実践型パーパス経営ラボ・自社でのパーパス浸透について

実践型パーパス経営ラボ・ 自社でのパーパス浸透について

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講師紹介

簡単な自己紹介をさせていただきます。私は、横浜市で皆さんが着た衣類を回収して、それを様々な製品に加工したり、古着として海外に輸出するなど、衣類をリサイクルをする仕事をしています。私の会社、ナカノ株式会社は祖父の代から89年に亘って続いており、私自身は3代目にあたります。

入社して最初に取り組んだこと

私がこの会社に入ったのは今から23年前になります。振り返ると、入社してから今まで自社の価値観を実務にいかに結びつけていくかに心を割いてきた気がします

前職を辞めて、この会社に入ったわけですが、入ってみて感じたのは、「環境の世紀」と呼ばれる時代にもかかわらず、自分たちの仕事の社会的意義が伝わり切れていないということでした。

父でもある当時の社長の口からは朝礼の際やメディア取材で、「活かす」「他利自得」などのキーワードが出ていただけに、非常にもったいないと思ったのです。

そこで、私が最初に行ったのは、「活かす」「他利自得」「エコソフィー」といったキーワードを社内に向けて伝えていこうということでした。

23年前ホームページを作るのにも1,000万円ぐらいかかる時代でしたから、我々は全て手作りすることにしました

社員と一緒に、父が喋った過去15年のメディアの記事や業界の歴史などから掘り起こすことで、自分たちがどういう道を辿り、未来に向けてどういう価値を提供しうる存在なのかを、ホームページで発信しました。社外だけではなく、社内にそのメッセージを伝えることが最初の仕事だったとも言えます

企業理念、ミッション、ビジョンについて

理念、ビジョン、ミッションという概念、当時はありませんでしたから、定義する必要がありました。これらは、ホームページにも載せています。

パーパスについて

我が社にとってのパーパスは、「エコソフィー」という言葉です。この言葉は、社内で最も浸透しているキーワードになります。

「エコソフィー」とは、エコノミーとエコロジーとソフィアの3つを組み合わせた造語です。経済と環境という2つのエコを対立したものではなく、本来混然一体としたものとして捉える概念です。そして、ロゴマークの白い部分、こちらが「ソフィア」、つまり人間の知恵になります。対立したように思えるものがあるとして、それがそうではないと概念を捉え直すのが、人間のやることになります。

なので、「二つのエコの間を取り持つ」それが人間の存在意義であって、働きかける主体あるということなんです。

「エコソフィー」を会社のパーパスとして、これを実現するするため、我々社員が何をValueとして行動すればいいのか「活かす」「他利自得」をこれに定めたのが、当時社長だった父でした。「他利自得」は、お客様やステークホルダーに利することが自分の得につながるという考え方です。

この二つの軸を基準に行動すれば、基本的に社員は何をやっても構わないという考え方です。因みに、弊社の工場兼物流センターの外観は、この3つの概念を青、白、緑の色で表現しています。

「活かす」「他利自得」を為すのは人間ですから、重要になってくるのが、社員の成長と組織の成長です。成長は、人間の幸福感に直結します。幸福に直結するから、それを活かすところの人間が他自得で考えることができる。自分の周辺にあるものがエコノミーであり、エコロジーですが、どちらか偏っ方向に委ねるのではなく、地球環境を含めた大きく捉えた「個」として調和させていくこともできると考えているわけです。

パーパス「エコソフィー」を如何に浸透させていくか

自社のあらゆる活動やしくみをパーパスに結びつける

日常業務の会話で使われる「活かす」「他利自得」

先ず、「活かす」「他利自得」のキーワードを社員が日常的な言葉として当たり前に使うような会社にしたいと思いました。

第一に、自分自身がこの言葉を様々な場面で使うようにしました。いずれ、社員も真似をしてくれればいいなと思いました

外部メディアに対しても、「エコソフィー」「活かす」「他利自得」を常に盛り込むようにしました。

「成長」にフォーカスしたコンピテンシー評価制度

第二に、人事評価制度を2年前に刷新しました。ここでは、「社員の成長」に焦点を当てた制度に切り替えました。

査定をしているというより、どうやったら成長していくことができるかを問い続ける制度です。そういう意味では、評価者である中間管理職の力量が試される仕組みとも言えます

全員がアクセスできるナレッジ・データベース(日報)

紙ベースのレポートは存在しません。社員全員が見られるナレッジデータベースに全部入れています。そこに対しては、「活かす」「他利自得」に基づいていれば、部署が違っても、部下であろうが誰が発言しても構わないルールになっています。

年一回の全員ミーティングの開催(パーパスを学び、体感するゲーム)

年に一回全員ミーティングを開催し、チームビルディングをしています。ここでは、遊びを通して、社員が「活かす」「他利自得」の概念を体験し、学びます。カードゲームや体感型ゲーム等でパーパスが社員に浸透するよう努めています

事業活動と環境貢献をイコールにした、ISO14001の設計

ISO14001は、2006年に取得しました。これもエコソフィーに基づいて設計しています。

通常、ISO14001取得目標は、根本に本業があり、事業活動の結果として、様々な環境負荷がでてくるの何とかしましょうという考え方で設計するのが普通だと思います。一方、私どもでは、事業活動と環境活動は別ものではなく、「エコソフィー」の概念のもと、社員は日常業務をしていれば、当たり前にISO14001の項目をクリアしているという考え方、仕組みで運営しています。毎年行われる内部監査では、必然的に社員が価値観を自己確認することになります

社員の「成長」に軸を置いた役職名

社員がキャリアの中で求められる「成長」ステージを役職名にしています。名刺に「和声」など、独自の役職名が記載されているため、営業先で「和声」とは何かを口に出して説明する機会が出てきます。こうして能動的に話すことで、自分の役割を身体にしみ込ませていってもらえればと思っています

役職名は、求められる人的能力を端的に表したものです例えば「和声」「琢磨」では次のような意味が込められています。

和声

新入社員はオーケストラで云えば、それぞれが一つの楽器です。楽器がただ増えていっても、音楽として成り立たないそこには、調和が必要です。一つ一つの楽器であることを大切にしながら、調和大切にする。

琢磨

少し社歴が上がって、部下を持つようになった時期には、自己研鑽が疎かになりがちです。この時期は、切磋琢磨を大事にする。

ルーツを確認「締めの音頭」

かつてリサイクル業は、肉体労働で、「よいよいよいしょ」のかけ声とともに、協力して重たい荷物を担ぎ上げていました。忘年会やイベントの際に締めの音頭として「よいよいよいしょ」のかけ声をかけるようにしています。これには、89年の歴史を思い起こすことで、自分たちがどこから来て、今何をしているかを確認するという意味があります。

売上高と離職率について

23年前と比較し、売上は60%増となっています。中小企業の伸びが平均20%と云われる中で、頑張った方かと思います。

また、当社の離職率はここ数年、4%ほどになっています。全国平均と比べ低い数字を維持できていると思いますがまだまだ下げていきたいというのが本音です。

最後に

経営者である自分自身が、本気で信じていることが根本的に大事だと思っています。これがないと無意味です。どんなお題目を唱えてもせいぜい流行言葉で終わったり、社員の失笑を買うだけならまだしも、逆効果にさえなりかねません

パーパスや価値観を浸透させるためには、経営者がどれだけ本気で信じ、それに一致した行動を取ろうと努めているか核心的に大事だと云えます。

最後に参考動画や記事についてはこちらのQRコードよりご覧いただけます。ありがとうございました。