「商品を探して、比べて、買う」。これがこれまでのネットショッピングの当たり前でした。ところが2025〜2026年にかけて、その前提が根本から崩れ始めています。消費者がキーワードを打ち込むのをやめ、AIに話しかけるようになり、AIがかわりに選び、場合によっては代わりに買ってくれる──そんな世界が、実際に起きつつあります。
本稿では、AIがECの構造をどう変えているかを、具体的なプレーヤーとファクトをもとに整理します。大きくは「キャラクター型AI店員」「AIエージェント型」「AIショッピング基盤(B2B SaaS)」の3つの潮流があります。それぞれの特徴と実態を確認しながら、これから日本でどのような機会が生まれるかまで、順を追って見ていきましょう。
2025〜2026年に起きた構造的転換
ECにおける消費者行動の変化は、これまでも繰り返されてきました。テキスト検索から画像検索へ、PCからスマートフォンへ、という変化はどれも大きなものでした。しかし今回の変化はそれらとは質が異なります。インターフェースの変化にとどまらず、「購買の主体」が変わりつつあるからです。
従来のECは「人間が意思決定し、機械が処理する」モデルでした。ユーザーが検索し、フィルタリングし、比較し、カートに入れ、決済する。AIはあくまで「補助」でした。それが今、「AIが提案し、AIが比較し、AIが代行決済する」モデルへと移行しつつあります。購買プロセスへのAIの関与が、補助から主体へと変わっているのです。
この転換を後押ししているのは、大規模言語モデル(LLM)の急速な実用化です。自然言語で曖昧な要望を受け取り、文脈を理解し、適切な商品を提案できるようになったことで、「検索窓」という概念そのものが揺らいでいます。2025年秋以降、アメリカではAmazon、OpenAI、Perplexity AIなどが相次いで購買完結機能を発表しており、AIが「発見」から「購入」まで一気通貫で担う仕組みが実装段階に入っています。
以下では、現在進行中の動きを3つの類型に分けて具体的に見ていきます。
キャラクター型EC・AI店員──ブランドに人格を持たせる
まず比較的わかりやすい形として普及が進んでいるのが、「AIが人格を持ってユーザーに接客する」モデルです。単なる検索補助ではなく、スタイリストやビューティーアドバイザーのように振る舞うAIが、購買体験全体を設計します。
Pinterest Assistant──「世界観ベース」の推薦エンジン

Pinterestは2025年10月30日、「Pinterest Assistant」と呼ばれるAIショッピングアシスタントを正式発表しました。(出典:Pinterest Newsroom、2025年10月30日)
このツールの特徴は、ユーザーが保存した画像、好みのテイスト、閲覧履歴、空間の雰囲気(エステティック)などをまとめて解析し、「この服が好きならこれも好きなはず」「この部屋ならこの照明が合う」といった形で世界観ベースの提案を行う点にあります。単純な属性マッチングではなく、ユーザーの”感性の文脈”を読もうとするアプローチです。
技術的な背景として、PinterestはユーザーのピンやボードをもとにしたTaste Graph(テイストグラフ)と呼ばれる独自のデータ基盤を構築しており、同社によれば自社の視覚的推薦モデルは汎用モデルと比べて30%以上高い精度を実現しているとしています。(出典:Pinterest、2025年11月)
インターフェース面では、テキスト入力だけでなく音声入力にも対応しており、「来週の旅行に合う服を提案して」のような口語的な要望にも応答します。現在はアメリカとカナダの18歳以上のユーザーを対象にベータ展開中で、月間6億人を超えるアクティブユーザーのデータを活用して推薦精度を高めています。(出典:Pinterest、2025年10月)
CEO・Bill Ready氏は「Pinterestは、あなたのことを一番わかっている友人のような存在として買い物をサポートするプラットフォームになる」と述べており、同社は「AIが動かすビジュアルファーストのショッピングアシスタント」としての再定義を進めています。(出典:Pinterest Q2 2025 Earnings Call)
このモデルは、従来の「検索エンジン型EC」とは本質的に異なります。キーワードで呼び出す「検索」ではなく、価値観を共有する「スタイリスト」に近い体験です。ファッション、インテリア、ビューティーといった「感性で選ぶ」カテゴリーとの親和性が特に高く、Z世代を中心に使われるプラットフォームとしての強みを活かした展開といえます。
Octane AI──クイズが購買を動かすD2Cの定番ツール

Octane AIは、Shopify上で動くD2Cブランド向けのAI推薦プラットフォームです。現在5,000以上のShopifyストアに導入されており、Jones Road Beauty、ILIA、Bambu Earthなど多数のブランドが採用しています。(出典:Octane AI公式サイト)
最大の特徴は、クイズ形式とパーソナライズ推薦の組み合わせです。「あなたの肌タイプは?」「普段のライフスタイルは?」といった質問への回答をもとに、ユーザーに最適な商品を提案するフローを構築できます。このクイズを通じて取得できるデータは、ユーザーが自発的に提供したいわゆる「ゼロパーティデータ」であり、Cookie規制が強まる時代に価値が高まっています。
2024年末には、同社独自のAIエンジン「CORE-1」を搭載しました。商品カタログの構造を学習し、クイズの回答内容に基づいて動的に推薦ロジックを最適化します。また、画像アップロードに対応したシェードマッチング機能(化粧品などの色合い照合)も提供されており、コスメ・ヘルスケア・アパレルといった特定ジャンルへの適性が際立っています。
ビジネスモデルとしては月額50ドルから始まるSaaSで、Klaviyo・Attentiveなどのメール・SMS配信プラットフォームとの連携によって、クイズで得た顧客情報をそのままマーケティング自動化に活用できる点が評価されています。
UXの特徴を一言で表すなら、「診断・提案型の接客」です。ECのプロダクトページを閲覧させるのではなく、インタラクションを通じて顧客をゴールへ誘導する設計は、オンラインの美容部員やライフスタイルアドバイザーに近い体験を生み出しています。
Laxi.ai──ECサイトに常駐するAI販売員
Laxi.aiはエストニア発のスタートアップで、eコマース専用のAIチャットアシスタントを提供しています。現在はShopifyとWooCommerceとの連携を中心に展開しており、中小規模のEC事業者を主なターゲットとしています。(出典:Crunchbase・Capterra)
製品の特徴は「AI販売員の常駐化」です。ブランドのトーン・アンド・マナーに合わせた人格を設定でき、商品カタログ・FAQドキュメント・サポート履歴を学習させることで、24時間・多言語での接客が可能になります。対応言語を問わず一貫したブランドボイスを保てる点が、グローバル展開を目指すEC事業者から評価されています。
機能面では、カスタマーサポートと商品推薦を一体化しており、顧客の購入意向を検知した際に関連商品をリアルタイムで提案するエンジンを備えています。同社によれば導入によって転換率が最大40%向上した事例があるとしています。(出典:Laxi.ai公式サイト)
ただし現時点ではシード前(Pre-Seed)段階のスタートアップであり、導入実績や第三者による検証データは限られています。大手プレーヤーと同列に語るには留保が必要ですが、「中小EC向けのAI接客SaaS」という切り口で注目されているプロダクトです。
このような「AI店員の常駐」モデルは、人件費・時間・言語の制約を超えてスケールできる点に本質的な価値があります。特に越境ECや多言語対応が必要なブランドにとっては、コストを抑えながらサービスレベルを一定に保てるメリットが大きいといえます。
AIエージェント型EC──最も注目される次の主役
業界内で最も注目を集めているのが、AIが人間のかわりに「探して・比べて・買う」まで実行するエージェント型のアプローチです。単なる推薦にとどまらず、意思決定と実行の両方をAIが担います。
Perplexity AI──「回答エンジン」が購買プラットフォームへ進化
Perplexity AIはもともと「AIによる検索回答エンジン」として知られていましたが、2024年末に有料ユーザー向けの「Buy with Pro」機能を導入し、EC機能への参入を始めました。2025年11月には、PayPalとの提携のもとで無料ユーザー向けにも購買機能を開放しています。(出典:CNBC、2025年11月19日)
機能の概要は、ユーザーが「〇〇のおすすめ商品は?」と質問すると、Perplexityがレビューを集約し、価格比較を行い、候補商品をカード形式で表示します。そのままPayPalで決済すれば、Perplexityのインターフェースを離れることなく購入が完了します。提携マーチャントは2025年末時点で5,000社以上に達しています。(出典:PayPal プレスリリース、2025年11月25日)
さらに同社が開発中のブラウザ「Comet」では、AIが実際にブラウザを操作して複数のサイトをまたいで購買を代行する機能を実装しようとしており、これがAmazonとの摩擦を生む原因にもなっています。Amazonは自社プラットフォームへのボット的なアクセスを制限しており、Perplexityは「ブリング(強制的な排除)」と表現して批判しています。(出典:Digital Commerce 360、2025年)
Perplexityのアプローチの特徴は、「調べる・比べる・買う」という購買プロセスを一つのインターフェースに統合し、「検索から購入までのフリクション(摩擦)をゼロにする」ことを目指している点です。同社がもたらす変化は、従来のGoogle経由の商品発見モデルを迂回し、AIが商品発見と購買決定をワンストップで担う構造への転換です。
Amazon Rufus──巨人が本気を出した結果
Amazonが2024年2月にベータ版として開始した「Rufus」は、Amazonのアプリとウェブサイトに直接組み込まれたAIショッピングアシスタントです。2025年を通じて急速に成長し、2025年Q4決算で公表されたデータは業界に衝撃を与えました。
年間3億人超の顧客がRufusを利用し、2025年の追加売上効果は年間換算で約120億ドル(約1.8兆円)に達しました。Rufusを利用した顧客は非利用者と比較して購入完了率が60%高いという数字も示されており、コンバージョンへの貢献が具体的な数値で裏付けられています。(出典:Amazon 2025年Q4決算発表、2026年2月)
Rufusが優れているのはその対話の自然さです。「犬の毛がつきにくいソファが欲しい」「出張に使える軽いバッグは?」「カメラ初心者向けのおすすめは?」といった曖昧な条件を言語で伝えると、Amazonの膨大な商品カタログ、レビュー、Q&Aをもとに最適な候補を絞り込んで提示します。これは従来のキーワード検索が苦手としてきた「曖昧なニーズの言語化」を代行しているといえます。
2025年11月には、さらに一歩進んだ機能「Buy For Me」が追加されました。これはAmazonが扱っていない商品について、Amazonのエージェントが外部サイトを巡回して購入を代行するというものです。自社ECの枠を超えて「購買代行エージェント」として機能しようとする姿勢は、Amazonの商取引戦略における大きな転換を意味します。(出典:Amazon、2025年11月)
なお、元の記事にあった「数百億円規模の利益改善を期待」という表現については修正が必要です。実際に報じられていた内部試算では、2025年の営業利益への貢献は約7億ドル(約1,050億円)超とされていましたが、最終的な決算では「追加売上約120億ドル(1.8兆円)の創出」という形で開示されました。利益改善額そのものは公式には非開示です。(出典:Business Insider April 2025報道、Amazon Q4 2025 Earnings)
OpenAI・ChatGPT──7億人プラットフォームの商業化
OpenAIは2025年9月29日、ChatGPT内で商品を購入できる機能「Instant Checkout」を発表しました。当初はアメリカのEtsy出品者との連携から始まり、Shopify経由の100万以上のマーチャントへの展開も予告されました。StripeのAgentic Commerce Protocol(ACP)と呼ばれる決済インフラを活用し、チャットを離れることなく購入を完結させる仕組みを実装しました。(出典:OpenAI 公式ブログ、2025年9月29日)
週間アクティブユーザーが7億人を超えるChatGPTをショッピングプラットフォームとして活用するこの方針は、広告費を払わずに自然な会話の中で商品が推薦される「新しい発見チャネル」として小売業界の注目を集めました。(出典:OpenAI, 2025年8月)
ただし、2026年3月時点では方針に変化が生じています。OpenAIはInstant Checkoutの「ChatGPT内での購入完結」から撤退し、購入はマーチャントの自社サイトやアプリで完結する形に移行すると発表しました。商品の比較・発見機能はChatGPT内に残しつつ、購入処理はマーチャントに委ねるという方向性です。(出典:CNBC、2026年3月24日)
この転換の背景には、マーチャントのシステム連携の難しさ、商品情報の正確性の確保、ポイントプログラムや返品処理などの複雑な対応が想定より困難だったことが挙げられています。とはいえ、「商品の発見・比較フェーズ」においてChatGPTが強力な影響力を持ちつつある点は変わりません。「Googleの検索を経ずにChatGPTで商品を見つけて買う」という消費行動が、着実に広がりつつあります。
なお、Instacart・Target・Walmartなどは独自のChatGPT連携アプリを開発しており、こちらはInstant Checkoutとは異なる統合型の購買体験として引き続き展開されています。(出典:Instacart プレスリリース、2025年12月)
AIショッピング基盤(B2B SaaS)──投資家が注目する裏方の主役
消費者から直接見えにくいですが、AI購買体験を支える「インフラ」層でも大きな変化が進んでいます。このB2Bレイヤーは、投資家からの注目度が特に高いカテゴリーです。
Algolia──検索窓ごとAIに変えるプラットフォーム
Algoliaはもともとサイト内検索エンジンを提供するB2B SaaS企業として知られていましたが、現在は「AI Retrievalプラットフォーム」として大規模な変容を遂げています。年間1.75兆件を超えるクエリを処理し、18,000以上の企業・デベロッパーに提供されています。(出典:Algolia 2025年11月 プレスリリース)
現在のAlgoliaが提供するのは、キーワード検索・ベクター検索・ハイブリッド検索を組み合わせた「意味のわかる検索」と、RAG(Retrieval-Augmented Generation)を活用した会話型ECです。従来の「検索窓にキーワードを打ち込む」体験を、「AIがユーザーの意図を理解して最適な商品・情報を返す」体験に置き換えるための基盤ツールとして機能しています。
Algoliaが2025年11月に発表した第6回年次レポート(1,100人のB2C小売意思決定者対象)によると、61%のB2C小売業者が翌年中にアジェンティックAIの実装を計画しており、94%がジェネレーティブAIがロイヤルティと再購買に良い影響を与えると回答しています。(出典:Algolia & Coleman Parkes Research、2025年11月)
Algoliaの立ち位置として重要なのは「検索窓そのもの」をAI化している点です。消費者には見えない部分ですが、多くのECサイトの裏側にAlgoliaの検索インフラが使われています。そのインフラをAI・会話型・エージェント型に切り替えることで、フロントエンドの体験を変えずにバックエンドの知能を高められる。これがB2B市場における同社の価値提案です。
Insider──CRM×AIエージェントの組み合わせ
Insiderは、行動履歴・感情推定・文脈理解を組み合わせた顧客エンゲージメントプラットフォームです。「AI Shopping Agent」を展開しており、顧客のサイト内行動(閲覧、クリック、カート追加、購買など)をリアルタイムで分析して次のアクションを予測し、適切なタイミングで適切な商品・メッセージを届ける仕組みを提供しています。
InsiderのアプローチはCRMとAIエージェントの融合と表現できます。マーケティングオートメーション・プッシュ通知・メール・SMS・Web接客を一体化させ、ユーザーの文脈に合わせた動的なコミュニケーションを実現します。特にリテンション(顧客維持)フェーズにおける精度の高さが評価されており、ロイヤルカスタマーの育成に向いています。
これから伸びる3つのビジネスモデル
現在進行中のトレンドを踏まえると、今後さらに成長が見込まれる方向性として3つが浮かび上がります。
「推しキャラ」×EC──感情経済が駆動する販売革命
VTuberやAIアイドル、AI美容部員、AI執事のようなキャラクターが商品を推薦するモデルです。単なる情報提供ではなく、キャラクターへの愛着と応援消費が購買を動かします。
このモデルは中国・韓国ですでに実装されており、中国ではライブコマースとAIキャラクターの組み合わせが巨大市場を形成しています。日本はVTuberやアイドル文化の土壌があるため、「キャラクターベースの感情経済」との相性は世界でも屈指といえます。
技術的には、テキスト生成・音声合成・アバター制御を組み合わせることで、24時間リアルタイムで接客できるキャラクターを比較的低コストで作れるようになっています。今後はキャラクターIPとブランドのコラボレーション、あるいはブランド独自キャラクターの育成が、EC戦略の重要な要素になる可能性があります。
LINE人格型AI──日本ならではのメッセージ型コンシェルジュ
日本ではLINEが圧倒的な生活インフラとして機能しています。月間アクティブユーザーは9,600万人超(2025年時点)であり、「アプリを別途インストールする」ハードルなく消費者にリーチできる数少ないプラットフォームです。
このLINE上でAI人格を動かすモデルは、日本市場に特有の大きな可能性を持っています。たとえば、保険の疑問に答えるAI保険アドバイザー、薬の飲み合わせを確認できるAI薬剤師、補助金の申請方法をナビゲートするAI行政窓口、旅行の行程を提案するAI旅行コンシェルジュなど、専門知識を持ったAI人格がLINE上に常駐するモデルです。
「アプリ不要」という特性は、高齢者層や非デジタルネイティブ層への浸透を可能にします。これは日本市場における明確な差別化要素であり、アメリカや中国とは異なる形でのAI接客の普及が起きる可能性があります。
AIが「代理購入」する世界──目的達成型ECへの最終進化
最終的に向かっていく先は、「ユーザーが目的を伝えれば、AIがすべてを代行する」世界です。「来週、北海道に出張があって、現地は寒いから、いつも使っているブランドで防寒着を買っておいて」──そう伝えると、AIが天気を調べ、好みを確認し、サイズデータをもとに候補を絞り、最安値のルートで購入を完了させる。
この世界ではECが「商品を検索する場所」ではなく、「目的を達成する場所」に変わります。消費者の関与が大きく減る一方、商品の発見フェーズにおいては完全にAIが仲介します。
Amazon Rufusの「Buy For Me」機能(2025年11月)やPerplexityの「Comet」ブラウザはその具体的な第一歩です。また、Visa・Mastercard・PayPalなどの決済プレーヤーがAIエージェントとの連携を進めており、エージェント型コマースの決済インフラは急ピッチで整備されています。(出典:PayPal、2025年11月)
業界の市場予測によれば、エージェンティックコマース市場は2032年までに930億ドル(約14兆円)に達する見通しです。(出典:各種市場調査)これはまだ先の話に聞こえるかもしれませんが、少なくともその入口にはすでに到達しています。
日本に残る巨大な空白市場
グローバルなトレンドと比較したとき、日本ではAI購買体験の実装がまだ出遅れています。大手プラットフォームやスタートアップが競い合うアメリカや中国と比べると、対話型ECやAIエージェント機能の実装事例は限られています。
しかし裏を返せば、それだけ未開拓の領域が残っているということです。特に以下のカテゴリーは、「AI人格×業界特化」の組み合わせで伸びる余地が大きいと考えられます。
高齢者向けAI購買支援
日本は世界でも最も高齢化率が高い国の一つです。ネットショッピングに不慣れな高齢者層に向けて、電話のように話しかけるだけで買い物が完結するAI購買支援は、大きな社会的・ビジネス的ニーズがあります。LINEやSMSを経由したシンプルなインターフェースと組み合わせれば、デジタルリテラシーが低い層にも届きます。
地方観光・インバウンド向けAIコンシェルジュ
外国人旅行者を対象としたインバウンド消費は、言語の壁という構造的な課題を抱えています。AIによる多言語リアルタイム接客は、地方の土産物店や飲食店、体験プログラムにとって強力な武器になります。QRコードを読み込むと母国語でAIが商品を説明し、決済まで案内する──というフローは技術的にはすでに実現可能です。
自治体・行政窓口AI
補助金の申請方法、転入届の手続き、子育て支援の問い合わせ──こうした行政サービスへの問い合わせは量が多く、対応コストが課題です。AI人格が正確な情報をもとに住民をナビゲートする仕組みは、行政のDXにとって即効性の高い施策になります。自治体との連携という観点では、LINEを活用した「LINE完結型AI窓口」が現実的なアーキテクチャです。
医療・健康分野のAIコンシェルジュ
薬の飲み合わせや健康食品の選び方、医療機関の選定支援など、専門知識が必要でありながら「気軽に聞けない」領域は多く存在します。AI薬剤師やAI医療コンシェルジュは、専門家へのアクセスが難しい地方や高齢者にとって特に価値があります。もちろん医療行為との境界線には十分な法的留意が必要ですが、情報提供・ナビゲーション機能に特化したAI活用は現実的です。
中小企業向けAI営業・B2B購買支援
大手企業向けのソリューションが先行する中、中小企業向けの営業支援・購買支援AIは手薄な状況が続いています。Octane AIやLaxi.aiのようなShopify連携の海外ツールがそのまま使えるケースもありますが、日本語対応・国内決済連携・業界慣習への適応という点では、国内向けに最適化された製品の余地があります。
まとめ──変わるのは「何を売るか」ではなく「どう届けるか」
2025〜2026年にかけてAIがECにもたらしている変化は、商品そのものを変えているのではありません。「商品が顧客に届くまでのプロセス」を根本的に再設計しています。
従来のECは「顧客が能動的に探す」モデルでした。これからのECは「AIが文脈を読んで届ける」モデルへと変わります。Pinterest Assistantが世界観ベースで提案し、Rufusが曖昧なニーズを言語化し、PerplexityやChatGPTが発見から購入まで一気通貫で担う。これらはすべて、同じ方向を向いた変化です。
ビジネスパーソンの視点で見たとき、この変化が意味するのは「製品発見のチャネルが変わる」ということです。GoogleやAmazonの検索ランキングで上位に表示されることを競っていた時代から、「AIが推薦する商品に選ばれること」を競う時代へと移行しつつあります。商品情報の正確さ、レビューの質、AI推薦アルゴリズムへの適合度が、新しい競争軸になっていくでしょう。
日本はこのトレンドへの対応が遅れている面もありますが、LINE文化・高齢化・インバウンド消費・地方行政DXといった固有の課題が、逆に独自のソリューションが生まれる土壌でもあります。「AI人格×業界特化」というアプローチで、欧米や中国にはない形のAI購買体験を生み出す余地は十分にあります。
「誰に何を売るか」ではなく、「どんなAIが、どんな体験で届けるか」。それが次の10年のECを決める問いになっていきます。
主要参照情報
- Pinterest Newsroom「Say hello to Pinterest Assistant」(2025年10月30日)
- Retail Dive「Pinterest rolls out AI-powered personalization features」(2025年10月29日)
- Digital Commerce 360「Pinterest introduces AI-powered Assistant for online shopping discovery」(2025年11月4日)
- Fortune「Amazon says its AI shopping assistant Rufus is so effective it’s on pace to pull in an extra $10 billion in sales」(2025年11月2日)
- PPC.land「Amazon’s AI shopping assistant drove $12 billion in sales for 2025」(2026年2月7日)
- Amazon Form 8-K FY2025(SEC提出書類)
- OpenAI「Buy it in ChatGPT: Instant Checkout and the Agentic Commerce Protocol」(2025年9月29日)
- CNBC「OpenAI revamps shopping experience in ChatGPT after struggling with Instant Checkout offering」(2026年3月24日)
- CNBC「Perplexity announces free product to streamline online shopping」(2025年11月19日)
- PayPal「PayPal and Perplexity Launch Instant Buy Ahead of Black Friday」(2025年11月25日)
- Algolia「6th Annual B2C Ecommerce Site Search Trends Report」(2025年11月24日)
- Algolia 公式サイト(www.algolia.com)
- Octane AI 公式サイト(www.octaneai.com)
- Laxi.ai 公式サイト・Crunchbase・Capterra
中小企業自治体DXニュース編集部です。
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