SAFT (Simple Agreement for Future Tokens)は、新しい時代の資金調達手法として注目を集めています。このシステムは、Web3やブロックチェーンプロジェクトにおいて、初期段階でのリスクを投資家と共有しながら、必要な資金を確保する方法として注目されてきています。
この記事では、SAFTの基本的な概念と主な特徴、また、SAFTを利用して成功した海外のブロックチェーンプロジェクトの事例紹介をしたいと思います。
SAFTとは?
SAFTは、将来発行されるトークンを事前に割引価格で購入する権利と引き換えに、投資家から資金を調達することを目的としています。SAFTの主な特徴は以下の通りです。
前払いでのトークン購入権利
投資家は、プロジェクトが成功し、トークンが市場にローンチされた際に、約束されたトークンを割引価格で受け取る権利を持ちます。
大きなリターンが期待できる
投資家はプロジェクトの初期段階で資金を提供することでリスクを負いますが、その見返りとして将来的に大きなリターンを期待できます。トークン価格がローンチ後に上昇した場合、割引購入による利益が得られます。
規制対応
SAFTは、特にアメリカにおいて、証券法に適合するように設計されています。トークンが証券として扱われるリスクを回避するための法的枠組みを提供し、ICO(Initial Coin Offering)の規制問題に対応するために開発されました。
ベスティング期間
ベスティング期間(Vesting Period)とは、特定の資産や権利が完全に取得または行使できるようになるまでの期間を指します。
投資家がスタートアップやプロジェクトに資金を提供した際、そのリターンとして受け取るトークンが、即座に全て手に入るわけではなく、指定されたベスティング期間を経て段階的に手に入れることができます。これには投資家が短期的に資産を売却して市場を不安定にすることを防ぐ効果があります。
SAFTで調達している海外事例5選
SAFTを利用して資金調達を行った有名な海外プロジェクトの例を5つご紹介します。これらの事例は、特に初期段階で大規模な資金を確保するためにSAFTが有効活用されたことを示しています。
1.Filecoin
Protocol Labsが開発したFilecoinは、分散型ストレージネットワークプロジェクトで、2017年にSAFTを通じて資金調達を行いました。彼らはICOと合わせて約2億5700万ドルを調達し、当時としては最大級の資金調達の一つでした。
2.Telegram Open Network (TON)
Telegramは、ブロックチェーンプラットフォーム「TON」とそのトークン「GRAM」の開発のために、SAFT契約を通じて約17億ドルを調達しました。しかし、SEC(米国証券取引委員会)との法的な問題に直面し、最終的にこのプロジェクトは中止されました。
Telegramが行った資金調達は、主に投資家からの前払いであり、投資家は将来発行されるGRAMトークンを受け取ることが約束されていました。しかし、SECはこの資金調達が証券法に基づく登録の要件を満たしていないと判断しました。SECは、GRAMトークンが証券に該当し、適切な登録手続きなしに売却されたと主張しました。
SECは2019年10月にTelegramとTONに対して差し止め命令を申し立て、GRAMトークンの販売と配布を一時的に停止させました。この措置は、未登録の証券の販売を防ぐことを目的としていました。
2020年、ニューヨークの裁判所はSECの立場を支持し、TelegramがGRAMトークンの販売を進めることは、連邦証券法に違反するとの判断を下しました。この判決は、Telegramがアメリカ国内外の投資家に対してトークンを配布することを禁じました。
2020年6月、TelegramはSECと和解に達し、和解金として1億8500万ドルを支払うことになりました。さらに、集めた資金の一部を投資家に返還することも合意されました。この結果、TelegramはTONプロジェクトを正式に中止し、ブロックチェーンイニシアティブから撤退することを決定しました。
この一件は、新興テクノロジー企業と規制当局との間での法的な対立の典型例として広く知られるようになり、ブロックチェーンと暗号通貨の世界における規制の複雑さを浮き彫りにしました。
3.Polkadot:
Web3 FoundationによるPolkadotは、そのネットワークの開発資金を調達するために、2017年にSAFT契約を利用しました。Polkadotは異なるブロックチェーンが互いに通信できるようにすることを目的としており、その潜在的なインパクトから、多くの投資家の関心を集めました。
4.Solana
高速でスケーラブルなブロックチェーンプラットフォームであるSolanaも、初期の開発資金をSAFTを通じて調達しました。彼らは技術の先進性と市場への適応能力をアピールし、多額の投資を引きつけることに成功しました。
5.Kadena
Kadenaは、スケーラブルなブロックチェーンソリューションを提供するために、SAFTを利用して資金調達を行ったプロジェクトの一つです。彼らは安全性とパフォーマンスのバランスを強調し、企業レベルでのブロックチェーン採用を目指しています。
これらのプロジェクトは、SAFTを利用して大規模な資金を確保し、それぞれの技術やソリューションを市場に提供するための基盤を築きました。
まとめ
SAFTは、投資家に将来発行されるトークンを前払いで購入する権利を提供することで資金を調達する手法ですが、それ自体がすべての法的問題を回避できるわけではありません。SAFTは特にアメリカにおいて、証券法の規制に適合するよう設計されていますが、それでも以下のような様々な課題や制限が伴います。
1.証券認定のリスク
SAFT自体が証券として扱われるため、発行前にSEC(証券取引委員会)などの規制機関に適切に登録される必要があります。トークンが将来的に機能性を持つ(ユーティリティトークン)としても、SAFTを通じて資金を集める過程で証券と見なされることが多いです。
2.規制の進展
仮にSAFTが適用されたとしても、規制の進展によってはその法的な解釈や扱いが変わる可能性があります。Telegramのケースのように、規制機関がその後に異議を唱えることも考えられます。
3.法的な争い
SAFTを使用したとしても、SECなどの規制機関との間で法的な争いが生じるリスクが残ります。特に、トークンの将来的な機能が証券としての特性を帯びる場合、その発行や販売が規制の対象となります。
4.国際的な課題
SAFTは主にアメリカの法体系の下で開発されましたが、他の国々では異なる法的要件や解釈が存在します。国によっては、SAFTの枠組みが適切でない、または追加の規制対応が必要な場合があります。
日本国内でのSAFTの使用は税制の問題により非常に限定的であり、実際の資金調達活動はシンガポールなどの日本国外で設立された法人を通じて行われていることが一般的です。
このように、SAFTを使用することは一定のリスクを管理し、資金調達プロセスを規制の枠組み内で行う一助となりますが、全ての法的な問題やリスクから完全に守るものではありません。したがって、特に規制が厳しい国や地域においては、法的なアドバイスを受けることが非常に重要です。
※参考文献
Solana Foundation Transparency Reports
Blockchain Startup Kadena Raises $12 Million in SAFT Sale - CoinDesk
Web3.0時代の資金調達方法「SAFT」とは? | PROPWAVE [プロップウェーブ]