厳しい経済状況が続く中、売上の伸びが頭打ちになり、管理部門のコストカットに乗り出す企業は多いのではないでしょうか。しかし、無暗にコストカットをすると、企業に悪影響を与えて、逆効果になる可能性があります。
そこで今回は、管理部門のコストをカットする定番の方法や、失敗しやすい施策などを紹介します。
管理部門のコストをカットする定番の方法
管理部門のコストカットをするには、ペーパーレス化の推進やテレワークの実施など、さまざまな方法があります。ここでは、管理部門のコストをカットする定番の方法を紹介します。
ペーパーレス化の推進
ペーパーレス化とは、仕事上で作成する申請書や請求書・契約書などを、紙に印刷しないでPDFなどデータでやり取りすることです。単にデータを送るだけでなく、電子認証システムを利用して契約の締結や、決済なども行います。
書類をペーパーレス化すると、以下のようなメリットがあります。
・コピー用紙やインク、コピー機のリース料を削減できる
・文書の保管場所が不要になる
・文書の検索が容易になる
・スピーディーな作成と共有で人件費を減らせる
・持続可能な経済活動が可能になる
ペーパーレス化すると、コスト面ではコピー用紙やインクなど、消耗品費を削減できます。また、書類をメールに添付して送信すれば、FAXや手渡しなどと比べて効率的になり、人件費の削減にも繋がります。
テレワークの実施
テレワークは、社員が自宅で仕事をするためのPCの準備やシステム構築に費用が掛かりますが、出勤して仕事をするよりもランニングコストを抑えられます。
テレワークで最もコスト削減できるのは、オフィスの賃料です。出社する社員が少なくなれば、オフィスも小さくて済むため、実際に引っ越しをした企業も多くあります。
その他にも、在宅勤務者の定期代や、オフィスの電気代なども削減可能です。テレワークはコスト削減だけでなく、社員のQOL(生活の質)も向上します。通勤時間がなくなり、趣味や家族との時間を増やすなど、自分の好きなことに取り組めるためです。
社員が働き方に満足していれば、離職する人が減り、結果的に採用コストも減らせるでしょう。
外注化で人件費の見直し
総務や経理・コールセンターなどの、利益が生まれにくいノンコア業務を外注化すると、社員をコア業務に集中させられます。コア業務に集中できれば、生産性の向上や売上アップなどが見込めるでしょう。
また、外注先の専門知識やノウハウを活用でき、社員の教育にコストがかからないこともメリットの一つです。コスト削減の対象となることが多い人件費ですが、社員の給料を減らすのはおすすめできません。給料の減少はモチベーションの低下に直結して、生産性が悪化する・離職率が上がるなどのデメリットがあります。
社員の賃金を減らすのは最終手段にして、まずは外注化でコストをカットできないか検討してみましょう。
過剰品質を改善する
経営学の父として有名なドラッカーは、事業を成功させるには「顧客目線」が必要という趣旨の言葉を残しています。事業に顧客目線が必要だと多くの経営者が理解していますが、なぜか品質においては無視される傾向があります。
知らずのうちに製品やサービスの品質が、ユーザーから求められる水準よりも高くなりすぎて「過剰品質」となっているのです。品質の基準が厳しくなり過ぎると、製造工程で不良品が多く発生してしまい、材料費などが損失となります。
サービス業であれば、接客のレベルを上げるために、余計な教育費がかかります。ユーザーは本当に現在の品質を求めているのかを考えて、現在の品質基準が正しいのか考えて下さい。
また、材料の仕入れ先などとも連携して、品質を多少落としたら納入価格を下げられないか、などを検討するといいでしょう。
業務のマニュアル化を進める
中小企業では社員の経験に基づいた業務を行っていて、マニュアル化が進んでいないケースが見られます。社員の経験は会社のノウハウになるので重要ですが、仕事が属人的になってしまい、特定の社員にしか業務をこなせなくなる危険性があります。
業務をマニュアル化すると、次のようなメリットがあります。
・社員同士の調整や確認が不要になり人件費を削減できる
・複数店舗があっても同じサービスを提供できる
・社員の教育コストを減らせる
・マニュアル策定時に業務を見直し効率化できる
マニュアル作成は、WordやExcelなどを利用することが多いですが、最近ではマニュアル作成ツールも人気です。ツールを使用すれば、誰にでも分かりやすいマニュアルを短時間で作れるので、ぜひ活用してください。
経理をクラウド化する
一昔前は、手書きで経理作業を行っている企業がほとんどでしたが、最近では経理をクラウド化するケースが増えています。
経理をクラウド化すると、複数の担当者がどこからでもデータにアクセスできるため、移動中の隙間時間などでも作業を行えます。また、自宅でも作業が可能になり、テレワークの推進にも貢献可能です。
クラウド会計システムは銀行やクレジットカードのデータと連携でき、AIが自動で内容を把握して仕訳を完成させます。
これまでは、銀行の明細などを確認しながら一件ずつ入力していましたが、クラウド会計システムではAIが入力した仕訳をチェックするだけになります。
管理部門のコストをカットする流れ
管理部門のコストカットをするには、思いつくままに経費をカットするのではなく、戦略的に進める必要があります。ここでは、管理部門のコストをカットする流れについて解説します。
(1)コストを分類する
管理部門のコストカットを実施する際は、どの分野でどれくらいのコストが発生しているか把握することが大切です。
中小企業のコストは、主に次の3つに分けられます。
・オフィスコスト:事務所の賃料や地代・コピー機のリース代・事務用品費など
・エネルギーコスト:電気代・ガス代・水道代
・オペレーションコスト:人件費・物流費
これら3つのコストに分類すると、何にコストがかかっているのか整理でき、次のステップに進みやすくなります。
(2)分類ごとの施策を決定する
コストの分類が完了したら、分類ごとに削減できそうなポイントを洗い出して、目標を設定します。
先ほど紹介した「管理部門のコストをカットする定番の方法」に記載されているように、「ペーパレス化してコピー用紙代を20%削減する」「テレワークを実施して水道光熱費を30%削減する」「業務をマニュアル化して残業代を15%削減する」など、具体的な施策を決めてください。
決定した施策をすべて同時に進めるのが難しい場合は、以下の表のように優先順位を決めるといいでしょう。
優先順位 | 施策 |
高い | コピー用紙代の削減、水道光熱費の削減 |
中 | 業務のマニュアル化、過剰品質の見直し、経理のクラウド化 |
低い | 人件費の抑制、外注化 |
優先順位が高い施策には、すぐに実行できる消耗品費や水道光熱費の削減があります。経費削減の効果が早く出やすいため、即効性がある施策です。
社員の給料や賞与を減らして人件費を削減するのは、社員の離職率やモチベーションに大きく関わるため、優先順位は低くなります。
(3)具体的な目標を設定する
施策の決定で重要なのは、漠然と「コピー用紙代を削減する」と目標を設定するのではなく、KPIを設定することです。
KPIとはKey Performance Indicatorの頭文字を取った言葉で、重要業績評価指標と訳します。
コピー用紙代を20%削減する・水道光熱費を30%削減する・人件費を15%削減する、と具体的に数値的目標を付けることで、定量化して現状把握ができるようになります。
(4)施策の効果を測定する
管理部門のコストをカットするには、目標を設定したら終わりではなく、結果を確認することが大切です。設定したKPIになぜ届かなかったのか分析して、改善点の立案や新たな施策を検討しましょう。
コストカットは管理部門の社員が全員で取り組むものなので、結果や改善案などは全員で共有します。一人一人が問題意識を持つことで、コストカットへの意識が高まり、目標を達成しやすくなるでしょう。
管理部門のコストカットが失敗する理由
管理部門のコストカットを実施すると、逆に売上が減少するなど、逆効果になるケースがあります。
ここでは、コストカットが失敗する理由について解説します。
社員のモチベーション低下に繋がるコストカット
先ほど、給料や賞与など人件費のコストカットは、社員のモチベーション低下に繋がると解説しました。モチベーションを低下させるのは給料の削減だけでなく、福利厚生の縮小や消耗品の使用制限なども同じです。
例えば、家賃補助や社員食堂の補助などの削減は、給料が減ったのと同じなので、社員のモチベーションの低下を招きます。
ボールペンや封筒・洗剤・メモ用紙などを使用制限すると、確実に経費削減の効果はありますが、社員に強いストレスを与える可能性があります。
経費削減の効果が少ない施策を実施するよりも、社員に気持ちよく働いてもらった方が良いケースもあるため、バランスを意識するといいでしょう。
生産性が低下するコストカット
生産性が低下するコストカットも、失敗する可能性が高い施策の一つです。例えば、PCを新しく購入する際に、価格を安くするためにスペックを落とすことがあります。
WordやExcelなどの負荷が低い作業をするなら問題ありませんが、3D作成ソフトや動画編集など重い作業は、スペックが高いパソコンを使わないと生産性が低下します。
また、社員の研修費や新製品の研究開発費を削減すると、社員のスキルが向上せず、魅力的な製品を開発できないなど、企業の根幹に関わる弊害が生じるでしょう。
管理部門のコストカットはさまざまな方法がありますが、あくまで「無駄を減らして効率化する」という認識が大切です。
まとめ
中小企業の管理部門のコストをカットする定番の方法は、ペーパーレス化の推進やテレワークの実施・業務のマニュアル化などがあります。
コストカットを実施するには、コストを分類して全体像を把握し、その後KPIを設定することが大切です。施策を実行したら効果を検証して、KPIを達成できなかった部分は、改善案を策定しPDCAを回していきましょう。
社員のモチベーションに関わる施策や、生産性が低下する施策は、業績に悪影響を与えるため失敗する可能性が高くなります。
管理部門のコストカットの対象となるのは、無駄を減らして効率化できる部分です。正しくコストカットして、業務の効率化に繋げていけることが成功の鍵といえるでしょう。