新型コロナの影響により、経営状況が不安定になっている企業の多くが、オルタナティブ・ファイナンス、いわゆる補完金融の利用を加速させています。
資金繰りが難しくなった中小企業において、広く普及しつつある補完金融は、通常のファイナンスと比べて、どのような利点を有しているのでしょうか。今回は、補完金融の利用が増えている背景にある強みや、今後の可能性についてご紹介します。
補完金融とは
補完金融は、海外だとオルタナティブ・ファイナンス(Alternative Finance)として広く知られている資金調達手段の一種です。銀行からの融資や債券の発行などといった古典的な手法に代わるアプローチとして、注目を集めています。
インターネットや、スマートデバイスなどのハイテクが世間一般に広く普及したことで、オンラインでの金融手続きも簡単になってきました。加えて、ファイナンス企業におけるDXや、多様なフィンテック企業が登場したことで、従来の銀行では対応できなかった、金融サービスの普及も進みつつあります。
その利便性や信頼性の高さから、銀行融資などで資金調達ができなかった零細企業でも、安心して資金繰りができる手段として、補完金融が選ばれています。
補完金融が急増している背景
日本国内における補完金融の市場規模は、2020年に前年比約2倍という、大きな飛躍を遂げました。補完金融急増の背景としては、以下のような理由が考えられます。
参考:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO78278650Y1A201C2EE9000/
新型コロナの影響による需要の増加
補完金融が急増した最大の理由は、新型コロナウイルスの感染拡大による消費や投資の落ち込みです。2020年度は、経済活動が大いに落ち込み、大企業と比べて資本力に劣る中小企業は、これまでにない倒産の危機に瀕し、実際に、廃業へと追い込まれてしまった企業や事業者も少なくありません。
また、今後の事業再開に向けた設備拡充や仕入れに向け、まとまったキャッシュを必要としている企業も増えてきています。ただ、コロナ対策のためにすでに融資を受けている企業が、新たな資金調達に動くことは難しく、ビジネスチャンスを逃してしまう懸念も広がっています。
そんな中でも、なんとか資金繰りを正常化させようと、多くの事業者が利用したのが、補完金融です。通常の融資よりも資金調達の難易度は低くなるので、利用ハードルを気にせず、積極的に活用されることとなりました。
零細企業でも利用しやすい
補完金融が大いに活性化したのは、コロナ禍で倒産の危機にあったような零細企業でも、使いやすいシステムになっているためです。コロナ禍を経て、銀行融資を受けることは難しくなっており、負債額が膨らんでいる企業では、借り入れが満足に受けられないことも増えています。
補完金融は、このような状況下の企業でも、安心して資金調達ができる手段として、広く受け入れられました。銀行の格付けを気にせず、融資担当者の顔色をうかがう必要もないため、追加の融資とは異なるアプローチで調達が可能なためです。
スピーディーな調達が可能
補完金融が喜ばれているのは、従来の資金調達よりも、遥かにスピーディに、まとまったお金を得られる点が、評価されているからです。
オンライン経由での手続きや、AIを使ったデータに基づく、正確な審査を短期間で実行することができるため、銀行のように、複雑な承認作業を経る必要はありません。すぐにでも現金を用意しなければならない、という場合でも、補完金融なら安心してキャッシュを確保できます。
少額融資が可能
補完金融は、銀行融資では相談ができないような、少額の融資にも対応しているのが、強みです。詳しいサービスについては後述しますが、中には1円から貸付が得られるレンディングサービスも登場するなど、小規模に借り入れたいと考えている個人事業主でも、利用しやすいのが特徴と言えます。
主な補完金融の3つのアプローチ
補完金融の利用に当たっては、主に3つのアプローチから、資金の調達方法を選ぶことができます。それぞれの特徴をご紹介します。
ファクタリング
1つ目のアプローチは、ファクタリングです。ファクタリングは、企業が売掛債権売買する事で現金を得る手法です。ファクタリングは、素早く現金化ができるだけでなく、信用情報にも影響しないため、手軽に選びやすい資金調達方法の一種として利用されています。
近年は、オンラインサービスの普及に伴い、オンラインファクタリングサービスや、その利用も増えています。経営状況にも左右されることがなく、保証人も必要ないので、コロナ禍でファクタリングは、特に選ばれていましたが、補完金融の注目度が高まるにつれ、オンラインでファクタリングができるサービスを提供する事業者も増えてきました。今後も、オンラインファクタリングサービスの普及が期待されています。
クラウドファンディング
ファクタリングとともに注目されつつあるのが、クラウドファンディングです。クラウドファンディングは、投資家や一般の消費者から小口の資金調達を募る方法で、クラウドファンディング専用のプラットフォームを通じて、資金調達を行えます。
事業継続に向けた資金調達や、新商品開発、及び販売を目的とした資金調達など、幅広い目的に活用できるということで、中小企業や個人事業主など、事業のスケールを問わず、利用されているのが特徴です。
募集を募る金額も数百円単位で設定ができるため、柔軟性に優れる資金調達方法と言えます。
トランザクションレンディング
よりデータドリブンな資金調達方法として、近年注目されているのが、トランザクションレンディングです。これは、ECサイトにおける販売実績や商品購入者のレビュー、また会計ソフトや決済アプリで記録された決済情報などをスコア化し、それらに基づいて融資の可否を決定します。
従来の審査では把握しきれなかったものの、事業者のリアルな返済能力を、データから詳しく予測することができるため、適切な融資判断の下で、資金調達が受けられます。
将来性はあるが、銀行が認めるような実績がないばかりに、融資を受けられない会社にとっては、ありがたい手法となってくれるでしょう。
補完金融活用の懸念事項
補完金融は、従来の資金調達手法にかわる存在として注目されていますが、利用に当たっては懸念事項もあります。
手数料が割高な傾向にある
補完金融の利用は、通常の資金調達手段に比べて利便性に優れる分、利用手数料が高めに設定されている傾向にあります。例えば、ファクタリングでは、手数料が20~30%程度に設定されており、金額が大きいほど負担も大きくなってきます。
近年は、AIの活用やオンライン化による手続きの簡略化によって、手数料が10%以下に抑えられるサービスも登場しつつあります。銀行融資に比べると、現金化を迅速に行えるサービスということで魅力的ですが、利用に際しては注意が必要です。
悪質な金融業者に警戒する必要がある
補完金融のような、緊急性が高い資金調達サービスを提供する事業者の中には、法外な手数料を要求する、悪質な金融事業者が含まれる点も気をつけておかなければなりません。
フィンテックは、まだまだ発展途上の分野であり、法整備が間に合っていない部分も少なくありません。そのため、サービス利用者が現金確保を急いでいるという事情を逆手にとり、多くの手数料を徴収したり、違法な取り立てを実施したりする事業者の登場も懸念されています。
日本では、コロナ禍で立ち行かなくなった企業に向けて、無利子無担保で資金を提供する支援も、国を挙げて行われています。まずはリスクの小さい資金調達方法がないか、探してみることが重要です。
クラウドファンディングで広がる補完金融の可能性
補完金融の利便性の向上や活用機会の増加は、クラウドファンディングの台頭によって、さらなる進展が期待できます。地方銀行とクラウドファンディングサービスの提携も見られ、より大きなマーケットへと育っていくでしょう。
地方銀行が次々と提携
既存の銀行融資の代わりとなる資金調達手段とされてきた補完金融ですが、銀行とクラウドファンディング企業の提携が進んでいます。クラウドファンディング大手のCAMPFIREでは、東邦銀行や島根銀行といった地方銀行と提携し、信頼性の高い金融サービスの提供に向けた動きが活発になってきました。
参考:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO78278650Y1A201C2EE9000/
また、融資型クラウドファンディングを提供するファンズも登場しています。福岡銀行との提携によって、1円から貸付投資ができるクラウドファンディングサービスを立ち上げ、個人投資家と企業が密着して経済活動を行える仕組みづくりが開始しています。
参考:https://voix.jp/biz/fund/36662/
クラウドファンディングが身近になるということは、個人投資家の数が増え、積極的な投資にも期待が持てるため、中小企業や個人事業主にとってのチャンスも増えるということになります。補完金融の活用に伴うリスクも、銀行と提携するような信頼性の高いプラットフォームを介する事によって、相対的に小さくなっていくでしょう。
市場規模の伸び代も大きい
ダイナミックな変化の時を迎えている補完金融分野ですが、日本ではまだまだ成長の余地があります。より便利で使いやすく改善されていくことでしょう。
2020年度は、前年比2倍の成長を見せた日本市場ですが、同時期に700億ドルもの市場へと成長したアメリカと比べると、雀の涙ほどのスケールしかないのが現状です。クラウドファンディングをはじめとする、補完金融分野の市場規模は、今後も伸びていくと思われます。将来性のある金融サービスであると言えるでしょう。
おわりに
補完金融は、海外ではメジャーな資金調達手段として定着しつつありますが、日本では、まだまだマーケットが小さく、十分にサービスが普及しているとは言えません。しかし、それでもすでに多くの資金調達サービスが登場し、そのリスクについての周知も行われてきています。中小企業でも利用しやすい手段として、今後も積極的な運用が期待できそうです。