「Web3、NFT、ブロックチェーン、メタバース」などの用語を、最近頻繁に耳にするようになりました。地方によっては、こうしたWeb3に関わる技術を地方活性化につなげているケースもあります。
今回の記事では、Web3が「どのように地方活性化に関わっているのか」や具体的な事例を解説します。Web3の技術を活用すれば、企業戦略に新たな視点をもたらし、地方の魅力を世界に広めることができるでしょう。
なぜ地方活性化でweb3が重要なのか?
地方活性化において、Web3が重要な理由は主に3つです。
- NFTと「その地域ならではの魅力や体験」の相性が良い
- 地域外の人と結びつきを作りやすい
- 気軽に地域の魅力を発信できる
ここでは、それぞれの理由について詳しく説明していきます。
NFTと「その地域ならではの魅力や体験」の相性が良い
Web3にはNFT(非代替性トークン)の仕組みが活用されています。NFTでは、ブロックチェーン技術を活用して偽造できないデジタルデータを作成することで、特有の価値を所有できます。
この性質は、「地元の特産品や名物」「地域でしか味わえない体験や風情」といった特性と相性が良いです。
自治体がNFTを活用できれば、地域の特性を表現したデジタルアセットを作成して世界中の人々に提供できるでしょう。幅広く提供できれば、地域の魅力が地理的な制約を超えて発信されるため、新たなファンやサポーターも獲得できます。
また、作成したNFTが市場で価値あるものとして評価(購入)されれば、売上が地域課題解決に向けた新たな財源となるでしょう。
地域外の人と結びつきを作りやすい
Web3の技術を活用することで、地域外の人と結びつきを作りやすいです。
従来も「地域通貨」というサービス自体は存在していましたが、サービスの特性上、地域内での利用に限られていました。しかしWeb3では、NFTやメタバースの仕組みを活用できるため、地域特有の文化やサービスを全世界に展開できます。デジタル上での活動を通じて外部のつながりを強め、地域活性化に新たな可能性を引き出せるのです。
具体的な取り組みとして、神戸市における「NFTアーティストとのコラボレーション」が挙げられます。神戸市のコラボでは、Z世代のようなデジタルネイティブ世代を含む幅広い人々が、特定の自治体に対し関心を示すきっかけとなりました。
気軽に地域の魅力を発信ができる
NFTやメタバースを利用することで、地域の魅力をデジタル化し短時間で多くの人々に発信できます。そのため、自治体や地域独自の魅力を低コストで広範囲に発信可能です。
また、NFTやメタバースはデジタルコンテンツであるため、地域外や異なる文化的背景を持つ人々でも、気軽に触れて地域の魅力を体験できます。
気軽に地域の魅力を外部に発信することで、魅力がより広範囲に認知され、地域の価値向上にもつながるでしょう。
日本もWeb3による地方活性化を後押ししている
Web3を活用した地方活性化が今後も広がる背景としては「日本政府の後押し」も挙げられます。
骨太の方針へ組み込まれている
日本としても、Web3を活用した地方活性化の重要性を認識し、推進に力を注いでいます。令和4年6月7日に決定された「骨太の方針」の中でも、Web3やブロックチェーン技術に基づくNFT・DAO(分散型自律組織)などの活用に対する環境整備が強調されました。
これらの方針は「トラステッド・ウェブ(Trusted Web)」という新しいデジタル社会の実現も視野に入れています。
トラステッド・ウェブとは、特定サービスに依存せず、ユーザーが自身のデータをコントロールし、他者とのデータのやり取りにおける検証の領域を拡大する仕組みを指します。一部のプラットフォーム事業者やサービスへの依存を軽減し、ユーザー同士が信頼(Trust)できる状態を整えるための考え方です。
具体的な施策としては、ブロックチェーン技術を基盤とするNFTやDAOの利用を推進する環境整備、メタバースを含むコンテンツの利用拡大、セキュリティトークン(デジタル証券)での資金調達に関する制度整備などが挙げられています。
デジタル庁による「Web3タウンの推進」もある
デジタル庁による「Web3タウンの推進」も地方活性化の力となっています。
例えば、岩手県紫波町が提唱する「Web3タウン」では、Web3技術を使った地域通貨の発行やNFT化されたふるさと納税返礼品の提供、Web3技術推進企業の誘致などを行っています。
また、自治体業務の一部を外部委託することでトークン報酬を発行する「Help to Earn」によって、住民の収入源を創出していることも特徴的です。
結果として地方活性化におけるWeb3活用事例は増加している
上記のような施策も関連して、Web3による地方活性化の施策件数は増加傾向にあります。
DAOの実務支援などを行うガイアックスが実施した調査によれば、Web3を用いた地方創生プロジェクトの数は2022年4月は14件でしたが、2023年4月には約8倍の111件にまで増加しました。中でも増加が目立つのは、NFTを活用した地方創生の取り組みであり、全体の約56%を占める62件となっています。
これらの結果からも、日本の地方自治体でWeb3の活用が進行しているとわかるでしょう。とはいえ、全国的に見ると活用されていない自治体も多いため、Web3の活用による地方創生には大きな余地が残されています。
具体的な地方の取り組み事例
ここからは、日本全国の地方自治体がどのようにWeb3を活用しているか、具体的な事例を見ていきましょう。
新潟県長岡市山古志
新潟県長岡市山古志地区では、NFTを用いた地域活性化を実施しています。
山古志では、バーチャルコミュニティの形成と地域再生を目標に掲げて運営しています。具体的には、「山古志電子住民票」(Nishikigoi NFT)を発行することでデジタル関係人口の参画を促進し、新たな資金調達手段も確立しました。デジタルアートと電子住民票という取り組みにもチャレンジしています。
岩手県紫波町
岩手県紫波町では、「しわ豚×ゲームNFT」や先ほども解説した「Help to Earn」といった新しい地域活性化の取り組みを進めています。
紫波町が誇る特産品である「しわ豚」をテーマにしたアイテムNFTを開発することで、地域資源をデジタル化させて活性化につなげることを目的としています。このアイテムNFTは、「くりぷ豚レーシングフレンズ」というNFTゲームで使用可能です。
「Help to Earn」では、地域に貢献する行動を起こした住民に対してトークンを発行する、という取り組みを目指しています。ただし現状(2022年10月時点)では、規制等の関係により、紫波町独自の地域ポイントである「しわポイント」や「平太君カードポイント」との連携が前提となっています。
このような紫波町の取り組みは、地域特産品とデジタルテクノロジーを巧みに融合し、地域経済の循環を創出する新たな形態を示しているといえるでしょう。
参考:【地方創生】Web3TownShiwaに関する取組/紫波町
兵庫県神戸市
兵庫県神戸市では、Z世代をメインターゲットにした地方活性化の取り組みが実施されています。具体的には、神戸をモチーフにしたNFT作品を制作し作品取得者などがDiscord上で交流することで、「地域を越えて神戸とつながるコミュニティを創出する」という実証プロジェクトを開始しました。
DiscordはZ世代に人気のチャットツールです。参加者がアイデアを出し合ったり投票を通じて企画を立案したりするなど、神戸愛を育みながら一緒に運営を盛り上げる仕掛けが取り入れられています。
この神戸市の取り組みは、ブロックチェーンを基盤とする新たな技術を利用することで、地域ブランディングとコミュニティ形成を結びつけるアプローチを示したといえるでしょう。
参考:神戸市の「Web3時代に向けたNFTを活用したファンコミュニティ創出プロジェクト」第二弾にNFTag™が採用
埼玉県横瀬町
株式会社奇兵隊(以下、奇兵隊)では、住民自身で課題解決に向けた施策まで実行できる「自律的なまちづくり」を目指しています。具体的には、埼玉県横瀬町でNFTアートを活用したプロジェクト「Open Town Yokoze」を実施中です。
Open Town Yokozeでは、奇兵隊と横瀬町が共同で、横瀬町の特徴を活かしたNFTアートを販売しています。このプロジェクトで集めた資金をもとに、横瀬町が抱える課題の解決に向けた施策を実行するという仕組みです。
売上収益は、横瀬町で開催される実践型Web3講座「JOY LAB」と、オンラインコミュニティ「JOY LABコミュニティ」の設立に活用されています。このプロジェクトにより、NFT技術を活用して新たな財源を獲得し、地域コミュニティの活性化にもつなげられました。
また、地域資源を活かしたNFTアートの創出や、子供たちに対する新たな教育の機会提供など、地元に住み続ける人々にとっても価値を生み出しています。
大阪府
大阪府では「バーチャル大阪」を展開しています。「バーチャル大阪」は、メタバースを活用して大阪の魅力を全世界に発信するプロジェクトのことです。
2025年の大阪・関西万博に向けた取り組みの一部であり、「City of Emergence(創発する都市)」をテーマに掲げ、大阪の街を仮想現実空間に再現することでリアルな大阪との相互作用を通じて都市体験を推進しています。
公式ツイッターでユーザーの声を募ってエリア拡大やイベント開催を進めるなど、ユーザーの意見を色濃く反映している点が特徴的です。バーチャル大阪はスマホやパソコンから無料でアクセスできるため、物理的な制約を超えて多くの人々に大阪の魅力を提供できるでしょう。
参考:バーチャル大阪
まとめ
今回の記事では、日本の自治体がどのようにWeb3を活用して地方活性化に取り組んでいるか、具体的な事例を見てきました。今回紹介した事例を見ることで、デジタル技術が地方の経済活性化やコミュニティ形成に貢献しているということがわかるでしょう。
それぞれの地域が持つ個性や資源を生かすための新しいアイデアや戦略を見つけるきっかけになれば幸いです。