤を整え、地元企業は子育て世代が働ける雇用と職場文化を提供し、地域社会が新しい住民を受け入れる。この三者が連携したとき、初めて小さな町でも流れを変えられます。逆に言えば、どこか一つでも欠ければ、施策は空回りします。役割分担を設計することそのものが、戦略の重要な一部なのです。

具体的にイメージしてみましょう。ある自治体が移住者向けに空き家を整備し、補助金も用意したとします。しかし地元に働く場所がなければ、移住者は収入を得られず去っていきます。ここで地元企業が雇用を提供できれば、移住者は定着できます。さらに、地域住民が新参者を温かく迎え入れ、地域行事や日常の付き合いに巻き込めば、孤立せずに根を張れます。この三者がそろって初めて、一人の移住者が定住者になるのです。どれか一つでも欠ければ、せっかく来た人も流出してしまいます。

韓国の出生率対策も同じ構造でした。政府が制度をつくり、企業が職場を変え、社会が子育てを応援する空気をつくる。この合奏があって初めて、長く下がり続けた数字が反転しました。人口減少という巨大な相手には、独奏では太刀打ちできません。それぞれが自分のパートを受け持つ合奏でしか、勝負にならないのです。

教訓4:「全体」と「局地戦」を切り分ける

イタリアの事例が示すとおり、一つの村を再生させる施策と、国全体の人口を反転させる施策は、まったく別の話です。自治体の現実的な目標は、日本全体の少子化を解決することではありません。自分たちの地域に、必要な人と仕事と暮らしを取り戻すことです。

国全体の人口減という巨大な潮流は、一つの自治体や一社の力では変えられません。しかし、自分の地域に人を呼び込み、定着させることは可能です。手の届く局地戦に資源を集中し、小さな成功を積み上げることが、結果的に最も賢明な戦略になります。壮大な目標に圧倒されて動けなくなるより、目の前の一勝を取りにいく。これが、イタリアの過疎の村が教えてくれる実務の知恵です。

そして、局地戦の勝利には伝播する力があります。イタリアのある町が移住者を呼び込み、外部資金を引き寄せて成長すると、それが成功モデルとして他の自治体に広がりました。一つの町の小さな勝利が、地域全体の希望になり、次の挑戦を生むのです。日本でも、すべての自治体が一斉に勝つ必要はありません。まず自分の地域で一つの成功事例をつくり、それを横に展開していく。地味に見えても、これが現実的に流れを変える唯一の道筋です。

逆に言えば、「日本全体の少子化をどうにかしなければ」という当事者には荷の重すぎる目標を掲げると、施策は抽象的になり、何から手をつけてよいかわからなくなります。自分の地域、自分の会社という、手の届く範囲に視野を絞ること。それは決して志が低いのではなく、確実に成果を出すための戦略的な絞り込みなのです。

日本の中小企業・自治体が、明日から優先順位を上げるべきこと

ここまでの教訓を、具体的な行動に翻訳します。日本では、全国の市区町村の4割超にあたる744自治体が「消滅可能性自治体」と分析されており、20歳から39歳の若年女性人口が2050年に半減すると指摘されています。もはや、対策の有無を議論している段階ではありません。限られた資源を、どこに集中するかという段階です。

この人口戦略会議の分析が画期的だったのは、単に消滅可能性を指摘するだけでなく、自然減対策と社会減対策の両面から各自治体の実情を分類した点にあります。つまり、自分の自治体がどちらの対策をより必要としているかを、データで判断できる枠組みが示されたのです。この枠組みを使わない手はありません。

補足すると、この744という数字は、決して遠い過疎地だけの話ではありません。首都圏1都6県でも316自治体のうち91、率にして28.8パーセントが消滅可能性自治体に該当しており、観光地として知られる市町まで含まれています。都市近郊だから、観光地だから安心、という思い込みは通用しません。人口減少は、地方の山間部から大都市の近郊まで、日本の広い範囲に静かに迫っているのです。自分の地域は大丈夫だろうという楽観こそ、最も危険な姿勢だと言えます。

一方で、希望もあります。10年前の同様の分析と比べると、239の自治体が消滅可能性から脱却しています。つまり、適切な対策を講じれば、運命は変えられるということです。消滅可能性自治体という分類は、宣告ではなく警告です。警告を受けて何もしなければ宣告に変わりますが、警告を受けて手を打てば、脱却した239自治体の仲間入りができます。この記事が伝えたいのは、まさにその「手の打ち方」なのです。

自治体が優先すべきこと

第一に、自分の自治体が「自然減」と「社会減」のどちらでより深く負けているのかを、データで正確に把握してください。若い女性が地域内で生まれにくいのか、それとも生まれても進学や就職で出ていってしまうのか。原因が違えば、打つべき手はまったく変わります。前者なら子育て環境の整備、後者なら地元での雇用創出や移住促進が優先されます。この見極めを飛ばして流行りの施策に飛びつくと、的外れな投資になりかねません。

第二に、移住・定住を狙うなら、イタリアの教訓どおり「話題づくり」で終わらせないことです。空き家を安く提供するだけでなく、仕事、医療、子育て、教育という生活基盤までをセットで設計しなければ、人は根づきません。メディアに取り上げられて一時的に問い合わせが増えても、実際に住み続けてもらえなければ意味がありません。話題性は入口にすぎず、定着まで伴走する体制が成否を分けます。移住者の最初の数年に寄り添う担当者を置くだけでも、定着率は大きく変わります。

第三に、地元企業を巻き込んでください。韓国で企業が動いたように、地域の雇用と職場文化をつくるのは行政ではなく企業です。自治体ができるのは、子育てしやすい職場づくりに取り組む企業を後押しし、表彰や優遇で動機づけることです。行政と企業が同じ方向を向けるかどうかが、地域全体の力を決めます。

そして、現実的な財源の話も避けて通れません。人口減少対策には予算が必要ですが、その予算もまた、人口減少で細っていきます。だからこそ、限られた財源をどう使うかの選別が、これまで以上に重要になります。イタリアの1ユーロハウスが外部資金を呼び込む呼び水になったように、自治体単独の予算で完結させるのではなく、国の交付金やEUに相当する広域の支援、民間資金をいかに引き込むかという発想が問われます。小さな自前の予算で小さな施策を打ち続けるより、外部資金を引き込む起爆剤になる一手に絞り込むほうが、結果的に大きな成果につながることがあります。

その意味でも、すべての施策に薄く予算を配るのではなく、自分の地域の病巣に直接効く一点に資源を集中する勇気が求められます。総花的な「やっている感」は、財源が潤沢な時代には許されても、人口も予算も縮む時代には致命傷になりかねません。

中小企業が優先すべきこと

中小企業の経営者の方には、少子化を「社会問題」ではなく「採用問題」として捉え直すことを強くお勧めします。子育て世代が辞めずに働ける職場は、これからの採用市場における最大の差別化要因です。大企業のような高い給与は出せなくても、働きやすさで勝負することは、中小企業にこそ可能な戦略です。

具体的に手をつけるべきは、韓国で実際に数字を動かした打ち手と同じ領域です。男性社員の育休取得を当たり前にすること。育休や時短で抜けた社員の業務をカバーする体制をあらかじめ用意すること。だらだらと続く長時間労働を削減すること。これらは特別な予算がなくても、経営者の意思決定一つで着手できるものが少なくありません。

そして、この投資は巡り巡って自社に返ってきます。地域の人口が減れば、顧客も従業員も減ります。地元の中小企業にとって、地域の存続と自社の存続は表裏一体です。自分の会社が子育て世代に選ばれる職場になることは、地域に若い世代をつなぎとめることでもあります。自治体任せにせず、雇用と職場文化づくりという自社にできる役割を担うことが、長期的な経営の安定につながるのです。

共通して持つべき視点:時間軸とKPI

自治体・企業に共通する視点を一つ挙げます。それは、施策ごとに「効果が出るまでの時間」を見積もり、それに合ったKPIを置くことです。出生率対策は10年単位の長期戦であり、短期の数字で評価すれば必ず「効果なし」と判断され、途中で打ち切られます。一方、移住促進は比較的短期で人数の変化が見えます。両者を同じ物差しで測ってはいけません。長期施策には途中経過を測る中間指標を、短期施策には定着率という質の指標を。時間軸に合った評価設計が、施策を腰折れさせないための鍵になります。

明日からの一歩:優先順位を決める三つの問い

抽象論で終わらせないために、最後に、自治体担当者と中小企業経営者がそれぞれ自問すべき三つの問いを示します。会議の冒頭でこの問いを投げかけるだけでも、議論の焦点が定まります。

一つ目の問い。私たちの地域・会社が直面しているのは、人が生まれない問題か、人が出ていく問題か。どちらがより深刻で、どちらに先に手をつけるべきか。この切り分けができていないまま走り出すと、限られた予算が分散します。

二つ目の問い。いま検討している施策は、現金を配って終わりになっていないか。配ったあと、人々の暮らしや働き方が本当に変わる仕組みになっているか。韓国の失敗が教えるのは、配って終わりの施策は数字を動かさないという事実です。

三つ目の問い。この施策は、自分たちだけで完結させようとしていないか。行政・企業・地域住民のうち、誰の協力が欠けると失敗するのか。役割分担を最初に設計できているか。単独で抱え込んだ施策は、たいてい途中で力尽きます。

この三つの問いに即答できないとすれば、それはまだ施策を始める前に、整理すべきことが残っているというサインです。逆に、この三つに自信を持って答えられるなら、その施策は走らせる価値があります。優先順位づけとは、結局のところ、この種の問いに正直に向き合う作業に他なりません。

よくある質問(FAQ)

Q. 人口減少で困っているのは日本だけですか?

いいえ、日本だけではありません。むしろ出生率の低さでは韓国が世界最低を記録しており、2023年には0.72まで低下しました。ヨーロッパではイタリアが2024年に過去最低の1.18を記録しています。日本の出生率も2024年に過去最低の1.15まで低下しましたが、韓国やイタリアと並べると両国の切迫度が際立ちます。人口減少は多くの先進国が共通して直面する課題です。

Q. 韓国の出生率はなぜ上昇に転じたのですか?

主な要因は三つです。第一に1990年代前半生まれの世代が出産期に入った人口構造の追い風、第二にコロナ禍で延期されていた結婚の反動増、第三に父親の育児参加を促す制度や企業の子育て支援といった、働きながら子育てできる環境づくりです。ただし第一と第二は一過性のため、今後も上昇が続くかは不透明です。

Q. イタリアの「1ユーロハウス」は成功したのですか?

個別の町では成功事例があり、移住者の流入が外部の大型投資を呼び込んだケースもあります。ただし自治体は今も試行錯誤を続けており、決定的な解決策にはなっていません。また、イタリア全体の人口減少を止める力はなく、あくまで個別地域を再生する局地戦の手法と位置づけるのが妥当です。

Q. 出産祝い金などの現金給付は効果がありますか?

現金給付だけでは効果が限定的だというのが、韓国の長年の経験から得られた教訓です。数字が動き始めたのは、長時間労働の是正や父親の育休取得といった、子育てしやすい文化と環境に手をつけてからでした。給付は他の施策と組み合わせて初めて意味を持ちます。

Q. 中小企業が人口減少対策としてできることは何ですか?

子育て世代が辞めずに働き続けられる職場をつくることです。具体的には、男性社員の育児休業取得の促進、休んだ社員をカバーする体制づくり、長時間労働の削減などが挙げられます。これらは採用競争力に直結し、地域人材の確保という形で自社の存続にも寄与します。

Q. 自治体はまず何から手をつけるべきですか?

自分の自治体が「自然減(出生率の低さ)」と「社会減(人口流出)」のどちらでより深く負けているのかを、データで把握することが出発点です。原因によって優先すべき施策はまったく変わります。人口戦略会議の分析レポートなど、両面から自治体を分類した資料を活用するとよいでしょう。

日本ならではの論点:移民とDXをどう位置づけるか

ここまで韓国とイタリアの教訓を整理してきましたが、日本には日本固有の論点があります。海外事例をそのまま輸入するのではなく、日本の文脈で消化するために、二つの論点に触れておきます。

一つ目は、外国人材の受け入れです。イタリアの人口を支えているのが移民であるという事実は、日本にとっても示唆的です。日本の地方や中小企業の現場では、すでに外国人材なしには事業が回らない業種が増えています。出生率対策が長期戦である以上、当面の労働力を外国人材に頼る局面は避けられません。重要なのは、彼らを一時的な労働力としてではなく、地域に定着する生活者として受け入れる体制を整えられるかどうかです。イタリアの1ユーロハウスが「絆を取り戻す」ことを目的としたように、受け入れる側のコミュニティづくりが、定着の成否を分けます。

二つ目は、DX、すなわちデジタル技術の活用です。人口が減り、働き手が確実に少なくなっていく以上、一人あたりの生産性をいかに高めるかは、もはや選択ではなく必須条件です。中小企業にとってのDXは、流行りのスローガンではなく、減り続ける人手で事業を維持するための生命線です。自治体にとっても、職員が減るなかで行政サービスを維持するには、業務のデジタル化が避けて通れません。人口減少対策と業務のデジタル化は、別々の課題ではなく、同じ問題の表と裏なのです。

韓国もイタリアも、人を増やす努力と並行して、限られた人で社会を回す工夫を進めています。日本がこの二国から学ぶべきは、「人を増やす施策」と「少ない人で回す施策」を両輪として走らせる姿勢です。前者だけでは間に合わず、後者だけでは地域そのものが先細ります。両方に目配りしてこそ、地域と企業は持続できます。

特に中小企業の経営者にとって、DXは身近な人手不足対策として捉え直す価値があります。たとえば、これまで人手でこなしていた受発注や経理、問い合わせ対応の一部をデジタル化するだけでも、限られた社員をより付加価値の高い仕事に振り向けられます。人を増やすのが難しいなら、一人ひとりが本来の力を発揮できる環境を整える。これもまた、立派な人口減少対策です。少子化を嘆くだけでなく、目の前の業務を見直すところから始められるのです。

まとめ:危機感を、優先順位に変える

人口減少で困っているのは、決して日本だけではありません。韓国もイタリアも、私たち以上の崖に立ちながら、必死で打開策を探り、一定の手応えを掴み始めています。彼らの成功と失敗から学べることは、驚くほど実務的です。

出生率対策と人口移動対策を分けて設計すること。現金給付に頼らず、働きながら子育てできる文化と環境に投資すること。自治体・企業・地域社会が役割を分担すること。そして、国全体の解決ではなく、自分たちの地域という局地戦に資源を集中すること。この四つは、韓国とイタリアが高い授業料を払って学んだ教訓であり、日本がそのまま受け取れる贈り物です。

消滅可能性自治体に名を連ねるかどうかは、運命ではなく選択の結果です。危機感を抱いて立ち止まるのではなく、その危機感を「自分たちの地域で、いま何の優先順位を上げるべきか」という具体的な問いに変えること。それこそが、海外の事例が私たちに突きつけている、最も重要な宿題なのだと思います。今日、あなたの地域や会社で、優先順位を一つ上げるとしたら、それは何でしょうか。その問いから、すべては始まります。

韓国は20年の失敗の末に、ようやく文化と環境という本丸にたどり着き、数字を反転させました。イタリアの過疎の村は、厄介者だった空き家を再生の入口に変え、外部の資金と新しい住民を呼び込みました。そして日本でも、すでに239の自治体が消滅可能性から脱却しています。流れは、変えられるのです。変えた人たちは、例外なく、自分たちの地域の病巣を正しく見極め、限られた資源をそこに集中させた人たちでした。

人口減少という言葉の重さに、私たちはつい立ちすくみがちです。しかし、海外の先行者たちが示してくれたのは、絶望ではなく、具体的な打ち手の数々でした。彼らの経験を活かせるかどうかは、私たち次第です。危機感を、行動の優先順位に変える。その一歩を、ぜひ今日から踏み出していただければと思います。

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