バックオフィス業務を整えることは、企業の成長や経営安定にとって重要な要素でありながら、その優先度は低くなりがちです。本インタビューでは、レジリエント株式会社を率いる小林史弥氏に、バックオフィス業務のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)や管理部長代行などを通じて経営者の“攻め”を支援する同社のサービス概要と、その立ち上げに至る背景を伺いました。月1時間から柔軟に利用できる「オフィス番」、管理部長代行サービスの「オフィス番プラス」、体制構築から一括代行する「オフィス番プレミアム」など、多様な企業ニーズに応じるサービス群がどのように活用されているのか。バックオフィスを強化し、経営者の負担を軽減する取り組みの全貌を探ります。
大学を卒業後、京都商工会議所にて中小企業の経営支援に従事。そ
ーーまずは御社の概要についてお聞かせください。
小林氏(以下、敬称略):弊社は「レジリエント株式会社」という会社で、現在3期目を迎えています。京都に本社を構えており、関東や九州をはじめ全国の企業様を対象に、バックオフィス業務の支援サービスを提供しているのが特徴です。具体的には「オフィス番」「オフィス番プラス」「オフィス番プレミアム」という三つのサービスを展開しています。
まず「オフィス番」は、いわゆるバックオフィスのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスで、お客様に代わってオンラインでバックオフィス業務を代行する形です。「月1時間から利用可能」というキャッチコピーを掲げ、必要なときに必要な分だけ柔軟に活用していただける点が特長です。
次に「オフィス番プラス」は、管理部長代行サービスという位置付けで、バックオフィス全般に関する課題解決や業務改善コンサルティング、バックオフィス診断を行っています。そして「オフィス番プレミアム」は、バックオフィスの体制構築から運用までをすべて一括で代行するパッケージサービスです。弊社には、個人経営の社長から上場企業まで幅広いお客様がおり、業種や業態を問わずご利用いただいています。バックオフィスで扱う業務領域としては、会計・経理、総務・秘書、人事・採用、営業事務、労務、情報システムの一部などが中心ですが、特に経理、労務、営業事務の分野へのニーズが高い状況です。
ーーこれはオンラインで提供されるアシスタントサービスという形になりますか?
小林:そうですね。基本的にはオンラインでのサービス提供が中心になります。加えて、バックオフィス関連のSaaS導入支援やツール選定、操作説明会などの実施まで、幅広くサポートできるのが特徴です。たとえば、会計ソフトであればfreeeやMoney Forward、給与・勤怠管理ツールとしてはHRMOS、ジンジャー、ジョブカンなどを扱っています。Notionのような汎用性の高いツールの導入支援も可能です。お客様の環境やご要望に合わせて最適なツールを提案し、導入をサポートできる点は弊社の強みだと考えています。
ーー業務効率化や最適化の側面が非常に強く、企業のDXを推進する要素も大きいのですね。
小林:はい。まさにその通りです。業務改善を本格的に行うケースもあれば、必要な機能だけを補完する形でBPOのなかに組み込む場合もあります。弊社のクライアントは、中小企業の経営者からスタートアップ企業までさまざまです。たとえば、業務ツールがほとんど導入されていない中小企業では、ゼロからツール導入をサポートすることが一般的です。一方、スタートアップ企業では、すでに何種類ものSaaSを導入しているものの、同じ機能のツールを重複して使っていたり、異なるツールが多すぎてAPI連携がうまくいっていなかったりといった課題がよく見られます。そうした状況で最適なバックオフィス構成を組み立てるのも、弊社の重要な役割です。
ーーそこは専属のコンサルタントのような方が対応されるのでしょうか?
小林:はい。社内に蓄積されたノウハウや専門知識を持つスタッフが対応します。具体的なツールの導入支援や業務改善の提案は、専門スタッフがヒアリングから運用サポートまで行う形です。
ーー「オフィス番」が「月1時間から利用可能」というのはかなりユニークですね。本当に1時間から依頼できるのでしょうか?
小林:可能です。たとえば、1人社長の方が経理代行だけを依頼したい場合、月に2〜3時間程度で対応が完結することもあります。弊社ではそういった個別のニーズにも対応できます。
ーー柔軟な対応ができる印象があります。
小林:はい。契約も1ヶ月単位で可能なので、繁忙期だけスポットでご利用いただくケースも多いです。他社さんだと「最低30時間から」「6ヶ月契約必須」といった制約がある場合が少なくありませんが、弊社はそうしたハードルを設けていないので、たとえば税理士法人様なら確定申告の時期だけ、学校関係であれば入試シーズンの3月・4月だけといった形で利用されるお客様もいらっしゃいます。エンタメ業界などでも、夏休みやクリスマス前の繁忙期だけサポートするなど、時期に合わせて人員を柔軟に補う方法として活用してもらうことが増えています。
ーー繁忙期のスポット対応でも、業種や業態で価格が変わるわけではないのですか?
小林:基本的には変わりません。他社では一定の時間数や長期契約が必要なことが多いですが、弊社では小規模事業者や繁忙期にだけ手が足りなくなる企業の方々が使いやすいよう、条件を極力シンプルに設定しています。
ーー本当に必要なときにクラウド上で必要な分だけ頼める、というイメージですね。
小林:まさにそのとおりです。たとえば、産休・育休で人員が一時的に減った際の穴埋めとして利用したり、突然の退職で急に人が足りなくなったときに短期間だけ依頼していただいたりと、いろいろな使い方が可能です。
ーー御社「レジリエント」を立ち上げた経緯や「オフィス番」を開発した背景を教えてください。
小林:きっかけは私自身の原体験にあります。新卒で商工会議所に入り、中小企業支援の部署で多くの経営者とお話しする機会がありました。皆さん、資料作成や事務作業に多くの時間を取られていて、「本来は経営や事業拡大にもっと注力できるようになるといいのに」と強く感じたのです。その後、人材系の会社に移り、管理部長や執行役員としてさまざまな実務を経験するなかで、企業にとってバックオフィスの機能は“守り”の要なのだと再認識しました。経営者が“攻め”の領域、つまり事業やビジョンに専念できるよう、バックオフィス業務をそっくり引き受ける仕組みを作りたいという思いが起業の原点です。「オフィス番」は、そういった想いを具現化したサービスの一つですね。
ーー最初から今のようなビジネスモデルで展開されていたのでしょうか?
小林:最初は「管理部長代行」という形で、私が一社一社に入り込みながら支援していました。けれども、1人で対応できる企業数には限界があります。もっと幅広い企業をサポートしたいと思い、BPOとして業務代行を行う「オフィス番」を立ち上げたのです。
ーー現在、BPOの実務にはどのくらいのメンバーが関わっているのですか?
小林:業務委託を含めると約80名の体制です。私は主に業務改善やDX推進など大きなプロジェクトに携わることが多く、たとえば企業のシステムを全面入れ替えするような案件の際は、私がプロジェクトリーダーとして指揮を執るケースもあります。
ーーもともと個人で活動されていたものを、法人としてBPOサービスに発展させていった形ですね。
小林:そうです。最初は会社員を続けながら、個人事業主として補助金申請書の作成などを請け負っていました。そこから管理部長業務や講師業を並行しつつ、2年ほど前に法人(レジリエント株式会社)と個人事業(講師業など)を切り分ける形に移行しました。
ーーその過程で蓄積されたノウハウが今のサービスにつながっているのでしょうか?
小林:はい。人材派遣や人材紹介を行う会社で執行役員として働きながら、システム導入やバックオフィス業務全般を幅広く経験したことが大きいですね。その後もスタートアップや大学発ベンチャー、中小企業など様々な形態の会社で管理部長を務めたりしたことで、企業ごとに異なる仕組みや課題を把握できたのも強みになっています。
ーー企業によって課題はさまざまだと思いますが、共通して多い問題は何でしょうか?
小林:共通するのは「バックオフィスが後回しにされがち」という点です。経営者の多くは営業やマーケティング、エンジニアなどの出身で、バックオフィスそのものには興味が薄い傾向があります。直接売上を生まない部門ということもあって優先度が下がりがちです。その結果、経理の内部管理が疎かになって横領が起きたり、財務状況が把握できていなかったりと、後から大きな問題に発展するケースをよく見てきました。
ーー具体的にどのようなトラブルがあるのでしょうか?
小林:たとえば、経理・財務管理の不備が原因で横領が起きたり、管理会計が整備されていないため必要な数字がすぐに出てこないなどが典型例です。人事・労務関係では、勤怠管理がいい加減なせいで給与計算が遅れたり、残業代を後から一括清算しなければならなくなって多額の支払いが発生したりすることもあります。また、請求書の発行が遅れてキャッシュフローが圧迫されるなど、「もっと早く整備しておけば問題にならなかったのに」という例は少なくありません。
ーー発生してから対処すると余計なコストがかかりますね。
小林:おっしゃる通りです。事後対応ではコストも手間もかかるので、「もっと早く相談してくれていたら」という場面はよくあります。
ーーそうした「バックオフィス後回し問題」を、御社ではどのように解決しているのでしょうか?
小林:課題の厄介なところは、経営者自身が「問題がある」と自覚していないケースが多い点です。そのため、直接「バックオフィスを整備しましょう」と提案するよりも、まずは「人手不足を補いませんか」「IT化でコストを削減しませんか」といった切り口でアプローチするほうがスムーズです。
ーー最初はコスト削減など経営者の関心が高いテーマで興味を引き、その後バックオフィス改善へつなげていくイメージでしょうか?
小林:はい。弊社では「人手不足の解消」「IT化」「コスト削減」といったキーワードを起点に、企業ごとに最適なソリューションを提案します。BPOだけでなく業務改善のコンサルティングやSaaS導入支援にも対応できることが弊社の強みです。一般的なBPO企業は「代行」だけに特化していることが多いのですが、弊社は業務代行をするなかで非効率な部分が見つかれば改善を提案し、より包括的なサポートを提供できます。
ーー実際のツール導入にもかなり詳しい印象がありますが、そのあたりは大手コンサルとの違いといえますか?
小林:そうですね。大手コンサルティング会社だと、ツールの比較表などは作っても、実際に自分たちで使った経験がないケースが多いです。弊社の場合、BPOとして日常的に多様なツールを操作しながら業務を行っているため、「運用してみて初めてわかる落とし穴やメリット」を蓄積できるのが大きな差別化ポイントです。その知見を活かして、企業の状況に合わせた最適なツール選定や導入支援が可能になります。
ーー導入実績は現在どのくらいあるのでしょうか?
小林:BPOやコンサルを含めてサービスローンチから1年で約100社ほどです。それぞれの企業で実際にさまざまなツールを使いながらバックオフィスをサポートしており、会計・経理、人事・労務、営業事務などの分野で50〜70種類以上のツールに日々触れている状況です。
ーーツールの選定基準はどのようなものでしょうか?
小林:業界特性や、すでに導入されているSaaSとのAPI連携、企業の規模感や成長フェーズなどを総合的に考慮して選定しています。IPOを目指しているかどうか、安定運営を重視するのかなどでも、導入すべきツールや仕組みは変わってきます。
ーー業務の最適化という点で、御社が特に強みを持つ部分はどこでしょう?
小林:BPOと業務改善をワンストップで提供できる点です。たとえば、最初はBPOとして業務を引き受けてみると、実際に作業する中で「ここのフローが無駄だ」とか「この工程はツールを導入すれば手作業を減らせる」といった改善点が見えてきます。そこで追加のコンサルティングを行って業務効率を高める、という流れが自然に生まれるわけです。
ーーなるほど。サービス導入時は、プロジェクトマネージャーのような方がヒアリングを行うのですか?
小林:はい。まずは「どの業務領域をアウトソースしたいか」をヒアリングし、そこから業務の整理を進めます。企業によっては先に業務ツールを入れてからBPOを依頼するほうが良い場合もあれば、逆にBPOで実務を回しつつ後からシステムを導入したほうが良い場合もあります。弊社ではマネージャーと実務担当アシスタントを最低1名ずつ配置して、業務フローの整備や追加の改善提案までセットで行う体制を整えています。
ーー人手不足の解消という観点からもニーズが大きそうです。
小林:はい。たとえば繁忙期だけ手が足りない企業、産休・育休や退職で急に人が減って困っている企業、地方でそもそも採用が難しい企業など、多様なご相談をいただきます。また、「経理一筋40年のベテラン社員が退職するためノウハウが失われる」というケースにも対応しており、業務を丸ごと弊社が受け継いで仕組みを再構築することも可能です。
ーーそうした相談のなかには、必ずしも効率の良い業務ばかりでない場合もありますよね?
小林:もちろんです。そういう場合には業務自体を見直し、「この作業は不要ではないか」「ここは自動化できるのではないか」という提案を積極的に行います。企業によっては当たり前のように続けてきたルーティンワークに無駄が多く潜んでいることもあるので、必要であれば仕組み自体を変えるところからサポートします。
ーー税理士さんに記帳代行を頼む感覚に近いのでしょうか?
小林:はい、イメージとしては非常に近いですね。記帳代行を税理士に頼むのと同じ感覚で、経理や総務、労務などの業務を丸ごと弊社に投げていただければ、あとは社内スタッフが本業に集中できるようになります。ツールの種類にも特に制約はありませんが、どんなツールが良いかを第三者の立場から客観的にアドバイスできる点もメリットです。
ーーたとえば会計ソフトを導入するにしても、freeeやMoney Forwardそれぞれの長所と短所を理解したうえで提案してもらえるのですね。
小林:はい。料金体系や機能面の違いを把握しつつ、企業の事業フェーズや将来の方向性に合ったツールをおすすめします。スタートアップならこのソフトが合う、中小企業でしばらくIPO予定がないならこちらがいい、というように具体的にお話しすると、導入のハードルも下がるようです。
ーーコスト削減を目的とする企業の場合、どういったアプローチが多いでしょうか?
小林:大きく分けて「人件費の削減」と「業務効率化による工数削減」の二つがあります。前者はBPOを活用してフルタイムで人を雇うより安く済ませるという考え方で、後者はSaaSやRPAなどを導入して作業自体を減らすという発想です。実際にヒアリングしたうえで、どちらがより効果的かを判断して提案することになります。
ーーなるほど。経営者にとっては非常にありがたいですね。ほかに注力しているサービスや強みがあれば教えてください。
小林:最近では「オフィス番プレミアム」のニーズが高まっています。これは、バックオフィス体制の構築から実務運用までを一括代行するサービスで、分社化や親会社からの独立、ジョイントベンチャーの設立、海外企業の日本法人立ち上げなど、ゼロから仕組みを作らなければならないケースで重宝されています。こうしたシチュエーションに対応できる会社は多くないため、弊社ならではの強みとしてアピールしたい部分です。
ーー競合企業も増えているように感じますが、差別化のポイントはどこにあるのでしょうか?
小林:そうですね。バックオフィス領域全般で多くの競合企業が存在します。弊社では、マーケティングや広報、コールセンターといった領域には手を広げず、あくまでもバックオフィス業務に集中して“縦の幅”を深掘りする戦略を取っているのが特徴です。具体的には、バックオフィスの戦略立案から実務代行、さらにSaaS導入支援まで、一気通貫で提供できるポジショニングを意識しています。
ーー将来的にはどのような展望をお持ちですか?
小林:ゆくゆくは自社でバックオフィス向けのSaaSを開発することや、IPOを目指す企業向けの支援サービスをさらに拡充させたいと考えています。ワーカー向けの研修コンテンツや法人向けのバックオフィス研修なども検討中ですが、あくまで「バックオフィス特化」を軸にしたサービス展開をしていきたいと思っています。やはりバックオフィスの課題はどんな企業にも必ず存在するので、ニーズが尽きることはないと感じています。
ーー上場を目指す企業にとってはCFO業務の負担も大きいですし、管理部長代行サービスは非常に助かりそうですね。
小林:そう言っていただけると嬉しいです。CFOが会計に強くても、ほかのバックオフィス業務すべてを完璧にカバーするのは難しいというケースもあります。そこに弊社の管理部長代行が入ることで、企業内に“守り”の機能をしっかり根付かせ、経営者やCFOが“攻め”に専念できるような環境を整えるのが理想だと考えています。
ーー本日は貴重なお話をありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしています。