みなさん、こんにちは。本日は、富山県の主要大学である国立大学法人富山大学様、公立大学法人富山県立大学様、北陸を中心に展開中の産学連携クロスオーバーシステムOcketの運営元である株式会社日本オープンシステムズ様の3者による、産学連携に関してのディスカッションを行いましたので、ご紹介いたします。
〇スピーカー
大森 清人
・富山大学 学術研究・産学連携本部 副本部長・教授
大西 正史
・富山大学 学術研究・産学連携本部 准教授
堀川 教世
・富山県立大学 工学部 機械システム工学科 教授
・地域連携センター所長
加藤 賢一
・富山県立大学 地域連携センター 産学官連携コーディネーター
園 博昭
・株式会社日本オープンシステムズ 代表取締役社長
・産学連携クロスオーバーシステム Ocket プロダクトオーナー
〇ファシリテーター
堀内 大
・株式会社ベリーグッド 代表取締役
・中小企業DXニュース運営
Session1:産学連携の意義と重要性
ファシリテーター 堀内:産学連携が地域経済に与えるメリットについてお伺いできればと思います。大森先生からよろしいでしょうか。
富山大学 大森 清人 氏(以下敬称略):どの大学も同じだと思いますが、大学は地域を代表する研究機関であり、大学内では多くの研究成果が生まれています。
これら研究成果は、地域の企業の課題解決や効率化、新しいイノベーションの創出といった場面で、大学は中心的な役割を果たしています。そのためにも大学と企業、地域社会との関係を強化することが、非常に重要です。言い換えれば、それが大学の強みであり、地域にとってのメリットと言えるでしょう。
大学として産学連携について特に意識しているのは、研究成果を社会実装することです。そのための方法としては、二つの大きな柱があります。一つは、大学と企業との共同研究です。もう一つは、スタートアップや起業家の創出です。
企業との共同研究では、大学は研究成果を商品化し、具体的な形で社会に提供することができます。研究成果のスタートアップ・起業化により、新しい産業が生まれ、新たな雇用が創出されることで、地域社会に対しても大きな貢献ができると考えています。
ファシリテーター 堀内:堀川先生はいかがでしょうか?
富山県立大学 堀川 教世 氏(以下敬称略):かつて大学では、基礎研究が主流であり、企業との共同研究に重点を置くことが批判される時期がありました。つまり、企業寄りの研究を進めると、基礎研究をしていないとして大学内で批判される風潮があったのです。そのため、共同研究に積極的に取り組むことが難しい時代がありました。しかし、最近ではその価値観が変わり、基礎研究は依然として重要視されながらも、共同研究の必要性も増してきています。
これからの大学は、時代に合わせて柔軟に変わっていく必要があると考えています。特に、地域との密接な関係を通じて研究成果を生み出し、人材育成を推進することが求められます。富山県立大学の場合、富山県と密接に連携しながら人材を育成することが最も大きな特徴です。また、地元企業との関係を深めることが重要であると考えています。
ファシリテーター 堀内:ありがとうございました。実際に、富山県立大学では産学連携において、どのような点を重視されていますか?
富山県立大学 堀川:我々の大学はもともと単科大学でしたが、平成31年に看護学部、令和6年に情報工学部が開設され、工学・情報工学的な視点も取り入れた看護学も学べることを特徴にしています。富山県内には特に機械や工学分野が盛んな企業が多く、これらの分野に特化して研究も進められています。
富山県立大学としては、地元の企業に貢献することを非常に重視しており、できる限り県内企業との連携を図っています。もちろん、県外企業との連携も行いますが、やはり富山県の大学として、地元企業を優先的にサポートしていくという姿勢を大切にしています。
ファシリテーター 堀内:富山大学ではその点はどのようにお考えですか?
富山大学 大森:そうですね。富山大学は9学部を有し、さらに附属病院と和漢医薬学総合研究所を含めると11の部局を持つ日本海側有数の総合大学です。
800名を超える教員の中には、企業との共同研究により、すでに研究成果の社会実装を目指している教員もいれば、基礎研究に従事している教員もいます。ただ、大学の研究成果がそのまま社会実装されることは非常に難しいので、ある程度の調整や適応が必要です。
従来は大学の研究成果を企業に紹介し、それに関心を持った企業と共同研究を進めることが一般的でしたが、この方法では企業の課題解決に結びつかず共同研究に至らないことも多くありました。
そこで、企業からの具体的な課題や要望を先に調査し、大学の研究をそれに合わせて調整するアプローチに切り替えることで、共同研究や社会実装の実現がスムーズに進むと考えるようになりました。企業のニーズに合う学内の研究成果をイメージする産学連携部門の想像力が重要になります。そのためもあって、近年は企業等との共同研究が増えてきています。
一方で、堀川先生が先ほど指摘されたように、基礎研究は大学にとって重要な使命です。基礎研究を重視する研究者には、競争的資金といわれる国からの資金など企業等との連携とは違うアプローチで研究資金獲得のサポートを行っています。
また、富山大学の9つの学部、それぞれによって、県内企業との連携により県内産業に貢献する場合もあれば、県外大企業との連携により課題解決や商品化を目指すケースもあります。どういった企業とどう連携するかは、ケースバイケースです。
例えば、富山県の主要産業の一つに医薬品製造がありますが、地域企業の多くはジェネリック製剤の製造に特化しています。一方、富山大学で行われている医薬品関連研究は必ずしもジェネリック製剤を対象としたものではありません。研究を進めるため、地域外の大企業と共同研究を進めることも選択肢となります。
産学連携本部の役割は、大学内の研究成果を社会実装に結びつけるための適切な連携の可能性を探ることです。そのため、富山県立大学とは異なる方向性を持つこともあります。地域貢献は我々の大きな目的の一つですが、活動は必ずしも地域に限定されるわけではありません。共同研究を通じて、研究の発展と産学連携の推進をバランス良く進めているのが私たちの基本的なスタンスです。
国立大学においては、2004年の国立大学法人化以降、大学収入の大きな部分を占める文部科学省からの運営費交付金が、年々削減されています。
このような状況の下、外部資金の獲得は大学にとって重要な課題であり、産学連携部門が果たすべき大きな役割の一つです。私たちは外部資金を確保することを通じて、大学の持続可能なシステム構築をサポートしています。
Session2:Ocket の役割とその効果
ファシリテーター 堀内:このような状況の中で、両大学にとって産学連携の強化がますます重要になっています。産学連携を促進するために、産学連携クロスオーバーシステムOcketが果たす役割やそのサービスの詳細について教えていただけますか?
日本オープンシステムズ 園 博昭 氏(以下敬称略):前職で産学連携に関わっており、研究所長として大学の先生方とお付き合いする必要がありました。最初は先生方が遠い存在に感じられましたが、お付き合いを重ねる中で共同研究の要望が私の周りに持ち込まれるようになり、「研究成果を企業に活用できないか」というアプローチが多く寄せられました。
私たちもそれを見て、使えるものがないか考えましたが、研究内容を理解するのは簡単ではなく、専門家の協力が必要でした。
この経験から、大学などのシーズに基づくよりも、企業側からニーズを出す方が効率的だと考えるようになりました。その時は具体的な形にはなりませんでしたが、その後、日本オープンシステムズに入ってから、産学連携が時代のキーワードとなり、企業のニーズを先生に伝え、実際に取り組んでいただける道筋を作れないかと考えるようになりました。そして両大学とお付き合いする中で、幸運にも関心を示していただき、ここまで進めることができました。
このシステムの最大の特徴は、企業がニーズを発信し、大学などが発信されたニーズに関心を持てば反応してくれる点です。最終的にうまくマッチングできれば理想的です。
また、ニーズ発信以外に役立つページも提供しています。例えば、大学ウェブサイトの構成が大学ごとに異なるため、企業は活用しにくいという問題点がありました。そこで検索や閲覧がしやすいように、シーズ紹介のリンク集や研究者紹介のリンク集、というように活用しやすく整理した「お役立ち情報」を用意しました。
ファシリテーター 堀内:Ocketを活用した成功事例もみられるのでしょうか?
日本オープンシステムズ 園:最初の成功事例は、手前みそになりますが、当社自身の事例を紹介します。研究というより教育に近い身近なものでした。当社従業員との会話の中で、特に若い従業員が食生活に無頓着であることに気づき、健康経営の一環として問題意識が生まれました。
そこで、当社自身もOcketユーザーであったため、「社員向けに健康に関する教育を行ってもらえないか」と大学に提案したところ、1時間後に1件反応があり、さらに2日後にももう1件の提案が来ました。結果、両大学で健康に関するセミナー(実演付き)を実施することになり、先生が丁寧に野菜の重要性などを教えてくれました。これにより、私たちの健康意識も大きく変わりました。
こうして、非常に身近な形で産学連携の実例を作り上げることができました。
ファシリテーター 堀内:堀川先生にお伺いします。Ocketを使われて、具体的にどのような効果がありましたか?
富山県立大学 堀川:共同研究をやりたい気持ちはあっても行動に移せない先生方もいます。そういった先生方にこのシステムを使ってもらったところ、「確かにこれは良いね」という感触を得ました。
企業から「このような課題がある」「共同研究をしたい」といった具体的なニーズが提示されると、我々も対応しやすくなります。これまで調整には負担が伴っていましたが、Ocketを導入することで、状況に応じた適切な判断が可能になり、大変役立っています。そのため、Ocket利用について、これまでよりギアを1段階上げ、全学的な合意形成を行い、2024年7月からシステムの利用拡大を決定しました。具体的には、これまで大学の産学連携担当のみがもっていたOcketアカウントを教員自身へも配付するというものです。そうすることで、産学連携窓口と教員のコミュニケーションはスムーズになりますし、何より教員自身がより多くの企業ニーズに直接触れることで、共同研究のきっかけを増やすことになると考えています。
ファシリテーター 堀内:ありがとうございます。実際にOcketをお使いになっている中で、何か問題点はありますか?
富山県立大学 堀川:Ocketというシステムは素晴らしいと思っています。ただどんなに良いシステムでも、使う側、つまり大学側が積極的に活用する体制を作らなければ、なかなか広がらないのではないかと思います。特に、産学連携にあまり積極的でない方々をどう動かすかが課題です。
現在、いくつかの国立大学では共同研究に関してタイムチャージ制が導入されていると聞きます。共同研究の一部を教員自らの業績にすることができるので、実際、共同研究が増えたとの話も聞いたことがあります。これは、確かに有効な方法だと思います。目の前にインセンティブを提示するようなものですからね。
タイムチャージ制に限らず、我々富山県立大学も共同研究に積極的に参加したくなる仕組みや体制を整えていかないと、せっかくOcketのような良いシステムがあっても、それを広めることは難しいと感じています。それが非常に重要なポイントです。現状の職務に手いっぱいの各教員へ「共同研究をしてください」と言うだけでは、なかなか動いてもらえないのが実状です。大学の研究費に余裕があった時代は終わり、これからは共同研究をしなければ資金を獲得するのも難しくなってくるでしょうから、そういった状況になる前に、共同研究をするのが当たり前で、気軽に取り組める環境を作りたいと考えています。
ファシリテーター 堀内:富山大学では、現在Ocketをどのような形で活用されていますか?
富山大学 大森:富山大学では、企業のニーズを拾い上げるためのツールとしてOcketを活用し始めました。いわば、最初の入口として機能しています。
当大学では、Ocketを通じて共同研究が実現したケースもあります。堀川先生もおっしゃったように、大学は全員が同じ方向を向くのが難しい組織ですが、成功例が一つできると、それを見て自然と動き出す人が増えるのではないかと考えています。
1つでも多く成功例を作り、それを説明・広報することが私たちの役割だと考えています。
Session3:産学連携の課題と解決策
ファシリテーター 堀内:産学連携の課題として、共同研究に対する優先度が低い教員が一定数いるということでしょうか?
富山大学 大森:研究者にとって最も重要なのは、研究を進めて論文を発表し、学術的な業績を積むことです。さらに進めば特許を取得することもありますが、まずは論文発表が大事です。それに集中される研究者は、当然集中していただければよく、そのための研究費を国が用意する仕組みも整っているので、それで問題ないと思います。
産学連携は研究成果を社会実装化する一つの方法ですが、全ての研究者に押し付けることはできません。そこで、より多くの研究者が産学連携や外部資金獲得、共同研究に興味を持つよう働きかけ、仕組みを整えることが私たちの仕事です。
一方で、産学連携の優先度が低い研究者には別の資金獲得方法を提示することも重要です。また、中間的な立場の方々を共同研究に導くことも私たちの役割だと考えています。
ファシリテーター 堀内:ありがとうございます。
日本オープンシステムズ 園:一つお伺いしたいのですが、先ほどから共同研究が多く取り上げられ、イノベーションや基礎研究も話題に上がっています。新しい挑戦も重要ですが、技術や設備の維持といった現状を保つことも大切だと思います。
こうした維持の観点で、大学はどのように関与しているのでしょうか?基礎研究が基礎教育に貢献することは難しいのでしょうか?
あるメッキ工場の経営者が、メッキ技術は成熟しており、それを教える大学の教員は少なく、さらにその教員方も引退間近だと話していました。今後、教えてもらえる人がいなくなり、自分たちの技術に頼るしかなくなることに悩んでいるそうです。
メッキは古い技術ですが、表面加工として進化し、今後も必要とされるはずです。それにもかかわらず、大学での扱いが減っていると感じました。
このような技術の維持も重要ですし、Ocketを通じてニーズを発信すれば、メッキの研究や教育を進める先生が現れるかもしれません。大学としてこうした方向性を模索するのは難しいのでしょうか?
富山大学 大森:可能性は十分にあると思います。ニーズがあるところには、大学の教育システムが対応していくべきですし、その展開はあり得ると思います。
一方で、工学部の講座も変遷があり、富山大学にしか残っていない珍しい分野もあります。特定の分野が富山大学の特徴として残る可能性もあるでしょう。
富山大学 大西 正史 氏(以下敬称略):従来のメッキ加工は完成された技術かもしれませんが、金属以外にプラスチックへのメッキも求められています。自動車部品のプラスチック化や半導体の細かい部品へのメッキ技術も進んでおり、これらは新しい基礎技術として発展の可能性があります。
古典的なメッキ技術そのものではなく、新しいメッキ技術が引き続き必要とされ、研究が進んでいると思います。
富山県立大学 堀川:大森先生がおっしゃられたように、重要なのはニーズがあるかどうかです。例えば、金属疲労の研究を以前は多くの大学で行われていましたが、壊れるメカニズムが解明され、徐々に廃れてきました。今では地方の大学に少し残っている程度です。
しかし、研究者がいなくなると再び問題が発生する可能性があり、事故が起こればまた「疲労」の分野が重要視され、研究が再開されるでしょう。研究分野は時代によって出たり消えたりするものです。
メッキ技術も同様で、確立された技術として維持されるだけでなく、時代に応じて変化し、努力しなければ進化しないものだと思います。
富山大学 大森:富山大学はアルミニウム研究の専門家が豊富に揃っており、日本国内でこれほどの研究者が集結している大学は他にほとんどありません。これは、富山県のアルミ産業が伝統的に盛んであることが背景にあり、共同研究を通じて多くの研究者が富山大学に留まることになった結果です。
地域の産業と大学が協力して学問や技術を維持・発展させることに大きな可能性があります。産業界の協力がなければ、特定の学問が存続することが困難な場合もあります。
特にアルミニウム分野では、最近「ギガキャスト」などの新技術が登場し、これらの進展に大学が貢献しています。このような地域産業を支え、発展させるためには、大学との連携が不可欠です。
Session4:企業の視点から見た産学連携のメリット
ファシリテーター 堀内:実際に、Ocketでは企業側から「技術を残してほしい」といったようなニーズを発信することはできるのでしょうか?
日本オープンシステムズ 園:もちろん可能です。どんな形でも構いませんので、まずは発信してみてください。研究に限らず、社員教育や学生の力を借りたいという内容でも大丈夫です。必ずしも反応があるとは限りませんが、まず発信することが大切だというスタンスで取り組んでいます。
ファシリテーター 堀内:イメージとしては、どうしても共同研究が先行してしまいますが、教育や技術を残したいというニーズもあるのでしょうか?
日本オープンシステムズ 園:はい、そのようなニーズの発信もあります。共同研究は産学連携の代表的な形ですが、それだけではありません。Ocketの統計データによると、(2024年8月現在)18件の募集案件(ニーズ)が発信されていて、その中で最も多いのはアドバイスで、全体の約1/4を占めています。それに続いて共同研究や教育も含まれています。これが多様な形態の産学連携が可能であることの実例です。
ファシリテーター 堀内:ありがとうございます。実際、共同研究以外で、大学が提供できるサポートやアドバイスの形態について拡大する計画はありますか?
日本オープンシステムズ 園:私も、アドバイスのような形が多いのではないかと思います。共同研究のレベルではなく、少し教えてほしいというニーズが多いのではないかと考えています。
前職の経験ですが、現場では微分方程式を使うことは一般的ではありませんでした。新卒のころ、私は数学が得意だったので、データがあれば数式で解決できると提案し、実際に解決できたことがありますが、これは私がたまたま数学に強かったからです。
その経験から考えると、Ocketのようなシステムがあれば、現場の第一線で微分方程式を使える人がいなくても「こういう課題がありますが、いかがでしょうか?」と発信でき、大学の先生方が対応できるかもしれません。解決にかかる費用は別として、企業が10万〜20万円程度の予算を提示し、スムーズに解決できれば、今後も積極的に取り組もうと思うでしょう。
ファシリテーター 堀内:ありがとうございます。気軽に案件をつないでいくという形になるわけですね。
富山大学 大西:富山大学でも、企業からの要望に応じて共同研究以外にも学術指導という形態で企業ニーズに応える場合もありますが、これはOcketにおいては「アドバイス」として区分しているわけですね?
日本オープンシステムズ 園:はい、そのように区分しています。もちろん、アドバイスでも費用がかかることはOcketの説明書きでも明記していますが、企業側は大きな負担なく取り組めるのではないかと思います。
富山大学 大森:共同研究のもう一つのメリットは、企業が人材を確保しやすくなる点です。多くの企業が人手集めに苦労していますが、共同研究を通じて学生の能力や研究レベルが分かり、その人材をリクルートする可能性があることは、企業にとって大きな利点です。
富山大学 大森:富山大学の産学連携本部では、就職支援とは謳っていませんが、「業界・企業研究会」という企業と学生、教員が密接に交流できる場を提供しています。特に、共同研究を行っている学生と企業が交流する良い機会になっています。
富山大学 大西:富山県内の企業が主ですが、県外からの企業の参加もあり、約200社規模のイベントとなっています。各企業が自社のPRを学生に行う催しとなっています。
富山県立大学 堀川:富山県立大学では卒業生の50%を県内企業に就職させることを目標としています。そのために最も効果的な方法の一つが、共同研究を通じて学生を企業に繋げることです。特に最近は、富山県出身の学生でも地元の企業をあまり知らないケースが多く、共同研究を通じて企業を知り、そのまま就職することが増えています。
県立大学として、地元に高度な人材を輩出することが使命であり、特に県内出身の学生には県内での就職を推進しています。現在、地域連携センターとキャリアセンターは別々ですが、地域連携とキャリア支援が一体となる時期が来ていると感じています。共同研究だけでなく、人材育成にも大きなメリットがあります。
日本オープンシステムズ 園:Ocketではリカレント教育やリスキリングの分野でもニーズを発信できます。「共同研究」のレベルではなくても、それらの分野のニーズを案件として募集することで、Ocketを通じて大学の先生と繋がり、その繋がりから学生さんたちとの共同研究テーマが出てくる、というような展開も期待できると思います。
ファシリテーター 堀内:つまり、Ocketは企業が柔軟に活用できるということですね。
日本オープンシステムズ 園:そうしていきたいと考えています。現在アカウント数は200を超えていますが、もっと認知度が広がることを期待しています。
商工会議所を通じて普及活動はしていますが、個別の企業に聞くと「知らなかった」という反応が多いです。チラシやホームページでの案内も、個別の企業に情報が届きにくいのが課題です。
ファシリテーター 堀内:ありがとうございます。では、次に今後の産学連携について伺いたいと思います。堀川先生、今後の産学連携のあり方についてご意見をお聞かせください。
富山県立大学 堀川:私たちは富山県の大学であり、県と共に大学の方向性を決めています。開学当初は機械と電気に限られていましたが、創薬、ロボット、AI、DXといった分野にも広がってきました。大学としては基礎研究を重視しつつ、工学・情報工学と看護に特化して、富山県の産業に貢献できる人材を育成することが使命です。
他の大学に比べて、私たちの目標は「富山県のために」と明確です。そのため、方向性がはっきりしていて動きやすい反面、自由度は限られる部分もあります。将来的には、県の産業を支えるためにどのように貢献できるかを模索していきますが、まだ具体的な方法は決まっていません。
ファシリテーター 堀内:最近の新しい取り組みやチャレンジはありますか?
富山県立大学 堀川:はい、いろいろ取り組んでいます。例えば、企業の要望に応じて交流会を開いたり、企業のニーズに合わせたカスタムメイド型の授業を実施したりしています。
富山県立大学 加藤 賢一氏(以下敬称略):地域連携センターには産学連携を担当する職員が3名おり、リカレントコーディネーターもいます。以前は大学のカリキュラムに基づいた活動が中心でしたが、企業の方がセミナーに参加しにくいこともあり、従来のレディーメイド型に加えて、カスタムメイド型のプログラムを提供しています。最近では企業からの要望で、ChatGPTに関するセミナーを企業訪問して週末に実施しました。これは企業に寄り添った取り組みの一例です。
富山大学 大森:どのくらいの企業に対応されていますか?
富山県立大学 加藤:カスタムメイド型のプログラムは、年間で10社から10数社ほどです。
富山大学 大森:例えば、ChatGPTの授業の場合1回の時間は何時間ですか?
富山県立大学 加藤:1回につき2時間です。
富山大学 大森:特定の企業向けに実施されているということですか?
富山県立大学 加藤:はい、企業ごとに従業員が揃った状態で実施しています。
富山県立大学 堀川:以前は「大学でChatGPTの授業を行いますので、よかったら来てください」という形で案内していましたが、参加者が少なく、企業に出向く形に切り替えました。件数は増えましたが、教員の負担も増えています。
現在は企業のスケジュールに合わせて実施しており、AIやChatGPT、DXに関する要望が多いです。特に「DXとは何か」といった基本的な質問を社員に教えてほしいという依頼が増えています。
富山県立大学 加藤:初級、中級、上級に分けて企業に確認し、リカレントコーディネーターがその内容を教員に伝えます。それに基づいて授業内容を決めています。
富山県立大学 堀川:以前はどのレベルに合わせるべきか難しかったのですが、企業に出向くことで、受講者のレベルに応じた対応がしやすくなりました。
富山大学 大森:私たちもリカレント教育を毎週土曜日にほぼ一年間行っていますが、そろそろ内容を見直す時期にきています。現在構想中ですが、今のお話は参考になりました。
富山県立大学 堀川:教員の負担も課題ですね。要望が多い分野の先生に負担が集中してしまいます。
富山大学 大森:授業内容を絞ることが重要ですね。
富山大学 大西:まさに大学の講義のようで、富山県内企業の若手研究者が中心で、年間延べ300人以上が受講しています。テーマは毎年同じでも、内容は都度更新し、最新の情報を提供しています。
ファシリテーター 堀内:リカレント教育から具体的な案件に進展することはありますか?
富山県立大学 堀川:これまでも、授業を受講した方が座談会で企業の課題を話し合い、それが共同研究に発展することがありました。昔からそうしたきっかけはありましたが、それをシステム化したのが現在の取り組みです。非常に良いシステムだと思います。
日本オープンシステムズ 園:Ocketについて少し本音をお話しします。現在18件の案件があり、アドバイスのジャンルが多い印象ですが、「関心あり」の平均数は1.3件で、面談に進んだのは6件です。進展が限られている状況です。
そこで伺いたいのは、大学側が案件を見たとき、「対応できない」のか、「良い案件だが分野的に難しい」のか、という点です。秘密保持上、私たちは具体的な内容を見られないので、そのあたりの本音を知りたいです。
産学連携マッチングのサポートを行なっている他の団体では、企業が自分のニーズを大学に明確に伝えるのが難しく、サポートが必要という意見もあります。Ocketでも企業の希望が正確に伝わっていないのではという声もありますが、少なくとも平均1.3件の反応があるので、完全に伝わっていないわけではないと思います。
各大学がコーディネーターの役割に大きく依存するよりも、直接繋がる方が効果的だと考えていますが、どのようにお考えでしょうか?今後のシステム活用に活かしたいと思っています。
富山県立大学 堀川:Ocketを使っていて、対応できる案件もありますが、忙しくて「関心あり」ボタンを押す余裕がないのが実情です。内容的には大きく外れているものではないと思います。
日本オープンシステムズ 園:18件の案件がありますが、全体の水準は低くないということですね。大森先生はどうお考えですか?
富山大学 大森:そう思います。ただ、商工会議所に加入している企業は中小企業が多く、共同研究や産学連携に慣れていない企業も多いかもしれません。
日本オープンシステムズ 園:要するに、産学連携の経験がある企業ならスムーズに契約に進むが、慣れていない企業だとチャットのやり取りが長引き、進みにくいことがあるということですね。
富山大学 大森:そういうことはあると思います。
日本オープンシステムズ 園:産学連携の経験が不足しているため契約の手続きや流れをイメージできていないのかもしれません。具体的アクションへ進むための手続き事例のヒントをシステムが与えるような方法を検討してみたいと思います。
富山県立大学 堀川:私たちの大学では間に立って、説明などのサポートを行っています。
富山大学 大西:富山大学ではまず産学連携コーディネーターがOcketの案件を確認し、対応できる研究者が居ない案件はその時点で「対応できません」と返答しています。適任の研究者がいれば、その先生に相談し、対応できる場合は「関心あり」と返答しています。
富山県立大学 堀川:我々の大学では、全教員にオープンにしていますが、アカウントは希望する教員にのみ配布しています。現在、アカウントを持っているのは17人ほどで、希望した教員が確認しています。
日本オープンシステムズ 園:富山県立大学の教員の皆様に個別に紹介する機会があり、そこでお話させていただいた際に「自分たちも見てみたい」という声が上がり、広がっていきました。皆さんに活用いただいている状況が確認でき、感謝しています。課題の水準も一定のレベルに達しているとのご意見をいただけたことに安心しました。
Last Session:未来の産学連携の展望
ファシリテーター 堀内:最後に、今後の展望など何か一言ございましたら、お願いします。
富山大学 大森:繰り返しになりますが、私たちが産学連携で重点的に取り組んでいるのは、共同研究の推進とスタートアップの育成の2点です。この2つが進展すれば、競争的資金や国からの助成金も増えると考えています。スタートアップに関しては、環境を整え、早い段階で成功例を作ることが重要です。これまで1年半、起業化が期待できる数件のプロジェクトに特別に力を入れて支援しています。
産学連携を通じて、研究力を高めるための資金を確保し、「稼げる大学」を目指してまいります。
富山大学 大西:富山大学では、大学のシーズと企業ニーズのギャップを埋めるために、ニーズオリエンテッドなアプローチを積極的に実施しています。企業ニーズに応じることで、コミュニケーションや時間のズレを解消し、比較的規模の大きな共同研究を進めることが可能です。Ocketもその取り組みにおいて非常に有効に活用できています。
富山県立大学 堀川:当大学では起業にも力を入れており、共同研究とも密接に関連しています。そのため、共同研究と起業の両方を推進していきたいと考えています。Ocketは今後、重要なツールになると期待しています。現在はニーズ発信が中心ですが、将来的には起業関連の情報も扱うかもしれません。Ocketがどれだけ成長するかが鍵ですが、非常に良いシステムと感じておりますので、ぜひ発展してほしいと考えています。
日本オープンシステムズ 園:このシステムは、皆さんと協力して作り上げたもので、企業からのニーズ発信という大きな特徴があります。より多くの人に知ってもらい、大学が身近な存在になることで、地元での就職や地域経済の発展につながる好循環が生まれると考えています。
また、スタートアップがこうした取り組みから誕生することもあり、レベルの高い案件は共同研究として成果を上げ、最終的には論文に結実する流れができれば理想的です。
今後の展開として、これまで北陸にこだわって地域経済の発展を重視してきましたが、「なぜ北陸にこだわるのか」という声もありました。そこで、他の地域の大学も希望があれば仲間に加わってもらえるようにしたいと考えています。
その結果、別の地域経済にもOcketを展開する可能性があり、新幹線などの交通網を活用して大学を増やす方法も視野に入れています。
ファシリテーター 堀内:本日は、皆様お忙しい中、貴重なお時間をいただきありがとうございました。産学連携やOcketの活用に関する具体的な取り組み、今後の展望について、多くの有益な意見をいただけたことに感謝いたします。本日の議論を通じて、大学と企業が協力し、地域経済の発展に寄与するための道筋がより明確になったと感じています。本日は誠にありがとうございました。
参加関係者のリンク先
〇国立大学法人 富山大学
学術研究 産学連携本部:https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/
〇公立大学法人 富山県立大学
地域連携 産学官連携:https://www.pu-toyama.ac.jp/regional_alliances/cooperation/
〇株式会社日本オープンシステムズ
ホームページ:https://www.jops.co.jp/
産学連携クロスオーバーシステムOcket ポータルサイト:https://www.ocket.jp/