中小企業でも実践できる、事業再生の適切な方法を解説

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新型コロナウイルスの影響により、多くの企業において事業の継続が困難な状況が続いています。倒産を選択する企業も少なくない中、一度は検討しておきたいのが事業再生の手続きです。

事業の継続性を確保し、最小限のコストで会社を再構築できる機会を掴めるこの手法には、適切なプロセスを踏むことでその精度を高められます。今回は、中小企業でも実践できる、事業再生の適切な方法について、ご紹介します。

事業再生とは

事業再生は、経営難に直面した企業が特定の事業分野に焦点を当て、事業存続に向けたさまざまな施策を展開するための取り組みです。多様な事業を展開している企業にとっては一事業の再生に止まりますが、中小企業のように少数の事業に絞って企業活動を行っている場合、事業再生は会社の再生に直結します。

そのため、事業再生の意味合いは大企業と中小企業の間で、微妙にニュアンスが変わってくる点が特徴的です。

企業再生との違い

事業再生と似たような言葉に、企業再生というものもあります。こちらは事業ではなく、企業そのものに焦点を当てた施策で、企業としての再生を目指します。特定の事業の再生よりも、破綻寸前の企業を企業として再生させることを目的とするため、中小企業にとってはほぼ同意となることもあります。

ただ、多様な事業を手がけている大企業の場合、その意味は大きく異なります。一事業の再生ではなく巨大な組織を再生させる必要があるため、大掛かりなプロジェクトとなる傾向があります。

事業再生のメリット

事業再生を実現できれば、複数のメリットが得られます。ここでは主なメリットの3つをご紹介します。

既存事業を維持できる

事業再生のメリットとしては、やはり既存事業を今後も維持できるチャンスを得られることが挙げられます。事業の存続によって、望まないビジネスモデルの転換を余儀なくされたり、企業のブランド価値に悪影響を及ぼしたりしないといった効果が期待できます。

従業員の雇用を維持できる

既存事業を今後も維持し続けることができれば、従業員の雇用を守ることも叶います。会社組織は経営者のビジネスの要であるとともに、そこで働く従業員の生活を支える上でも重要です。

事業再生計画を実施、及びその目的を達成することで、彼らを失職させてしまい、職探しに悩むようなこともなくなります。

精算するよりも多額の返済が期待できる

事業再生は債務者だけでなく、債権者にとってもメリットがあります。経営困難な会社をそのまま精算してしまうよりも、事業を再生して経営状況を改善させた方が、トータルで得られる返済額は大きくなりやすい傾向にあります。

事業再生の種類

事業再生には一般的に、法的再生と私的再生の2種類が存在します。また、再生計画の一環としてM&Aを選ぶ会社も少なくなく、事業再生の手段として活用できます。順にそれぞれの特徴を見ていきましょう。

法的再生

法的再生とは、裁判所での手続きを経て、事業再生計画を遂行していくアプローチです。法的再生においてポピュラーなのが民事再生で、これは裁判所が介入しながら民事再生法に基づいて実施されます。

再生に向け事業の継続性を確保するため、債務者は事業に必要な資産を債権者から守りつつ、負債を法律に則って整理する必要があります。

裁判所の管轄で行われるため、不正な手続きが行われるリスクが小さく、安心して事業再生に専念できるのが強みです。一方で裁判所へ申請した場合、自社が民事再生を進めているということが公表されるため、世間からの印象が悪くなってしまう場合があります。

民事再生は事業再生のための一手段であるとはいえ、一般的には「倒産」の一種として扱われています。法的拘束力の強い再生方法ですが、社会的信用を失うリスクは抱えます。

また、法的再生には「会社更生」と呼ばれる方法もあります。これは、株式を発行している大企業が活用する再生方法の一種で、裁判所が公正管財人を選び、彼らに再生を事実上委任することになるのが特徴です。

民事再生とは異なり、無担保権者と同じく担保権者に制約が発生し、社会更生中は担保権を実行することはできません。事業継続を確かなものにするためのチャンスを作れます。

私的再生

法的再生とは対照的に、裁判所を頼らず、法的な債務整理を行わない手法が私的再生です。再建案の同意を得るため、債権者との私的な会合や集会、協議を重ね、事業再生を図ります。

再生計画を実行に移すためには、債権者全員の同意を得なければならず、多くの時間を要します。それに対して私的再生は、法律に基づいた手続きで整理を進める必要がないため、速やかに計画を実行へ移せます。法的再生とは違い、公表の義務もないので、公にすることなく、あるいは目立たないよう再生を実施できます。

ただ、債権者全員の同意を計画段階で得なければならず、そこで時間をとってしまう心配があることや、手続きにおいて不正が発生する可能性もゼロではありません。

慎重に会社を選び、実現に移していきましょう。

M&A

M&Aは企業による会社の買収、及び合併を指しますが、事業再生の手法として採用されることもあります。たとえ、自社で賄う分には採算の取れない事業であっても、その事業によって培われたノウハウや人材、その他の資産は、他の企業にとって価値のある存在というケースも珍しくありません。

成長の余地のある企業へ事業が吸収されることで、既存事業の大枠を維持したまま、再生を遂げることも可能です。複数の事業を運営していて、不採算部門だけを整理したい場合には、M&Aの実施も選択肢の一つとして悪くないはずです。

事業再生に求められる条件

事業再生を実施する上では、最低限の条件を達成していることが重要です。ここでは重要性の高い2つの条件について、解説します。

再生する価値のある事業であること

まず、事業再生は再生することができる、あるいは再生する価値のある事業であることが絶対条件です。どれだけスリム化して、利益を出せる仕組みを更なる投資によって構築できても、長期的に見て採算が合わないとなれば、事業再生の目的を達成することはできません。

長生きできない事業となれば、債権者の合意を得ることが難しくなり、事業再生の道は閉ざされてしまいます。事業再生を選ぶ場合には、そもそもその事業に再生する価値があるのか、きちんと紹介できるよう計画を固めておく必要があります。

負債がなくなることで正常な資金繰りへ改善可能なこと

企業の抱える負債が解消、あるいは軽減されることで、正常な資金ができる状況にあることも、事業再生を実施する上では重要です。事業再生を行っても、正常な資金繰りが期待できない状況に陥っている場合、やはり再生可能とは見なされません。

潤沢な資金を提供してくれる出資者を確保したり、リストラの実行によって黒字化を行ったりすることで、資金繰りの正常化を促しましょう。

事業再生の実施プロセス

事業再生は、以下のプロセスで実施することが求められます。最後に手順を確認しておきましょう。

経営状況の確認

事業再生を進めていくためには、とにかく経営状況の確認がまずは必要になります。その事業がなぜ困難な状況へ陥ったのかの原因を分析し、経営が悪化した主たる要因を突き止めなければいけません。

事業そのものの問題を調査することはもちろんのこと、財政状況にも目を向け、再生のためにはどのような問題を解消していかなければならないのかを、はっきりさせる必要があります。

また、現状分析にとどまらず、事業を再生することで、どのようなゴールを目指すのかも重要になります。事業再生はあくまでも手段であり、その先に目的がなければ行う意味はありません。債権者の同意を得るためにも、準備しておきましょう。

再生スキームの決定

状況確認が終わった後は、どのような手法で再生を進めていくかを固めていきます。事態を公にすることなく、穏便に済ませられるのであれば私的再生を、他に手がなく、確実性の高い手法で再生する場合には法的再生を選ぶなど、それぞれの状況に応じて最適な再生手法が求められます。

柔軟性を求めるなら私的再生、確実性を求めるなら法的再生と、客観的に考え、ベストな選択肢を選べることが重要です。

事業計画の策定

再生スキームが固まったら、具体的な事業計画を策定していきます。事業再生計画書を作成し、債権者の合意を獲得しなければなりません。

その過程では、積もってしまった債務を、どのように弁済していくのかについて、明確な根拠と計画によってその弁済計画を明らかにします。弁済計画は事業計画そのものと直結しており、計画通りに物事が進まなければ事業再生を実現できない可能性も出てきます。

余裕を持った計画策定を進め、不測の事態にも対応できるような、強度のある計画へと仕上げましょう。

再生に向けた資金調達

計画が固まり、同意を得られれば、再生に向けた資金調達を進めていきます。金融機関から調達したり、取引先などから返済期間を延長してもらったりするなどの取引を進め、資金を確保しなければなりません。

財務免除を受けない場合には、この資金調達のプロセスは不可欠となります。

事業再生計画の実行

計画策定と合意を含め、準備が整ったら事業再生計画を実行へ移します。私的再生から法的再生への移行が止むを得ないケースなど、計画の前進と共に不足の事態が発生することもあります。

再生計画に不備が生じた場合には速やかに対処できるような、意思決定能力を備えておくことも大切です。

まとめ

事業数の少ない中小企業の場合、一つの事業が傾くだけで、企業活動全体が揺らいでしまうこともあります。磐石な体制を維持するためにも、事業に何らかの問題を抱えている場合、早めの決断が迫られます。

事業再生をはじめ、企業活動を存続し、経営者や従業員の生活を守り、社会への影響を最小限に抑えるための制度や方法は複数あります。それらを有効活用できるよう、特性についての理解を深めておきましょう。