「第2期トランプ政権」の衝撃
2024年の米大統領選挙を経て、ドナルド・トランプ氏が再び大統領に就任し、「第2期トランプ政権」が2025年1月に正式に始動しました。2017年から2021年にかけて展開された第1期トランプ政権は、「アメリカ優先(America First)」のスローガンのもと、国際協定の離脱や再交渉、移民制限、パリ協定からの離脱など、アメリカ国内外で大きな論争を巻き起こしたことで知られています。そうした前政権の特徴は、新政権でも一層強化される形で再登場し、外交政策から経済政策、社会・文化政策に至るまで、世界各地の情勢に大きな影響を及ぼし始めています。
バイデン政権(2021〜2024年在任)は、トランプ前政権が離脱・見直しを図った国際協調の枠組みを部分的に修正・回復しようとしてきました。しかし、再びトランプ氏が大統領に返り咲くと、せっかく回復しかけたリベラル的政策や国際協調路線は「逆行の加速」を迫られます。アメリカの国際政治における影響力は依然として絶大であり、その政策転換はヨーロッパやアジア、中東、中南米などの各国政府にも、外交・経済・安全保障の方針転換を検討せざるを得ない圧力として広がっているのが現状です。ヨーロッパではポピュリストや右派政党が勢いを強め、EUの求心力が再び危機に瀕しています。一方、アジアや中東などでも、米国との二国間交渉を余儀なくされる動きが加速し、国際社会は混乱の度を深めています。
さらに、トランプ氏はSNSやメディアを巧みに活用して支持者を再結集させ、リベラル派メディアや批判的な報道機関に対して強い牽制や法的圧力をかける手法を鮮明にしています。これらの動きは、米国国内の分断を一層深め、トランプ支持者と反トランプ派リベラル勢力との対立は激化を続けています。
本稿では、こうした「第2期トランプ政権」による政策変化とその国際的影響を検証しつつ、リベラル(自由主義・国際協調主義・社会的包摂)という観点から、世界が直面する構造的な変化を捉え直します。トランプ氏再登板で勢いづく保守・右派の台頭に対し、リベラルは本当に衰退するのか、それとも新たな世代や市民運動を軸に、別の形で復活する可能性があるのか――この疑問に答えるべく、今後の世界情勢におけるリベラルの行方を探ります。
「第2期トランプ政権」がもたらした具体的な変化
2.1 多国間スキームのさらなる解体と二国間協定の推進
第1期トランプ政権下で、アメリカはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)をはじめとする多国間合意から続々と離脱し、パリ協定やイラン核合意(JCPOA)などでも再交渉や離脱の姿勢を貫きました。バイデン政権がその一部を修正・回復に導いたものの、2025年から始まったトランプ再政権は、「アメリカが不当に負担させられている」という主張を一段と強め、世界保健機関(WHO)からの離脱やパリ協定からの再離脱を大統領令によって決行しています。
加えて、国際開発局(USAID)の解体にも踏み切り、就任直後の大統領令により対外援助を全面停止しました。世界各地で展開されていた支援プログラムが一時的に混乱する中、1月末には政権側近であるイーロン・マスク氏主導の「政府効率化局(DOGE)」が連邦政府庁舎に入り、USAID業務の停止を決定。2,200人もの職員を有給休職にするという強硬策を打ち出したものの、2月7日にワシントン連邦地裁がこれを一時差し止める判断を示しました。労働組合は「USAID解体には連邦議会の承認が必要」と主張し、法廷闘争の長期化が予想されます。トランプ大統領はUSAIDを「腐敗し、詐欺が蔓延した組織」と断じ、閉鎖を主張していますが、歴代長官や国際機関は「アメリカの国際的信用を損ねる」と強く反発しています。
さらに、国連への分担金やNATOへの負担割合の削減策も再び打ち出されました。NATOに対しては防衛費をGDP比4%以上にするよう強く要求していましたが、2025年2月12日のウクライナ支援国会議でヘグセス米国防長官は、NATOの国防費目標をGDP比5%にまで引き上げる構想を表明し、もともと2%が目標だったNATO加盟国防衛費に対し、米国はさらに高い負担を求める姿勢を強めています。ウクライナ危機や中国の台頭といった安全保障上の懸念から、欧州諸国としてはNATOを容易に離脱するわけにもいかず、厳しい板挟みに陥っている状況です。
加えて、ヘグセス長官は「ウクライナが2014年以前の国境を取り戻すのは非現実的」とする見解を示し、領土の完全回復を前提としない和平交渉の模索を促しました。同時に、ウクライナ支援は「欧州が主に負担すべき」とも主張し、インド太平洋での中国抑止を最優先とする新たな安保戦略を打ち出しています。こうして米国はヨーロッパへの関与を抑制し、自国の対中戦略を重視する路線に明確に舵を切りつつあります。
一方で、トランプ政権は二国間協定を重視する姿勢を改めて打ち出し、中国やメキシコ、日本、イギリスなどとの「1対1の交渉」を推進しています。特に中国に対しては、バイデン政権下で一時保留された追加関税を段階的に再引き上げるとともに、軍事・ハイテク分野の輸出規制も強化。2025年の時点で米中間の通商・ハイテク摩擦はさらに深刻化し、世界経済の「分断リスク」に拍車をかけています。
2.2 移民・難民への対応強化と国境管理の徹底
トランプ氏が最も力を入れてきた分野の一つが移民・難民政策です。再度の大統領就任を機に、南部国境の壁建設が加速度的に進められ、資金拠出の問題でバイデン時代には停滞していた計画も、大統領令や非常事態宣言を駆使して一気に推し進められています。また、難民受け入れ枠の大幅削減や特定国からの入国禁止措置が復活し、リベラル派は「人道上の危機を助長する」と強く批判。アメリカの歴史的アイデンティティである「移民国家」の理念を否定する動きとして国内外から懸念が広がっています。
バイデン政権が推進していたDACA(不法入国した親に連れられて幼少期に米国で育った若者)の救済策や市民権取得のハードル緩和も、トランプ再政権下では凍結や見直しの対象です。これらの強硬な政策は、中西部や南部などの保守的層から根強い支持を得ている一方、国際社会では「人権軽視」との批判が相次ぎ、アメリカ国内のリベラル勢力との衝突も一層深刻化しています。
2.3 メディアとITプラットフォームへの規制強化
トランプ大統領はメディアやSNS企業との対立を再燃させており、ホワイトハウス記者会見への出席許可を巡る報道機関の「選別」、さらにはSNS上の言論を規制する新たな行政命令を検討しています。2023年から24年にかけての大統領選では、主要なSNS企業がトランプ氏による「フェイクニュース」拡散を警戒し、一部の投稿に注意喚起や削除対応を行った経緯があり、トランプ氏はこれを「検閲」と非難してきました。大統領復帰直後から「SNS企業による言論抑圧」を糾弾する動きが活発化し、プラットフォーム規制法案の可決を狙う動きも顕在化しています。
さらに注目されるのは、リベラル派メディアやジャーナリストに対するスラップ(威圧的訴訟)の増加です。とりわけ、最近ではAP通信がメキシコ湾の名称を「アメリカ湾」に変更するよう命じた大統領令に従わなかったことを理由に、ホワイトハウス取材を禁止される事態が起こりました。この事例は、政権の方針や意向に反する報道を行うメディアに対し、取材機会を剥奪するという新たな前例となり、ホワイトハウス記者会や国際的なジャーナリズム団体が「報道の自由が深刻に脅かされている」と警鐘を鳴らしています。議会や連邦裁判所には独立性を保とうとする勢力が残っているものの、共和党内でトランプ支持派が幅をきかせていることもあり、今後メディアに対する圧力や規制はさらに強化される可能性があります。
2.4 環境政策とESGへの逆風
第1期トランプ政権で顕在化した環境政策の軽視は、第2期でも変わらず、むしろ強化される形で展開されています。バイデン政権が復帰させたパリ協定へのコミットメントは再び形骸化し、化石燃料産業への支援やシェールガス・石油パイプラインの開発が前面に押し出され、環境規制が大統領令で次々に緩和されているのです。EUが進めるグリーンディールや世界各国のカーボンニュートラルの取り組みとの対立はますます深刻化すると見られます。
また、企業のESG(Environment, Social, Governance)推進に対しても、トランプ政権は「企業活動に対する過剰な干渉」であると批判的で、連邦政府の調達要件からESG要素を外す、あるいはESGに積極的な企業への優遇措置を撤廃するといった動きを見せています。これにより、グローバルなESG投資の潮流にもブレーキがかかるリスクが高まり、地球環境や人権、ガバナンス改革を重視するリベラル派の主張は国内外で逆風に晒されているといえるでしょう。
世界的リベラルの退潮とその要因
3.1 インフレと経済格差の長期化
新型コロナウイルス感染症のパンデミック、ウクライナ危機や米中対立など地政学的緊張によるエネルギー価格の乱高下は、2025年に至っても世界のサプライチェーンを混乱させています。インフレは一時的に落ち着いた国もあるものの、エネルギーや食料品価格の上昇が再加速し、生活コストの負担が重くのしかかる国が少なくありません。
リベラル政権の多くは財政出動による社会保障強化で対応しようとする傾向がありますが、政府債務が膨張し、金利上昇のリスクが高まることで「財政の持続可能性」が疑問視され、リベラル政策そのものへの批判につながる場合があります。一方で、トランプ政権をはじめとする保守・右派は、減税と規制緩和を掲げつつ、「移民排除による雇用確保」や「国内産業保護」をアピールすることで、短期的な支持を得やすい状況です。もっとも、これらのポピュリズム的政策は根本的なインフレ対策や財政均衡には寄与しにくく、長期的には経済格差の固定化や国際的孤立を招く懸念もあります。
3.2 移民・難民政策の混乱と治安問題
ヨーロッパでは引き続き中東やアフリカからの移民・難民流入が社会問題となり、過去数年の間にリベラル政党が「難民受け入れに積極的だ」として国民の批判を浴びる事例が続発しました。イタリア、フランス、ドイツなどでは右派ポピュリズムが依然として強い支持を集めています。さらに、東欧のハンガリーやポーランドでは、保守政権が長期間にわたって政権を維持しやすい状況が続いています。
2025年1月時点でも、世界各地の紛争地帯や貧困地域からの移民・難民は途切れず、その受け入れに伴う社会コストや治安への懸念が大きく報じられています。SNSや一部メディアによるセンセーショナルな報道により、移民や難民への偏見や恐怖心が拡大し、リベラル派が掲げる「多文化共生」は国民に理解されにくい状況が生まれているのです。その結果、選挙においてもリベラル政策は「国民の安全を軽視するもの」と批判され、支持を集めにくくなっています。
3.3 メディアとSNSの分断
トランプ氏再登場が象徴するように、SNSは現代の政治において強大な影響力を持っています。保守派・リベラル派それぞれが異なる情報源に依拠し、互いに相手の論陣に触れる機会が少ない「エコーチャンバー」現象が深刻化するなか、デマや偏向報道が拡散する土壌ができあがっています。
リベラル勢力がファクトチェックや理性的議論を呼びかけても、感情的で分かりやすいメッセージを掲げるポピュリストの方が拡散において優位に立ちやすいのは厳然たる事実です。2025年時点でも、この構図が大きく変わる兆しは見られず、トランプ氏のように発信力の高いリーダーが多くの国民の意識を左右する状況が続いています。
第2期トランプ政権下におけるリベラル衰退のシナリオ
4.1 多国間協調のさらなる後退
トランプ氏は、第1期政権でとった「国際機関との決別」路線をさらに徹底し、バイデン時代に部分的に修復されたNATOやWTOなどとの協力関係も「アメリカ主導の形骸化」へと逆戻りさせる可能性が高いです。特にWHO(世界保健機関)からは、拠出金の全面停止とともに正式離脱を表明し、世界的な公衆衛生政策へのアメリカの参加意欲はゼロに等しくなりました。
こうした動きは、リベラルが掲げる「地球規模課題を多国間協調で解決する」という理念を根底から揺るがします。国際的な合意形成の場にアメリカが不在となることで、気候変動対策や感染症対策が停滞し、国際社会は深刻なリーダーシップ不足に陥るリスクが高まります。
4.2 リベラル政党の求心力低下と保守・右派の台頭
アメリカの保守化に呼応し、ヨーロッパやアジアの国々でも極右や保守的な政党が勢いを強めています。フランスの極右政党「国民連合」やドイツの「AfD(ドイツのための選択肢)」、イタリアの強硬保守政党など、EUの求心力や多文化共生に反対する勢力が台頭し、移民や難民に対する排外的な主張を積極的に打ち出しています。
有権者の多くは、インフレや経済格差、移民問題など身近な不安に直面しており、「強い指導者」「わかりやすい解決策」を求める傾向が高まっています。リベラルが唱える多様性やグローバリズムは「理想論」「エリート主義」と見なされやすく、選挙でも劣勢を強いられるケースが相次ぐのは避けがたい情勢です。
4.3 情報統制と言論空間の偏り
第2期トランプ政権のもと、米国内の報道や言論空間は「賛成・反対」がより明確に二極化しており、メディアとSNS上の分断が拡大しています。トランプ支持派のメディアは政権を全面支持し、リベラル派メディアに対してはスラップ訴訟や取材拒否といった制裁がかけられ、間接的に言論を萎縮させる例も増加。結果的にリベラルな声が届きにくい状況が続き、リベラル政策や国際協調の重要性を伝えること自体が難しくなっていく恐れがあります。
新たな世代におけるリベラル復興の芽
上記のように、2025年時点では世界的にリベラルが逆風に立たされているのは事実です。しかし、同時に世界各地の若年層や市民運動を見ると、リベラルの価値観が完全に消滅するわけではなく、むしろ新たな形で再興の可能性を秘めているとも考えられます。以下、その理由を見ていきます。
5.1 Z世代・ミレニアル世代の政治参加
Z世代やミレニアル世代はデジタルネイティブとして育ち、多様性(Diversity)や国際感覚を自然に身につけている人が多いとされます。ジェンダー平等や気候変動、人権問題などに強い関心を持ち、SNSやオンラインキャンペーンで積極的に声を上げる傾向があるのです。
アメリカでも2020年大統領選や2022年中間選挙で若者の投票率が上昇し、2025年以降さらに若年層の政治参加が増えれば、リベラル色の強い候補や政策が再評価される可能性があります。現時点ではトランプ政権が誕生したものの、Z世代やミレニアル世代が社会の中心を担う段階になれば、政治的なバランスが変化する「揺り戻し」が起きることも考えられます。
5.2 テクノロジーを活用した市民運動と新しい公共圏
トランプ大統領がSNSを利用して支持者を動員しているように、リベラル側もまたテクノロジーを駆使した市民運動で対抗する手段を模索しています。クラウドファンディングやオンライン署名サイト、SNSでの情報拡散などによって、国境を越えた連帯や資金調達が可能になり、古い政治制度や国家の枠組みではコントロールしにくい「ボトムアップ型の国際協調」が生まれる余地があるのです。
最近ではブロックチェーン技術を活用し、公的機関や大企業の干渉を排した資金管理や投票システムの実験も進められています。こうした技術が広く普及すれば、トランプ政権のような強権的リーダーが意図的に情報を操作しようとしても、市民側が自律的に検証・反論できるプラットフォームが整備されるかもしれません。
5.3 グローバル課題の不可避性
気候変動、新たな感染症、サプライチェーンの寸断、核拡散のリスクなど、地球規模の課題は2025年以降も深刻化が予想されます。どれほど「アメリカ優先」と唱えようとも、単独国家で完結する解決策は現実的ではなく、多国間協調が不可欠となるでしょう。トランプ政権が「孤立主義」に傾いても、EUやアジアの主要国、さらには国連やNGOなど、多様なアクターがグローバル課題を解決しようとする試みは今後も進められていきます。
長期的視野で見ると、環境・人権・感染症対策における国際協力は避けて通れない道であり、結果的に「多様性の尊重」や「国境を越えた協調」を掲げるリベラルの基本理念が再評価される可能性は十分に残されています。
今後数年の展望:リベラルは本当に衰退するのか?
6.1 短期的には保守・右派の優勢が継続
2025年1月という時点でトランプ政権が力強い舵取りを始めている以上、少なくとも短期的にはリベラル勢力が政治的に不利な立場にあるのは疑いようがありません。ヨーロッパでも右派・保守派が根強い支持を得ており、多文化共生や移民政策を推進するリベラル政党は苦戦を強いられています。
インフレや経済格差への不安が依然として強い現在、「自国民を最優先で守る」という保護主義的メッセージは、どの国でも一定の支持を得やすい傾向があります。メディア・SNSの分断が続く限り、ポピュリスト的リーダーの訴求力がすぐに失われることは考えにくく、リベラル陣営は苦しい状況を余儀なくされるでしょう。
6.2 中長期的には「揺り戻し」と世代交代に期待
しかし、世界の政治は常に一方向へ突き進むわけではありません。強硬な保護主義や排外主義が行き過ぎれば、経済や国際関係の混乱から反動が起こり、国際協調路線やリベラル政策が再評価される場面もやがて到来し得ます。第1期トランプ政権(2017〜2021年)でも、対中・対EU貿易戦争の影響で米国内企業が苦境に陥り、移民政策の強硬化で国際的批判や労働力不足を招くなどの問題が次々に噴出しました。
また、Z世代・ミレニアル世代による投票行動や市民運動が本格化することで、政治のバランスが変化し始める「揺り戻し」の可能性があります。たとえ2025年の現段階では顕在化していなくても、2020年代後半にかけて世代交代が急速に進むならば、リベラルが掲げる社会的包摂や気候変動対策に共感する有権者が増えるかもしれません。リベラルに必要なのは、抽象的な理想論や道徳的優位性を振りかざすだけでなく、生活者目線の具体策を打ち出し、経済発展と両立する形で成果を示すことだといえます。
6.3 技術革新とローカルなイノベーション
中央政府が保守化・排外主義へ傾く一方、地方自治体やコミュニティレベルでのイノベーションがリベラル的価値観の受け皿となるケースも考えられます。たとえば、再生可能エネルギーの地産地消モデルや、自治体の独自条例による多様性尊重の推進など、「ローカル発」で革新的な取り組みが広がる可能性は否定できません。こうした取り組みが成功し、実際に地域社会の経済や暮らしを改善すれば、「排外的な政策は必ずしも最良の選択肢ではない」という実例を示すことになるでしょう。
技術革新(AI、ブロックチェーン、IoTなど)は不可逆的に進み、それがもたらす社会変化を中央政府が完全に制御するのは難しい面があります。新しい技術やコミュニティが持つ活力が、リベラルの柔軟さや創造性を後押しし、次の時代の価値観を形成する土壌を育む可能性もあるのです。
結論:2025年以降の世界でリベラルはどうなるのか
2025年1月時点でドナルド・トランプ氏が再び大統領に就任し、国際社会は大きな転換点を迎えています。アメリカ発の保守化・排外主義の波により、多国間主義や環境・人権を重視するリベラルの理念が強い逆風に晒されているのは確かです。インフレや移民問題に対する国民の不満は根強く、国内的にも社会的分断が深化し、保守派・右派の勢いは当面衰えそうにありません。
しかし、リベラルが完全に衰退し、消滅してしまうと断言するのは早計です。Z世代・ミレニアル世代は、従来の政治にはない柔軟な視野と国際感覚を持ち、社会運動やオンライン活動で存在感を高めています。加えて、気候変動や新たな感染症など、一国主義で対応しきれない問題が山積する現代において、国境を越えた連携と多様性の尊重はむしろ必要性が増しているともいえます。
短期的にはトランプ氏率いる保守・右派が世界を席巻し、リベラルは苦戦を強いられるでしょう。SNSやメディアの分断によって、ポピュリズム的メッセージが拡散しやすい環境はなお続くと考えられます。しかし、歴史が示すように、政治や社会は常に揺り戻しを繰り返します。強硬な保護主義や排外主義がもたらす弊害が顕在化し、行き詰まった局面では、新しいリベラルの可能性が光を放つタイミングが訪れるかもしれません。
そのためには、リベラル自身が国民生活の具体的課題(インフレや治安、雇用など)に対して、観念的な価値観の押し付けやエリート主義に陥ることなく、実効性のある政策を提示する必要があります。DEI(多様性、公平性、包括性)やESG(環境、社会、ガバナンス)を掲げるなら、それがいかに経済発展と結びつき、国民の生活の質を上げるのか、その成果をわかりやすい形で示さなければなりません。
今、多国間協力がうまく機能しなくなっているからこそ、市民や地方自治体、企業、NPOなどが協力し、下からのアプローチで国際的な連携やイノベーションを生み出すことが重要です。国際機関の指示や大統領令が停滞しても、小さな単位で少しずつ変革を積み重ねることで、新しい『現実的リベラル』の基盤が築かれる可能性があります。
2025年の現在から数年間は、保守化が加速する一方で、世界は気候変動、感染症、サプライチェーンの不安定化など、多様な難題に直面し続けるでしょう。そのような矛盾が深まるほど、リベラルの持つ「多者協調」「多様性の包摂」「普遍的な人権」の価値が、改めて見直される機会も増えていくと考えられます。リベラルがどう生き残り、いかに新しいかたちへと変容していくのか -それは、次の数年が大きな山場となるはずです。
いずれにせよ、今後の展開は世界各国の選挙結果、若い世代の動向、そして技術革新と地域コミュニティの実践が鍵を握ります。強権的で内向きな政治リーダーが躍進する一方、不可避のグローバル課題を解決するための国際協調が同時に求められるという、この時代特有の矛盾をどう乗り越えるのか――リベラルの命運は、まさにその試行錯誤のプロセスの中で決まっていくのではないでしょうか。