全国の過疎地域で成功している地域活性化事例や町おこしの事例とは?――人口減少時代に「生き残る地域」が実践している戦略

編集部投稿者:

「地方創生」という言葉が誕生して10年以上が経過しました。

しかし、日本全国の過疎地域では、人口減少・高齢化・産業衰退・空き家増加・公共交通の縮小などが同時進行しています。国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によれば、日本の総人口は2056年ごろに1億人を下回ると見込まれており、2070年には約8,700万人まで減少すると推計されています。特に地方部では、この縮小圧力が先行して現れており、総務省の集計では、2023年時点で全国の約885市町村が「過疎地域」の指定を受けています(出典:総務省「過疎関係市町村の状況」)。

一方で、同じ「人口減少地域」でありながら、移住者を増やし、観光客を呼び込み、地元企業の売上を伸ばし、新しい産業を生み出している地域が全国に存在します。

その差はどこから生まれるのでしょうか。

成功している地域に共通しているのは、「補助金を配ること」ではなく、「地域外から人・金・情報・仕事を継続的に流入させる仕組み」を構築していることです。

さらに重要なのは、成功している地域ほど「デジタル化」「ブランド化」「関係人口化」「民間主導」「外部連携」を重視しているという点です。

逆に、失敗する地域には共通して、「イベント依存」「観光依存」「箱モノ依存」「行政単独主導」「短期補助金依存」という特徴があります。

本記事では、日本全国の過疎地域における成功事例を詳細に分析しながら、企業経営者・自治体担当者が本当に優先順位を上げるべき地域活性化戦略について整理します。単なる「成功談」ではなく、「なぜ成功したのか」「なぜ他地域では再現できないのか」「今後の人口減少社会で何を優先すべきなのか」まで踏み込んでいきます。

Contents
  1. 1. なぜ今、過疎地域の戦略が重要なのか
  2. 2. 成功している地域活性化の共通点
  3. 3. 全国の成功事例【詳細版】
  4. 4. なぜ多くの町おこしが失敗するのか
  5. 5. これから重要になる地域戦略
  6. 6. 地域活性化で企業が果たす役割
  7. 7. 自治体が本当に優先すべきこと
  8. 8. 2040年に向けて――「縮小社会の地域経営」という視点
  9. まとめ
  10. FAQ――よくある疑問への答え

1. なぜ今、過疎地域の戦略が重要なのか

1-1. 人口減少が加速する日本の現実

日本の人口問題を語るうえで最も重要な視点は、単純な「人口減少」ではなく、「生産年齢人口(15歳以上65歳未満)の急減」です。高齢化そのものよりも、働き手の絶対数が減っていくことが地域経済に与えるダメージははるかに大きいのです。

具体的には、働き手が減れば消費も縮小します。消費が縮小すれば地元商店・飲食店・サービス業の売上が落ちます。税収が減れば行政サービスの維持が難しくなります。公共交通が廃止・縮小されれば自動車を持たない高齢者の移動が困難になります。医療機関が撤退すれば健康不安から人口流出がさらに加速します。この「縮小スパイラル」が多くの過疎地域で現実となっています。

しかし、この問題は「地方だけの問題」ではありません。食料・エネルギーの供給地である地方が空洞化すれば、都市部にも確実にそのダメージが波及します。また、企業のサプライチェーン維持、労働力確保、BCP(事業継続計画)の観点からも、地方の産業基盤の維持は都市部の企業にとって無視できない課題となっています。

1-2. 「成功」とは何かを先に定義する

地域活性化の議論では、しばしば「成功」の定義があいまいなまま事例紹介が進みます。イベントへの来場者数が多ければ成功なのか。移住者数が増えれば成功なのか。本記事では「成功」を以下の複数指標で考えます。

定住人口の維持・増加、関係人口(定期的に地域を訪問・関与する人)の拡大、地元企業売上の増加、若年層の流入と就業、雇用の創出、地域内経済の循環率の向上、そして財政の自立性向上です。

これらすべてを同時に達成している地域はほとんどありませんが、「複数の指標が改善傾向にある」地域が、本記事でいう「成功事例」です。また、「短期施策」と「長期戦略」を明確に分けることも重要です。イベント・PR・インフルエンサー施策・補助金キャンペーンは短期施策であり、産業育成・教育改革・デジタル人材育成・移住定住促進・地域ブランド構築は長期戦略です。成功している地域は、短期施策を使いながらも、長期戦略の軸を絶対に手放しません。

2. 成功している地域活性化の共通点

2-1. 「観光地化」ではなく「経済圏化」している

多くの町おこし失敗事例が「観光地化」に偏りすぎているのに対し、成功地域は「経済圏化」を意識しています。「経済圏化」とは、地域内でお金が循環する構造をつくることです。

具体的には、宿泊・飲食・地場産品販売・EC(ネット通販)・体験プログラム・教育・ワーケーション・二拠点居住などを有機的に組み合わせ、「滞在時間の長期化」と「地域内消費の拡大」を同時に実現しています。

観光客が来ても、地元でお金を使わずに帰ってしまう構造では経済圏は育ちません。成功地域では、地元の食材を使った飲食店、地元作家の工芸品を扱うショップ、体験農業、古民家の宿泊施設など、「地域でしか体験できないもの」に消費が集中する設計がなされています。

2-2. 「関係人口」を戦略的に増やしている

人口減少時代には、「住民数」だけを増やすことは現実的に難しいことが多いです。そこで近年注目されているのが「関係人口」という概念です。

関係人口とは、定住人口でも一時的な観光客でもなく、「地域と継続的なつながりをもつ人々」のことです。定期訪問者、二地域居住者、地域コミュニティへの参加者、地域ファンクラブ会員、ふるさと納税者、外部協力人材などが含まれます。

総務省は「関係人口」の拡大を地方創生の重要施策として位置づけており(出典:総務省「関係人口ポータルサイト」)、関係人口が増えることで地域への経済的・社会的投資が増え、やがて移住者の増加にもつながる好循環が生まれます。

2-3. 地域ブランドを明確に構築している

成功地域は「自分の地域が何の地域か」が明確です。アートの地域、温泉の地域、写真の地域、森林の地域、IT企業の地域……。こうしたコンセプトの明確化が、メディア露出・SNS拡散・移住者誘致・企業誘致において絶大な効果を発揮しています。

一方、失敗する地域は「何でもやる」傾向があります。農業もやる、観光もやる、ITも誘致する、アートも……と手を広げた結果、認知が分散し、地域の個性が埋没します。限られたリソースをひとつの強いコンセプトに集中投資した地域が、結果として多くの分野で相乗効果を得ています。

2-4. 民間主導・外部連携で動いている

行政単独で地域活性化に成功した事例は、ほとんど見当たりません。成功地域には必ず、地元企業・スタートアップ・金融機関・大学・外部人材・地域商社のいずれか、または複数が深く関与しています。行政の役割は「プラットフォームの整備」と「障壁の除去」であり、具体的な事業は民間が担う形が最も持続しやすいのです。

3. 全国の成功事例【詳細版】

3-1. 徳島県神山町――IT企業誘致とサテライトオフィス戦略

基本情報と背景

徳島県神山町は、徳島市から車で約40分の山間部に位置する人口約5,000人(2023年時点)の町です。かつては典型的な過疎地域として人口流出が続いていましたが、2010年代以降、地方創生の文脈でその名が全国に広まりました。

成功の核心:NPO法人グリーンバレーの戦略

神山町の変革を主導したのは、NPO法人グリーンバレーです。同団体は2010年から、古民家を改装してIT系企業に貸し出す「サテライトオフィス」事業を開始しました。その後、名刺管理サービスで知られるSansan株式会社(現在:東証プライム上場)が同年に進出したのを皮切りに、複数のIT企業・クリエイティブ系企業が神山町にサテライトオフィスを構えました。2023年時点では16社以上の企業・団体が入居するコワーキングスペース「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」も稼働しています(出典:wirelesswire.jp「徳島県神山町はいかにして『地方創生の聖地』になったのか」)。

「逆指名採用」という独自の受け入れ哲学

グリーンバレーが特に重視したのは「先着順・抽選ではなく、町にとって本当に必要な人・企業を逆指名する」という哲学です。同団体の理事長・大南信也氏はこの考え方を「結婚に例える」と語っています。単に企業数・移住者数を追うのではなく、地域の将来像に合致した人材・企業を選ぶことで、コミュニティの質を維持してきました(出典:ニッポン移住・交流ナビJOIN)。

光回線整備という先行投資

IT企業誘致の前提として、神山町では全戸に光ファイバー回線を整備しました。「東京にいなくてもできる仕事」の受け皿として、インフラ整備が他の地域への横展開を可能にする重要な先行投資でした。

神山まるごと高専の開校

2023年4月には、IT・デザイン・起業家教育を組み合わせた私立高等専門学校「神山まるごと高専」が開校しました。地域内に若い学生を呼び込み、サテライトオフィス企業と連携した教育を展開することで、単なる「オフィス誘致」から「教育・産業一体型の地域づくり」へとステージを上げています。

なぜ他地域で再現しにくいのか

神山町の成功は、「光回線があればどこでもできる」と表面的に模倣しても再現できません。その本質は、「お遍路文化」に根づく外部者受け入れの風土、NPOという中間支援組織の存在、「逆指名」という哲学、そして10年以上かけて積み上げてきた地域ブランドの複合的な産物です。

3-2. 島根県海士町――教育改革と関係人口戦略

基本情報と背景

島根県隠岐郡海士町は、島根・鳥取両県の県境から北約60kmに浮かぶ離島・隠岐諸島の中ノ島に位置します。人口は約2,300人(2023年時点)と少なく、典型的な過疎離島です。しかし、全国の地域活性化研究者・政策担当者から「日本の地方創生の最先端」として繰り返し引用される地域でもあります。

廃校危機から奇跡の復活:隠岐島前高校の魅力化

海士町の変革の出発点は、島前地域唯一の高校である島根県立隠岐島前高等学校の存続危機でした。2008年度には全校生徒が90人(1学年28人)にまで減少し、廃校の可能性が現実的になっていました。

そこで立ち上がったのが「隠岐島前教育魅力化プロジェクト」です。地域全体で高校の魅力を高め、島外から全国の生徒を呼び込む「島留学」制度を整備しました。その結果、2009年91人だった生徒数は2018年に179人へと倍増。全校生徒の半数が県外からの「島留学生」となり、トルコ・ミャンマー・ロシア・コスタリカ・グリーンランド・スリランカなど海外からの生徒も受け入れています(出典:島根県立隠岐島前高校公式サイト、文部科学省「始まりは小さな離島から」)。

2015年、一般財団法人「島前ふるさと魅力化財団」の設立

廃校の危機感を共有した海士町・西ノ島町・知夫村の3町村が出資して、2015年に「島前ふるさと魅力化財団」が設立されました。高校魅力化だけでなく、大人向けの「島体験」制度も展開し、5年間で約500名の社会人・学生が参画したと報告されています(出典:島前ふるさと魅力化財団公式サイト)。

「ないものはない」というブランドコンセプト

海士町が全国に広めた言葉が「ないものはない」です。この言葉は二重の意味を持ちます。「ないものはなくてもいい」という開き直りと、「大事なものはすべてここにある」という自信です。このコンセプトが、移住者・関係人口に強く響き、都市部の豊かさとは異なる価値観を体現する地域ブランドとして定着しました。

岩ガキ「春香」のブランド化と産業振興

教育改革と並行して、海士町は産業振興にも取り組みました。隠岐の海で育った岩牡蠣「春香」の高付加価値ブランド化により、地場産業の収益性を高めることに成功しました。また、ふるさと納税制度を活用した海産物の返礼品が人気を集め、町の財政基盤強化にも貢献しています。

教育が関係人口を生み、産業を育てる連鎖

海士町の成功の本質は、「教育」が単なる義務教育の維持にとどまらず、「若者流入→関係人口増加→地域産業参加→地域経済循環」という連鎖を生み出している点にあります。島で学んだ若者が卒業後も島と関わり続け、あるいは移住することで、人口の質的・量的な改善が進んでいます。

3-3. 大分県別府市――観光×スタートアップ×国際化戦略

基本情報と背景

大分県別府市は、人口約115,000人(2023年時点)の温泉観光都市です。「観光地」としての知名度は抜群ですが、近年は観光一辺倒でない、多角的な地域経済の構築が進んでいます。

立命館アジア太平洋大学(APU)の存在

別府市の産業多様化を語るうえで欠かせないのが、2000年に開学した立命館アジア太平洋大学(APU)の存在です。全学生数は約5,800人で、そのうち約2,800人が世界90カ国以上からの留学生です(出典:APU公式サイト)。大学が市内に存在することで、若者人口の確保、国際的な知見の流入、外国語が飛び交う多文化環境の形成が実現しており、別府市に「国際色」という強力なブランドを与えています。

BEPPU PROJECTによるアート×まちづくり

2005年から活動を開始した「BEPPU PROJECT」は、現代アートを通じた別府のまちづくりを推進するNPOです。別府の温泉街・商店街・廃屋などをアートの舞台に変え、「混浴温泉世界」などのイベントを開催してきました。アートが単なる「展覧会」に終わらず、まちの魅力発見と来訪者の滞在時間延長につながっています。

ワーケーションと外国人起業家誘致

コロナ禍以降、別府市はワーケーション拠点としても注目を集めています。温泉・食・自然環境を活かしながら働ける環境を整備し、国内外のリモートワーカーや起業家の誘致を進めています。APU卒業生の一部が市内で起業するケースも増えており、国際的な起業家コミュニティが形成されつつあります。

「観光一本足」からの脱却

別府市が示唆することは、「有名観光地であっても産業多角化は必要」という教訓です。温泉・宿泊業という強みを維持しながら、大学・アート・IT・国際人材という異質な要素を組み合わせることで、多様な人口流入と地域経済の厚みが生まれています。

3-4. 北海道東川町――「写真の町」と移住者増加の奇跡

基本情報と背景

北海道上川郡東川町は、大雪山のふもとに位置する人口約8,600人(2023年6月末時点)の町です。1993年の人口7,063人から30年間で約1,600人・約21.4%の人口増加を実現しており、人口減少が常態化する地方において、際立った例外的存在となっています(出典:長谷工総合研究所「適疎で豊かな暮らしを実現するまち『北海道東川町』」2025年1月)。

1985年「写真の町」宣言――全国初の試み

東川町の変革の起点は、1985年に行われた「写真の町」宣言です。温泉観光への依存からの脱却を模索していた当時の町長・中川音治氏が、札幌市の企画会社から提案を受け、2カ月の熟考の末に「町ぐるみで写真文化を育てる」決断を下しました。

宣言から2カ月後の同年8月には「東川町国際写真フェスティバル」を初開催。以降、2024年で40回目を迎えるまで途切れることなく続いています。高校写真部の全国大会「写真甲子園」も東川町を舞台に開催され、毎年全国から高校生が集います。「写真の町」という明確な一点突破型のブランド戦略が、メディア露出・移住者誘致・企業協賛の連鎖を生み出しました(出典:新・公民連携最前線PPPまちづくり「写真を軸に人が交わる東川町」)。

「3つのない」を強みに変える逆転発想

東川町には、一般的には「弱点」とされる3つの「ない」があります。国道がない、鉄道がない、そして上水道がない――の3つです。

特に「上水道がない」という点は、「水道代無料」として誤解されることがありますが、正確には町全体が大雪山の雪解け水から生み出された地下水を生活用水として活用しており、上水道施設そのものが存在しないという意味です(個別にボーリングを行い、地下水を利用)。この良質な地下水は、東川産米や日本酒(公設民営酒蔵「三千櫻酒造」)など地域ブランドのベースにもなっています。むしろ「都会にはないもの」として積極的に情報発信しています。

「ひがしかわ株主制度」という関係人口戦略

東川町は、ふるさと納税を「投資」と捉え直し、寄付者を「株主」として位置づける「ひがしかわ株主制度」を展開しています。株主になると「特別町民」への認定・株主証の発行・宿泊施設の優待などが受けられ、単なる納税者から「関係人口」へと転換させるユニークな仕組みです。

公立日本語学校と多文化共生

2015年には、日本初の公立日本語学校「東川日本語学校」が開校しました。アジアを中心とした外国人留学生が多数在籍しており、2022年末時点で町の外国人人口は500人を超えています。留学生の存在が町の人口を下支えするとともに、国際感覚を持つ人材が地域に根ざすきっかけにもなっています。

3-5. 新潟県十日町市――アートトリエンナーレによる地域再生

基本情報と背景

新潟県十日町市は、日本有数の豪雪地帯・越後妻有(えちごつまり)地域に位置します。農業・織物産業を主産業としてきましたが、過疎化が進んでいた2000年、世界規模のアートフェスティバルが誕生しました。

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ――数字が語る成果

「大地の芸術祭」は2000年に第1回を開催し、以降3年に1度の「トリエンナーレ」形式で続いています。アートディレクターは北川フラム氏。十日町市・津南町からなる越後妻有地域全域(約760km²)を会場として、国内外のアーティストが里山の廃校・古民家・棚田などにアート作品を展示します。

その規模は年を追うごとに拡大し、2018年の第7回では来場者数548,380人、新潟県内の経済波及効果は約65億円を記録しました(出典:公益財団法人福武財団)。2022年の第8回(コロナ対策として会期を145日間に延長)は来場者574,138人、2019年度から2022年度の4年間の経済波及効果は82億6,100万円に達しています(同財団)。

「非効率」を武器にする設計思想

大地の芸術祭の特徴的な設計思想は「徹底的な非効率化」です。作品を約200の集落に点在させ、1日で全部見ることを意図的に不可能にしています。これにより、来訪者は複数日滞在することを余儀なくされ、地元の宿泊・飲食・農産物への消費が促進されます。アートを「集客ツール」として使いながら、経済波及の設計まで組み込んでいる点が、単なるアートイベントとは一線を画します。

「こへび隊」というボランティア関係人口

大地の芸術祭では、「こへび隊」と呼ばれるサポーターボランティアが運営を支えています。2018年には延べ2,742人が参加し、大半が県外・海外からの参加者です。こへび隊経験者が翌年も越後妻有を訪れたり、移住者となるケースも多く、イベントを通じた関係人口の確実な積み上げが行われています。

課題:持続可能な運営人材の確保

一方で、大地の芸術祭には構造的な課題もあります。初期からのサポーターの高齢化が進み、地元サポーターのリタイアが増えています。また、外国人サポーターへの依存度も高く、コロナ禍のように海外渡航が制限されると運営人材が急減します。成功を継続させるためには、次世代の人材育成と地元若者の参加促進が急務となっています。

3-6. 岩手県紫波町――補助金ゼロの官民連携モデル「オガールプロジェクト」

基本情報と背景

岩手県紫波郡紫波町は、盛岡市と花巻市の中間に位置する人口約32,000人の町です。2009年、約20年間にわたって活用されずにいた東北本線紫波中央駅前の町有地10.7haを舞台に、全国の自治体関係者が注目する官民連携プロジェクトが動き出しました。

「オガールプロジェクト」の全容

「オガール」とは、「成長」を意味する紫波の方言「おがる」と、フランス語で「駅」を意味する「ガール」を合わせた造語です。2009年に「紫波町公民連携基本計画」が策定され、同年6月に官民連携のまちづくり会社「オガール紫波株式会社」が設立されました。

核となるのは、公共施設と民間施設を融合させた「オガールプラザ」「オガールベース」等の複合施設群です。図書館・産直市場・ホテル・バレーボール専用アリーナ・フットボールセンター・小児科医院・ベーカリー・保育園などが一体整備されており、2009年から2017年にかけて順次整備が完了しました(出典:全国町村会「岩手県紫波町/町の担い手である民間と市民が稼ぎ域内経済循環を生む」、事業構想オンライン「100万人が訪れる『オガール』の現在地」)。

国の補助金に頼らない民間資金調達

オガールプロジェクトの最大の特徴は、国の補助金に依存しない民間資金調達です。民間金融機関の融資審査を通す形でスキームを設計することで、「採算が取れる計画かどうか」の第三者チェックが働く構造にしました。公共施設を作って赤字を税金で補填するのではなく、民間施設の収益で施設全体を維持する仕組みです。その結果、年間来場者は100万人を超えるまでに成長しました。

地域内経済循環の実現

オガールエリアに産直市場が入居していることが、地域内経済循環を生み出しています。町内の農家が直接販売し、レストランが地産食材を使い、宿泊客が地元産品を購入する流れが確立されています。公共施設の整備を起点に、農業・飲食・観光・教育が連動する経済圏が生まれた点が、全国で高く評価されています。

視察受け入れが新たな産業に

紫波町オガールプロジェクトは、全国の自治体・民間事業者から視察が殺到する「モデル地区」となっています。視察対応自体が地域PRとなり、さらなる連携やビジネス機会を生む副産物にもなっています。

3-7. 岡山県西粟倉村――「百年の森林構想」とローカルベンチャーの聖地

基本情報と背景

岡山県英田郡西粟倉村は、鳥取県・兵庫県と隣接する岡山県の最北東端に位置する、人口約1,400人の小さな山村です。面積の約93%を森林が占め、そのうち約84%が人工林です。かつては少子高齢化・過疎化が深刻でしたが、ある大きな決断が村の運命を変えました。

2004年の「合併拒否」という決断

2004年、全国で市町村の大合併が進む中、西粟倉村は美作市との合併協議から離脱し、「村として自立する」道を選びました。当時の村長が「何かやってそれでも駄目だったらもう合併してもええけど、何もやらん、頑張ってもないのに、合併って選択肢はなかろう」と語ったとされるこの決断が、その後の「百年の森林構想」の出発点となりました。

「百年の森林構想」の内容

2008年に発表された「百年の森林構想」とは、村有林だけでなく個人所有の私有林も村が管理を請け負い、間伐・整備を行いながら、生み出した木材を村内で高付加価値加工して販売するという計画です。かつて市場に任せた結果、山は荒れ、林業は衰退していました。村が仲介役となり、山主・林業者・加工業者・販売者をつなぐサプライチェーンを再構築したのです。

この構想を民間事業として実装したのが、2009年に設立された「株式会社西粟倉・森の学校」(現:エーゼログループ)です。間伐材からフローリング材・割り箸・インテリア雑貨などを製造・販売し、社員30名・売上年間3億円超の企業に成長しました(出典:Yahoo!ニュース「森林とローカルベンチャーで蘇る村」)。また林業関連の売上全体は、2008年の約1億円から2017年には約8億円に拡大しています。

「ローカルベンチャー」という概念の誕生地

西粟倉村は「ローカルベンチャー」という言葉が生まれた地域として知られています。2015年にスタートした「ローカルベンチャースクール」では、村内での起業を目指す若者を募集し、最大3年間の支援(地域おこし協力隊制度の活用を含む)を提供します。このプログラムを通じ、村内には70社以上の事業者が誕生。村民の約16%が移住者となり、2023年には地域おこし協力隊が56人と全国トップクラスを誇ります(出典:宝島社「田舎暮らしの本」2024年1月号、マチジカン「岡山県北東部・西粟倉村に学ぶ」)。

「森の学校ホールディングス」から「エーゼログループ」へ

2023年4月、株式会社西粟倉・森の学校とエーゼロ株式会社が統合し、「株式会社エーゼログループ」となりました。木材加工・流通にとどまらず、ローカルベンチャー育成・不動産・福祉・イチゴ生産と事業を多角化させており、村内経済の中核的な存在となっています。

「百年の森林構想2.0」へ

村は現在、「百年の森林構想2.0」を掲げ、木材生産だけでなく「生物多様性」「再生可能エネルギー」「ヘルスツーリズム」にも軸足を広げています。また「西粟倉百年の森林でんき」という新会社も設立し、村内で使用する電力の100%自給を目指しています。

3-8. 徳島県上勝町――「葉っぱビジネス」と世界が注目するゼロウェイスト

基本情報と背景

徳島県勝浦郡上勝町は、人口約1,400人の山間の小さな町です。全国的にも知られる過疎地でありながら、2つのユニークな取り組みで世界から注目を集めています。

「いろどり」――お年寄りが担う葉っぱビジネス

1986年に始まった「いろどり」事業は、料亭・レストランの料理の彩りに使われる「つまもの(木の葉・花・草)」を商品化する事業です。かつては廃棄されていた里山の葉っぱや花を農家(特に高齢女性)が収集・パッケージングし、市場に出荷します。

株式会社いろどりの売上はピーク時に約2.6億円(2014年ごろ)に達し、高齢者の生産活動参加・所得向上・生きがい創出という多重の効果を生み出しました。特に注目されるのは、高齢者が各自のタブレット端末で市場相場をリアルタイム確認し、出荷量・品目を自分で判断するというDX的な側面で、IT×農業×高齢者活躍の先駆的モデルとして、国内外の視察者が絶えません。

2003年「ゼロウェイスト宣言」

上勝町はもう一つの顔を持ちます。2003年、日本で初めて「ゼロウェイスト宣言」を行い、2020年までにごみのゼロ(焼却・埋め立てゼロ)を目指すことを表明しました。ゴミを45品目に分類してリサイクルする取り組みは、リサイクル率80%超を実現し(出典:上勝町公式資料)、「サステナブルな地域づくり」の文脈で海外メディアにも繰り返し取り上げられています。

2020年には「上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)」がオープン。施設内には廃材を活用したカフェ・宿泊施設・交流スペースが設けられ、ゼロウェイストをテーマにした観光・体験プログラムの拠点となっています。

3-9. 和歌山県白浜町――リゾート地×大手IT企業のサテライトオフィス集積

基本情報と背景

和歌山県西牟婁郡白浜町は、白砂ビーチと温泉で知られるリゾート地です。神山町と異なるのは、観光地としてのポテンシャルをインフラとして活用しながら、IT企業のサテライトオフィスを集積させた点です。

大手企業が続々進出:リクルート・富士通・NTTコミュニケーションズ

白浜町は2010年代半ばから、「南紀白浜ICTオフィス」として大手企業のサテライトオフィス誘致を推進しました。リクルート、富士通、NTTコミュニケーションズ、パソナグループなど国内大手企業が次々とオフィスを構え、「白浜モデル」として全国から注目されました。

神山町が「クリエイティブ系スタートアップの聖地」であるとすれば、白浜町は「大企業が選ぶリゾートワーク拠点」という棲み分けになっており、両者の事例を比較することで、地域の立地・特性に応じた戦略の違いが明確になります。

「リゾートワーク」「ワーケーション」の先進地

白浜の海・温泉・自然環境は、「仕事しながら休む」ワーケーションに最適です。企業の研修・合宿・チームビルディングの場としての活用も増えており、観光需要と就労需要を組み合わせた新しい地域経済モデルを体現しています。

3-10. 福井県鯖江市――「メガネの産地」から「オープンデータ×JK課」へ

基本情報と背景

福井県鯖江市は、国産眼鏡の産地として知られています。鯖江市・あわら市・越前市などを含む福井県内の眼鏡産地は、国内眼鏡フレームの生産シェア約95%を占めており(出典:鯖江市産業・地域経済課)、地場産業の底力を持つ都市です。

「データシティ宣言」とオープンデータ先進市

2010年、鯣江市は「データシティ鯖江」を宣言し、行政データのオープン化を日本でいち早く推進しました。行政情報をCC(クリエイティブコモンズ)ライセンスで公開し、外部の開発者がアプリケーション開発に活用できる環境を整備。これが全国の自治体のオープンデータ政策の先駆けとなりました。

「JK課」という逆転の発想

2014年に設立された「鯖江市役所JK課」は、女子高校生が市の課題解決に取り組む行政参加プロジェクトです。若者の視点を政策に反映させるとともに、「JK課」という言葉が全国的なメディア露出を生み、「若者にやさしい・面白い自治体」としての鯖江ブランドを確立しました。

眼鏡産業の高付加価値化

眼鏡フレームの生産では、「鯖江産」「フクイ産」をブランドとして前面に出した高付加価値化が進んでいます。量産品で低価格競争に巻き込まれるのではなく、職人技術・産地ブランド・デザイン力を前面に出したD2C(メーカー直販)モデルで、産地の持続を図っています。

3-11. 長野県小布施町――栗と北斎で築いた「小さな国際都市」

基本情報と背景

長野県上高井郡小布施町は、人口約11,000人の小さな町です。長野電鉄の沿線に位置し、江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎が晩年を過ごした縁を持ちます。年間観光客は100万人を超え、面積あたりの観光客数は日本トップクラスといわれています。

「北斎館」と「栗菓子」という二枚看板

葛飾北斎の肉筆画を所蔵・展示する「北斎館」と、江戸時代から続く栗菓子文化(小布施堂・竹風堂などの老舗和菓子店)が観光の核です。特筆すべきは、これらが行政主導ではなく、地元の民間事業者・商工会議所主導で磨かれてきた点です。

まちなみ整備と「修景」という概念

小布施町で特徴的なのは、「修景(しゅうけい)」という考え方です。私有地の一部を開放して「オープンガーデン」とし、観光客が街中を回遊できる環境を整備しています。店の敷地を解放することで、観光客が回遊し、消費機会が増えるという設計思想は、地域全体が一つのテーマパークのように機能します。この「修景まちづくり」は全国の町おこし事例として広く引用されています。

食の高付加価値化

小布施の栗は高品質ブランドとして確立されており、和菓子だけでなく洋菓子・レストランのデザートなどにも展開されています。「小布施産の栗」という産地ブランドが消費者の信頼を得ることで、産品の付加価値が高まり、農家の所得向上にもつながっています。

3-12. 島根県邑南町――「A級グルメのまち」戦略

基本情報と背景

島根県邑智郡邑南町は、人口約9,000人の中山間地域です。農業・畜産・林業が主産業ですが、「食」を切り口にした独自の地域ブランド戦略で注目を集めています。

「A級グルメ」という逆張り戦略

多くの地方が「B級グルメ」で話題を集めようとする中、邑南町は「A級グルメ」を掲げました。「日本一の食の宝庫」をコンセプトに、黒毛和牛・島根和牛・地元野菜を使った高品質料理を提供できるシェフを全国から誘致し、「食の都」としてのポジショニングを確立しています。

地元の農業・畜産と飲食業を直結させることで、産地の付加価値を高め、農家の収益改善と観光客の誘致を同時に実現しています。高級食材を使った「体験型ガストロノミー」の先進事例として、食と農業・観光の融合モデルを構築しています。

4. なぜ多くの町おこしが失敗するのか

4-1. イベント依存――「祭りが終わったら何も残らない」

地域活性化の失敗事例として最も多いのが、イベント依存です。年1回の祭りやフェスに数万人が来場しても、翌年まで地域経済に効果が持続しないケースが全国に無数にあります。

イベントは「認知獲得」の手段としては有効ですが、それだけでは「継続的な経済循環」にはなりません。成功事例と失敗事例の決定的な差は、「イベント来場者をその後どう関係人口・移住者に転換するか」という設計があるかどうかです。大地の芸術祭がサポーター(こへび隊)制度を通じてリピーターを関係人口に変換し続けているのは、この設計の好例です。

4-2. 補助金依存――「お金が切れたら終わる事業」

国・県からの補助金を財源に事業を立ち上げながら、補助金期間終了とともに事業が消滅するケースは、地方創生の現場では珍しくありません。行政の側も「予算がついたから事業を作る」という発想に陥りやすいのが実態です。

西粟倉村やオガールプロジェクト(紫波町)が注目されるのは、国の補助金に頼らない民間資金・収益モデルを最初から設計している点にあります。「補助金なしでも成立するか」という問いを事業設計の出発点に置くことが、持続可能な地域事業の基本です。

4-3. 若者不在――「決める人も動く人も高齢者だけ」

地域活性化の会議に若い世代が参加していない場合、その取り組みは長続きしません。若年層が参加しない理由は多くの場合、「意見が通らない」「時間が取れない」「経済的なインセンティブがない」の3点です。

成功地域は例外なく、若年層・移住者・外部人材を意思決定の場に積極的に引き込んでいます。鯣江市の「JK課」や、海士町の高校魅力化プロジェクトで若い校長・コーディネーターが中心的な役割を担っているのは、この点で重要な示唆を与えています。

4-4. 地域内の対立――「よそ者は来るな」という壁

既存コミュニティの既得権益や、世代間の価値観の対立が、移住者・外部人材の受け入れを阻む事例は全国に数多くあります。「昔ながらのやり方を変えたくない」という心理は理解できますが、閉じた地域は縮小スパイラルから抜け出せません。

神山町が「お遍路文化」を背景に外部者受け入れの素地を持っていたことは偶然ではなく、東川町が年間600人以上の転入者を継続的に受け入れ定着させていることも、「人が来ることが普通の空気感」というコミュニティの文化的な土台があってこそです。

4-5. 観光偏重リスク――「観光だけでは持続しない」

地方創生の文脈では観光業が注目されがちですが、観光単独で地域経済を持続させている事例は少数派です。観光業は天候・感染症・社会情勢の影響を受けやすく、単一産業への依存はリスクを高めます。

コロナ禍は、この観光偏重リスクを白日のもとにさらしました。宿泊・飲食・観光業に依存していた地域が大打撃を受ける一方、製造業・農業・ITなど複数の産業を持つ地域は相対的に安定していました。地域活性化の文脈では、観光を「入口」として活用しながら、農業・製造・IT・教育など複数の産業軸を並行して育てる「産業の複線化」が不可欠です。

4-6. 行政主導の限界――「議員全員が反対した大地の芸術祭の教訓」

大地の芸術祭の立ち上げ期、十日町市の議員全員が「反対」を表明したことは有名な逸話です。住民説明会は2,000回以上行われ、ようやく2000年の開催にこぎつけました。行政の中から変革を生み出すことの難しさを象徴するエピソードです。

逆説的ですが、だからこそ「外部の民間主導・NPO主導」で動き始めた取り組みが成功しやすいのです。行政は「後から支援者に回る」役割を担い、先にリスクを取って動くのは民間・NPO・外部人材であるべきというのが、成功事例から導かれる共通教訓です。

5. これから重要になる地域戦略

5-1. AI・DXによる人手不足の克服

行政DX:マイナンバーと電子申請の徹底

人口が少ない地域ほど、行政職員の数も限られます。業務を効率化しなければ、基本的な行政サービスすら維持できなくなります。電子申請・AI相談窓口・自動化システムの導入は、過疎地域ほど効果が大きいといえます。

徳島県は全国でも早い段階から光ファイバー整備を推進し、「光サービスの県」として知られています。デジタルインフラの先行整備が、神山町のようなサテライトオフィス誘致の前提条件となった点は、他の自治体にとっても重要な教訓です。

農業DX:スマート農業と6次産業化

農業の担い手不足は深刻ですが、ドローン・IoTセンサー・AIによる収穫予測・自動灌漑などのスマート農業技術の導入により、少ない人手で大面積の農地を管理することが可能になりつつあります。

さらに、1次産品(農産物)を加工して2次産品(加工食品)とし、直接消費者に届ける3次産業(EC・直売所)まで一貫して手がける「6次産業化」は、農家の収益改善に直結します。西粟倉村の林業6次産業化がその好例ですが、農業・水産業でも同様のモデルが全国で広がっています。

医療DX:オンライン診療と遠隔医療

過疎地域での医療維持は、最も困難な課題の一つです。近年はオンライン診療の普及が進み、専門医が少ない地域でも、都市部の専門医にリモートで相談できる体制が整いつつあります。また、AIを活用した健康管理・疾病予防プログラムの導入も、医療資源が限られる地域での有効な手段として注目されています。

交通DX:MaaSとデマンド交通

公共交通が廃止・縮小された地域での「移動弱者」問題は、高齢化の進む過疎地域で特に深刻です。複数の交通手段(バス・タクシー・電動キックボード等)を一つのアプリで統合管理する「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」や、利用者の需要に合わせて運行するAIデマンド交通の導入が各地で試みられています。

自動運転技術の社会実装においても、交通量の少ない過疎地域は都市部より先行しやすく、実証実験のフィールドとして地方が先進地になる可能性があります。

5-2. 小規模・高付加価値化戦略

人口増加が難しい地域では、「量を増やす」発想から「質を高める」発想への転換が不可欠です。100人の観光客が1万円ずつ使う地域より、10人の観光客が10万円ずつ使う地域のほうが、地域経済への効果は同等です。さらに後者は、混雑・環境負荷・住民の生活への影響も少ない。

小規模・高付加価値化の具体例としては、高級旅館・プレミアム農産品(有機・こだわり品種)・地域限定D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)・クラフト産業・体験型ガストロノミーなどが挙げられます。邑南町の「A級グルメ」戦略は、この方向性を最も鮮明に体現した事例の一つです。

5-3. 地域商社モデルの展開

地域の産品を都市部・海外に売り出す際、個々の農家・事業者が単独でブランディング・販路開拓を行うには限界があります。そこで注目されているのが「地域商社」モデルです。

地域商社は、地域の複数の産品をまとめてブランディングし、EC・百貨店・海外輸出などの販路を一括して開拓します。地域内の事業者にとっては、販路開拓コストを分散できるメリットがあります。島根県海士町では、岩ガキ「春香」や地元加工品のブランド化と販売を、地域の中間支援組織が一体的に手がけています。

5-4. 再生可能エネルギーの地産地消

過疎地域は、太陽光・風力・木質バイオマス・小水力などの再生可能エネルギーのポテンシャルが高い地域でもあります。外部からエネルギーを購入するのではなく、地域内でエネルギーを生産・消費することで、エネルギー代金の地外流出を抑え、地域内経済循環を高めることができます。

西粟倉村が「西粟倉百年の森林でんき」を設立して村内電力の100%自給を目指していること、北海道下川町が木質バイオマスボイラーによる熱エネルギーの地産地消を実現していることは、この方向性の先進事例です。

6. 地域活性化で企業が果たす役割

6-1. CSRではなく「ビジネスとしての地方関与」

地方創生は、企業にとってCSR(社会貢献)の文脈で語られることが多いですが、この認識は変わりつつあります。地方に関与することは、新市場の開拓・人材確保・地域ブランドとの連携・サプライチェーン強化という、純粋なビジネス機会でもあるからです。

Sansanが神山町にサテライトオフィスを設けたことで、東京一極集中から脱却した働き方の先進企業としてのブランドイメージが高まり、採用活動にも好影響が出たことは有名な話です。地方への関与が企業ブランディングに直結する事例は、今後さらに増えていくでしょう。

6-2. 産学連携と地域課題の解決

大学・研究機関と地域が連携することで、地域課題の解決が加速します。APU(別府市)が国際人材を地域に送り込んでいることや、農業大学・工業大学などの地方大学が地元企業の技術開発を支援するケースも増えています。

また、スタートアップ・エコシステムの構築という観点では、地方大学の起業教育と地域課題の組み合わせが、新しいビジネスの苗床となる可能性があります。

6-3. 地域データ活用とDX支援

地方自治体はデジタル人材が不足しており、IT企業が地域にDX支援を提供することには大きなニーズがあります。人流データ・消費データ・空き家情報・農業生産データなどを可視化・分析することで、自治体の施策立案精度が上がります。

IT企業が地域に人材を派遣するだけでなく、自らもサテライトオフィスを構えることで、「現場感覚」を持ったDX支援が可能になります。白浜町の大手IT企業サテライトオフィス集積は、こうした企業×地域のDX連携の先例といえます。

7. 自治体が本当に優先すべきこと

7-1. 優先順位1:人材への投資

箱モノ(施設・建物)を作ることよりも、人材を確保・育成することが最重要です。特に、デジタル人材・起業支援人材・外部連携コーディネーターの3種類が不足している地域が多いです。

「地域おこし協力隊」制度(総務省)は、都市部から地方へ人材を送り込む有効な仕組みです。西粟倉村が協力隊を56人確保していることは、先述の通りです。しかし、重要なのは「受け入れ後の定着支援」です。協力隊の任期終了後に地域に残って活動を続けてもらうためには、経済的自立の見通しと地域コミュニティへの帰属感が不可欠です。

7-2. 優先順位2:地域外との接続強化

閉じた地域は縮小スパイラルに入ります。都市部・海外・大学・EC市場との接続が強い地域ほど、人・金・情報の流入が持続します。特に重要な接続軸は以下の4つです。

まず都市部との人の接続(移住・関係人口)。次に市場との商品接続(EC・地域商社・産地ブランド)。そして大学・研究機関との知の接続(産学連携・インターンシップ)。最後に海外との文化・経済の接続(インバウンド・輸出・留学生受け入れ)です。

7-3. 優先順位3:データに基づく意思決定

「感覚」や「経験則」だけでは、人口減少時代の地域経営を乗り切ることはできません。人流データ・消費データ・移住動向・空き家活用率・観光回遊データなどを整備・可視化し、PDCAサイクルを回すことが求められます。

鯣江市の「データシティ」宣言は早すぎた先行投資かもしれませんでしたが、今日の視点では理にかなった戦略でした。行政データのオープン化は外部の開発者・研究者を引き付け、地域の課題解決に巻き込む「重力」を生み出します。

7-4. 優先順位4:失敗を許容する文化の醸成

成功している地域の共通点の一つに、「失敗を許容する空気感」があります。大地の芸術祭は当初、議員全員の反対を受けながら実現しました。神山まるごと高専も、「本当に成功するか分からない」という不確実性の中で設立されました。西粟倉村も合併拒否という「失敗するかもしれない」賭けから始まっています。

「前例がない」「他の自治体がやっていない」「予算がない」の3つを克服することが、東川町の松岡前町長の方針として語り継がれています。失敗を恐れず挑戦を続けることができる組織文化こそが、地域活性化の最大のインフラかもしれません。

8. 2040年に向けて――「縮小社会の地域経営」という視点

8-1. 「人口を取り戻す」ではなく「人口規模に適した経済圏をつくる」

2040年以降、多くの地域で現状より人口が大きく減少することは、ほぼ確実な見通しです。この前提に立つと、「昔の人口規模に戻す」という発想は現実的ではありません。重要なのは、「縮小した人口規模でも持続できる地域経営モデルをつくること」です。

人口が半分になっても、財政が持続し、必要なサービスが維持でき、住民が一定の生活水準を保てるならば、それは「成功」といえます。西粟倉村(1,400人)や海士町(2,300人)が全国の先進事例として注目されるのは、「小さな規模でも稼げる・循環できる」モデルを実証しているからです。

8-2. 「消滅可能性都市」論争への冷静な視点

2014年に当時の内閣官房参与・増田寛也氏が発表した「消滅可能性都市」リストは大きな衝撃を与えましたが、同報告で「消滅可能性」とされた自治体の中にも、その後に独自の再生を遂げた地域があります。神山町・海士町・西粟倉村は、いずれも人口的には「過疎」の定義に当てはまりながら、全国から視察者が集まる先進地となっています。

「人口が少ない=消滅」ではなく、「人口規模に見合った産業・財政・コミュニティを持てるか」が本質です。この観点からの地域戦略の立案が、2040年を見据えた地域経営のスタート地点となります。

8-3. 広域連携という選択肢

単独の市町村では担いきれない行政サービス・産業振興を、複数の自治体が連携して担う「広域連携」も重要な選択肢です。隠岐島前高校が海士町・西ノ島町・知夫村の3町村連携で維持されていることは、その好例です。一自治体の財政や人員では不可能な事業も、広域で連携することで実現できます。

8-4. 「インフラ維持の限界」に向き合う

2040年以降は、道路・橋梁・上下水道・公共施設のインフラ老朽化と人口減少が重なり、インフラ維持そのものが財政的に困難になる地域が出てきます。「何を維持し、何を手放すか」という取捨選択の判断を、住民・行政・企業が共有したうえで行うプロセスが求められます。「賑やかさを取り戻す」ことと同時に、「小さくても豊かな暮らし」のインフラをどう設計するかが、次世代の地域政策の中心課題となります。

まとめ

本記事では、全国の過疎地域における10以上の成功事例を詳細に分析しました。各地域の戦略はそれぞれ異なりますが、共通する要素を整理すると以下のようになります。

第一に、「人口を増やす」よりも「地域と継続的につながる人を増やす」ことを重視しています。定住人口に加え、関係人口・二地域居住・ワーケーター・島留学生・サポーターなど、多様な形の人の流入が組み合わさっています。

第二に、強い地域ブランドを一点突破で構築しています。写真の町(東川町)、アートの里(十日町市)、IT企業の実験地(神山町)、ローカルベンチャーの聖地(西粟倉村)、教育改革の島(海士町)など、「その地域といえばこれ」というコンセプトが明確です。

第三に、民間主導・外部連携で動いています。行政は支援・インフラ整備に徹し、実際に動くのは民間事業者・NPO・外部人材です。行政が「後から乗る」ことで、意思決定の柔軟性と継続性が保たれています。

第四に、補助金依存ではなく自走可能なビジネスモデルを設計しています。紫波町オガールプロジェクトが民間金融機関の審査を通す形でスキームを設計したことは、その象徴です。

第五に、デジタル化・データ活用を当初から組み込んでいます。光回線整備(神山町)、タブレット活用(上勝町いろどり)、オープンデータ(鯣江市)など、デジタル技術を地域課題解決の道具として具体的に使っています。

これからの地域活性化では、「イベントを打つ」「施設を作る」だけでは不十分です。必要なのは「地域経営」という視点です。人口が減っても稼げる産業を育て、外部との接続を維持し、データを活用して意思決定の質を高め、若者・移住者・外部人材を巻き込む。これが2040年以降も持続できる地域の条件です。

企業・自治体・金融機関・大学・住民が連携し、人口減少社会でも持続可能な経済圏を構築できるか。そこが、これからの地域間競争を大きく左右していきます。

FAQ――よくある疑問への答え

地域活性化で最も重要なことは何ですか?

最も重要なのは「継続的な経済循環をつくること」です。単発のイベントや補助金事業ではなく、関係人口の拡大・地域ブランドの確立・複数産業の育成を長期的に組み合わせる「地域経営」の視点が必要です。また、民間主導で動き始めることと、行政が外部人材の障壁を取り除くことが鍵となります。

人口が1,000〜2,000人程度の超小規模な村でも成功できますか?

可能です。岡山県西粟倉村(約1,400人)や島根県海士町(約2,300人)、徳島県上勝町(約1,400人)はいずれも超小規模地域でありながら、全国から視察者が集まる先進事例となっています。重要なのは規模ではなく、「その地域にしかないもの」を磨き上げ、外部と継続的につながるコンセプトを持てているかどうかです。

地方創生で失敗する主な理由は何ですか?

主な要因は4つあります。(1)イベント依存(一回限りの賑わいで終わる)、(2)補助金依存(補助期間終了後に事業消滅)、(3)若者・外部人材の不在(意思決定の場が固定化し変化が生まれない)、(4)行政単独推進(民間のリスクテイクがなく事業が縮小志向になる)です。これらのうちいくつかが重なると、取り組みは長続きしません。

観光業はもはや地域活性化の主役にはなれないのでしょうか?

観光業が「無意味」なわけではありませんが、「観光単独で地域経済を支える」のは持続可能性の点でリスクが高いです。コロナ禍が示したように、外的ショックで観光客が途絶えたとき、観光一本足の地域は一気に危機に陥ります。観光は「地域への入口」として有効に活用しながら、製造業・農業・IT・教育・エネルギーなど複数の産業軸を同時に育てる「産業の複線化」が2040年以降の地域戦略の必須条件です。

AIやDXは地域活性化に必要ですか?

「必要か」という問いへの答えは「今後は必須」です。人手不足が深刻化する過疎地域において、行政DX・農業DX・医療DX・交通DX・観光DXは、人口規模が小さくても必要なサービスを維持するための不可欠なインフラになります。また、ECやSNSを活用した地域産品の全国・海外販売は、地域商社の機能を持たない小さな事業者でも実現可能な販路拡大手段です。デジタル活用を「難しい」と後回しにする地域と、積極的に取り入れる地域とでは、今後10年で大きな差が生まれるでしょう。

企業が地方に関与するメリットは何ですか?

CSRにとどまらない純粋なビジネスメリットがあります。サテライトオフィス設置による採用ブランディングの向上、地域産品との協業による新商品開発、農業・食品・エネルギー分野における新市場の開拓、そしてリスク分散(BCPとしての地方拠点)です。神山町にサテライトオフィスを構えた企業が「新しい働き方の先進企業」として採用競合優位を得たことは、「地方関与=コスト」という固定観念を覆す好例です。

自治体担当者として、最初の一手は何をすべきですか?

最初の一手は「外部の視点を持つ人材を意思決定の場に入れること」です。移住者・若者・外部のコンサルタント・他地域の先進事例を学んだ職員など、現状に縛られない視点を持つ人を内部に引き込むことが変革の出発点になります。次に「補助金ありきでなく、事業が自走できるかを先に問う」設計思想を組織全体で共有することです。具体的な施策は地域の資源・立地・産業によって千差万別ですが、この2つの「姿勢」を変えるだけで、取り組みの質は大きく変わります。

地方創生に関するおすすめ記事

消滅可能性自治体に関してはこちらの記事「どうする!?湯河原 消滅可能性自治体脱却会議(特別対談:神奈川県湯河原町 内藤喜文町長)」も併せてお読みいただくことをお勧めします。
📄 無料ダウンロード

「消滅可能性自治体とは?消滅可能性自治体の危機と対策は?」のホワイトペーパー

全国の自治体が直面する課題と具体的な解決策をまとめた実践ガイド

ホワイトペーパーをダウンロードする

地方活性化に関するおすすめ記事

地方活性化のための施策に関しては、こちらの記事を読むことをお勧めします。