みなさん。こんにちは。今回は世界最大級のVoice系カンファレンスに日本人唯一の登壇者として選ばれるなど、UI/UX業界で活躍されている株式会社VOICE ALE代表の中嶋あいみ氏へのインタビュー記事を掲載します。「企業がUXについて最低限やるべきことは?」について教えていただきました。
中嶋あいみ氏
株式会社VOICE ALE代表取締役
2006年 立教大学経済学部卒業、株式会社ISAO(現・株式会社Colorkrew)入社。
2020年 株式会社VOICE ALE創業。
会社員時代の2017年米国長期出張中にAlexaと出会い、音声テクノロジーの世界にのめり込み、新規事業としてVUIビジネスを立ち上げる。
2020年Voice UX(音声ユーザーエクスペリエンス)のデザインコンサルタンシーとして株式会社VOICE ALE を起業。コネクテッドカー、東京オリンピック関連など多様な業界の音声UX、音声UIのコンサルティングやデザイン・開発を手掛ける。
世界最大級のVoice系カンファレンスに日本人唯一の登壇者として選ばれるなど、Voice UI/UX業界で日本と海外の架け橋となる存在。スマホ依存をなくしてボイスファーストな世の中に進化させるミッションを実現すべく、事業を展開している。
UI/UXのプロとして
-近況につきまして教えてください。
中嶋あいみ氏(以下、敬称略):日本では数少ないVoice UXを手掛けるスタートアップとしてVOICE ALEを創業して3期目になります。2020年2月設立で、ちょうど新型コロナで世の中が大きく変わったタイミングでしたね。
当初はAmazon AlexaやGoogle アシスタントなど既存の音声AIプラットフォームに向けてのスキル(音声アプリ)開発が中心でしたが、現在は音声UXのコンサルティングの比率が高くなっています。
最近は多様な業界でボイステックが広がってきており、例えばコネクテッドカー領域の仕事にも取り組んでいます。
VUX(音声ユーザー体験)、VUI(音声ユーザーインターフェース)のデザイン以外のUX案件も引き受けています。オンラインビジネスが中心ですが、オフラインビジネスに対してのUXデザイン支援、直近の具体例を一つ挙げると、学校法人向けに短い時間で課題発見から仮説検証をおこなう「デザインスプリントワークショップ」の提供もしました。
-学校法人向け、かつオフラインでのUX設計は意外ですね?
中嶋:そうですね。私もご相談いただいた時はポジティブな意味で驚きました。デザイン思考やUX改善の事例はいわゆる、オンラインビジネス、特にスマホアプリでの事例が多いわけですが、
実はオフラインでのビジネスでも活用ができます。「デザイン思考」や「デザインスプリント」の手法が学校の経営改善にも活用できると目を付けたクライアントの担当者さんが素晴らしいと思いました。
実際にオフラインでどう適用するかについては、事例が少なくクライアントと一緒に試行錯誤をして結果的に落とし込むことができました。
-中嶋さんの役割について教えてください。
中嶋:クライアント毎に課題や求める範囲が違うため関わり方については相談しながら行っています。音声UX支援で言うと2通りの関わり方。
1つ目は自分のスキルや知識を提供してアドバイザリーをしたり、手を動かしてアウトプットまで提供するという関わり方と、もう1つは企業のリソースを育てながら支援するという関わり方になります。
後者については、企業の中に知見をためたり、人材を育てたりするニーズがある場合に行います。座学とハンズオンを組み合わせて学習機会を提供したり、一緒に実務を行いながら伴走するようなイメージです。
音声UX、音声UIはまだ新しいジャンルで、高度デザイン人材とも定義されている領域です。きちんと体系化されたカリキュラムやノウハウがないため、私自身も能力をアップデートしながら業界をリードするつもりで開拓しています。
企業向けUI/UXアドバイザリーの現場とは?
-具体的にはどういうアドバイスをしていますか?
中嶋:そうですね。案件によって様々ですが、本インタビューのテーマのようなUXを改善したい企業様向けの場合は、UXリサーチが最初の取り組みになることが多いです。
デザイン思考やユーザー行動分析の視点に基づいて、どういうユーザーをピックアップして、どういう時間軸で行動を追うべきかについて。特にどこから手を付けるべきかについてアドバイスをしています。
また、UX改善に興味がある、取り組まなければならないと課題に思っている企業においては、自社において既存のKPIやユーザーとのコミュニケーションを改善しなければならないという問題意識を持っています。
新規事業の場合は、描いた企画が本当に刺さるのか?既存事業の場合は製品やサービスはあるけど、ユーザー体験にフォーカスしなければ売れない。でも、どうすればいいのか?
そういう場合は、上流の潜在的なUXデザインについて私からアドバイスすることもありますし、企業内のメンバーで考えて仮説検証するワークショップを開催したりしています。
加えて、ユーザーの本質的なところを考えるためには、抽象的に物事を捉えることが大切ですというアドバイスをします。
知識としてはUXデザインのHow Toは世の中に多数ありますが、実践としてサービスや事業に合ったプロセスをつくるためのアドバイスやコンサルティングをやっています。
-なるほどですね。ポイントはどういうところになりますか?
中嶋:よく本に書いてあるようなプロセスの場合、例えば「まずはペルソナを作りましょう。そのうえで課題を発見しましょう」ということで、まずはペルソナ(サービスを使う代表的な人物像)を作ることが大きなタスクになるわけです。個人的にはその代表的なプロセスはちょっと違うのかなと思っています。
属性情報は確かに重要な情報ですが、同じペルソナでも、その人がその時におかれているシチュエーションによって選択肢が大きく分かれますよね。たとえば、ある属性の人がどこかでおいしいお店を探そうというシチュエーションを考える場合、一人か、友人と一緒、高齢の親と一緒などで変わってきますし、自分一人でも昨日これを食べたから今日は別のジャンルにしようとか、もしくは本当はAが食べたい気分だけど食事にかけられる時間が短いからBにしようとか。
ベストな選択ではないけど状況がそうさせるというケースは日常に溢れています。置かれた状況を加味したペルソナ+シチュエーションで、一般的なペルソナという考え方では足りない。
ユーザー行動分析においては、状況理解がキーになることを念頭に置かないと見誤るリスクとなってしまうと思います。
UX改善により志願者数が前年比150%増!!
-印象的な出来事はありましたか?
中嶋:最近の事例で言いますと、先ほどふれました学校法人でのデザインスプリント、学校の仕組み改善に取り組んでいるクライアントと印象的なことがありました。
1年前にご支援したワークショップの結果を学校運営に反映され、期待していた数字に対して150%の成果が出たということで、クライアントから非常に感謝されました。そして、2回目の依頼を頂いたのです。
その企業の中でデザイン思考が浸透するきっかけになったのだろうと思います。前回は高校の志願者がターゲット、そして2回目は中学校のカリキュラム改革がテーマとなりました。
違う課題に対してもデザインスプリントで問題解決を行いたいということになりまして、価値を実感していただけたことが非常に嬉しかったです。
-期待していた成果というのは具体的にはどのような成果でしたか?
中嶋:具体的には、翌年の志願者数が前年比150%増になりました。他の外部要因もあったかもしれませんが、デザインスプリントで作成したプロトタイプやユーザーインタビューで検証した結果を反映したうえでのことなので、大きな成果に繋げることができた思っています。
ファシリテーションのやり方とは?
-ファシリテーションは具体的にはどういう感じで行いましたか?
中嶋:そうですね。現場の方だけではなく、理事長や経営層の方々を巻き込んでのワークショップを行いました。私が外部のファシリテーターとしてワークショップの設計から進行、5日間という限られた時間で皆様がアウトプットを出すためのお手伝いをしました。
-外部の人がファシリテーターとして仕切るのが良いということでしょうか?
中嶋:そうですね。やはり、内部の人だけでワークショップを行うと、通常の業務内でのディスカッションになってしまったり、立場が上の人に対して遠慮してしまったりして、客観的に自分たちやユーザーのことに向き合うことが難しくなってきます。
また、デザインスプリントにおいては、日々の業務をシャットアウトしてアイデアの発散と収束を繰り替えすことに集中するというのがメソッドとしてありますので、外部の人が来てワークショップを仕切るというのがベターな要素になるかと思います。
さらに、できれば社内の会議室ではなく外部の会議室を借りておこなうのが良いでしょう。普段会社でスーツを着ている方々も、ワークショップはビジネスカジュアルや私服で着てもらうだけでも気分が変わるので、そのような雰囲気作りもアドバイスしています。
UX・デザイン思考はどこでも通用する
-UXやデザイン思考はオンラインビジネスだけではなく、どこにでも当てはまりそうですね?
中嶋:そうですね。アプリやWebサービスの事例が先行していますが、考え方としては正しいと思います。
マーケティングでうまく見せるのではなく、ユーザーの本質を見る、つまりユーザーのインサイトや感情、ユーザーも気付いていない潜在的な課題にまで着目してアクションをするということが求められるわけです。そして、小さく改善のサイクルを回すプロセスはどこにでも当てはまる要素になるかと思います。
UX改善プロセスの一つである「ユーザーインタビュー」なんかは定量的なデータで確認できない知覚や表情を確かめるのですが、オフラインビジネスのほうが店舗などで実際のユーザーと対面していて比較的簡単に始められます。
完全オンラインのビジネスのほうが、顔が見えないユーザーを想像したり、インタビューの協力してもらう機会を作ることに一苦労あったりしますよね。
UXという言葉に馴染みがないととっつきにくいですが、シンプルに「ユーザー/お客さんの視点で考えましょう」と言えばどんな業態でも自分ゴト化できるのではないでしょうか。
企業がUXについて最低限やるべきこと
-企業がUXについて最低限やるべきことは?
中嶋:まずは、UXを難しく考えずに全体感で客観視することが第一歩かと思います。
自社のビジネスのユーザーはどういう人なのか?そのユーザーにとっての成功はどういうことなのか?ということをシンプルに言語化することがおすすめです。
組織の大きさによっても違うと思いますが、大きい企業であればあるほど縦割りになっていて同じユーザーに対しても成功の定義が違うかもしれないし、ゴールを共有できていないことはよくあるのではないでしょうか。担当部署とか自分の役割だけではない俯瞰した視点でカスタマージャーニーが描けると良いですね。
もしも、自分自身がユーザーになる場合は客観視してみたり、自分をペルソナに当てはめて考えてみることが大切だと思います。
もし、ご自身がユーザーでなければ、UXリサーチを始めることからスタートしてみると良いかもしれません。
UXリサーチというと大掛かりに聞こえるかもしれませんが、実は簡単です。自分の周りにユーザーに近い人がいたら、なぜ、そういう製品をつかうのか?前後でどんなことをしたか?普段どういう価値観・判断軸で行動をするのか?を聞いてみると良いかもしれません。
まずはユーザーについて行動レベルで向き合うことをやっていただくのが良いかと思います。調査・分析に関しては、定量分析と定性分析の両方を用いることが重要です。まずは、定量データで、項目の大きさや割合を見てみましょう。
特定のユーザー1人だけを先に見ても全体像が見えないので、会員の属性、新規と既存の割合とか、多くのユーザーに共通する行動は何であるなどの「面」で見るようにしましょう。
ただし、面で見るだけでは見落としますので、次に定性分析の出番です。数人のユーザーをピックアップして前後の行動、一連の流れを見て違う仮説を立ててみます。定量と定性の両方で見るのがUXの重要なところかと思います。
あとは、ピックアップした人がなぜそうしたのか?という行動のトリガーや期待値、感情の変化に注目してみましょう。それはデータを眺めていても推察しかできないので、目の前で観察したりインタビューすることで分析の精度が上がります。大企業においてありがちなことは、大規模なアンケートはとるけどユーザーと対話したことがないというケースです。
先ほども触れましたが、実はユーザーインタビューはとても簡単に小さく始められますので、まずは行動に移すのが良いかと思います。
ー貴重なお話をありがとうございました!
中嶋さんの執筆実績および登壇実績は以下になります。併せてご覧いただければ幸いです。
【執筆など実績】
- Web連載実績 日経クロストレンド「VoiceUI最前線」
- 共同執筆実績 Voiceflow&VUI 〜虎の巻〜
【登壇実績】
- Voice Global 2020 東アジア&日本人唯一の登壇者
- Voice Global 2021 日本人唯一の登壇者
- VOICE TECH SUMMIT ASIA 2021 登壇