感情を上手にコントロールすることは、私生活はもちろんのこと、業務の生産性維持や向上においても大きな意味を持ちます。特に管理者や経営者といった、リーダーシップを発揮すべき役職にある人は、より感情をうまくコントロールすることの重要性が大きい立場にあると言えるでしょう。
この記事では、感情のコントロールにおいても特に重要性の高い「アンガーマネジメント」の重要性と改善に向けたアプローチについて、解説します。
アンガーマネジメントとは
アンガーマネジメントとは、怒りの感情を上手にコントロールして立ち回ったり、怒りという感情が容易に沸き起こらないよう、うまく自分をコントロールするための手法全般を指します。
感情は大きく分けて、喜びや楽しみなどの正の感情と、怒りや悲しみのような負の感情の2種類が挙げられます。正の感情は、ポジティブな効果が大きいのに対し、負の感情は、自分や周囲に与えるデメリットが大きいため、可能な限り回避したいものです。
特に、怒りは「相手を怒鳴る」「悪口を言う」などで解消しようと体が動いてしまうため、周囲に与える負荷が大きい感情です。これを意図的にコントロールし、感情を抑制したり、怒りをうまく逃すための工夫に勤しむのが、アンガーマネジメントです。
なぜアンガーマネジメントが注目されるのか
怒りの感情は、古来より人間の衝動の一つとして広く共通してきたことですが、今日では今まで以上に怒りに対して批判的な意見が強まっており、可能な限り回避することが望ましいとされています。
アンガーマネジメントが注目されるようになったのは、一つに、科学や研究の進歩が挙げられます。怒りが人間や社会にもたらす悪影響が明確になり、「怒りは可能な限り回避すべきこと」と広く認識されるようになりました。
また、適切なアプローチを知ることで、怒りはコントロールできることが認知されるようになったのも、アンガーマネジメントが注目される背景の一つであると言えます。「怒ってしまうのは仕方のないこと」ではなく、「こうすれば怒らずにすむ」というノウハウが固まったことで、回避できることと考えられているためです。
最近は、社会の情報化が進み、多様な考え方や生き方が広く共有されることになったのも、背景に挙げられるでしょう。定型化されたライフスタイルのみならず、十人十色の生き方や考え方があることが重要視され、特定の価値観を押し付けるような主張や考え方に、社会が耳を傾けなくなりつつあります。相手の考え方を受け入れられないが故の怒りは、今や個人のエゴでしかなくなっているのです。
アンガーマネジメントとパワハラ防止法
企業や経営者としてアンガーマネジメントと向き合う必要性が高まっているのには、パワハラ防止法の制定も背景に挙げられます。パワハラ防止法は、2020年6月に施行された法律で、パワハラの基準を法律で定め、パワハラが組織で発生しないよう、企業にその努力を義務化しています。
これまで、パワハラは法律で定義されておらず、あくまで個人や企業の中で対処すべき問題とされてきました。しかし、パワハラを要因とした生産性低下や離職率の高まりにより、企業としてはもちろん、国としても看過できない事態となり、パワハラ防止法制定に至りました。
パワハラには身体的な暴力はもちろん、言葉の暴力なども含まれます。それが意図的であれ、怒りに任せて突発的に出た言葉であれ、相手にぶつけてしまった時点でパワハラとなってしまいます。
パワハラが確認されると、企業はパワハラ防止法に違反しているとされ、被害者から損害賠償を請求されるなど企業にとって大きな事態に発展しかねません。一時の感情に左右され、組織経営を傾かせないためにも、アンガーマネジメントを徹底し、不用意な言動を慎めるよう努力することが大切です。
怒りをコントロールできないことが組織に与えるデメリット
アンガーマネジメントを怠り、怒りをコントロールできないことは、組織にどのようなデメリットを与えるのでしょうか。特に、経営者にアンガーマネジメントが不足している場合、以下のような懸念事項が生まれることとなります。
組織の生産性低下
社員を怒鳴ったり、周囲に当たり散らしてしまうような経営者がいる現場では、必然的に社員のモチベーション低下を招き、生産性も下がってしまいます。人間はロボットではない以上、そのパフォーマンスも感情に大きく影響されます。
たとえ、他人に怒りをぶつけていないにせよ、一人でずっと怒っている人がいる職場では、前向きな空気を作ることが難しくなります。アンガーマネジメントを実践して怒りを表出させない、怒りが生まれないよう自分をコントロールしなければなりません。
社員の離職率増大
生産性の低下だけでなく、離職率の増加を招いてしまうのも、怒りがもたらすデメリットの一つです。モチベーションの上がらない職場や、社員が萎縮してしまうような職場では、社員が長く働きたいと感じることはできません。
近年は、多くの企業で人材不足が進んでおり、人材の採用コストも増大しています。余計なコスト増加を回避するためにも、離職率を抑えて働きやすい職場づくりに努める必要があります。
アイデアの画一化
社員にすぐに怒鳴ってしまう経営者がいる現場では、社員は萎縮して、柔軟にアイデアを創出してもらうことも難しくなります。固定化されたアイデアしか生まれず、事業を成長に導くような答えは得られません。
また、事業の停滞は経営者に更なるストレスを与え、怒りが湧いてきやすい環境を促します。このような悪循環を回避するためには、どこかで循環を断ち切る努力が必要です。
損害賠償請求などの発生
社員へ怒りをぶつけることは、パワハラ防止法に抵触することは上述しましたが、被害社員の状況によっては、大きな損害賠償請求が発生することもあります。
損害賠償請求への対応や、請求をめぐる裁判沙汰になると、余計にビジネスを継続する上での足かせとなってしまいかねません。アンガーマネジメントを実践し、組織をリスクから守りましょう。
企業ブランドの低下
パワハラ防止法が広く認知されている現在、社員からの内部告発によって、経営者や管理者のパワハラの事実が広まり、企業ブランドが低下するケースは珍しくありません。
パワハラの告発は、人権や多様性の尊重が社会で求められている現在、既存の企業ブランドを地に落としてしまうリスクもあります。そうなると経営者や経営陣の総入れ替えなどの対処が求められるため、経営者が率先してパワハラの防止、ひいてはアンガーマネジメントの実践に取り組むことが大切です。
アンガーマネジメントを実現するためのアプローチ
経営者が自身の怒りを自覚し、うまくコントロールするためには、以下の取り組みを心がける必要があります。怒りの感情のコントロールは、一朝一夕に身につくものではないため、継続的に取り組むことが大切です。
怒りのタイプを理解する
まずは、自身がどのようなシチュエーションで怒りを感じるのか、どんなことに対して怒りを覚えるのかを理解するところから始めましょう。
日本アンガーマネジメント協会によると、一般に、怒りのタイプには6つ存在するとされています。
例えば、不道徳な行為に怒りを感じる「公明正大タイプ」や、完璧主義であるが故に自分にも他人にも厳しくなる「博学多才タイプ」など、人によって沸点は大きく異なります。
以下のページより診断を受け、大まかな自分の怒りのタイプを確認してみましょう。
参考:https://www.angermanagement.co.jp/test
怒りのタイプがわかることで、どのようなことに対処すれば良いのか、という課題点を明らかにできます。
メタ認知力を高める
メタ認知とは、自分や他人や社会を客観的に捉える能力です。常にリラックスして物事に取り組んだり、正しい休息を得ることのできるマインドフルネスの考え方にも重要なメタ認知の力は、怒りを抑える上でも重要な役割を果たします。
何事も客観的に受け入れられるようになることで、主観的な怒りの感情が湧いてくる前に、冷静に物事へ対処できる能力が身につきます。メタ認知力を獲得し、怒りを回避できるマインドセットを手に入れましょう。
すぐにできるアンガーマネジメントの方法
アンガーマネジメントに根本的に取り組むためには、長期的な実践が必要ですが、だからと言って結果が出る前に問題行動を起こしていては意味がありません。突発的に湧いてしまった怒りへ対処する方法としては、
- 6秒ルール
- 怒りのスコア化
- その場から離れる
などの方法があります。6秒ルールとは、怒りに反射的に反応せず、怒りを感じたら6秒その場で数えるというものです。6秒ゆっくりカウントすることで、怒りを爆発させることなく、客観的に自分を捉えることのできるゆとりが生まれます。
怒りのスコア化は、その時に発生した怒りの感情を点数にすることで、自分を客観視する方法です。毎回の怒りの感情を数値化すれば、前回の怒りと今回の怒りを相対的に評価し、「これはそこまで起こるようなことじゃないな」と冷静に立ち回る手助けをしてくれます。
怒りが収まらない時には、その場を離れるという行為も有効です。怒りの対象から距離を置くことによって、感情が沈静化します。
いずれの方法も、怒りを客体化するというメタ認知の考え方にも続いて行われます。「今自分は怒ってるな」という認知を大切にしながら、対処するよう心がけましょう。
まとめ
アンガーマネジメントは、怒りに身を任せることで社員を傷つけたり、組織がリスクを負ってしまったりする事態を回避するために重要な取り組みです。中長期的に取り組むことで、怒りを抱えても怒鳴らなかったり、そもそも怒りを抱える頻度が低下する効果が期待できます。
怒りにとらわれることのない、冷静な立ち回りが実践できれば、組織経営にも良い影響を与えることが期待できます。積極的にアンガーマネジメントへ取り組み、冷静なコミュニケーションやライフスタイルを構築しましょう。