現在、海外の大手企業(特に欧米企業)を中心に、SDGs / ESGに配慮した経営が求められています。
SDGs / ESGへの具体的な取り組みが、財務データと同じ程度まで重要視され始めているとも言われる中、自社の取り組みを客観的に評価するには、どのような手順が必要なのでしょうか。
本記事では、SDGs / ESGの定義や、こうした社会目標をめぐる現在の背景、SDGs / ESGを見える化しなければならない理由も含めて、解説していきます。
SDGs / ESGの定義
一般の人々も、SDGs/ESGといった言葉をニュースや雑誌で見聞きする機会が増えてきました。それぞれの具体的な定義や目標をめぐる現状について、あらためて見ていきましょう。
SDGsの定義
SDGsとは、Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標の略称で、2015年9月に国連サミットにおいて採択された「2030アジェンダ」のなかに掲げられた世界共通の目標です。
「誰一人取り残さない」という誓いのもと、持続可能で包摂性のある社会の実現のために全ての人による行動が求められています。
17のゴールと159のターゲット、232の指標から構成されています。格差の解消、全ての人々の健康と福祉、ジェンダー平等をはじめ、クリーンエネルギーや住み続けられるまちづくり、個人を取り残さない経済成長などがトピックとしてあるのは、多くの人もよく知っている通りです。
参考:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/sdgs_gaiyou_202206.pdf
ESGの定義
SDGsと比較して、ESGはもしかすると馴染みがない人もいるかもしれません。ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字をとった言葉です。
実は、SDGsと違って、明確な世界的指標ではありませんが、企業が取り組むべき課題に向けて、経営手法そのものを変えていくために用いられる考え方です。
個人や国、NPOなどが主体とされるSDGsに対して、ESGは企業活動にまつわる目標として用いられます。SDGsが目標であり、ESGはその手段の一つという位置付けが一般的とされています。
Environment(環境)は、温室効果ガスの排出量削減や廃棄物対策、Social(社会)は、ジェンダー格差解消やダイバーシティの担保、ワークライフバランスの安定化などを指しています。
またGovernance(ガバナンス)は、法令遵守の姿勢や情報開示における透明性などを指しています。
参考:https://sdgs.kodansha.co.jp/news/knowledge/39601/#section-1-1
企業がSDGs / ESGを見える化しなければならない理由
これまで見てきたように、SDGs / ESGは、日本でも馴染みある企業目標として頻繁に用いられるようになりましたが、それらをめぐる現状は、実際にどのようになっているのでしょうか。
SDGs / ESGをめぐる日本の現状
SDGsには、実際に法的な拘束力があるわけではありません。4年に一度、各国の進捗状況をフォローアップするSDGサミットが開催されつつも、常に報告する義務まで担っているわけではないことも関係してか、日本においては、その達成度は全世界19位と比較的低めです。
国際機関やシンクタンクなどの評価によると、質の高い教育や産業と技術革新の基盤作りなどは評価される一方で、環境問題やジェンダー問題への取り組みなどは深刻な課題があるとされています。
定型的な掛け声として使われるだけにとどまってしまい、形骸化しているケースも少なくありません。
参考:https://www.asahi.com/sdgs/whats/#h210sl1g4w4lmqpcvxc121496g1n4yd13
SDGs / ESGを見える化する
このような停滞した現状に対して、企業の活動を見える化するという機会を増やすことは有用かもしれません。
また、SDGs/ESGの見える化は、企業側にとっても実はメリットがあります。
欧米を中心とした海外企業はSDGs/ESGに対して自社で取り組むだけに止まらず、取引先に対しても、具体的にどの程度SDGs/ESGに取り組み、成果を上げているのかという判断基準を適用し始めています。
このような観点での投資はESG投資と呼ばれ、非財務情報としてのESGも財務情報と同程度、投資の際に重要視され始めているのです。
SDGs/ESGへの取り組みを評価基準にすることは、ESGの中で挙げられていた、情報開示における透明性に応えていることにもなります。
これからの企業経営にとって、自社がどの程度SDGs/ESGという目標に対してアクションを起こしているのかを客観的なデータとして示せることが大切になってきています。
そのような観点での企業評価の波は、日本国内にも徐々に広がっていますが、ESG情報の質にはばらつきがあり、ビジネス戦略と関連づいていない企業が約半数とされています。
参考:https://www.asahi.com/sdgs/whats/#h210sl1g4w4lmqpcvxc121496g1n4yd13
参考:https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/prmagazine/pwcs-view/202105/32-02.html
SDGs / ESGを見える化する方法
現在のところは、SDGs / ESGを意識した適応ビジネスの貢献度を見える化するにあたって明確なルールや手順は定められていません。
よって、見える化まで取り組んでいる企業は、その対象を個別事業のみに絞る場合もあれば、企業全体の戦略や事業内容まで広げる場合もあり、対象選定も多岐に渡っているのが現状です。
実際に、企業のSDGs / ESGに対する取り組みを見える化したい場合、現在はどのような手順で行われているのが一般的なのでしょうか?その手順を事例とともに見ていきます。
ステップに沿った見える化
見える化を行う際に重要とされているのが、評価する事業が始まる前に、確実に準備をすることです。
事前に評価ステップを認識した上で、事業開始することで実施中に効果的なデータの収集に努めることもできます。
手順としては、見える化の対象となる事業を特定し、次に対象となる事業のインプット(ヒト・モノ・カネ)、アウトプット(インプットによって提供されるモノ・サービス)、アウトカム(アウトプットによってもたらされる変化や効果)の因果関係を整理します。
因果関係が曖昧なまま測定してしまうと、その結果が当該事業の効果であると明確に認識されづらく、使えないデータとなってしまいます。そのため、第三者にも分かるような因果関係の整理を事前に行うことが重要です。
次のステップは、アウトカムを測定するための指標の設定です。これは主に定量化が可能なものに適用します。
データの入手可能性や比較可能性、持続可能性といった項目に沿って設定できると後々評価の際に役立つでしょう。
その後データを収集・分析し、報告・改善に繋げるというステップに移ります。
データは少なくともの事業開始前、事業中間地点、事業終了時の3回は同一のデータを取得できるようにしましょう。
それらを比較することによって事業効果を測定します。分析結果はステークホルダーに報告し、想定した成果が出てない場合は要因分析まで行って、事業内容の改善に繋げられるとなお良いでしょう。
分野別に参照している指標
それでは事業を評価するに当たって、実際にどのような指標を参照するのがよいのでしょうか。
明確な指標は定められていませんが、経済産業省が紹介する指標例がいくつかホームページに掲載されています。
具体的には国連事務局統計部が設定しているSDGs指標や、JICAが設定しているJICA開発課題別の指標例、Global Impact Investing NetworkによるIRIS+Metricsなどがあります。
分野としては、自然災害に対するインフラ強靭化、エネルギー安定供給、食糧安定供給、保健・衛生、資源の確保・水の安定供給、気候変動リスクなど、課題に沿って大別されています。
企業のSDGs / ESG貢献度を見える化した例
実際にこれまで見てきた手順に沿って、レジリエントな耕作・食料生産手法の設定例を見ていきます。
この場合、インプットは人員、耕作機械や有機肥料、予算となります。そしてそれによって提供されるのはレジリエントな食料生産技術と耕作機械を用いた生産体制です。
指標は①単位当たりの収入、②農家の農業収入、③生産的で持続可能な農業のもとに行われる農業地域の割合、という3点が挙げられるでしょう。
短期的なアウトカムとして、農地の収量向上や、農作物の品質改善、化学肥料の利用削減などを見込む一方で、長期的なアウトカムとしては、食料の安定供給や農家の所得向上、持続可能な食料生産システムの確保などが見込めます。
事業が進んでいく流れを事前に、指標に沿ってタイムライン化していきましょう。
自社だけで難しい場合は、コンサルティングファームによるレポートや、アルゴリズムによってレポーティングを代行する事業会社などと協業するのも手段の一つです。
まとめ
この記事では、企業がSDGs / ESGを見える化しなければならない理由を定義や、現在の社会背景も踏まえて解説しました。
SDGs / ESGへの配慮が企業にとっては必須となってきている中、それは一企業内だけではなく、他社とともに取り組むべき社会課題となっています。
ビジネス上の取引においても、非財務情報の開示がますます重要になってきています。この機会に、SDGs / ESGに沿った事業評価を持ってみるのもよいかもしれません。