病院経営は、日々の変化に対応しながら、さまざまな課題を抱える難解な分野として知られています。事務長の役割は特に経営の中核に位置し、彼らのスキルや知識がその成功に大きく影響します。
この度、効果的なコスト削減を手がけ、病院の経営改善に数多くの貢献をしてきたGUTS株式会社の代表取締役 清水氏に、医療業界の最新の動向や経営の現状を基に、コンサルティングの方針や、経営の要である事務長のリスキリングに関する独自のアプローチについてお話を伺うことができました。
GUTS株式会社代表取締役
東京都内の医療法人に入職し、同法人本部で購買業務および各種契約業務を担当
2009年から病院経営コンサルタントに転身
2017年4月にGUTS株式会社を設立し、代表取締役に就任
社会心理学や行動経済学を病院経営に応用することでモチベーションアップと組織改革を両立させるコンサルティングスキームを提唱している
会社概要とビジョン
ーーGUTS株式会社はどのような会社ですか?
清⽔ 仁氏(以下敬称略):GUTS株式会社は、医療機関の経営改善を実現するためのコンサルティングを提供しています。私たちの主なミッションは、病院に具体的なメリットをもたらすためのサポートを行うことです。大阪の中津が本拠地ですが、東京と名古屋にもオフィスを構えており、全国の医療機関と連携し、病院職員の皆様とともに経営の更なる向上を目指して取り組んでいます。
ーー医療系コンサルタントとしての取り組みについてお聞かせください。
清⽔:私自身が医療経営コンサルタントとしての位置づけを考えるとき、核となるコンセプトは「病院に具体的なメリットをもたらす」ことです。「具体的に」とは病院がどれだけの収益を増やすことができたのか、またはどれだけの成果を出すことができたのかといった結果を明確に可視化するビジネスを中心に取り組んでいます。
主要サービス紹介
ーー具体的にどのようなサービスを提供されていますか?
コスト削減サービス(Low-Cost Operation)
清⽔:私たちが提供する主要なサービスの一つは「コスト削減」を目的としたものです。これを「Low-Cost Operation」と称しています。具体的には、お客様と共に価格交渉を行い、より効果的なコスト削減をサポートしています。
売上増収サービス(Value Up Program)
清⽔:もう一つの主要サービスは「売上増収」を中心としています。数あるコンサルティングサービスの中で、私たちが特に力を入れているのはリハビリ部門の運営コンサルティングです。ドクターや療法士との連携を深め、増収を実現しています。このサービスは、成果を明確に可視化しやすいのが特徴です。また、派生サービスとして、人材育成や研修のサポートも行っています。
サービスの報酬体系について
ーー報酬体系について教えてください。
清⽔:私たちが提供しているサービスには、「LCO」と「VUP」という2つの主要なプランがあります。これらのサービスは、主に成功報酬型で取り組んでいます。具体的には、「完全成功報酬」と「固定報酬と成功報酬のミックスプラン」の2つの形態を提供しておりますが、多くのクライアント様が「完全成功報酬」をお選びになりますね。
「完全成功報酬」の場合、コスト削減が実現した金額に対して、30%から50%の報酬をいただく形となっております。その具体的なパーセンテージは、プロジェクトの規模や内容に応じて変動することがあります。
成功報酬の仕組みについて
ーー 成功報酬の基準は、1年分の業績に基づくのですか?
清⽔:はい、基本的には過去1年間の実績に基づいた報酬をいただいています。しかし、契約期間に関しては柔軟に対応しています。例えば、初めは1年契約を考えていたものが、交渉を経て3年契約となるケースもございます。その際には、「3年契約にすることでこの程度のコスト削減が実現します」といった提案を行うことも少なくありません。複数年にわたる成果を実現した場合、それに応じた複数年分の成功報酬をいただく形となります。
GUTS株式会社の強みについて
ーー次にGUTS株式会社の他社との違い、強みを教えてください。
清⽔:私たちのビジネスの独自性についてお話しします。現在、コスト削減サービスを提供している会社は多数存在します。これらの会社は、大きく「設備投資を伴うコスト削減」を行う企業と、「設備投資不要のコスト削減」を実施する企業に分けられます。私たちは後者のカテゴリに属し、価格交渉をメインにしたコスト削減のサポートを行っています。
さらに独自の特徴として、価格交渉の際に実際の交渉場に同席するというサービスを提供しています。他の多くの大手コンサルティング企業は、交渉の場には同席しないようなのですが、私たちはその交渉の場に実際に立ち会い、お客様のコスト削減のサポートを実施しています。このアプローチにより、より実効性のあるコスト削減を実現することを目指しています。
GUTS株式会社の実績と活動範囲について
ーーどのような病院で支援を行なってこられましたか?
清⽔:これまでの活動の中で、大学病院、労災病院、済生会病院をはじめ、関西圏を中心とする公立病院や民間病院の支援を行ってまいりました。特に注目すべき最近の実績として、東京都立の10の病院のコンサルティングを一手に担っています。
ーー取引先病院のタイプと分布はどのような感じでしょうか?
清⽔:私たちの会社は設立から7年が経ち、これまで日本全国で約120の病院とのコラボレーションを実現してきました。地域別に見ると、東日本で47の病院、西日本で70の病院となります。
また、取引先のタイプに関しては、民間病院と公的病院がほぼ同数で、それぞれ60病院ずつとなっております。このように、様々なタイプの病院との連携を均等に築き上げてきた経験を持っていますので、その点をご理解いただければと思います。
ーーこれまでのサービス実績や成功事例について、具体的に教えていただけますか?
清⽔:私たちのサービスの特徴的な実績の一例として、鹿児島にある200床程度の民間病院を取り上げたいと思います。この病院では、薬の年間コストが6億5千万円、医療材料コストが8億円と、合計で17億のコストが発生していました。
私たちのアプローチは、データベースを活用して、事前に削減目標を設定することです。この病院の場合、目標削減額は6千万円としました。結果として、1年足らずで7千万円の削減を達成し、目標を上回る成果を挙げることができました。
私たちのサービスが必ず成功するわけではありません。いままで手掛けてきたコンサルティングでの全体の削減率は3.36%で、成功率は96.76%です。この数字は、「1円でもコストが削減できたら成功」という基準で計算されています。しかし、成功しなかった1つのケースがありました。これは交渉の失敗よりも、契約後の院内の事務職員の協力が得られなかったことが主な要因でした。
私たちのサービスは、必ずしも100%の成功を保証するものではありません。そのため、成功報酬型のプランを選択することをおすすめしています。これにより、クライアント様のリスクを最小限に抑えることが可能です。
医療経営の現状について
ーー医療経営における最も基本的な考え方を教えてください。
清⽔:すべての組織において、売り上げの拡大とコストの削減は経営の要となります。医療経営においても同様です。これらのバランスをとるために、具体的な手法やアプローチが求められます。
医療経営の特徴は、給与が費用の50%を占める点にあります。適切な医業利益を確保するためには、医療収入と医業費用のバランスを考慮する必要があります。医業利益を安定的に上げるためには、病院は「医業収益の向上」と「医業費用の最適化」の2つの経営の両輪を常にまわす必要があり、これは我々が考える医療経営の本質ですが、続いてその背後にあるマクロな視点を共有させていただきます。
医療業界の現状を示すマクロ指標
マクロ指標(1):医療費の総額
令和3年度のデータによると、医療費は40数兆円に上り、これは国家予算一般会計の約半分に相当します。このため、医療費の増大に対する風当たりは強く、国はこれまで医療費の抑制を進めてきました。
マクロ指標(2):診療報酬率の変動
診療報酬は2年に一度の改定が行われており、2000年まではなんだかんだでプラス改定が続いていました。しかし、小泉政権以降はマイナス改定の方針となり、その後民主党時代には一時的にプラス改定となりましたが、自民党政権下でも再度ネットプライス改定が継続しています。これを実現するためには、薬価のマイナス改定を財源として、診療報酬本体部分(初・再診料など)の金額を増やしてきました。
マクロ指標(3):医療機関の損益
公立病院の損益は、長らく赤字が続き、コロナの影響で20%の赤字となった時期もありました。一方、民間病院は黒字経営が続いていますが、かつての4~5%から現在は2%ほどに減少しています。
マクロ指標(4):病院管理指標
医療法人を更に詳しく見ると、一般病院、ケアミックス、慢性期などに分類されますが、全体としては赤字となっています。自治体やその他の公的病院も同様に赤字の状況が続いています。
マクロ指標(5):病院施設数の変動
平成14年には9,200病院が存在していましたが、現在は8,500病院以下に減少しています。とはいえ、経営が困難になった病院が単純に閉鎖されることは少なく、M&Aにより他の病院に統合されるケースが多く見られ、自治体病院や公的病院での統廃合が目立つ傾向にあります。
ーー今後も医療費は増加の一途を辿るのでしょうか?
清⽔:実は、高齢化のピークはまだ少し先にあります。したがって、医療費の増加は今後も続くことが予想されます。
ーーありがとうございます。業界全体の現在の課題は何でしょうか?
清⽔:患者数は増加して忙しくなる一方、収益は減少し続けています。これが業界全体の課題となっている点です。
事務長の役割と研修の重要性について
ーー今回のテーマでもある、病院経営における事務長の重要性や、そのスキルアップ・リスキリングの方向性についてどのようにお考えですか?
清⽔:病院経営において、事務長が実際に最高経営責任者として位置づけられることは多いわけではありません。しかし、彼らは経営陣としての役割を果たし、経営の一翼を担っています。
小さな病院や診療所では、理事長自身が経営責任を持ち、積極的に経営活動を行っていることが多いです。しかし、100床以上の病院になると、理事長は医療業務に専念したいという気持ちが強く、経営面においては事務長に任せるケースが増えてきます。この背景を踏まえ、事務長のスキルアップやリスキリングの必要性が高まってきていると感じます。
ーー事務長の役割は、ずばり何でしょうか?
清⽔:病院経営においては多岐にわたる問題が生じます。売上の減少、コストの増加、看護師や医師の不足、救急隊との連携、医師会との調整など、これらの経営課題が常に存在します。そして、これらの課題は大半が事務長のもとに持ち込まれます。経営指標は多くの人が確認できますが、具体的な対策や策略は事務長に一任されることが多いのです。
たとえば、看護師の増員を求める声が上がった場合、それに対する具体的なアクションや判断は事務長の役割となります。私は事務長の主な役割を「問題解決」だと考えています。看護師や医師など、病院には各分野のスペシャリストが数多く在籍しています。しかし、これらの専門家たちが持ち込む問題を解決する「問題解決のスペシャリスト」が必要で、それが事務長だと捉えています。
うまく運営している病院は、事務長の立場から見ても、こういった問題解決が上手くできていると感じます。そのように推察することができると考えています。
ーー事務長のスキルアップの必要性が高まる中、事務長研修を重要視されていますがその取り組みについて教えてください。
清⽔:私たちがコスト削減のビジネスを手掛けてきた経験を踏まえて、事務長研修も10年程実施してきました。
事務長になるルートは様々です。中には内部昇格からのケースがあり、他の病院からの引き抜きや、金融機関からの出向者の受け入れ、銀行の役職定年を迎えた方の採用など、金融業界からの転職組も見受けられます。自治体病院の場合、役所からの出向が一般的です。
実際に、内部昇格組は全体の半分弱を占め、残りが外部からの採用となっています。このような背景から、医療の専門性に詳しくない事務長が多く存在しており、その結果、彼ら自身や周囲のナースやドクターとのコミュニケーションにストレスを感じるケースが増えています。専門知識が乏しい事務長は、ナースやドクターとの共通言語が欠け、そのギャップが問題となることが多いのです。
そのため、私たちは事務長に対する研修を実施して、彼らの役割をしっかりとサポートしています。これにより、病院全体の運営が円滑に行われることを目指しています。
リスキリングについて
ーー事務長のリスキリングについて、大切なことは何だとお考えですか?
清⽔:私は、リスキリングにおいて論理的思考が非常に重要だと考えています。これはいわゆる「ロジカルシンキング」とも言われるスキルですが、事務長の多くがその重要性を十分に感じていないように思います。そういう意味でも院内のリスキリングとして、論理的思考のスキル向上が重要だと感じています。
経営に関するツールとして、MECE、SWOT、BSCが知られています。これらのツールは一般的にもよく取り上げられていますが、医療の現場で十分に取り入れられているとは言えません。
MECEとは、問題やタスクを排他的かつ網羅的に分解していく手法です。たとえば、費用を抑える際にどこを抑制すべきかを特定するためには、まず各項目を分解する必要があります。
特に大規模な病院となれば、問題の所在を特定するのが難しくなります。例えば、収益を向上させるためには、患者を増やすだけが答えでなく、単価を上げるなどのアプローチも考慮する必要があります。このような状況で、MECEのような論理的な考え方を持つことは非常に重要です。私の研修でも、この点を強調してお話ししています。
また、マネジメントの側面では、SWOT分析やバランストスコアカードなどのツールを使用して、院内の問題を体系的に捉え、解決策を整理することが必要とされています。
ーーロジカルシンキングの他に事務長に求められるスキルは何でしょうか?
清⽔:医療の事務長としての役割を考える際、他の業界では見られない特有のスキルが必要とされます。その中でも特に重要なのが、医療職とのコミュニケーション能力です。
医療職のメンタリティを理解する
医療職の方々、特にドクターなどは、高いプライドを持ちつつも、非常に努力家です。これらの専門家は、同じように相手からも高い努力やコミットメントを期待します。多くの医療職は、今もなお、体育会系や職人気質のメンタリティを持っています。この点を理解し、それに基づいた適切なコミュニケーションをとることが、事務長として求められる重要なスキルとなります。
職場コミットメントの課題と事務長のスキル
現状の大きな問題として、医療職の職場コミットメントが低いことが挙げられます。ドクターやナースは、現在の市場環境下で非常に簡単に転職が可能です。したがって、何か問題が発生した際に、事務長からの厳しい指摘やアドバイスがあれば、「では、この病院を辞めようか」というスタンスをすぐに取りがちです。
このような状況を鑑みると、事務長としては、ただの上下関係を超えた適切なコミュニケーション能力が必要です。病院経営における事務長の役割として、ロジカルシンキングとともに、このような深いコミュニケーションスキルが求められると考えています。
ーー事務長に求められるものは、医療経営のプロフェッショナリズムともいえますね。
清⽔:その通りです。事務長には医療経営の専門家として、病院内外の問題を解決するスペシャリストとしての役割が求められています。そのため、ロジカルシンキングを用いて問題の整理や解決策の策定が必要です。医療職がいなければ実際の運営は成り立ちませんが、彼らの意見を単純に受け入れるだけでは真の問題解決には繋がらないでしょう。
重要なのは、彼らのプライドを傷つけることなく、どのように行動変容を促し、成功体験を積み重ねさせるかです。この考え方やアプローチを、私は数多くのセミナーや講演などで伝えてきました。
コンサルティングのプロセスについて
ーーありがとうございます。次に実際のコンサルティングのプロセスについてお聞かせください。
清⽔:私自身が理事長補佐や事務長補佐として経営に参画することが一貫したストーリーとして考えられますが、そうすると具体的な成果が短期間で表しにくいのが現状です。具体的な成果を算出するのが難しいため、まずは明確に算定しやすいコスト削減から取り組み、経営の原資を確保しましょうと考えています。また、リハビリ部門など、成果を出しやすい部門を特定して、そこでの売上向上を目指すという手法も取り入れています。要は、具体的な成果を追求するためのマイクロアプローチを重視してコンサルティングに繋げていくのが私の方針です。
ーー売上を増やす取り組みとしては、リハビリ部門が特に取り組みやすいということですね。
清⽔:その通りです。ドクターの関与が比較的少ないため、リハビリ部門での取り組みが容易です。そこから着手し、病院全体の売上を伸ばすためには、原則的に患者数の増加が必要となります。救急患者の受け入れ数がそのキーポイントとなりますが、それにはマーケティング活動が欠かせません。また、ドクターの働き手としての活動も必須となるため、それなりの時間が必要となります。
簡単に言えば、どの取り組みが必ず成功するかは予測しづらいので、最も成功の見込みが高い部門から始める、というアプローチが良いのではないかと思います。
地方創生と医療業界の展望
ーーありがとうございます。その他に伝えたいメッセージはありますか?
清⽔:「地方創生」というテーマにおいて、医療は非常に重要な役割を持っています。マクロ的な指標を見ると、医療は必ずしも好ましい結果を示しているわけではありませんが、地方にとっては実は大きな産業です。
医療施設は地域の雇用の場としての役割も果たしており、建設業から清掃業まで、多くの関連産業にとっても重要な存在です。そのため、医療を単なる経費の部門として見るのではなく、一つの産業としての価値を理解し、利益を生み出す部門として位置づけることが必要です。利益を上げることで更なる設備投資が可能となり、地域の医療品質向上にも寄与します。実際に、利益を上げている医療施設は地域での評価も高く、花形部署としての側面も持っています。
結論として、地方の医療の現場においては、民間病院だけでなく、自治体病院も経営改善を進めることで、新しい可能性やビジョンを見出せると感じています。
ーー地方創生や地域産業の観点から、医療業界やヘルスケア産業がさらに向上するために、どのようなアプローチや改善が必要と思われますか?
清⽔:多くの市や県には「病院局」という部署が存在します。この病院局の職員は、さまざまな部署から異動してくることが多いのですが、市役所内で特に影響力を持つ「花形」部署として「財政局」が知られています。これは、財務を取り扱う部署としてのその役割からです。それに対して、「環境局」や「水道局」は、他の主流部署に比べるとやや影が薄いと言われることがあります。
この配置の傾向は病院局にも見られるものの、地域によっては病院局が財政局と同じくらいの評価を受け、地域の「花形」部署として位置づけられている場所もあります。そのような地域では、高く評価される人材が集結し、新しい取り組みや提案にも前向きに取り組む文化が根付いています。この肯定的な環境が更に広がれば、医療業界やヘルスケア産業全体が一段と進化するのではないかと私は感じています。
ーー貴重なお話、ありがとうございます。今回のインタビューを終わりたいと思います。
ホワイトペーパー「病院における『経営』ができる事務長の必要性について」のダウンロードができます。
清水氏のインタビューで触れている各種資料について詳しくみることができます。是非、ダウンロードしてみてください。
お役立ち資料
『病院における「経営」ができる事務長の必要性について』をダウンロード