非自律的な人材はどうしたらいいのか?——中小企業・自治体が今すぐ取り組むべき「仕組み化」の本質

編集部投稿者:

「指示をしなければ何もしない」「自分で考えて動いてくれない」「やる気があるのかどうかさえわからない」——こうした嘆きを、中小企業の経営者や自治体の管理職から聞かない週がないほど、この問題は今日の組織マネジメントの核心に位置しています。

しかし、少し立ち止まって考えてみてください。あなたの組織には、その社員・職員が「自律的に動ける」ための仕組みが、本当に整っていますか?

何をすれば評価されるのかが明示されているか。判断に迷ったときに参照できるルールがあるか。挑戦して失敗しても責められない文化があるか。成果と報酬が連動する制度があるか。

これらが一つもない組織で、「自律的に動け」と言われても、動ける人間はほとんどいません。自律的に動ける一部のハイパフォーマーは、仕組みがなくても自力で動きます。しかしそれは、仕組みのおかげではなく、その人個人の資質によるものです。

問題は、そうした例外的な人材を基準にして組織を設計している点にあります。

大多数の人材は、適切な仕組みがあってはじめて力を発揮します。これは怠慢でも無能でもありません。人間の本質的な行動原理です。

この記事では、非自律的な人材を「問題のある人材」として切り捨てるのではなく、仕組みによって組織の力に変えるための具体的な戦略を、経営者・人事責任者の実際の発言も交えながら解説します。中小企業経営者、自治体の管理職・首長の方々にとって、自組織の優先課題を再定義するきっかけになれば幸いです。


Contents
  1. 第1章:自律的な人材と非自律的な人材——その違いと、組織への影響を正確に理解する
  2. 第2章:仕組みがない中で人を雇い過ぎることの危険性
  3. 第3章:非自律的な人材のマネジメントこそが経営の本質——仕組み化の必要性
  4. 第4章:経営者・人事責任者が語る「仕組みと人材」——実際の声
  5. 第5章:非自律的な人材を機能させるための仕組み化——具体的な実践ステップ
  6. 第6章:自治体における非自律的な人材問題とDXの関係
  7. 第7章:組織の「仕組み化成熟度」を診断する
  8. 第8章:今すぐ始められる仕組み化の3つの優先アクション
  9. 第9章:人材問題を超えて——地域経済・地域行政のレジリエンスという視点
  10. 第10章:経営者・首長へのメッセージ——今、何を優先すべきか
  11. まとめ:非自律的な人材問題の本質と解決の方向性
  12. 付録:今日から使える3つのフォーマット例

第1章:自律的な人材と非自律的な人材——その違いと、組織への影響を正確に理解する

自律的な人材とは何か

自律的な人材とは、指示を待たずに自ら考え、判断し、行動できる人材を指します。課題を発見し、解決策を考え、上司に確認しながらも主体的に実行する。このサイクルを自力で回せる人材です。

こうした人材は、組織に対して自動的に利益をもたらします。経営者や管理職が細かく指示を出さなくても動き、新しい課題を自ら見つけ、改善提案を持ってきます。採用に成功した時点から、その人材は組織の生産性向上に貢献し始めます。

しかし、日本の労働市場において自律的な人材が十分に供給されているかといえば、まったくそうではありません。長年の学校教育において「正解を見つける」訓練を積み重ね、「与えられた問いに答える」ことを20年近く続けてきた人材に対して、突然「自律的に動いてほしい」と求めても、それは難しい注文です。

こうした教育システムの構造的問題については、学習院大学教授・守島基博氏をはじめとする人的資源管理の研究者からも繰り返し指摘されています。「自律した人材になってください」と言われても、選択肢のある問いに答え続けてきた人材にそれを求めるのは難しい、というのは教育と組織マネジメントの両面における共通認識です。

非自律的な人材とは何か

非自律的な人材とは、指示・命令・明確なルールがなければ自ら動くことが難しい人材です。能力が低いのでも、意欲がないのでもありません。「何をすればよいか」「どう判断すればよいか」「動いて失敗したときにどうなるか」が不明瞭な環境においては、動かないことを選ぶ合理的な存在です。

人材マネジメントの研究においても、「自律型人材は他人の指示ではなく自らの意思で行動するため、結果に対して強い責任感を覚える」とされています。裏を返せば、自らの意思で動いた結果に責任を取る文化・仕組みが整っていない組織では、そもそも自律的な行動を取ること自体がリスクになります。誰でも、動いて責任を問われるより、動かずに責任を逃れる方を選びます。

これが非自律的な人材の本質です。「人の問題」ではなく「環境の問題」です。

組織における二つの人材の共存と、その現実

現実の組織では、自律的な人材と非自律的な人材が混在しています。中小企業でよく見られる典型的な構図は次の通りです。

全従業員の上位10〜20%程度が自律的に動き、組織の成果の大半を生み出している。残りの80〜90%は、指示と仕組みが整っている範囲では動けるが、それが整っていない局面では止まってしまう。そして経営者は、自律的に動く上位10〜20%の人材を見て「うちの会社はそれなりに動いている」と錯覚する。

問題はここにあります。上位の自律的な人材が退職したとき、あるいはその人たちが管理職になって現場を離れたとき、途端に組織の生産性が崩れる。これが、多くの中小企業が経験する「人材流出による業績悪化」の正体です。


第2章:仕組みがない中で人を雇い過ぎることの危険性

マネジメントコストという見えない負債

仕組みが整っていない組織において非自律的な人材を多く雇用すると、何が起こるか。端的に言えば、マネジメントコストが爆発的に増大します。

一人の非自律的な人材を機能させるために、上司は何時間の時間を使うことになるか。毎朝の業務確認、中間での進捗チェック、判断を求められるたびの対応、完成物のレビュー、修正指示——これらを積み上げると、一人の部下に対して週10〜15時間を費やしているケースも珍しくありません。

5人の非自律的な人材を抱えれば、管理職はほぼ全ての時間をその管理に費やすことになります。管理職が管理に追われると、その上の経営者が管理職の穴を埋めるために現場に入らざるを得なくなります。経営者が現場に入ると、経営戦略を考える時間がなくなります。戦略がなければ組織は場当たり的な対応に終始し、成長が止まります。

これが、仕組みなき採用拡大がもたらす「負のスパイラル」です。

中小企業の6割が人事評価制度を持っていないという現実

日本経済新聞(2025年8月)の報道によると、帝国データバンクの調査において中小企業の6割は人事評価制度を設けていない。従業員の能力や成果を評価し、的確な処遇や昇進・昇格につなげる仕組みがないのなら、人材を引き付けられなくても当然とされています。特に従業員30人以下の企業では実に4分の3が制度を持たないという実態も明らかになっています。

これは採用競争力の問題であると同時に、既存社員のマネジメント問題でもあります。評価制度がなければ、何を頑張れば報われるのかが不明瞭です。不明瞭な環境では、人は動かなくなります。あるいは、動き方が間違っていても修正されません。

人事評価制度がない中小企業に共通するのは、「社長の好き嫌い」や「上司の印象」で評価が決まっているという状況です。これでは、自律的に動く動機が生まれません。「どれだけ頑張っても、評価するのは社長の気分次第だ」と感じた従業員が、やがて自律的に動かなくなるのは合理的な判断です。

人材を増やすことで問題を解決しようとする経営者の錯覚

業績が伸びない、現場が回らない——こうした問題に直面した経営者がまず思いつく解決策は、「人を増やすこと」です。確かに短期的には一定の効果をもたらすように見えます。しかし、仕組みがない状態での人員増加は、問題の先送りにすぎません。

仕組みがなければ、新しく入った人材も既存の非自律的な人材と同じパターンに陥ります。「何をすればいいか教えてもらえない」「判断基準がわからない」「頑張っても評価されない」——こうした環境に長くいれば、自律的な人材も自律性を失います。

組織コンサルティングの現場においても、「業務フローを描いていくと、『この部分、誰にも共有されてないよね?』という暗黙業務が次々に浮かび上がる。この”可視化”こそが仕組み化の土台だ」という指摘は共通しています。人を増やす前に、業務を可視化し、仕組みを設計することが先です。

自治体における同様の構造的問題

この問題は民間企業だけのものではありません。自治体においても、同様の構造が見られます。

定型業務は処理できるが、新しい課題(デジタル化、少子化対策、地域産業振興など)に直面すると途端に動きが止まる。前例がなければ判断できない。予算と権限の縦割りの中で、横断的な提案ができる職員が育ちにくい。異動のたびに業務ノウハウが失われ、属人化した知識が組織に蓄積されない。

これらはすべて「仕組みの欠如」が原因です。職員個人の資質の問題ではありません。


第3章:非自律的な人材のマネジメントこそが経営の本質——仕組み化の必要性

なぜ仕組み化が経営のキモなのか

自律的な人材は、仕組みがなくても動きます。裏を返せば、自律的な人材だけを採用できる組織なら、仕組みは不要です。しかし現実には、すべての組織ポジションを自律的な人材で埋めることは不可能です。求人倍率が高止まりし、採用難が深刻化している現在、「自律的な人材だけを採用する」という戦略は現実的ではありません。

だとすれば、非自律的な人材が組織で機能するための仕組みを作ることが、経営の本質的な課題になります。これは決して消極的な対応ではありません。優れた仕組みを持つ組織は、「普通の人材」を採用しながらも「優れた組織」として機能することができます。

中小企業庁経営支援課が2026年1月に公表した「経営者の人材マネジメント」に関する資料では、成長する経営者に共通する取り組みとして、「人材の確保・育成等へのコミット」「業務の意味と人材のスキル・キャリアパスの言語化」「これらの運用と改善のための仕組み化」の3点が挙げられています。仕組み化は、成長する企業の経営者に共通した取り組みなのです。

属人化の撲滅——「いなくなると困る人材」を作らない

仕組み化の最大の目的の一つは、属人化の排除です。属人化とは、特定の個人だけが業務を担っており、その人がいないと業務が止まる状態を指します。一見すると「不可欠な人材がいる組織は強い」と思えますが、実態は逆です。

ある個人の退職や転勤によって業務が止まる組織は、極めてリスクが高い状態にあります。そして属人化が進む組織では、非自律的な人材はますます動けなくなります。「あの人に聞かないとわからない」という状態が常態化すると、自分で判断する訓練の機会がなくなるからです。

仕組み化によって業務をマニュアル化・ルール化すると、属人化が解消され、非自律的な人材でも一定の水準で業務を遂行できるようになります。これは個々の人材の能力を底上げすることではなく、組織が提供する「足場」の水準を上げることです。

全員戦力化という視点

学習院大学教授・守島基博氏(一橋大学名誉教授)は、「全員戦力化」という概念を提唱しています(著書『全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発』日本経済新聞出版、2021年)。全員戦力化とは、ある一つの理念が言語化されて社内制度や仕組みに落とし込まれ、繰り返し実践されることによって実現するものであり、企業が従業員に対してモチベーション向上やスキルアップを働きかけるだけでなく、従業員が活躍できる環境を築くことに焦点があるとしています。

非自律的な人材を「戦力外」として扱うのではなく、仕組みを通じて「戦力」として機能させることが、人材不足時代の経営の核心です。


第4章:経営者・人事責任者が語る「仕組みと人材」——実際の声

非自律的な人材をどう扱うか、どのように仕組み化によって組織を変えたか——実際の経営者・人事責任者・研究者の発言から、具体的な視座を得ます。

守島基博氏(学習院大学教授・一橋大学名誉教授/人的資源管理論の第一人者)

守島氏はHRzine Day 2022 Summerのパネルディスカッションにおいて、日本企業で自律した人材が育たない根本原因に触れ、「日本企業は組織マネジメントが不得手な企業が多い」と指摘しました(参考:HRzine)。自律的な人材が出てこない理由は人材側にあるのではなく、マネジメントの側に問題があるという認識です。

また守島氏は戦略人事の文脈でも、経営環境の変化や技術革新が著しい現代において、戦略人事に取り組まなければ企業価値を高めるための人的資本経営ができなくなると警鐘を鳴らしています(参考:JBpress)。人材マネジメントを経営の後回し課題として扱う限り、組織の競争力は低下し続けるという主張です。

日清製粉グループ本社・村田氏(人事部門責任者)

日本の人事部「HRカンファレンス」のセッションにおいて、村田氏は人事部門の役割を問い直す文脈で、「人事の役割が小さくなったときは自律的な組織になっている」と述べました(参考:日本の人事部)。これは逆説的な表現ですが、本質を突いています。人事が細かい管理・コントロールに追われているうちは、組織はまだ自律的ではない。人事の役割が「制度設計と文化醸成」に移行できたとき、組織は自律的に動けるようになるという考え方です。

また同氏は、ミドル層・シニア層への対応についても触れ、「自律しなくとも職位が上がってきたミドル層、シニア層に変わってほしい」という課題意識を示しつつ、副業の推奨や転職時の支援金といった具体的な施策も紹介しました。非自律的な人材に対して、罰則や圧力ではなく、インセンティブ設計によってアプローチする方向性です。

東洋経済オンライン連載・人事の専門家(30年以上のキャリア)

人事部門を持たない中小企業に関する東洋経済オンラインの連載記事で、30年以上の経験を持つ人事の専門家は次のように述べています。「会社経営を成功させる鍵は、人事によって9割が決まるといっても過言ではない」。そのうえで、「社長も含め、経営層はみんな『やらなきゃいけない』と頭ではわかっているものの、なかなか手をつけることができない。優先度・緊急度が低いために、ついつい後回しにしてしまう。それが『人事』という部門の現実でもあります」と、多くの中小企業が陥りがちな構造を明確に指摘しています(参考:東洋経済オンライン)。

組織コンサルティングの現場から(管理職育成の課題)

組織コンサルティングの実務においては、「責任者を置いたはずなのに、チームが動いていない」「管理職に任せたいが、結局、最終判断は自分がしている」「個々は育ってきたけれど、組織として中継点が機能していない」といった問題は企業規模に関係なく起きています。管理職が育たないと感じる悩みの正体は、管理職を「優秀なプレイヤーの延長」で捉えてしまうことにあります(参考:株式会社末永イノベーション経営)。

非自律的な人材への対応に悩む経営者の多くは、「優秀な現場担当者を管理職に昇進させれば組織が動く」という誤解を持っています。しかし、プレイヤーとしての優秀さとマネジメント能力は別物であり、マネジャーが機能するための仕組みと訓練が必要です。

HRプロの報告(自律型人材育成と管理職の役割)

人材育成の専門メディアHRプロの記事では、自律型人材を育てるうえで管理職のマネジメントスキルの向上が不可欠であると指摘されています。部下が何かに挑戦して失敗してしまった時にどうフォローアップするかが特に問われ、管理職にコーチングスキルがあるかないかで育成の成果は大きく変わるとされています(参考:HRプロ)。

また、自律性を養うためには「挑戦を受け入れる」「たとえ失敗しても否定しない」という風土の醸成が必要であり、そのためには職場における心理的安全性を確保していかなければならないとも指摘されています。

非自律的な人材を自律的に変えたいなら、失敗を許容する文化と管理職のコーチングスキルが前提として必要です。


第5章:非自律的な人材を機能させるための仕組み化——具体的な実践ステップ

ステップ1:業務の可視化と暗黙知の言語化

仕組み化の出発点は、業務を可視化することです。現在の業務の流れを、誰が・何を・いつ・どのように行うかという形で書き出します。

多くの中小企業・自治体では、この段階で多くの「暗黙業務」が発見されます。誰にも共有されていない判断基準、口頭でしか伝わっていないノウハウ、特定の担当者の経験と勘に依存している意思決定プロセス——これらはすべて、非自律的な人材が「動けない」原因になります。

可視化の具体的な方法としては、業務フローチャートの作成、マニュアル化、判断基準の一覧化(チェックリスト形式)などがあります。完璧なドキュメントを最初から作る必要はありません。まず「ある程度動ける」レベルのものを作り、実際の業務の中で更新・改善していくことが現実的です。

ステップ2:評価制度の整備——行動と報酬の連動

人が動く最大の動機は、「動いたことが評価・報酬につながる」という実感です。この連動が機能していない組織では、自律的に動くことのインセンティブが存在しません。

評価制度の整備において重要なのは、以下の3点です。

評価基準の明確化

何を達成したら、何を行動したら、高く評価されるのかを具体的に言語化します。「チームに貢献している」「お客様から評価されている」といった曖昧な基準ではなく、「月次の提案件数が3件以上」「クレーム解決時間が平均24時間以内」といった具体的な指標が望ましいです。

評価の定期的な実施とフィードバック

年に一度の評価面談では遅すぎます。月次または四半期ごとに短い面談を実施し、「あなたはこの月これができた・これができなかった」という具体的なフィードバックを行います。

評価と報酬・機会の連動

評価が高い人材に対して、給与増加だけでなく、新しいプロジェクトへの参加機会、研修機会、権限の拡大などを提供することで、「評価されること」の意味を多様化します。

ステップ3:意思決定の権限明確化

非自律的な人材が最も困るのは、「どこまで自分で判断してよいか」がわからないことです。判断範囲が不明瞭だと、些細なことでも上司に確認するようになり、上司のボトルネックが発生します。

意思決定の権限を明確化するには、「承認不要」「報告のみ必要」「承認が必要」の3段階で業務を分類するのが有効です。例えば、1万円以下の備品購入は部門長の承認不要、3万円以下は部門長承認、それ以上は経営者承認、というように具体的な基準を設けます。

これによって、非自律的な人材でも「このくらいの判断なら自分でしてよい」という安心感を持てるようになり、細かい確認の回数が減ります。確認の回数が減ると、管理職の時間が解放され、より重要な課題に集中できるようになります。

ステップ4:成功体験の設計——自律的に動いた結果がポジティブな体験につながるようにする

非自律的な人材を自律的な方向へと変えていくためには、自律的に動いた経験が「良い結果につながった」という成功体験が必要です。この成功体験を意図的に設計することが、マネジャーの重要な役割の一つです。

最初から大きな課題を任せるのではなく、確実に達成できる小さな課題からスタートします。達成できたら具体的に褒め、次のステップへと移る。このサイクルを繰り返すことで、「自分で動いたことで良いことが起きた」という経験が蓄積されます。

この設計において重要なのは、失敗したときのフォローです。自律的に判断して失敗したとき、上司に厳しく責められた経験は、以降の自律的な行動を強く抑制します。失敗を責めるのではなく、「何を学んだか」「次回どう対応するか」を一緒に考えることで、チャレンジ意欲を維持します。

ステップ5:ロールモデルの可視化

組織内に自律的に動いている人材がいるなら、その行動パターンを可視化し、他の人材に共有することが有効です。「あの人はなぜ自律的に動けているのか」を分析し、それを言語化します。

「先輩の山田さんは、毎週月曜日に週次の目標を自分で設定して上司に共有している」「佐藤さんは問題が起きたとき、まず自分で3つの解決策を考えてから相談に来る」——こうした具体的な行動パターンを共有することで、非自律的な人材に「自律的に動くとはこういうことだ」という具体的なイメージを持ってもらうことができます。


第6章:自治体における非自律的な人材問題とDXの関係

自治体に固有のマネジメント課題

自治体における人材マネジメントの課題は、民間企業とは異なる制約の中にあります。定期的な人事異動による専門性の欠如、年功序列に基づく評価制度の硬直化、前例踏襲を重視する組織文化、そして「失敗は許されない」というプレッシャーの強さがあります。

これらの要素が組み合わさると、職員は「自律的に判断して動く」ことよりも「前例に従い、上司の承認を得て動く」ことを徹底的に選ぶようになります。これは個人の問題ではなく、自治体という組織の構造的な問題です。

特に若い職員においては、デジタルリテラシーは高くても、組織の中での動き方を知らないために非自律的に見えるケースがあります。「やりたいことはあるが、どう動けばよいかわからない」という状態は、適切な仕組みと権限移譲によって解決できます。

DX推進が失敗する最大の理由

自治体・中小企業におけるDX推進が失敗する最大の理由は、技術的な問題ではありません。「人の問題」、より正確には「仕組みの問題」です。

新しいシステムを導入しても、職員・従業員がそれを使いこなすための運用ルールがなければ、誰も使わないか、最低限の使い方しかしません。システムを導入した後に「あとは自分たちで考えて使ってください」と言っても、非自律的な人材が多い組織ではそれは機能しません。

DX推進における仕組み化の要素は以下の通りです。使い方の明文化(マニュアル整備)、利用状況の評価への組み込み、デジタルツールを使って改善提案をした人材の評価、段階的な移行計画の設計、そして失敗を許容するパイロット期間の設定——これらがすべて揃ってはじめて、非自律的な人材でもDXツールを活用するようになります。

自治体DXにおける人材育成の優先順位

自治体のDX担当者からよく聞かれる悩みは「上からデジタル化と言われるが、職員が使ってくれない」というものです。この問題の解決策は、技術教育ではなく組織設計にあります。

DXを自律的に推進できる職員を育てるには、まずデジタル活用に関して職員が実験できる安全な環境を作ることが必要です。小さな改善を試み、うまくいったらそれを共有し、失敗しても責められないという環境がなければ、誰もDXの主体的な担い手にはなりません。

また、DXに関する決裁権限を現場に一定程度移譲することも重要です。「小さな改善は現場判断でよい」という文化がなければ、すべてのデジタル施策が上位承認待ちになり、変化の速度についていけなくなります。


第7章:組織の「仕組み化成熟度」を診断する

5段階の仕組み化成熟度モデル

自組織の仕組み化の現状を診断するために、以下の5段階モデルを参考にしてください。

レベル1(属人化段階):業務は特定の個人に依存しており、その人がいなくなると停止する。評価の基準は不明確で、経営者の主観に頼っている。

レベル2(部分的マニュアル化段階):一部の定型業務はマニュアルがあるが、判断が必要な局面では依然として上司への確認が必要。評価基準はある程度言語化されているが、一貫して運用されていない。

レベル3(標準化段階):主要業務のフローが文書化されており、新人でも一定の水準で業務を遂行できる。評価制度が整備され、定期的なフィードバックが行われている。

レベル4(継続改善段階):業務の標準が組織に定着しており、現場から改善提案が継続的に出てくる。評価が適切に機能し、中堅社員・職員が自律的に後輩を育てようとしている。

レベル5(自律的組織段階):大半の意思決定が現場で行われ、経営者・上位管理職は例外的な判断と将来の方向性に集中できる。仕組みが文化として組織に内在化されている。

多くの中小企業・自治体は現在、レベル1からレベル2の間に位置しています。目標をレベル3に置き、まず「新人でもある程度動ける標準化」を実現することが現実的な第一歩です。

自己診断チェックリスト

以下の問いに対して、「できている」「一部できている」「できていない」で回答してみてください。

  • 業務の主要なプロセスが文書化されているか
  • 新人が入ってきたとき、担当者がいなくても業務マニュアルで対応できるか
  • 評価基準が書面で存在し、全社員・職員に共有されているか
  • 何円以下なら自分で判断してよいか、が全職員に明示されているか
  • 失敗したとき、責められずに何を学ぶかを話し合う文化があるか
  • 1対1の定期的な面談(月次または四半期)が全員に実施されているか
  • 改善提案を出した人材が、何らかの形で評価・認知されているか

「できていない」が3つ以上ある場合、その組織は非自律的な人材が動けない構造的な問題を抱えている状態です。


第8章:今すぐ始められる仕組み化の3つの優先アクション

優先アクション1:「判断基準の一覧」を1枚のシートにまとめる

最も即効性があり、かつ実行障壁が低いアクションは、「判断基準の一覧」を作ることです。日常業務の中で「これはどうすればよいか」と聞かれることを洗い出し、1枚のシートに「こういうケースならこうする」という形でまとめます。

これだけで、日常的な質問の回数を大幅に減らすことができます。管理職・経営者の時間が解放され、より重要な業務に集中できるようになります。

実際の作り方は簡単です。1週間、「部下・職員から受けた質問」を記録するだけです。同じ質問が3回以上来たものは、判断基準として明文化するべき候補です。

優先アクション2:月次の1対1面談を導入する

評価や育成の観点から、最もコストパフォーマンスが高い仕組みは、月次の1対1面談(1on1)です。15〜30分程度で十分です。

面談では、「今月の業務でうまくいったこと」「困っていること」「次月の目標」の3点を話し合います。これを継続するだけで、非自律的な人材も徐々に「自分の業務を自分で振り返り、言語化する」習慣が身につきます。

自治体においては、定期面談の文化がすでにある組織も多いですが、形式的な人事面談ではなく、業務改善にフォーカスしたコーチング的な面談を導入することが重要です。

優先アクション3:小さな成功を「見える化」して共有する

組織内で自律的な行動が生まれたとき、それを見える化して共有することが、文化の醸成につながります。朝礼での3分間の好事例共有、社内チャットへの投稿、週次のニュースレターなど、形式は問いません。

「山田さんが今週、お客様からのクレームを自分の判断で解決し、感謝の連絡をもらいました」という一言が、非自律的な人材に「ああ、自分で動いてもいいんだ」「そういう動き方が評価されるんだ」というモデルを示します。

この積み重ねが、組織文化として「自律的に動くことが当然」という空気を作り出していきます。


第9章:人材問題を超えて——地域経済・地域行政のレジリエンスという視点

非自律的な人材問題を放置することの社会的コスト

中小企業や自治体が非自律的な人材を仕組みなしで抱え続けることの代償は、個々の組織の問題にとどまりません。

日本全体として見たとき、中小企業は全企業数の99%以上を占め、雇用の約70%を支えています。この中小企業群が「仕組みなき経営」によって生産性を低下させ続けることは、日本全体の経済力の低下を意味します。

自治体においても同様です。職員が自律的に課題解決できない組織では、地域の高齢化、産業空洞化、インフラ老朽化といった複合的な問題への対応が遅れます。これは住民サービスの質の低下であり、地域の持続可能性に直結します。

人口減少・採用難という不可逆のトレンドの中で

2025年以降の日本において、採用市場はますます厳しくなります。自律的な人材だけを採用して組織を回そうとしても、そもそも採用できる人材の数が減少しています。

このことが意味するのは、「仕組み化」はもはやオプションではなく、必須の経営インフラだということです。限られた人材で最大の成果を出すために、組織の仕組みを高度化する以外に道はありません。

少ない人材でも組織が機能するためには、一人ひとりの生産性を高める必要があります。そのための手段が仕組み化です。業務の標準化、意思決定の分散化、評価制度の整備——これらは人材不足の時代において、経営者・自治体首長が今すぐ着手すべき優先課題です。

DXはゴールではなく、仕組みの進化の手段

この記事の文脈でDXを位置づけるとすれば、それは「仕組みをデジタルによって高度化・自動化する取り組み」です。

手作業で行っていた承認プロセスをワークフローシステムで自動化する、口頭で共有されていたノウハウをナレッジベースとしてシステムに蓄積する、報告書の作成をAIアシスタントで効率化する——これらはすべて、仕組み化の延長線上にあるDXです。

逆に言えば、仕組み化の基盤がない組織でDXだけを進めようとしても、それは砂の上に建物を建てるようなものです。デジタルツールは、既存の仕組みを速く・安く動かすことはできますが、仕組みそのものを作ることはできません。


第10章:経営者・首長へのメッセージ——今、何を優先すべきか

「人の問題」を「仕組みの問題」として再定義せよ

この記事を通じて一番伝えたいことを、最後に簡潔に述べます。

あなたの組織における「人材の問題」は、おそらく「仕組みの問題」です。「なぜあの社員は動かないのか」という問いを、「なぜ動けない環境になっているのか」と言い換えてみてください。視点が変わると、打ち手が変わります。

非自律的な人材を責めたり、採用基準を高めたりするだけでは問題は解決しません。仕組みを作ることで、今いる人材が最大限機能するようにすること——これが経営者・首長の最重要課題の一つです。

今日から着手できる最小の行動

大がかりな制度改革は必要ありません。今日から着手できる最小の行動を3つ挙げます。

一つ目は、今週1週間、自分が受けた「判断を求める質問」を記録することです。それを見れば、どの業務に判断基準が必要かがわかります。

二つ目は、最も信頼できる管理職・職員と「組織の中で動けない理由は何か」を1時間、率直に話し合うことです。答えはすでに組織の中にあります。

三つ目は、来月から1on1面談を1人からでも始めることです。完璧な制度を設計してからではなく、今すぐ始めることが重要です。

仕組みは完璧でなくてもよいのです。動き始めることが、最大の一歩です。

地域の経営者・自治体が連携する可能性

最後に、一つの提言をします。仕組み化の取り組みは、個々の企業・自治体が単独で取り組むより、地域として取り組む方が効果的なケースがあります。

地域の中小企業が共同でマニュアル化のノウハウを共有する勉強会を開く、自治体が中小企業向けの仕組み化支援プログラムを提供する、商工会議所が評価制度テンプレートを提供する——こうした地域連携が、個々の経営者の負担を下げながら、地域全体の組織能力を高めることにつながります。

人材マネジメントと仕組み化は、地域DXの最も根本的なインフラです。ツールを導入する前に、人と組織の仕組みを整える。この順番を間違えなければ、中小企業も自治体も、人口減少の時代を乗り越える組織力を作ることができます。


まとめ:非自律的な人材問題の本質と解決の方向性

この記事で述べてきたことを整理します。

自律的な人材は仕組みがなくても動きますが、大多数の人材は適切な仕組みがあってはじめて力を発揮します。仕組みのない中で非自律的な人材を多く雇用すると、マネジメントコストが増大し、経営者は現場対応に追われ、本来の経営活動に集中できなくなります。

非自律的な人材を機能させるために必要なのは、業務の可視化と暗黙知の言語化、評価制度の整備(行動と報酬の連動)、意思決定権限の明確化、成功体験の設計、そしてロールモデルの可視化です。

自治体においては、DX推進の前提として、職員が自律的に試行錯誤できる文化と権限の整備が必要です。ツールの導入より先に、人と組織の仕組みを整えることが成功の条件です。

「非自律的な人材をどうするか」という問いへの最終的な答えは、「仕組みを作ることで、誰もが機能できる組織を設計する」ことです。これは経営の本質であり、人材不足・採用難の時代において、あらゆる組織が取り組むべき最優先課題です。

本記事は、中小企業経営者および自治体関係者の実務に役立てることを目的として作成しました。引用した発言・データについては、各参照URLにてご確認ください。


付録:今日から使える3つのフォーマット例

第8章で紹介した3つの優先アクションについて、すぐにコピーして使えるフォーマット例を掲載します。自社・自組織の実情に合わせて項目を追加・削除してください。


フォーマット例①:判断基準の一覧シート

1週間、部下・職員から受けた質問を記録し、同じ質問が3回以上来たものをこのシートに書き起こします。A4用紙1枚、またはスプレッドシート1シートに収めることを目標にしてください。

よくある質問・状況 判断基準・対応方針 例外・上長確認が必要なケース 担当確認者 最終更新日
備品・消耗品を購入したい 1万円以下:自己判断で購入可。購入後に部門共有チャットへ報告。
1万円超〜3万円以下:部門長へ事前報告のうえ購入可。
3万円超:部門長+経営者の承認後に発注。
単価が安くても月内の合計が3万円超になる場合は事前確認 部門長    年 月 日
お客様からクレームを受けた まず謝罪と事実確認を行い、24時間以内に対応方針を報告する。
返金・代替品提供など金銭的補償が発生する場合は部門長に即時連絡。
その場で解決できる場合は自己判断で対応し、事後報告でよい。
報道・SNS拡散の恐れがある場合は即時に経営者へ 部門長    年 月 日
取引先から納期変更の依頼が来た 1週間以内の変更:自己判断で受け入れ可。社内の関係部署へ即時共有。
1週間超の変更:部門長に確認のうえ回答。
当日・翌日などの急な変更:部門長に即時報告し、対応を相談。
複数案件に連鎖して影響する場合は必ず上長確認 部門長    年 月 日
(記入欄) (記入欄) (記入欄) (記入欄)    年 月 日
(記入欄) (記入欄) (記入欄) (記入欄)    年 月 日

運用ルール:このシートは「作って終わり」にしないことが重要です。実際の業務でシートにない判断が求められたら、対応後にその内容を追記します。3か月に1回、内容を見直して古い情報を更新してください。シートはチーム全員がいつでも参照できる場所(共有フォルダ・社内wiki・チャットのブックマーク等)に置きます。


フォーマット例②:月次1on1面談シート

面談は15〜30分を目安にします。メモはその場で入力・記入し、面談後に本人と上長の双方が内容を確認・保存します。評価面談とは別に、「業務改善のための対話」として位置づけることがポイントです。

項目 記入欄
面談日    年 月 日  :  〜  :
氏名
面談者(上長)
①今月うまくいったこと・自分で判断・行動できたこと (本人が記入 → 面談で深掘りする)
②今月困ったこと・迷ったこと・誰かに聞かないと進めなかったこと (本人が記入 → 判断基準シートへの追記候補を確認する)
③来月取り組む目標(自分で決める・1〜3個) (本人が設定する。上長は実現可能性と方向性を確認する)
④上長からのフィードバック(具体的に・肯定から始める) (上長が記入)
⑤上長へのリクエスト・相談事項(言いにくいことも歓迎) (本人が記入)
⑥次回面談日    年 月 日(予定)

上長向けの注意点:②で出てきた「迷ったこと」は、責めずにそのまま受け取ります。「なぜ自分で判断しなかったのか」ではなく、「次回同じ状況になったらどう動けそうか」を一緒に考えます。③の目標は本人に決めさせることが重要です。上長が決めてしまうと、達成しても「自分で決めた」という感覚が生まれず、自律性の育成につながりません。


フォーマット例③:小さな成功の見える化テンプレート

朝礼・社内チャット・週次ニュースレターなど、どのチャネルでも使えるテンプレートです。所要時間は記入・投稿あわせて3分以内を目標にします。

【社内チャット・朝礼共有用】

項目 記入例
誰が 営業部・田中さんが
どんな状況で 取引先から急な仕様変更の依頼が来たとき
どう動いたか(自律的な行動のポイント) 上長に確認する前に、自分で3つの対応案をまとめて提示した
どんな結果になったか 取引先から「対応が速い」と感謝のメールが届き、追加発注につながった
共有したいポイント・コメント 「まず自分で考える→選択肢を持って相談する」という動き方の好例です。ありがとうございました!

【週次ニュースレター用(テキスト版)】

以下の文章をそのままコピーして、( )内を書き換えてください。

📌 今週の「自律行動ピックアップ」

(部署名)の(氏名)さんが、(状況)という場面で、(具体的な行動)をしました。その結果、(成果・反応)という結果につながりました。このような「自分で考えて動く」行動がチーム全体に広がっていくことを嬉しく思います。(氏名)さん、ありがとうございました。

運用のコツ:最初は上長が意識して探さないと好事例は見つかりません。週に1件でも継続することが重要です。取り上げられた本人が恥ずかしくないよう、事前に「共有してよいか」を必ず確認してください。また、目立つ大きな成果だけでなく、「上長に相談する前に自分で調べた」「判断基準シートを使って自己解決した」といった小さな行動も積極的に取り上げることで、「どんな動き方が評価されるか」が組織全体に伝わっていきます。

本記事は、中小企業経営者および自治体関係者の実務に役立てることを目的として作成しました。引用した発言・データについては、各参照URLにてご確認ください。